表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/21

秘密を隠し通せるほど人間は嘘が得意じゃない。

翌日。


いつものように授業を終え、俺は肩を軽くまわしながら部室へと足を運んだ。


扉を開けると、部屋の中には相澤、黒咲、そして佐藤の三人が、

のんびりお菓子をつまみながらおしゃべり中だった。

ワイワイと、実にのどかだ。

だが――。


「……時任は?」


俺の問いに、スナック菓子を指先でつまんだまま相澤が答える。


「時任くん? なんか用事があるって、先に帰っちゃったよ」


「ああ、そう……」


肩透かしというか、なんというか。

まあ、仕方ない。


俺は平静を装いながらいつも通り部屋の隅に腰を下ろした。

極力、普通を演じる。

いつもと変わらぬ部活時間――

依頼者も結局現れず、雑談が続いて、それもやがて終わる。


先に相澤と佐藤が帰っていき、気づけば部室には俺と黒咲のふたりだけが残っていた。


その静けさの中、黒咲がぽつりと俺に言う。


「神谷くん……今日、なんか元気ないね」


「え?」


一瞬、心臓がドクンと跳ねた。

図星を刺されたような感覚だ。


「そうかな。別に、何もないけど」


無理に笑ってごまかす。

俺の演技力に期待しよう。

いや、バレてる気しかしないが。


と、そのとき。


「――神谷くん。ちょっといいかな?」


部室のドアが開き、現れたのは直井先生だった。


「……はい」


少し動揺しながらも、俺は立ち上がる。


「二人で話してるところ、邪魔しちゃってごめんね、黒咲さん」


「いえ、もう帰るところだったので、大丈夫です」


黒咲は微笑んでそう言い、手早く荷物をまとめ始めた。


「それじゃあ――行こうか」


先生の言葉に戸惑いながらも、俺は頷いた。


行き先は――音無が言ってた学校の屋上か?

それにしても、先生の方から声をかけてくるなんて、

何かがおかしい。


内心、ざわつく気持ちを抱えながら、俺は直井先生と部室をあとにした。




夜の校舎ってのは、やたら音が反響する。

自分の足音さえも妙に大きく感じるのは、きっと気のせいじゃない。

人気のない廊下を歩きながら、スマホを取り出して時刻を確認した。


《19:30》


――音無が言っていた時刻は20時。あと30分もある。


20時に学校の屋上に来るよう言っていた音無は今、どこにいる?

まさか、音無が先生に話すより先に直井先生が独断で部室に来たのか?


「先生、ちょっといいですか?」


なるべく自然を装って、俺は声をかけた。


直井先生は振り返り、穏やかな表情で言う。


「どうしたの?」


「その……俺も先生に話したいことがあって。

屋上で……話しませんか?」


一瞬、先生の眉がわずかに動く。


「誰にも聞かれたくない話?」


「……はい」


俺たちは並んで階段を上り、屋上へと向かった。

鉄の扉を抜けた先――そこはすっかり夜の帳に包まれていた。

空は群青よりも深く、風が制服の裾をやさしく揺らす。


先生が立ち止まり、静かに口を開いた。


「本題に入る前に一つ…いいかな?」


「なんです?」


「先日、岡野くんたちから聞いた話について…。

君と相澤さん、それに時任くん。

三人で佐藤くんの靴を取り返したって話だよ。ここ、屋上でね」


ああ、そのことか。


嘘をつくのもヘタに動揺するのも逆効果だ。

俺は短く、「それが何か?」とだけ答えた。


「その時に起きた"不思議なこと"について君に聞きたいんだ」


「不思議なこと……?」


俺は動揺する心を隠すように訊ねた。

先生は少し間を置いて続けた。


「岡野くんたちの話によると――フェンスの向こう側にあった佐藤くんの靴が、

気づいたら本人のすぐそばにあったそうだよ」


俺は言葉を失い、息をのんだ。


「それだけじゃない。

佐藤くん自身も、フェンスを上っていたはずなのに、

次の瞬間には……場所が変わっていたって、そう言ってた」


風がふっと強くなり、先生の髪が揺れる。


「普通に考えて、おかしな現象が起きていた。

だけど、君たち――特に君と時任くんは、

まるで何もなかったかのように平然としていたって、岡野くん達は言っていたよ。

……それは、どうしてかな?」


喉の奥がひゅっと縮んだ。


俺は――言葉を探した。



が____何も出てこない。

何と答えても、墓穴を掘ってしまいそうな、そんな気がした。


「神谷くん、単刀直入に言うよ」


そう切り出した直井先生の声は、妙に冷静で、妙に刺さる。


「いったい君は――何を隠してるんだ?」


その瞬間、俺の中で何かがプツンと切れた。


(それは……こっちのセリフだ!!)


そう心の中で叫びながら、俺は一歩踏み出した。


「……先生だって、何か隠してることあるんじゃないですか?」


先生の表情がわずかに動く。


「……え?」


言葉を濁すでもなく、はっきりと、俺は問いかける。


「音無から聞きました。昔、先生が顧問をしていたFNK部には、

音無と赤井さん、それと別にもう一人いたと。

でもその人の名前も顔も、誰も思い出せないって。

――先生、その人のこと、本当に何も知らないんですか?」


先生は目を伏せる。

その瞬間、俺は意識を集中し、耳の奥で“あの音”を聞いた。


――カチッ。


そして、聞こえてきた直井先生の心の声。


『……嘘をつくにしても、もっとマシな嘘があるだろ、全く…』


(……なに? “嘘”?)


俺は目を見開いた。


そのときだった。


「勝手に話を進めるとは……神谷、貴様一体何を考えてる!?」


怒号とともに、音無が屋上の扉を蹴破るようにして現れ、俺に掴みかかってきた。


「止めろ!!」


直井先生の静かな、しかし鋭い声が響いた。

音無はビクリと肩を震わせ、俺の胸ぐらから手を離す。


「……先生、ごめん…」


兄に謝る弟みたいに音無が謝った。


「来るのが遅かったな、何かあったのか?」

と、直井先生が言う。


「……時任を、ここに連れてこられなかった」


その言葉に、先生がため息をつく。


「……はぁ」


そして、俺はすかさず割って入った。


「ちょっと待て、時任は関係ないだろ!

ここに連れてこられなかったって、どういうことだよ!?」


屋上の風が強く吹き抜ける。

誰もが言葉を失いかけたその瞬間、俺だけは言いたいことが次々と溢れてきた。


「いなくなった部員の話は嘘だったのか!?答えろ!音無!

二人とも、一体何が目的なんだよ!?」


音無はうつむいたまま、何も言い返してこない。


直井も沈黙する。

重い空気のなかで、俺の鼓動だけがやたらと速かった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