表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/21

日常が崩壊するのは別におかしな事じゃない。

夕食の時間ってのは、基本的に一日の中で最も平和な時間帯であるべきだ。

少なくとも、俺にとってはそうであってほしかった。



 だが、今日に限ってはそうもいかなかった。



 「春斗、あんたに話しておきたいことがあるの」



 母親が箸を置き、真剣な目で俺を見つめる。



 なんだよ、急に。そういう話は食事が終わってからにしてくれ。

唐揚げが喉を通らなくなるだろ。



 「……何?」



 俺は警戒しながら応じる。

大体こういうときの親の話っていうのは、ロクなもんじゃない。

大掃除を手伝えとか、成績を上げろとか、そんな話に決まっている。



 だが、この日の母の話は、そのどれとも違っていた。



 「あんたの父親のことよ」



 ……父親?



 正直、その単語を耳にすること自体が珍しかった。

俺が物心ついたときから、家には母親しかいなかったし、

父親の話なんてこれまで一度も出たことがない。

そもそも俺の記憶の中に、父親という概念が存在しないのだ。



 そんな俺の反応を察したのか、母は少し寂しそうに笑った。



 「今まで話さなかったのは、どう話していいのかわからなかったから。

でも、そろそろ言っておいたほうがいいと思ってね」



 母はゆっくりと話し始めた。



 話によると、母は昔、とある神社で父と出会ったらしい。



 「不思議な人だったわ。いつも神社にいるわけじゃなくて、

会える日もあれば会えない日もあった。

でも、一緒にいる時間はとても楽しくて……気がついたら、好きになってたの」



 母は懐かしむような目で語る。



 だが、俺はそんなロマンスに浸る余裕なんてない。



 「……で、父さんはどこの誰だったんだ?」



 この問いに、母は少し困ったように笑い、そして申し訳なさそうに言った。



 「わからないのよ」



 わからない?


 冗談だろ?



 「どういうことだよ、それ」



 「私にもわからないの。彼は、自分のことをほとんど話さなかった。

どこに住んでいるのか、何をしているのか、まるで謎のままだったの。

でも……そのミステリアスなところに母さんはね、強く惹かれたのよ」



 つまり、俺の父親は、名前も素性も不明のまま、

どこかへ消えてしまったってことか?



 まるで都市伝説みたいな話じゃないか。



 「……父さんに会ったのは、最後にいつ?」


 

「あなたが生まれる前……それ以来、一度も会えていないわ」



 この瞬間、俺の中で何かが音を立てて崩れた気がした。



 ずっと気にしたことなんてなかったけど、いざ父親の話をされると、

思っていた以上に俺の中にぽっかりと穴が空いたような気がする。



 そして、もう一つの疑問が浮かぶ。



 「……その神社って、どこ?」



 母は驚いたように俺を見た。



 「どうして?」



 「いや……別に。ただ、ちょっと気になっただけだよ」



「あの人と出会った神社はあんたもよく知ってるところよ」

「もしかして、家から一番近いあの神社?」

俺の言葉に母がうなずく。

 


 幼い頃、俺はその神社でよくひとりで遊んでいた。

今になって考えると、奇妙な場所だった気がする。


常に誰かに見られている様なそんな視線を感じる場所。



 母はふと視線を落とし、静かに続けた。



 「実はね……あなたが生まれた後、その神社の神主さんに聞いたの。

彼のことを。そしたらね……」



 母の声がわずかに震えた。



 「神主さんは言ったわ。『その男性は神様ですよ』って」



 ……神様?


 

「いやいや、待てよ。神様って……あの神様?」



 母は静かに頷いた。



 「彼は特別な力を持っていた。どんな傷も癒やす力を……」



 俺は言葉を失った。



 「じゃあ……俺は……」



 自分の喉から出た言葉が、自分でも信じられなかった。



 「俺は、神様の子供なのか?」



 母は微笑みながら、静かに頷いた。



 信じられない。



 そんなはずがない。



 だけど、母の目は真剣だった。


 

俺の平凡だった人生は、この日を境に、

一気に非現実へと引きずり込まれていくことになったのだった。






読んでいただきありがとうございます!

酷評でもなんでも正直な感想待ってます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