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声の秘密⑥

 カラオケではまずは奏に一通り歌ってもらう。

 しのぶが奏の生歌を聞きたいと言って来たんだから当然だよね。

 とりあえずアップしている動画の分を歌い終わると。


「このまま昇天してもいい……」


 なんて呟いていたから本当に彼女の推しが《シュピーレン》なんだなって再確認した。

 でも昇天しちゃったらその《シュピーレン》が悲しむから戻っておいで~。

 そんな気持ちで次は私が歌う。

 いくつかある好きな曲の中からバラードの一つを選ぶ。

 前奏が始まると、昇天しかけていたしのぶはやっと戻ってきた。


「そういえば美来は歌上手いの? 奏がこれだけ上手いんだから期待しちゃう」


 その期待に応えられるように歌おう。

 そう思いながらマイクを構えると、奏がニッと笑って「聞けば分かるよ」と答えた。


 息を吸い、腹式呼吸で発声する。

 そして言葉を紡いでいった。


 この歌は離れていく家族を思う歌。

 いろんな理由があって離れてしまうけれど、家族という絆はどこにいても切れることはないっていう歌。

 曲としてはシンプルで伸びやかなものだから、比較的歌いやすいものだ。

 最後は高音が伸びて、付け加えるように優しい音で終わる。


 歌い終わってどうかな? としのぶを見てギョッとした。

 だって、彼女はボロボロと大粒の涙を流していたから。


「え? え? なに?」


 状況的に感動してくれたってことだろうけど、そこまで泣くほどかな?

 あまりの号泣っぷりに私は慌ててしまう。

 しのぶは数枚ティッシュを取ると涙を拭き鼻をかみ、涙声を上げる。


「うっ……みくっ、上手すぎぃ~~~」


 そうしてまた泣き出してしまった。

 しのぶは多分感受性が強いんだね。

 ここまで泣く子はなかなかいないよ。

 少しして落ち着いたしのぶは、今度は私と奏でデュエットしてほしいとお願いしてきた。

 また泣くんじゃないかと思ったけれど、どうしてもと言われてしまったので人気の映画で歌われていたものを選んだ。


 そして。


「うっうわあぁぁ……二人とも、良すぎぃ~~~!!」


 案の定しのぶは泣いてしまった。

 前半はそんな感じで歌ってはしのぶが泣いて落ち着くのを待って、の繰り返しになる。

 でも流石にずっとそんな状態で過ごすわけにもいかないし、後半は楽しい歌をみんなで歌ったりと盛り上がって楽しんだ。


「あー、歌ったー」

「楽しかったー」


 私としのぶはきゃいきゃいしながらカラオケを出る。

 奏はそんな私達の後ろをついて来るように出てきた。


「でも混んできたからって三時で切り上げなきゃならなくなったのは残念だったな」


 奏の言葉に「うんうん」「そうだよねー」と同意する。

 やっぱり土日はどうしたって混むから、フリータイムだとしてもある程度時間が経ったら切り上げてほしいって言われちゃうみたい。

 まあ、それでも四時間は歌えたんだからいい方かな。


「でもこの後どうしよっか? 買い物でもする?」

「そうだね。ドリンクも結構飲んだからカフェでまったりって感じでもないし」

「はいはい、俺は荷物持ちってわけだな?」


 しのぶの提案に私が同意し、奏は冗談っぽく返した。

 そうして軽くショッピングしていると、なんだかんだ言って四時半も過ぎる。

 しのぶとは学校の前で別れて、私と奏は第二学生寮に帰って行く。


 土日祝日は第一学生寮の食堂は使えないらしく、私達は今日と明日は自炊しなきゃならない。

 元々毎日自炊しなきゃならないと思っていたから道具はあるし、土日の分の買い出しは昨日しておいたからあとは作るだけだ。

 料理は奏も出来るけれど、基本的には私の役割。

 奏はお菓子作りとか細かい作業があるものの方が得意だしね。


「じゃあ出来たら呼ぶから」

「おう」


 そう言ってそれぞれ自分達の部屋のドアを開けた時だった。

 ガチャッと、ほぼ同時にもう一つのドアが開く。

 奏の隣の部屋。

 丁度中から出てくる所のようだった。


 この時、どんな人が住んでいるんだろう? なんて思わなきゃ良かった。

 その部屋の住人が出てくるのを待たないで、さっさと自分の部屋に入っていればよかった。

 でもそう。

 後悔は先に来ることが無いんだ。


「……え?」


 他の住人を見たことが無いのもあって、近くの部屋に住んでいるのはどんな人なのか見たかった。

 でもまさか。


「……ん? 何だ、お前部屋そこだったのか」


 気だるそうにその部屋から出てきたのは、久保くんだった……。

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