第6話 後悔と御影再び
帰り道は朝よりさらに憂鬱だった。
首藤新に怒鳴ってしまった罪悪感と、体調不良による倦怠感が合わさって、瑠衣のメンタルは最悪だった。
そのままなんとか帰宅した。
帰宅すると、夜勤明けの母が帰ってきていた。
母はシングルマザーで看護師として働いている。
リビングにいないようなので、きっと寝室で寝ているようだ。
そんな母のかわりにいつしか夕飯は、瑠衣が作るようになった。部活もしていないし、母より帰宅は早いからと半ば無理矢理、食事当番になったのだ。
ただ母の夜勤の日の夕御飯は一緒に食べないので、作らなくてもいいのだ。それが昨日だった。
今日の夕飯は何を作ろうかと考えながら冷蔵庫を開けると、中身はほぼすっからかんだった。
(そういえば、買い物行くの忘れた!!
てか、今までバイトの帰りにちょこちょこ食材を買い足してたけど、これからはそうもいかないし…。しかもバイト先の近所のスーパーへはどの面下げてって感じだし、少し遠いスーパーへ買い物行くしかないか…)
そんな自分の現状に瑠衣はまた少し落ち込んだ。
(ちょっと怠いけど、お母さんが起きる前に買い物だけ行ってこよう…)
買い物の帰り道、瑠衣はまた後悔していた。
(完全に買いすぎちゃった。大根も白菜も重いんだよね…。でも一週間分は買っとかなきゃと思って…)
肩にかけた買い物袋のエコバッグはずっしりと重く、中身もパンパンにつまっていた。
しかも少し遠くのスーパーへ行ったので帰り道が長くて辛かった。
ふぅとため息をついて、右肩にかけていたエコバッグを左肩にかえた。
(もう少し、家まであとちょっとだから…)
瑠衣はふらりふらりと歩いた。
自宅のマンションが見えた時、心底ほっとした。
マンションにたどり着き、エントランスの鍵を開けるため、キーケースを取り出そうとしたとき、ぐらりと体が揺れた。安心しすぎて気が緩んだのか、バランスを崩したのだ。
(やばっ!!)
と思った瞬間、体が誰かに支えられた。
「あなた、無茶しますね」
振り向くとそこにいたのは長身で眼鏡の黒い神父服を着た男。御影だった。
「あっ、あなた!!」
「まったく、魔女があなたに憑依したと言いましたでしょう?今のあなたは魔女に生命力を吸い取られて衰弱してるんです。そんな体の状態で出掛けて、おまけにそんな荷物まで持って。無茶なお人だ」
御影はふぅとわざとらしくため息をつく。
「あの!私、あなたに色々と聞きたいことがあるんですけど!!」
「いいですよ。何でもお答えしましょう。けれどその前に、この荷物を部屋まで運びましょうね。生物もありそうですから早めに冷蔵庫へ入れた方がいいでしょう」
何でも見透かしたような御影の態度。
それに少しだけ安心した。
「ここでお話すればいいんですか?」
「うん」
二人はマンションの隣の公園に来ていた。御影は瑠衣の体調を心配して自宅で話しをしようとしてくれたが、母が寝ている隙に謎の神父を家に招き入れるのは昨日だけで十分だと思ったのだ。
公園のベンチに腰を降ろすと、御影は暖かいペットボトルのお茶を差し出してきた。
冬の寒空の下なので、心遣いが少し嬉しかった。
「ありがとうございますっ」
「いえ、そこの自販機で自分の分を買ったついでです」
謙遜なのか本音なのか、分かりづらい男だと瑠衣は思った。
「ではさっそく、私に聞きたいことはなんでしょう」
「…えっと、じゃあまず私のバイトのこと。休職ってなんですか?」
先ほどの首藤新には怒鳴るように問いかけてしまったが、今度はちゃんと落ち着いて聞けた。
「これからあなたは体調不良に度々なることが予想できましたからね。それを見越して休職の連絡を代わりに入れさせて頂きました。
アルバイト先の店長には、母親が体調不良になったので1ヶ月だけ休みますと伝えておきましたので、とやかく言われることはないと思いますよ」
「…」
母親が勝手に病気されている。
瑠衣は無言でじろりと御影を睨んだ。
「おー、怖いですね。勝手なことをされてあなたも怒り心頭でしょう。確かに、誰かに怒鳴りたくもなる」
含みのある言い方をされて、瑠衣はハッとした。
「なにか首藤先輩から聞きましたか!?」
「はい。あなたことはもちろんすべて報告を受けてますよ」
ニッコリと笑う御影を見て、瑠衣は先ほどのことを思い出して血の気が引くの感じた。
「…首藤先輩、怒ってましたか?」
恐る恐る聞くと、御影は首を横にふって困った顔をした。
「逆にしょげてました。彼は口下手なところがありますからね、きっと女子高生相手にどう対応すればいいか分からなかったんでしょう。真面目ないい子なんですが、如何せん融通の効かないところがあって困ったものです」
あまり困ってなさそうに話す御影に瑠衣は突っ込みたくなる。
「なんか面白がってませんか?」
「いえ、反省してますよ。年頃のあなたに見ず知らずの男子高校生を護衛にしたのは私の配慮が足りませんでした。たまたま私の従兄弟があなたと同じ高校に通っていたので、起用してしまいましたが、そんな簡単には心を開けるものではありませんね」
「…」
瑠衣が何も言えずにいると、御影はまたとんでもないことを言い出した。
「そう思いまして、次の手は打ってあります。同性、なら気を遣ったりしませんし、四六時中一緒にいられますよね?」
「え…?」
つづく