魔物討伐実習
実習先は強い魔物が確認されていない西の森で行われる。
強い魔物がいないと言っても奥地に入り込めばそこそこの強さの魔物がいるので予め教師陣から範囲を決められていた。その範囲内に印が付けられていることを説明され、討伐実写の開始となった。
渡された集めた魔石を入れる袋と緊急用の魔道具を持ち、私達も他チームと同様に進み始める。
マシューさんが風魔法で魔物を探しつつ歩みを進めていると、魔物を発見したようで、そちらに向かって進行していくこととなった。
「このまま真っ直ぐ行けば魔物に直面します。」
「オーケー!」
「数はどれくらいですか?一匹?」
「いえ、たぶん数匹います。だけど小さいからアルミラージだと思います。」
アルミラージは赤目白毛の一本角が生えたうさぎの姿をした魔物で、うさぎよりも凶暴且群れで行動する性質があるはず。
「ならば、十匹はいるでしょうね。」
「じ、十匹ですかぁ!」
「最低でも、ってことよ。大型の群れだと厄介だけど一匹一匹はたいして強くはないわ。
作戦通りダンテさんが先制攻撃を仕掛けて、クリスさんはダンテさんにシールドを張ってあげて。マシューさんは多方向から他の魔物が接近していないかを確認して。私は漏れ出た奴らを仕留めます。」
「「了解です!」」
「えと、私は?」
「…。ノロリーヌさんは誰かが怪我をしたら即回復魔法をかけてちょうだい。」
「ノロ?!そろそろ名前覚えたら?!私はリリアンヌよ!」
何かを喚くノロノロさんは置いておいて、これからは気を引き締めておかなければ。
何があるかわからないものね。
それから歩くとすぐにアルミラージの群れと出会した。幸いなことに数はそんなに多くなく、15〜6匹程だったのでなんとか作戦通りに上手く行き、皆で魔石を広いあう。
「いや〜、それにしてもルルベージュ様はさすがでしたね。」
「うんうん!やっぱり頼りになります!」
「俺がめちゃくちゃ逃したのに全部仕留めてくれてホントに助かりました!」
「あら。これくらい公爵令嬢として当たり前のことよ。」
そんな会話をしている横で何ともまぁ醜い顔をする方が。私と目が合うとすぐに元に戻るけれど、しっかりと見ましたわよ。
きっと他の方達は会話に夢中で気が付いていないでしょうけれど。
そんなに悔しいのであれば日頃から努力すべきだったわね。
そんなことを繰り返しているうちに実習終了の合図である青い花火が打ち上げられる。
思いの外上手くいったので魔石袋はいっぱいね。
幸い、と言っていいのかわからないけれど、皆怪我なくここまでやってこれたので、ラリアンヌさんの出番はなかったですけれど。
皆で今回の実習の成果を口々に言いながら集合場所を目指していたそんな時である。
突然、草陰からアルミラージの上位魔物である角に炎を纏ったファイアコーンが飛び出し、ララアンヌさんを襲ってきたのだ。
咄嗟に彼女へシールドを張ると、シールドにぶつかったファイアコーンはそのまま逃げて行ったが、驚いて足をもつれさせたララアンヌさんが森の斜面から落ちそうなっている。
魔法っ…!ダメ!間に合わないわっ!!
魔法を唱えるよりも己が引っ張る方が早いと動いたのはいいが、彼女を引っ張った反動で今度は自分が彼女の位置へと変わることになり、そのまま斜面を転がり落ちていくことに。
そして、木の幹に背中を強打した私は気を失った。
どれくらい経ったのか。
痛みで目を覚ますと辺りは薄暗くなりかけていた。
いっ…!
身体中が痛いが特に右足が痛くて見てみてると脛が赤黒く腫れている。
これは…まずいわね。
とりあえず回復魔法をかけときましょう。
痛みの酷い右足に回復魔法をかけるが腫れと色味が少し落ち着いたくらいだった。
こういうとき己の未熟さをしみじみと感じさせられるわね。
聖女様なら一発で完全回復できるのに。
己の力量ではこの程度が精一杯であることを痛感する。
さて、どうしたものかしら。
ふぅ、と一息吐いて現状を整理する。
落ちたであろう斜面は上が見えない程の高さがあり、今の足で登るのは無理。かと言って歩くこともできない。特級魔法が使えれば空が飛べたから余裕で帰れたけれど、私は使えないし、…これは詰んだわね。
「はぁ…。」
現状を確認したことで思った以上に悪い状況に溜め息が出る。
しかも、もうすぐ夜が来る。
弱い魔物しかいないと言われている西の森でも夜となれば別。昼間は現れない夜行性の獰猛な魔物達が活動を始める。もし出会したら一匹ならまだしも複数で来られては手の施しようがない。
「本当にどうしようかしら。」
ぽつりと出る言葉は誰にも届く事なく自分に帰ってくる。
その時、斜面伝いにゆらゆらと揺れる炎が見えた。
最悪ね。
今ファイアコーンに来られたら持久戦になってしまうわ。そうなれば不利ね。
そんなことを考えられるなんて、冷静なのか、または絶望しているのか。
まぁ、後悔なんて私には無いし…。
そう思っていたのにふと、アルベイユ殿下の顔が頭に過る。
いやいやいや、ないわ。絶対にないわね。
何故私がアルベイユ殿下のことで後悔するのよ。殿下がこの私に対してならわかるけれど。
そんなことを考えている間に揺らめく炎はどんどん近づいてくるので、だんだんと恐怖心というものが湧いてきてしまう。
「っ殿下…!」
思わずそう口走って、ギュッと目を瞑り来る衝撃に身構えていたらなんと奇妙なことに返事が帰ってきた。
「あぁ。なんだ。」
「っ?!」
驚いてバッと顔を上がるとそこにはなんとアルベイユ殿下がいた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
大変申し訳ないのですが、風邪を拗らせてしまい少し投稿が遅くなってしまいます。
本当にすみません。
治り次第次話をあげますのでそれまで少々お待ち頂けると嬉しいです。