必然的に赤い髪の人は正義感が強い。
休憩室の隅。
狭いスペースに追い込まれるように、
俺は金髪美女に壁際へ押し付けられた。
「こんなに早く会えるなんてね」
至近距離で微笑む彼女。
いや、なに? え、なに?
「なっ、なんなんだ?」
戸惑っていると、彼女は俺の口元に指を当てた。
「しっ、静かに!」
そのまま彼女が、スッとスマホを取り出す。
「これ、君だよね?」
画面を覗き込むと、そこには──体育館の中にいる俺と直井の姿。
「……これ、まさか……!あいつ(音無)が盗撮したのか?」
俺が言うと、彼女は真剣な目つきで俺を見つめる。
「神谷くん。あなたのことは兄から聞いてる」
「……」
「私は音無渚。音無蒼真は私の兄よ」
やっぱりか。
「私たちの能力を見破れるって、本当なの?」
「私たちの……能力?」
「透明になれる能力のこと」
彼女が俺の耳元で囁いた。
近い、近いって……!
それよりも、兄妹そろって透明になれるってことか?
──ってことは、音無渚も身体だけなら透明に…。
その姿を想像した瞬間、渚の表情が険しくなった。
彼女がバッと俺の胸ぐらを掴む。
「なに想像してんのよ、この変態!!!!」
「ちょ、待て! 俺は別に見たくて見たわけじゃない!
あんたの兄が裸で体育館にいたから、あんたもそうなんじゃないかって、そう思っただけだ」
渚は頭を抱え、しゃがみ込んだ。
「裸で体育館に?……あの変態兄貴……なんてこと……」
それから、ふぅっと息を吐き、俺を見上げる。
「不快なものを見せてしまってごめんなさい。兄の代わりに謝るわ」
「別にもう気にしてない」
そう言う俺に、渚はじとっとした目を向けた。
「……本当に?」
「本当に」
そう返すと、渚は小さくため息をついた。
「音無さん、休憩時間、もう終わって……」
突如として休憩室の扉が開き、赤井が顔を出した。
「わっ!」
「きゃっ!」
驚いた俺は、とっさに後ずさり、バランスを崩した。
その瞬間、目の前にいた渚とぶつかり、
俺の体重がもろに彼女にのしかかる形になった。
「うっ……!」
柔らかい感触と、ほんのりシャンプーの香りが鼻をかすめる。
気づけば、俺は渚を休憩室の隅に押し倒す格好になっていた。
ヤバい。これはかなり誤解を招く体勢だ。
渚の顔が至近距離にあり、大きな瞳が俺を睨みつける。
唇が小さく開き、何かを言おうとして──
「てめぇ、何やってんだ!」
ドスのきいた赤井の声が響くと同時に、俺の襟元がぐいっと引っ張られた。
「てめぇ不審者か!? 今すぐ警察に通報して──」
赤井が休憩室の電話の受話器に手を伸ばした、そのときだった。
「違うんです! 赤井さん!」
渚が赤井の腕をつかみ、慌てた様子で言葉をつむぐ。
「彼は……その……」
「彼氏です」
俺はとっさにそう口走った。
「なっ!?」
渚が目を見開き、顔を真っ赤に染める。
いや、待て、こう言っておけば丸く収まる……はずだ!
「まあ、あれです。今さっき、別れ話をしてて、それであんなことに……
本当、すみません」
渚が一瞬だけ俺をギロリと睨んだが、次の瞬間、すぐに頷く。
「そ、そうなんです……ご心配おかけして、すみません……」
赤井は深いため息をつき
「個人的ないざこざなら、家でやってくれよ……」
と完全に呆れている様子で言った。
「……あっ! もう休憩終わりですよね! 私、戻ります!」
渚は強引に話を切り上げると、そそくさと店内へと戻っていった。
「お前、どうすんだ?」
赤井が俺をジロリと見る。
「……じゃあ、俺もこれで……お騒がせして本当、すみませんでした」
俺は軽く頭を下げ、そそくさと出口へ向かう。
赤井の視線を背中に感じながら、俺はコンビニを後にした。
まだ続きます。




