第8話 新くんとの和解
御影から貰ったペンダントをつけてから、体が軽くなった気がした。それでも眠気はとれなかったのでその日は早い時間に寝た。そしたら翌朝はスッキリと起きられた。
今日は遅刻せずに済んだな、と思いながら昨日より早い時間にマンションのエントランスから出る。すると昨日と同じ場所で首藤新は待っていた。
その時ふと、この人は何時から私を待っていたのだろうかと瑠衣は思った。
(昨日も遅刻しそうだったのに…。もしかしてもっと早くから私を待っていたのかもしれない)
昨日、怒鳴ってしまった罪悪感がみるみるよみがえってきた。
(あやまろう)
そう思っていたら、
「佐久間さん、昨日はごめん!」
なんと先に言われた。しかも新は深々と腰を折った。
「ええ!?何で!?私こそ昨日は当たり散らしてすみませんでしたっ!」
急いで瑠衣も頭を下げる。
「いや、君が戸惑う理由も分かるのに…。俺の配慮が足りなかった。司さんにも怒られたしさ」
新は本当に反省したようだった。申し訳なさそうに肩を落としている。
「えっ…、怒られちゃったんですか?」
「怒られたというか…正しくは嫌みを言われた?説明が足りないとか、配慮が足りないとか、こうなると思ったとか…。見てもいないのにズバズバ言われた」
それが容易く想像出来て、瑠衣はプッと吹き出した。
「怒るんじゃなくて、そうやってぐちぐち言ってくるところ、御影さんぽいかも」
「そうなんだよ、あの人は身内にはすごい厳しいんだ」
しょぼくれる新を見ていると申し訳なさが込み上げる。これから私はどうすればいいのかな?
「あの、首藤先輩はいったい何時からここで私を待っていたんですか?」
気になっていたことを聞くと、新は事も無げに答えた。
「7時頃からかな」
「えっ!?1時間前ですか!?早すぎですよ!…そうだ、提案なんですけど、これからは待ち合わせにしませんか?」
「待ち合わせ?」
「私はいつも8時前に家を出るので、7時50分くらいにここで待ち合わせするのはどうでしょうか?そうすれば、早くから待って貰わなくてもいいはずです!
で、もし遅くなったり早くなったりする時は事前に連絡するのでLINE教えてくださいっ!」
我ながらよい考えを思い付いたと瑠衣は思った。こうすれば新の負担も減るし、申し訳無いという自分の罪悪感も減る!
「…それは助かる。ありがとう」
二人はいそいそと連絡先を交換した。
素直にお礼を言われるとむず痒い。
瑠衣と新の距離を少しだけ縮まったようだ。
「じゃあ俺からも1つ、いい、かな?」
「はい、どうぞ!」
「敬語…じゃなくていいから。その首藤先輩ってのも恥ずかしいからやめて欲しい。その方がお互い話しやすくなる気がするし…」
これは暗に昨日の体調不良を伝えなかったことを言っているのだろうか。
新からそんなことを言われると思ってもいなかった瑠衣は思案した。
「あの、気軽に呼び捨てとかで呼んでくれればいいので…」
瑠衣が黙っていると恥ずかしそうに新は付け足す。
そこまで言われたら、期待に応えたくなる。
「…じゃあ新くんで」
「あ、ありがとう」
新は、照れたように下の方を向いて笑った。
それがくすぐったくて、つい自分のことも名前で呼んで貰いたくなった。
「じゃあ、私のことも佐久間さんじゃなくて、名前で呼んでくれますか?」
「えっ!?…さすがに女子を名前で呼ぶのはハードルが高い…」
それはちょっと無理です、と呟きながら新は顔を手で覆っていた。手のひらの隙間から見えたのは真っ赤な顔。
どうやらすぐに縮まる距離でもないらしい。
とりあえず、これで二人の仲直りが完了した。
つづく