クールな彼氏。3
「ダメよ、そんなんじゃ」
「いや…」
「いくらあんたが単純だっていねぇ…」
「えっと…」
「たまには焦らせてやらなきゃ」
「いや、そうじゃなくて…」
「よっし、決めた!!
今から作戦会議よ!!」
「だからそーじゃなくてぇ…」
「問答無用!
名づけて!!幼馴染彼女にドッキリ大作戦~!!」
「柚奈~…」
―――――――――――――――――――――――――
決してあたしのせいではないんだ。
全部、元を正せば新のせい。
関係ないとまでは言わないけど、少なくともあたしのせいではないんだ…。
自分にそう言い聞かせるものの、偉大なる女王様の大作戦は止まってはくれない。
「まずは亜雪を…」
さっきからなにやらぶつぶつ呟いてる。
内容は怖いから出来るだけ聞かないことにする。
発端は、あたしが柚奈に色々と新とのことを話しちゃったこと。
や、あたしだってまさかこんなことになるとは…。
―――――――――――――――――――――――――
「ダメね、あんた完全に新君に振り回されっぱなしじゃない」
「そ、そんなこと言ったってぇ~…」
昼休みの教室。
語尾が消え入りそうな声をだすあたしにすかさず渇をいれる柚奈。
そう、ここ最近、(いや、思い返せば付き合う前もだけど
完全無欠のクールな幼馴染に振り回されっぱなしなんです。
「あたしだって好きで振り回されてるわけじゃ…!!」
「甘ーい、そんなこと言ってるからいつまでたっても
振り回されっぱなしなのよ。
亜雪、今まで一回でも新君のこと振り回したことある?」
覚えている限りでは一回も無い、…とは言えない。
「ま、どーせ亜雪のことだから一回どころか一瞬たりともそんな経験ないんだろうけど…」
わかってるなら聞かないでよ!
「だって…、振り回すったって…そーすればいいの?」
「待ってました!!その言葉を!!
このさいだから新君のこと振り回してみなさいよ!」
こー見えても、(いや、見た目通り
恋愛上級者な柚奈は時々あたしにこんな無理難題を言う。
「えぇ!?
無理でしょそんなの!!
自慢じゃないけどあたしが恋愛初心者なの知ってるでしょ?」
見た目通り恋愛初心者なあたしは全力で反論。
「大丈夫!!
あたしが全力でサポートしてあげるから!!」
ね?と、可愛くウィンクする柚奈。
このパターンは…
「じゃぁあたしの指示通りに動きなさいよ?」
不適に笑う柚奈。
このパターンは…絶対にやらされるパターンだっ!!
―――――――――――――――――――――――――
なんでだろう?
あたしの行いが悪かったのかなぁ??
思わずここ最近の自分の行動をチェックしてみる。
うん、これといって異常ない。
じゃあやっぱり新のせい?
そうだ、絶対そうだ…。
「~~♪」
なにやらカチャカチャと楽しそうに鼻歌を歌いながら着々と用意を進める柚奈。
その手元にあるもの。
「いくら作戦だからって…」
「なに言ってるの、作戦だからこそやるんでしょ?」
その手元にあるのは柚奈のメイク道具。
そう、なにやらいままで化粧っ気ゼロだったあたしにメイクをさせたいらしい。
…言いたい何をたくらんでいるんだろうか?この人は…。
おまけに昨日の今日で、現在時刻は朝の7時半。
あたしの家は学校は近いから15分もあれば歩いて余裕で付く。
つまり柚奈わざわざあたしにメイクをさせるために早く来たってわけ。
「…あの、柚奈さん?
そろそろ何をするのか教えていただきたいんですが」
実行するのはあたしなのにまだ全く作戦の内容を聞いていない。
「しょうがないわねぇ~…。
つまりいい?
新君を焦らせるにはあんたが可愛くなって周りをあっと驚かせるのよ」
「…うん、それで?」
しょうもない作戦のような気もするけど一様続きを聞く。
「新君はもてるでしょ?
それもものすごく。
それで前は亜雪が焦らされてたわけだし。
だからそれをそのままそっくり新君にやり返すの。
亜雪が急にモテモテになれば否応なしに心配するでしょ?」
ものすごく良い作戦だと言うように語る柚奈の作戦にあたしは愕然。
「あのね、柚奈」
「何?バッチリの作戦でしょ?」
「それって、つまりあたしがモテることが前提なわけでしょ?」
「そうよ、当たり前じゃない」
「じゃぁ絶対無理だよ!!」
自慢じゃないけど生まれてこの方モテてたことなんて一度も無いよ?
そりゃ柚奈は美人だしさぞ簡単そうに言うけど…。
あたしじゃ絶対に無理だって!!
