不安になった時、まずは行動するべきだ。
胸の奥にじわりと広がる、不安とも焦燥ともつかない感情。
まるで霧のように形がなく、だけど確実に心を締めつけてくる。
──直井には気をつけろ。
音無の言葉が、頭の中で何度もリピートされる。
あの軽薄そうな態度とは裏腹に、あいつの言葉には確かな重みがあった。
俺にはまだ知らないことが多すぎる。
直井のこと、音無のこと、そして──俺自身のことも。
気づけば、俺はスマホを手に取り、音無が言っていた
「ツナグチャット」を検索していた。
わざわざ興味のないSNSなんか登録するのは正直面倒だったが、
背に腹は代えられない。
名前やパスワードを入力し、認証コードを入れて──ようやくログイン完了。
すぐに検索窓に「音無」と打ち込む。
──見つけた。
アカウント名はシンプルに「Otonashi」。そして、フォロワー数……
「……え?」
二百万人超え。
思わずスマホを持つ手が固まった。
二百万人? 本当に? いや、何かの間違いじゃ──。
画面をスクロールしてみる。
そこには、音無が投稿したと思われる写真や動画が並んでいた。
どれもプロの撮影かと思うほど洗練されていて、
コメント欄は称賛の言葉で埋め尽くされている。
「……なんだよ、これ……」
昨日まで体育館の倉庫で裸で瞑想してた男が、
まるでトップインフルエンサーのように振る舞っている。
音無の正体がただの変態だということは置いておいて
とにかく、あいつと連絡を取らなきゃならない。
画面に表示された「チャットを開始する」というボタンをタップする。
──が、次の瞬間、表示されたのは無情なメッセージだった。
《未承認のためチャットできません》
「……は?」
しばらく、その文字を見つめたまま動けなかった。
どうやら、音無に承認されない限りはメッセージを送ることもできない仕組みらしい。
「……夜の10時まで待てってことか……」
苛立ちとも呆れともつかない感情がこみ上げてくる。
10時になれば、本当に音無は俺を承認してくれるのか?
それとも、こんなことを言っておきながら、すっぽかすつもりなのか?
考えれば考えるほど、訳がわからなくなってくる。
「……はぁ」
スマホをテーブルに投げ出し、ソファに深く沈み込む。
気づけば、心臓が早鐘のように鳴っていた。
──直井には気をつけろ。
音無の言葉が、また頭の中でこだまする。
俺は一体、何に巻き込まれようとしているんだ?
自分の部屋に戻り、机の上に目をやる。
そこには、幼い頃に母からもらったお守りが置かれていた。
手を伸ばし、それをそっと握る。
──眠神神社。
お守りに記されたその文字を指でなぞる。
あの神社に行けば、もしかしたら父のことがわかるかもしれない──
そんな気がして、俺は立ち上がった。
ジャケットを羽織り、スマホと財布をポケットに突っ込むと、すぐに家を出た。
まだ続きます。




