溜め息の理由
不戦勝による勝利でクラス一位となった私はストレス発散が思ったよりもできなくてもやもやを抱えたまま今日もルルアナさんを観察する。
あの一件以来アルベイユ殿下は情けない王子と囁かれている。
勇猛果敢を絵に描いたような方なのに、一体全体どうしたというのかしら。
私も私で全然納得できなくて、自分の中で消化できずにいた。
「はぁーーーーーーー。」
誰もいないことをいいことに令嬢にあるまじき大きな溜め息を吐く。
「わぁ。大っきなため息だね。どうしたんだい?」
「ひぇっ!」
誰もいないことを確認して溜め息を吐いたつもりだったのに、突然後ろから声を掛けられて驚き、変な声が出てしまう。
それを見たユリウス殿下はツボにでもハマったのか蹲って肩を震わせ笑っている。
む、ムカつきますわ〜!
しかし、流石に悪態をつく訳にもいかず、咳払いをして無かったことにする。
「ゴホンッ!
で?何の御用ですの?」
「あれから可愛いの進捗はどうかなって思って来たんだけど…、そしたら大きな溜め息が聞こえてね。アイリスこそどうしたの?」
「別に何でもありませんわ。」
「そう?そんなに大きな溜め息を日常から吐いてるってこと?」
「そんなわけないでしょう。」
「なら何かあったんだね。」
「う…。」
しらを切るつもりでいたのに、そうはさせてくれないアルベイユ殿下にことの顛末を話すことになってしまった。
「先日クラスで模擬戦があったのですが、私優勝しまして。」
「それはおめでとう。」
「いえ、めでたくないんですの。
決勝は私とアルベイユ殿下でしたのに、殿下は試合放棄で私の不戦勝となりましたのよ。」
「そのことに悩んでいるの?」
「悩む、というか何故?という思いでいっぱいになってしまっているのです。」
「そっかぁ。それは悲しかったね。」
悲しい?殿下に勝負を捨てられて私は悲しかったの?
いいえ、違うわ。もっと何かこう、前よりもアルベイユ殿下が殿下らしくなくて、私の横にいたはずなのに、いつの間にか居なくなっているみたいな、そんな感じなのよ。
「アルベイユが自分を見てくれなかったから悲しかったんじゃないの?」
アルベイユ殿下が私を?
「…そう、なのでしょうか…?」
「僕は君じゃないから正確なところはわからないけど、今君はそんな顔をしていたよ。」
アルベイユ殿下が私を見ないことなんていつものことですのに、何を悲しくなる必要があるのかしら。
でも、そう言われるとすとんと腑に落ちてしまう自分もいた。
自分のことなのにわからなくなるなんて気持ち悪いわ。
変なことを考えのはもうやめましょう。疲れるだけだわ。
それから私もユリウス殿下も何も話さずただただ一緒に空を眺めていた。
それからあの模擬戦を踏まえて魔法実習のチームが組まれた。
クラス一位の成績を納めた私は最下位であるヘボンヌさんと同じチームを組まされることになった。
まぁ仕方がないわよね。とーっても嫌ですけれど。
「どうしてあなたと同じチームなのよ!」
「それは貴女自身の責任よ。貴女がクラスで最下位になったのだからトップの私と組まされるのは仕方がないことでしょう。嫌ならもっと努力するべきね。」
「私だって頑張っているわよ!」
「それは寝る間も惜しんで吐血するほどかしら?」
「は?こわ…。」
全く話にならないわね。そんなんだから最下位になるのよ。
ヘボンヌさん以外にも他に3人、マシューさんと、クリスさん、ダンテさんの計5人のチームとなり、魔物を倒して魔石を収集する実習を行うこととなった。
話し合いの末、マシューさんが得意の風魔法で魔物を探し、ダンテさんが前衛、クリスさんはその援助、私はダンテさんが仕留め損ねたものを漏らさず仕留める、ということになった。
そして、最下位だけれど一応聖女候補のヘボリーヌさんは回復役に徹してもらうことに。
私も一応回復魔法は使えるけれど聖女様には随分と劣るので、聖女候補と言われるのであれば回復くらいは私よりも優れていると思いたいわね。
こうしてそれぞれの役割が決まりいざ魔物討伐へと出発する。