「はぁ…」
あたしの台詞を聞いて呆れたとばかりにため息をつく柚奈。
「亜雪、何のためにあたしがわざわざこんな時間にあんたの家にいると思ってんの?」
「…すっごくやだけど、メイクするため」
「そうよ、メイクはすごいのよ!?
大丈夫!!亜雪、結構可愛いしちょっとメイクすればすごくよくなるはず!!
さぁ!!新君を振り回しちゃえ!!」
「無、無理だってぇぇぇぇ!!」
「つべこべ言わずにあたしにメイクさせる!!」
だ、誰か助けてぇぇぇ~!!
―――――――――――――――――――――――――
「うぅ…もう嫌…」
柚奈にすっかりメイクされ、ただいま教室にいるあたし。
…なんていうけど。
「…恥ずい…」
はっきりいってこの格好じゃ、へたに教室から出られない。
っていうか動き回れない。
柚奈に強制されたのは実はメイクだけじゃない。
短くされたスカート。
今時の感じにセットされた髪型。
極め付けに柚奈一押しの制服の着こなし。
格好だけはものすごく可愛く仕立て上げられたあたし。
でも、でもさ絶対に…。
…似合うはずが無いっ!!
今日は柚奈と一緒にいつもよりずいぶん早く登校したから教室にはまだチラホラとしか人がいない。
それが救い。
まだチャンスはある。
出来れば朝錬組が帰ってくる前にこのメイクを綺麗に落として
髪の毛ほどいて、スカートの丈もとにもどして…。
なんて思うけど、はっきりいって柚奈に見つかったときが怖い。
…まぁ、あたしにも権利あるよね?
大丈夫、大丈夫、ダイジョウブ…。
「はよっす」
「おーおはよ」
「今日の宿題やったー?」
な、何!?
早くもみんなが来始めちゃった…!!
もうつっぷ状態のあたし。
でも、そんなささやかな願いも叶わず…。
「亜雪ちゃん?何してるのかな?」
こ、怖い~!!
上から降ってくる柚奈の声にそろりそろりと顔を上げると
「あたしの作戦が台無しになっちゃうでしょ?」
にっこりと微笑んだ表情。
でも、念のため言っておくとそれはあたしを祝福してくれているような笑顔じゃなくて
「はい、学校中歩いてきなさい」
あたしを貶めるような悪魔の笑顔…。
「は、はい…」
机からしぶしぶ立ち上がるあたしをニコニコと手を振って見送る柚奈。
この悪魔…!!
そんなことを思っていた矢先、思いがけないことが起きた。
「あ、悪ぃ」
軽くぶつかってきた男子。
柚奈を睨みつけていた視線を前に戻すとそこにはクラスの竹下君。
これはこれで新ほどじゃないけどそうとうモテる人。
「え…?」
目を丸くして何かにおどろく竹下君。
も、もしかして、今のあたし驚くほど変?
「お前、遊沢だよな…?」
「う、うん…一様」
ハハハ、とぎこちなく笑うあたし。
や、やばい!!ものすごく逃げたい…!!
そんなあたしをよそにまじまじとあたしを見る。
そして一言。
「お前その姿、新に見せたか?」
「ま、まさかぁ!!こんなの見せられるわけ無いでしょ!!」
半ば切れ気味のあたし。
もう嫌だ…。
あたしのさっきの叫びのせいか、クラスの人の視線が集まってくる。
「えっと…あたし、今ものすごく変だよね?」
「や、変じゃねぇけど…むしろ」
「むしろ?」
「つか、早く新に会ってきた方がいいぜ」
「え、あ、うん」
結局そのくらい変なのか聞けないままあたしは教室をでた。
ちなみに今日は柚奈に連行されてまだ新にはあっていない。
てか、絶対に会いたくない…!
なのに。
「うわぁ~誰あいつ!!」
「あんな人、うちの学年にいたっけ?」
「俺、見たことねぇよ!」
あらゆるところから飛んでくる視線、視線、視線。
い、痛い…!
今のあたしならこの視線で焼き殺されることが出来るようなきがした。
とはいえ、歩かないとトイレにはいけない。
だからもう半ば開き直り気味に廊下を歩く。
指差してきた奴にはさすがにむかついたけど。
どんどん歩いていくと気だるそうに歩く姿が見えた。
こ、これはやばいって、本当に!!
遠くからでも分かる。
あの姿は絶対に新だっ!!
勝手に先に学校に来た上に、こんな格好してたら絶対に可笑しいと思われる。
あたしはくるりと新が来る方向に背を向けると、もうダッシュ!
