その喧嘩買わせて頂きます
前回頑張ったにも関わらず、ユリウス殿下に反則を言い渡されてしまい、悔しい思いをしましたわ。
やはり殿方に触れるのは可愛いではないようですわね。
これは早急に次なる可愛いを見つけなくては!
今日もラリアンヌさんを観察するべく見つめているが、どうもおかしい。
今は模擬戦の最中なのだが、ラリアンヌさんは驚くほど魔法が下手くそであった。
聖女候補なのに、魔法が下手ってどういうことかしら。
あ、また不発。
呆気なく負けてしまうルリアンヌさん。
それを慰めるリーンハルトに側近の方々、そしてアルベイユ殿下。
なんて、茶番なのかしら。
仮にも聖女候補なのですから、頑張って頂かないと国が滅びますわ。
そう思ってじっと見ていると彼女と目が合う。
「そ、そんなに睨まないでください〜っ!」
「は?睨んでなどいませんけれど?」
「じゃぁ何でそんな怖い顔で見るんですかっ!」
「失礼ね。聖女候補と言われる貴女があまりにも無様だったから哀れんであげていただけでしてよ。」
「ぶ、ぶざまなんて…っ」
「あら?事実でしょう?魔法の扱い方もコントロールも下の下。何もできずに呆気なく負けているのですから無様以外に何と表せば?本当に見る価値も無い試合ですこと。」
「おい!公爵令嬢だからって調子に乗るなよっ!ならお前は余裕で勝てるとでも言いたいのか?!」
私とシリアンヌさんが話しているというのに横槍をかましてくる側近候補のお一人。
もっと実績を積んでから吠えて頂きたいですわね。
ジロリとその方を見るとその後ろでリーンハルトが呆れたような顔でその方を見ているのが目に入る。
ふふっ。いいわ。近頃イライラが募っていたのよ。
その喧嘩買わせて頂きます。
「そうねぇ。もし私が勝てたらどうなさるので?」
「はぁ?お前なんかが無理に決まっているだろう!」
「はぁ。頭の硬い方ですこと。もし、と言っているではありませんか。」
「はっ!もし勝てたら校内を逆立ちで一周してやるよっ!」
「言いましたわね?この約束に二言はなくてよ。」
「その代わりお前が負けたら二度とリリアンヌに近づくな!」
「えぇ。お約束致しましょう。」
「お、おい。待て、イディオ。相手は仮にも女性だ。何かあったらどうする。」
折角のイライラ発散のチャンスですのに、アルベイユ殿下が要らぬ心配で止めてきやがりますわ。
「あら。殿下も私がそこのアホンヌさんみたいに無様に負けると御思いで?」
「アホンヌって誰っ?!」
「っ。さっきからリリアンヌを、俺の友人を馬鹿にするのはやめてもらおうか。」
ゆうじん?友人と仰ったの?この方は。
いつも隣に置いているあの方を友人と思っていらっしゃるの?
それにしては…、と思うもののアルベイユ殿下があまりにも私の価値をわかっていらっしゃらないことに些か腹が立つので、ここは折れてなどやりません。
「でしたら、私が殿下に負けるようなことがあれば二度とアホンヌさんを無様だとは言いませんわ。」
「また言った!アホンヌって私のことなの?!」
全く喧しいことですこと。
少しは静かにできないのかしら。
「ハッ!俺にも勝って殿下にも勝つつもりかよ!か弱い公爵令嬢様には無理に決まってんだろっ!」
あら!か弱いなんて言われたのは初めてですわ。
何だか嬉しい気もしなくはないですわね。
でも、だからと言ってこの喧嘩を取り下げてあげるわけには参りませんわ。
「では、そのように。楽しみにしていてくださいませ。」
リーンハルトは最早何も見ていない振りをするつもりのようで、そっぽを向いて口笛を吹いていた。