妖しく笑う生徒会長 後編
坂本先輩からは逃れて廊下を走ると、曲がり角のところで誰かにぶつかってしまう。
「ぶっ!」
「おお⁉ と、大丈夫か?」
ぶつかって倒れそうになる私の肩をその人が掴んでくれたので倒れずに済む。
見ると、それは高志くんで……。
「星宮さん? どうした?」
「っ! どうしたじゃないよ! 坂本先輩と二人きりにしない様にしてくれるって言ったのに!」
坂本先輩の妖艶さに当てられた私は、少し余裕がなくなっていたみたいでつい高志くんに八つ当たりしてしまった。
「す、すまない。だが仕事はしないとならないし……あまり粘り過ぎると怪しまれると思って……」
怪しまれるどころかバレバレだったけどね!
「でもそんな風に飛び出してきたってことは何かあったのか? 千隼様がひどいことをするとは思えないが……」
「そりゃ、ひどいことされたわけじゃないけど……」
私の様子を見て少し心配そうにしてくれる高志くん。
でも坂本先輩の評価を聞くに、高志くんはあの妖艶な状態の坂本先輩は知らないんだろう。
ひどいことはしないけど、なんて言うか……誘惑してくるんだよ。
「うぅ~……とにかく、やっぱり坂本先輩とあんまり二人きりにしないで欲しい」
あの状態の坂本先輩を知らないなら詳しく話しても信じてくれなさそう。
そう思った私はとにかくそれだけはと頼んだ。
「す、すまなかった。分かったよ」
「……うん。私も八つ当たりしちゃった、ごめんね」
坂本先輩と二人きりにしないでと頼んでいるのはこちらだ。
そのことで高志くんにメリットはないのに、頼みを聞いてくれている。
それなのに八つ当たりなんかしたら悪いよね。
そう反省しての言葉を口にして、仲直りの印とでもいうような笑顔を見せる。
「っ!」
すると、肩を掴んでいた高志くんの手の力が強くなった。
「高志くん?」
「……抱きしめたい」
「は?」
突然の脈絡のない言葉に疑問の声しか返せない。
高志くんは自分でもそれは分かっているのか、次の瞬間には戸惑いながら言葉を続けた。
「す、すまない。何だか突然星宮さんがすごく可愛く見えて……」
「え? あ、そう、なの?」
すんなりと出てきた『可愛い』という言葉に私の方が照れてしまう。
そういえば前にも可愛いとは言われたことがある。
小動物的な意味だった気はするけれど。
今回も同じ感じなのかな?
と、小首を傾げる。
「っ! 星宮さんっ」
すると息を詰まらせるような声で呼ばれ、肩を掴んでいた手が背中に回ってくる。
ん?
と思ったときには高志くんの腕に囲い込まれるようになっていて――。
「きゅわわーん!!」
次の瞬間には、何故か突然現れたすみれ先輩に抱きしめられていた。
「んん?」
何が起こったのか良く分からない。
えーっと、高志くんは抱きしめたいとか言ってたから……今のってそうしようとしてたってことかな?
そして、抱きしめる前に横からすみれ先輩がしゃしゃり出てきた、と。
「もう! 美来さんその首を傾げるしぐさ可愛すぎるわ!」
ぎゅうぅぅっと抱きしめられてちょっと苦しい。
「あ、あの。すみれ先輩?」
一度離してもらおうと呼び掛けるけれど、すみれ先輩は構わず抱きしめたまま話し出した。
「でも男の前でそんなことしちゃダメよ? 狼になってパクリと食べられてしまうわ」
「へ?」
注意されて間抜けな声が出る。
パクリと食べられてしまう前にちゃんと逃げられるんだけれど……。
というか、そんなことってどんなこと?
首傾げちゃダメなの?
頭の中でさらに首を傾げていると、放置された高志くんが「あの……」と気まずそうに私達に声を掛けた。
「つい抱きしめようとしてしまいましたが、食べたりなんてしませんよ? 久保じゃあるまいし……」
最後は少し嫌そうな顔をして久保くんの名前を出す。
そういえば以前保健室でそういうやり取りあったなぁ、と思い出した。
思えば、あの頃に比べると久保くんかなり変わったよねぇ……。
そんなことを考えていたら、高志くんの言葉にはすみれ先輩が返していた。
「あら? 久保って確か【月帝】のNO.3の二年よね? あの男子生徒、最近は全く女遊びしていないらしいわよ?」
だから食べたりなんてしないんじゃないかしら、とすみれ先輩は言う。
「え? そうなんですか?」
最近優しくなったし、セフレにするとかも言わなくなったからそういうところ落ち着いて来たのかな、とは思ったけれど……。
まさか女遊びも無くなってたなんて。
でも、そう言えば最近の久保くんは寮にいることが多い気がする。
前までは女のところに行っているのか、基本夜しか寮にいなかった。
本当に寝るためだけに帰って来てるって感じで。
それに学校でも授業をずっと受けてるし。
……いや、あれは受けてるって言って良いのか疑問はあるけれど。
たまーにまともに先生の話を聞いているときもあるけれど、基本は寝ている。
しかも、起きていても私の方をジーッと見てきていたりして、授業を受けているとは言えない気もする。
でもとにかくサボらずに授業には出ているから、確かに女の子と遊び歩いてる様子はないかも知れない。
久保くん、本当に変わったんだねぇ。
……うん、やっぱり今の久保くんの方が好きだなぁ。
軽い驚きと共にそんな風に思った。
「っ! だとしても、俺は食べたりしませんよ⁉」
「そう? まあでも、警戒しておくに越したことはないわ」
「ですから!」
「さ、美来さん。早く戻りましょう? 今日の分の仕事早く終わらせなくちゃ」
高志くんを無視してすみれ先輩は私の背を押して生徒会室に戻るように促した。
「お、俺はただ可愛いなと思っただけで……別にやましい気持ちは……ない。ああ、ないはずだ……」
後ろからついて来た高志くんはなにやらぶつぶつ言っているけど、すみれ先輩は聞く耳すら持たない様子。
まあ、独り言っぽいし良いのかな?
さっきの今で生徒会室に戻るのは抵抗があったけど、二人がいたからか坂本先輩はいつもの王子様スマイルになっていた。
やっぱり二人きりにはならない様にしなくちゃな、と改めて思った。