いつもよりスカートが短いから全力疾走は無理だけどこのペースで走れば新だってあたしに気づかないはず。
とりあえず人のいないところを選んで走った。
そしてついたのは屋上。
一息ついてベンチに座る。
「ハァ…」
これからどうしよ~…。
教室にいったら新に会っちゃうし。
かといってメイク落としていったら柚奈にキレられるし。
遊沢 亜雪、ただいま人生最大のピンチ…!
一人であわあわしてると、突然屋上の扉が開いた。
そこにたっていたのは本日二度目にお目にかかります。
「あ、新…」
一見無表情に見える新の表情。
でも、あたしは幼馴染。
この表情は確実に…怒っていらっしゃる!!
怒りに満ちた表情を崩さないまま新はあたしの隣に座った。
「何、先に行ってんだよ」
一瞬何のこと?と思ったけど、たぶん今日、勝手に先に家を出てきたことだ。
付き合いだす前からいつも一緒にいってただけにその怒りは大きい。
それ以上しゃべらず、俯き気味に視線をはずす新にあたしはおお焦り。
「えっと…!!
それには色々と訳がありまして…」
必死で弁解しようにもだいたいこういうときの新は人の言い訳を全く聞いてくれない。
今回もそうだろうと言い訳をやめて黙り込むあたし。
「訳って、その格好?」
「え?格好って…」
わ、忘れてたぁぁぁぁ!!
新の登場に早稲ってこの格好のままだったことを完全に忘れた。
聞いてもらえないと分かりながらも弁解せずにはいられないあたし。
「えっと、その…これはあたしがやったんじゃなくて…
す、すぐ落とそうと思ってたんだよ?本当は!!
変だし…似合わないし…でも新が来ちゃうし…」
「俺のせいってわけ?」
「や…!!そうじゃなくてですね…うぅ~…」
もう返す言葉もない。
ここはもうひたすらに謝るしかない。
「本当にごめんっ!!
今すぐ全部直してくるからちょっと待ってて!!」
そうさけんでベンチからたとうとするあたしの腕を新が掴んだ。
「お前、俺が何に怒ってるかわかってねぇだろ?」
「え?えっと、先に学校に行ったことと…変な格好してること?」
「ハァ…マジでムカつく」
えぇ?そんなこといわれても意味わかんないよ~。
「えっと…じゃあなんで怒ってる………て、新ぁぁ!?」
しゃべってる途中で強く腕を引っ張られる。
抵抗も出来ないままあたしはすっぽり新の腕の中。
やばっ、不意打ちでめっちゃ顔赤い…。
「先にいったことは別に後でいい。
なんでこんな格好してんだ?」
ふっと新が腕の力を緩める。
「あの…その…」
しかたなくあたしはそのわけを全部話した。
あぁ…柚奈のこと恨んでやる~。
「やっぱりな」
「何が?」
「お前にそんな的確なことできるわけないだろ」
「む…」
そりゃメイクなんてしたことないし、こんな作戦あたしじゃおもいつかないでどね…!
「もう絶対にこんなことすんな」
「はい…」
なんかしつけられてるみたい…。
新に怒られるとあたしはいつもしゅんとしてしまう。
しかも付き合いだしてから怒られたの初めてだし。
なんかちょっと泣きそう…。
「何なみだ目になってんだよ」
そういって新はあたしの頭を撫でた。
あたしは前回で頬赤いだろうけど、新も微かに顔を赤らめている。
なんだか無性にその姿が可愛く思えて、あたしは思わず新に抱きついた。
それがすごく不意打ちだったのか、
「お、おい!」
ちょっとだけ焦ってるようにも思えた。
これって、もしかして作戦成功?
へへっと笑って、顔を上げると、同じように綺麗に微笑んだ新の顔があった。
新はあたしのあごに手を掛けるとキスし始めた。
軽いキスからどんどんと変わっていく角度。
息苦しくなるほど長いキス。
こんなの始めてかも…。
それが終わって肩で息を吸い込む。
苦しくてちょっとなみだ目気味。
「そんなに苦しいか?」
「うん、ちょっと…」
微かに笑ってみる。
「悪ぃけど」
「ん?」
「止まんねぇ…」
再び新がキスをする。
ちょっとだけ苦しいキスからはいつも伝わりにくい新の気持ちがすごく伝わってきた。
―――――――――――――――――――――――――
「やばっ、もう一時間目始まっちゃうよ!!」
キスし終わって気づいたらもうそんな時間になっていた。
「別にいいだろ、そんなの」
「よ、よくないってぇ~」
ふいに顔を近づけてくる新。
そして耳元でささやく。
「サボろうぜ?」
いつも以上に甘い声に思わず頷きそうになった。
でも、
「ダメだって!!あたし成績悪いんだから!!」
むっと不満そうな顔になる。
しかも不穏な言葉月。
「覚悟しとけよ」
新が不機嫌なまま教室に戻ると、まだ先生は来てなかった。
よかったぁぁ~~~、と思ったのもつかの間。
「あ!やっぱりお前、遊沢なんだよな!?」
「すげーイメチェン!!」
「遊沢さん可愛い~」
あの恥ずかしい格好のまま戻ってきてしまったあたし。
てか、なんかみんなの反応可笑しいよ!!?
