絆の秘密⑧
如月さんって、怖い。
見つめられると見透かされているような気分になるってところもそうだけれど、単純に静かに怒られそうで怖い。
……でもその冷たい声だけは聴き心地が良いとか何なんだろう本当。
「……」
もう行って良いぞ、とか。
用件はそれだけだ、とか。
何か言ってくれないかな?
黙ってジッと見られて、どうすればいいのか分からない。
私から声をかけるしかないのかな?
そう迷っているとポツリと如月さんの口から言葉が零れた。
「お前……」
そうして初めて会った時の様におさげを一つ掴まれる。
「え? あの……」
「お前の髪、やっぱり綺麗だな……?」
「え? ありがとう、ございます?」
どう反応していいのかわからなくて疑問符のついたお礼を口にする。
いやでも、確か先週初めて会ったとき私のおさげ放り投げたでしょうが。
そんなことしておいてまた綺麗とか言われても……。
色んな意味で困惑しかない。
「髪を下ろさないのか? 毎日こんな面倒な髪型にするとか酔狂なやつだ」
「酔狂……」
そこまで言われることじゃないと思うけれど……。
「纏めておいた方が動くとき楽なんです」
実際は面倒だし奏に言われているからやっているだけなんだけど、とりあえず適当な答えを口にしておく。
「纏めるだけなら後ろで一つに結えばいいだろう?」
「いやそれは……」
後ろに一つだとすぐにゴムがずり落ちてきちゃうんだもん。
無理だよ。
でもそれを言うとどうしてゴムがずり落ちるのか聞かれちゃうし……。
って言うか、何で私如月さんに髪型のこと聞かれてるわけ?
如月さん、何がしたいの?
言葉に詰まり疑問に思っていると、突然掴んているおさげを引かれた。
いや、正確にはそれを結んでいるゴムを。
「え? あ」
引っ張られて、ゴムが取られたと思った瞬間には髪がハラハラとほどけ始めていた。
ほどけたのを視認した瞬間私は両手で三つ編みを掴む。
何とか全部ほどけるのは防げたけど、毛先の方は完全にサラサラと揺れていた。
「やはり、綺麗な髪だな……」
そう言って見上げてくる瞳はキラリと光を帯びていて、何かを確信しているかのように見える。
知らず、私はゴクリと唾を飲み込んだ。
まさか、私が【かぐや姫】だってバレてはいないよね?
一番特徴的な目の色はバレていないんだから、知られるはずがない。
二年前に一度会っただけなんだ。
顔だって覚えているはずがない。
だから最悪目の色さえバレなければ知られるはずはない。
そう、思うのに……。
私を見つめる目は自信に満ちていた。
如月さんはまた私に手を伸ばし、サラサラと揺れる髪を手で梳く。
その目が、気持ちよさそうに細められた。
「……髪ゴム、返してください」
一刻も早く如月さんの前から去らないと。
そのためにゴムを返してもらわなくちゃならない。
「ん? ああ」
如月さんは思ったより素直にゴムを返してくれる。
「ほら」と差し出されて片手を伸ばすと、その上にゴムを落としてくれた。
でもその手をそのまま掴み引き寄せられる。
顔が近くなったところで、冷たい声で囁かれた。
「なぁ、お前の目は本当に薄茶色か?」
「っ⁉」
核心を突くようなセリフに思わずビクリと体で驚きを表す。
だ、ダメよ!
ここは誤魔化さないと!
「そうですよ? 見ますか?」
私はあえて笑顔を見せて誤魔化した。
「……」
「……」
数秒の沈黙。
先に折れてくれたのは如月さんだ。
「まあいいさ。おいおい分かることだ」
そう言って手を離すと、如月さんは視線を残っている料理に向けた。
見透かすような眼差しが外れてホッとする。
「じゃあ、失礼します」
私はこれ以上何かを言われる前にこの場を早急に去った。
食堂を出てすぐのトイレに入り込み、髪を結いなおす。
ったく、キッチリ結うのって結構大変なのにー!
内心文句を言いながら結いなおすと、すぐに教室に戻る。
あんまり長く教室を離れていたら何をされるか分からないからね。
いじめの方も考えなきゃないってのに、如月さん達に【かぐや姫】だってバレない様にもしなきゃならないとか。
ちょっとやることや考えることが多すぎじゃない?
足早に教室に入り自分の席に着くと、周りからチェックする。
今朝みたいに散らかされていたりということはなさそうだけれど……。
椅子に座り、次の授業の準備をしようと机の中に手を入れた時だった。
ん?
何か硬いものが当たって慎重に取り出す。
「うわぁ……」
出てきたのはめいいっぱい刃を出された状態のカッターだった。
しかもご丁寧に次の授業の教科書に挟められている。
下手をしたらケガをするような状態。
安物のカッターだしそこまでは切れ味がいいわけではないけれど……。
でも一気に危険度が増した感じだ。
「あーあ、ケガの一つくらいすれば良かったのに」
聞こえるか聞こえないかの微妙な声量でそんな声が聞こえてくる。
チラッと見ると、前に私をトイレに閉じ込めようとした子達だ。
やっぱりあれで懲りてはくれなかったか。
私は他にも何か入ってないか調べながら考える。
彼女達が主犯?
いや、そういう感じはしない。
むしろ主犯グループになりえるような人達はまだ直接何かをして来てはいないだろう。
多分今の段階では――。
『あの子って目障りよね。誰か身の程をわきまえられるように注意してくれないかしら』
とか悪役令嬢さながらの言葉でも言っている状態じゃないかな?
それで巡り巡ってこういういじめという形で私に伝わる、と。
でもあの子達ですらいきなり刃物出してくるくらいだ。
明日からはハードな学校生活になりそう。
私はため息を吐き、物思いに耽る。
しのぶも遠ざけて一人になって、一人で戦っている状態。
でも、本当は一人なんかじゃない。
私には、奏がいるから。
『俺はいつでも一緒にいるから! 俺だけは絶対、お前を裏切らないから!』
二年前のあの日。
あの朝焼けの中で言ってくれた言葉がある限り、私は常に一人ではないんだ。




