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10/21

不法侵入する奴には気を付けた方がいい。

日曜の朝──というか昼。

 

俺は爆睡から目覚め、ぼんやりとした頭でリビングへ向かった。


 テーブルの上にはメモが一枚。


寝ぼけ眼で拾い上げると、母親が書いたであろう丸っこい字が目に入る。



『友達とアイドルのライブ行ってくるから帰り遅くなる。


 晩ご飯は適当に食べておいて』


 「・・・・・」


 冷蔵庫を開けてみると、そこには缶ビールとバナナと牛乳だけ。


 このラインナップ、どう考えてもまともな飯にはならない。



「……とりあえず、バナナかじるか」



 仕方なく、バナナを手に取り牛乳で流し込む。


 栄養バランスは最悪だが、空腹は満たされた。



「晩飯、買いに行くか……」



 そうつぶやきながら寝巻きからパーカーとジーンズに着替え、

水が入ったコップを片手にテレビをつける。


 画面に映っていたのはニュース番組。



『今、SNSで話題のインフルエンサー・音無蒼真さんが、

ついにCDデビュー決定!』



 

 ──ぶはっ!!



 口に含んでいた水を勢いよく吹き出した。



 画面に映るのは、あの音無。


 あの全裸の透明男が、スーツ姿で爽やかに微笑んでいる。



『ありがとうございます。これも応援してくれる皆さんのおかげです』



 ──いやいやいや、何が「ありがとうございます」だよ!?



 混乱しながらテレビを凝視していると、アナウンサーが質問した。



『デビュー曲のタイトルは?』



『はい。「ネイキッドライフ」です』



 

 ……ネイキッド?

 裸の人生?


 

 ……いやいやいやいや!!!



「これは夢か?」



 頭を抱えていると、突然、玄関のインターホンが鳴った。



 誰だよ、こんなタイミングで──。



 訝しみながらモニターを確認すると、そこに映っていたのは……。



 裸の音無だった。



「ぎゃああああああああ!!!!」



 俺の悲鳴が部屋中に響き渡った。




 俺の悲鳴に気づいたのか、すぐさまインターホンが再び鳴った。



「大丈夫ですかー?」



 この声は……隣人の田中さんだ。



 ヤバい。このままだと裸の音無がいるのを見られてしまう。

いや、そもそも音無の姿が見えているのは俺だけだ…。

 試しにチラリとモニターを見ると、やつは涼しい顔で玄関先に立っている。



「ちょ、ちょっと待ってください!」



 俺は慌てて玄関のドアをほんの少しだけ開け、顔を出す。



「どうかしたの?」



 田中さんは不思議そうにこちらを覗き込む。

音無の方を見る気配はない。



(やっぱり……見えてないのか?)



 そう確信した瞬間、田中さんが玄関のドアに手をかけた。




「ちょっ…!」



 俺が制止する間もなく、音無は堂々と俺の家の中に入っていった。



 


「……何かあった?」



 田中さんが不審そうに俺の顔を覗き込んでくる。



「え、えっと……ホラー映画を見てて、

ちょっと怖いシーンがあって……それで、つい……」



 俺は苦し紛れに言い訳を捻り出す。



「あら!そういうこと!?じゃあ大丈夫なのね?」



「は、はい! お騒がせしました!」



 田中さんは納得したようで、

「戸締りには気をつけてね」と言い残して去っていった。



 俺は急いで玄関の扉を閉め、振り返る。

そこには、相変わらず裸のままの音無が仁王立ちしていた。



「……あんた、一体なんなんだ?」



 怒りを抑えつつ問い詰める。



「どうして俺の家を知ってる?」



 音無はまったく悪びれる様子もなく、むしろ誇らしげに答えた。



「昨日の夜、自転車で貴様の後をつけていたから、貴様の家の場所は把握している」



「……」



 一瞬、思考が停止した。



「いやいやいや!! それ、普通にストーカー行為だろ!?

 つけてたって、お前……!」



 背筋がゾワッとする。

こいつ、本当にやばい奴なんじゃないか?



「不法侵入だぞ、今すぐ出ていけ! じゃないと警察を……」



 俺はスマホを取り出し、通報しようとする。



 だが、その瞬間——



「待て!」



 音無が鋭く叫んだ。



 その声音には、どこか切迫したものが混じっていた——。



 「貴様に聞きたいことがある!」



 音無が緊張した面持ちで言う。



 「……聞きたいこと?」


 

「そうだ!それだけ聞いたら出ていく!」



 こっちを真剣な目で見つめる音無。

俺は警戒しながら、「なんだ?」と問い返す。



 音無は不安そうな表情になり、少し躊躇ってから口を開いた。



 「どうして貴様には俺の姿が見えているんだ?」



 「……は?」



 「昨日の夜だって、お前以外の人間には見えていなかったのに……」



 その言葉を聞いて、俺は内心ギクリとする。

インフルエンサーとして表に出ている音無に、

俺が『神の子』であることを知られるわけにはいかない。



 「ただ目がいいだけだ」



 俺はできるだけ淡々と答える。



 「ふざけるな!」



 音無が声を荒げる。



 「目がいいだけで俺の能力が見破れるはずない!」



 「人によって色の見え方が違うように、俺は人より見える色が多い。

そんな感じだろう」



 堂々とした態度を崩さず、俺は淡々とした口調で言った。



 「悪いけど、どうして俺にあんたの姿が見えるのか、自分自身、よくわからないんだ」



「・・・・・」

 音無はしばらく黙り込んだ。

そして、悔しそうな顔をして俯く。



 「聞きたいことには答えた。早く出ていってくれ」



 俺がそう言うと、音無は渋々といった様子で玄関の方へ向かう。



 しかし、ドアを開ける前に振り返り、静かに告げた。



 「最後に名前を聞いていいか?」



 俺は一瞬迷ったが、短く答える。



 「神谷だ」





「……神谷、お前が特殊な人間だというなら、直井には気をつけた方がいい」



「直井先生が何だって?」



音無はため息まじりに言った。


「直井には気をつけろと言ったんだ」



「それ、どういう意味だ?」



音無は俺をじっと見つめた後、静かに口を開く。


「昨日、お前らが体育館の倉庫を見に来たのは、FNK部の活動のためだろ?」



「ああ、そうだけど……」



「FNK部を作ったのは直井だ」



「……そうなのか。知らなかった」



音無は腕を組みながら視線を逸らし、言葉を選ぶようにゆっくりと話し始めた。


「ただのオカルト好きか、何なのかはわからないが……

俺が一年の時、学校で不可解なことが起こった。それでだ。

そのことについて直井は何かを隠している」



「不可解なことって?」



「知りたいか?」



「そこまで言ったなら教えてくれ」



音無はしばらく沈黙した後、再び口を開く。



「…SNSで『ツナグチャット』にアクセスして

そこで俺の名前を検索しろ。

今日の夜の10時、そこでやりとりしよう。じゃあな」



一方的にそう言い残し、音無は玄関の扉を開けると、そのまま去っていった。




まだ続きます。

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