この格好が和歌いいはずがない!!
そこにパタパタと竹下君がやってきて新の所に立つ。
すっごく楽しそうなんですけど…なぜ?
でも、その後の竹下君の一言でその理由が分かった。
「今の遊沢、メチャクチャ新好みじゃん」
「え?…えぇぇぇぇぇぇえええ!!?」
そのせい台詞あたしは大発狂。
「太一、テメェ…。
お前と美桜の仕業か…」
「ご名答!
俺たちの仕業」
新はみようによってはいつもの無表情だけどあたしからみたら完全に怒ってる…!!
てか、これて柚奈だけの作戦じゃないの?
「ごめーん、亜雪。
でも、うまく行ったでしょ?」
可愛く笑う柚奈。
……ムカつくっ。
柚奈を睨みつけていると、新のよく通る声が教室に響いた。
「まぁいい、太一、テメェは後で殺す。
その前に…」
その前に?
誰もが固唾を呑んで見守った瞬間。
あたしは強い力で肩を引かれて倒れこんだ。
…新の中に。
「こいつ、俺のだから」
一瞬クラスが静まり返った。
と思った瞬間クラス銃から冷やかしの声や黄色い歓声。
え?え?えぇぇぇ!?
新ってこんなキャラじゃないよね!?
どうしちゃったわけ!?
新の腕の力が緩んで解放されたあたしに柚奈が言う。
「ほらね?作戦大成功♪」
「何なのよこれっ!!
どこが作戦成功なのよ!!」
「大成功じゃない。
普段の新君だったら絶対にこんなことしないでしょ?
でも新君好みの亜雪がモテモテなのを見たらいてもたってもいられなくて焦ったってわけ。
それに亜雪、新君にキスされたでしょ?」
「なな、なんでそれを?」
「やっぱり、亜雪を独り占めしたくて必死だったんでしょ。
可愛いじゃない」
「か、可愛くなぁーい!!」
未だにクラスから飛んでくる冷やかし。
それがようやく収まったのは先生が来た後だった。
―――――――――――――――――――――――――
「あ、新?」
「んだよ」
帰り道。
やっとあたし達への冷やかしが終わったと思ったらもう下校の時間だった。
なんていうか…一言で言うと…気まずい。
朝の人騒動から全くしゃべってないあたし達。
と、言うよりしゃべる隙がないほど質問攻めだった。
それと…新の好みのこと。
今思い出すだけでも結構恥ずかしい。
朝の格好から柚奈の提案、というより脅迫で結局直すことが出来なかった。
てか…新の好みって今まで全く知らなかったかも…。
これは…喜んでいいのかな?
一人首をかしげていると、
「なに一人で百面相してんだよ」
「なっ!!し、してない!!」
嫌ぁぁぁ~、もしかして顔に出てたの!?
…この際だし、ずばりきいちゃおうかな?
「あのさ…」
あたしが言葉を言い切るまでの沈黙。
自分の中で決心をする。
「新の好みって…こーいう格好なの?」
ちょっと顔を伏せながら、新の方を見上げる。
今思うと、こーいう格好ってあたしには無縁だったんだよね。
なんかひそかにショック。
「…別に」
「だって、竹下君が言ってたじゃん」
「んなの信じてんじゃねーよ」
バッサリと切られる。
「つか…」
「ん?」
「覚悟しとけって言ったよな?」
「うん、言われたけど…あれってどーいうこと?」
「こーいう意味」
その言葉をまた聞き返そうとした瞬間、もうキスされる一歩手前の状態だった。
「覚悟しとけって言っただろ」
言い終わった途端の甘いキス。
不意打ちにクラっとする。
少しだけ唇を離してあたしの顔を除きこむ新の不敵な笑顔に更に顔を赤くする。
「なに赤くなってんだよ」
そのまま、またキスを落とされる。
屋上でした時と同じくらい苦しい。
でも、ここ。
路上だよっ!?
もう暗いけど…。
誰か来たら絶対にバレるよ~…。
こんな余裕な新が焦るはずないっ。
そんなあたしの気持ちを察したのか、新が囁く。
「俺を焦らそうなんて、100年早ぇんだよ。バーカ」