体術の秘密 決着③
「女子はお前がやれよ? 流石に女は殴れない」
「分かってるって」
こんな時でも紳士的であろうとする奏。
まあ、そんなだから前の学校ではモテモテだったんだけれど。
「こっの、ナメやがって!」
急所の攻撃を耐えた男がそう叫ぶのが合図だった。
男達を中心に、大立ち回りが始まる。
こういうのは久しぶりだからちょっと気を引き締めないと。
そう思いながら私は男の拳をかわし、その勢いを利用して投げ飛ばす。
すぐに私を捕まえようとする腕が別方向から伸ばされ、その腕の軌道をずらして鳩尾に拳を入れた。
奏も危なげなく対処している。
思っていた以上にこの男達は弱いみたいだ。
良かった。
これならこっちがケガをすることはなさそうだ。
私と奏は小さいころから空手を習っていた。
近所でも評判の可愛い双子と言われていたらしいから、両親が心配して習わせてくれたんだ。
そして私に限って言えば、二年前からは柔道も習い始め機会があれば他の格闘技にも手を出していた。
二年前、二人の総長と生徒会長に初めて会ったあの夜。
あの夜に思い知らされたから。
私はもっと強くならなきゃ、自分の身すら守れないって。
「っと! 捕まえたぞ!」
そう近くで聞こえたと思ったら髪を引っ張られた。
「いたっ!」
おさげの片方を掴まれてしまったらしい。
やっぱりこのおさげって掴みやすいのかな?
ここ最近のことも思い出しながら思う。
私はそのおさげを掴んでいた腕を肘と膝で挟むように攻撃し、離させる。
「ぐあっ!」
「全く、乙女の髪を気軽に掴むんじゃないわよ」
言いながら、私は髪を結んでいるゴムを取った。
シュルシュルと勝手にほどけていく髪。
軽く頭を振ると、何のクセもないストレートロングになる。
この状態なら掴もうとしてもサラサラと手から滑り落ちていくから大丈夫だ。
でも、それに対して別方向から非難の声が上がる。
「っおい美来! 何でおさげ解くんだよ!?」
「だって掴まれちゃうんだもん!」
眼鏡は外してないんだから良いじゃない。
眼鏡だって邪魔なのに……。
こんな時でも地味な格好を強要する奏にちょっと不満を抱く。
でも今はそのことについて一々奏と討論するヒマはない。
だから代わりにその不満を男達への攻撃に変換した。
男達がどんどん倒されていく中、ちらほら派手女子グループの方も私に襲い掛かって来る。
女の私の方が弱いとでも思っているんだろうか?
実際は女に手を出せない奏に向かった方が勝率は上がるのに。
でも女子は道具を使ってくるからちょっと厄介だ。
ハサミとかカッターとか。
刃物の使い方も分からないのに使うから危なっかしくて仕方ない。
受け流して次から次へと獲物を落とさせる。
そして落としたハサミやカッターは倉庫の端の方に蹴って再び取らせない様にした。
「……すごい」
そんな言葉が耳に届く。
つい反応してそっちを見ると、宮根先輩が私のことを目を丸くして見ていた。
丁度そのとき、彼女の方に男が飛ばされてきたのかぶつかりそうになる。
私は思わず反射的に動く。
私をいじめてた主犯の人だとか、男に潰されたくらいなら大したケガもしないとか。
そんなことを考えることはない。
ただ、目の前でか弱い女子が危ない目に遭っている。
その事実だけが私を動かす。
まあ、そんなだからたまに奏には猪突猛進だって言われちゃうんだけれど。
私は宮根先輩を引き寄せ抱き込むように守ってから男の背中を蹴って軌道をずらす。
「ぐえっ」
とカエルがつぶれたような声を出して男はそのまま倒れた。
その延長上にいる奏に私は叫ぶ。
「ちょっと! 気をつけなさいよ奏! 巻き込むとこだったよ!?」
「あ、悪い! 助かった!」
女の子には手を出さないという奏にお礼を言われると、私は宮根先輩の顔を覗き込んだ。
「大丈夫ですか? ダメですよ、ケンカが始まったら巻き込まれない様に逃げないと」
「え? あ……」
何が起こったのか把握出来ていないんだろうか。
宮根先輩は零れ落ちそうなほどに目を見開いてただただ私見ている。
「とにかく、ケガしたくなかったらちゃんと端に逃げてくださいね」
そう言って立たせてから私は彼女から離れた。
女子は大体片が付いた。
あとは男が数人。
それらを相手にしている奏の方に向かう途中、倉庫の出入り口が空いていることに気づく。
そして、そこに突っ立っている四人の姿にも。
「明人くん、勇人くん!」
手を挙げてそのうちの二人の名前を呼ぶ。
他の二人、久保くんと高志くんは頼りたくないのと頼りなさそうなのとで声を掛けない。
「何してるの? どうせなら手伝ってよ」
そう言うと四人はハッとして動き出してくれる。
それからは早かった。
男達は【月帝】の下っ端だったらしく、久保くんの姿を見ただけで戦意喪失してしまう。
あとは明人くんと勇人くんが倒れている奴らとかもまとめてくれて……。
そして高志くんが「こいつら退学にしてやる」とか言って色々手続きをしてくれていた。
高志くん、頼りなさそうとか思ってごめんなさい。
そんな風に思いながらいくつか話をしたりとやり取りをしているうちに、私は体調が悪くなってきていることに気付いた。
ただでさえ風邪気味だったのに、気を張ってこんな大立ち回りをしたんだ。
ことが済んで安心してしまったせいもあるんだろう。
フラフラしていると、真っ先に奏が気付いてくれる。
「おい、大丈夫――じゃあなさそうだな? 早めに帰っておいた方が良いんじゃないか?」
「うん、そうする」
そうしてあとのことは奏と皆に頼んで、私は先に帰らせてもらった。
これでいじめ云々のことは山場を終えた。
あとは明日仕上げをすればいい。
そう思って薬を飲んで早めに眠ったんだけれど……。
翌朝の私の体調は最悪だった。




