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顕現っ!!アルヴァジオンッ!!  作者: 当世杞憂
龍獅子相搏つ
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龍獅子相搏つ2

 吐く息が白く広がり、消えていく。外気温はめっきり冷え防寒に気をつけた服装をしていてるところは兎も角、露出している顔などは少し痛い。ただ幸いにもこの地方は雪が降ることは滅多に無く、冬の季節だからと言ってそこまで生活に支障が出るわけではないのが幸いだった。さらに言えば沖縄や九州地方のように台風に常に悩まされるワケでもない。一年を通して苦になる季節は無いと言えるので住みやすいのだが、いずれ大地震が来ると昔から言われているのが唯一の難点である。まぁ日本に住む以上どの土地でも地震からは逃れられないのではあるが。それでも日本海側や東北のように雪に埋もれることは無く、雪下ろしや雪かきのような苦労はないのであるが寒いモノは寒かった。


「もう数日もしないうちにクリスマスか、……今年はホント、色々あったなぁ」


 商店街のイルミネーションを見上げながら正宗の口から溜息がこぼれる。新年度、新学期が始まるまでは今までの生活、人生と大して変わりはなかったのだ。しかしあの日、教室のドアからファンシー豚の着ぐるみもどきが入室してきたあの時から、自身を取り巻く生活環境は一変してしまった。特に問題なのは経済面だ。まったくもって、予算は同じなのに食い扶持が純粋に増えたという状況が鉄家の懐具合へと直撃し大打撃を与えているのだ。いやいや、それでも電気や水道代が浮いただけで随分と楽にはなったのだが。結局の所、その激変した生活環境の改善に四苦八苦しながらも正宗はなんとか不可思議な生活と一般学生という二足の草鞋を履いてきたのである。しかし、修学旅行や学祭などより、その他の生活の日々の方が刺激的で波瀾万丈であった事は否めない。


「だからと言って、異世界に就職し行こう……って話には、ならないんだけど、なっ」


 買い物袋をカゴに入れ、正宗は自転車のペダルへと力を込める。小気味よく、テンポ良くペダリングし勢いを付ければ自転車は滑るように路肩を進んで加速していった。街灯に照らされる道を進み、クリスマス色に染まった街を走り抜けていく。冬服を着込んだ歩行者を追い越し、住宅街を抜けて進めば人通りは次第になくなっていった。そうこうしていると背中に背負った鞄がモソモソと動きだし、中から何かが出てくると器用に正宗の身体を駆け上る。そのままジャンプすれば、ストンと前カゴの買い物袋の上にぬいぐるみはその身を落とした。


「何をブツクサ言ってるかと思えば、正宗は絶対異世界に行くべきポ。そうした方がその才能を遺憾無く発揮できるし優遇されるポよ」

「嫌だっつーの。第一それ、アルヴァジオン込みでの話だろう??」


 視線を向けず前を見たままペダルを漕ぎ、ポッコルの言葉をあっさり拒否する正宗。異世界の者達は正宗本人を評価しているわけでなく、その金導夢兵装の力をアテにしているのだ。仮に聖魔導大全の書が手元になかったとしたら、彼等は正宗を歯牙にもかけないであろう。


「それならユメミールであれば超優遇待遇は約束してくれるという事ポ。アレを使えるのは正宗だけなんだからポ??正宗は聖魔導大全の書込みと言うけど、それを使えると言う事は正宗自身の才覚ポよ??」


 ポッコルはカゴの縁に手を掛けながら過ぎていく景色を眺めている。


「どうなんだろうな??お前ントコの女王……っていうかエルマのかーちゃん??なんか腹黒そうじゃねーか」

「ひ、否定は出来ないポ……。女王ともなればいろいろ大変なんだポよ……きっと」

「なんか高待遇されてる代わりに、末期的な事態の所に放り投げ込まれそうだからなー。普段は優遇でも職場が終末的な戦場で常に生死と隣り合わせとか、流石に勘弁だって」

「流石に女王もそこまでは……いや、確実にそうするポね」

「だろう??俺は死にたくないから平凡で良いよ。平和なこっちで平凡に過ごすわ」

「実に面白みのない答えポね~。異世界とか憧れじゃないポか??普通は異世界でチートを使ってスローライフとか言って嬉々として行くものだと思っていたポ」


 カゴの中で振り返り、正宗を眺め上げてくるポックル。


「はっきり言ってそんな奴等はアホなんじゃないかと思う。これだけ発達して、平和で、食う事にも困らない日本で上手くやれなかったヤツが、異世界に行っただけで上手くやれるわけがねーよ。こっちの世界の知識で一財産??そんな知識スマホもないのにいろいろ正確に覚えているヤツどれだけ居るよ??死んだから新しい人生を謳歌する??いやいや、この人生って言う苦行をもう一度やれとかどんな拷問だよ……死んだんならおとなしく消滅か前世の記憶もなくしてちゃんと転生させてやれよ」

「……そういうポけどね、正宗。なら正宗は平凡な仕事にちゃんとつけるポか??このあいだテレビで見たけど、新政権に変わってまた新規新入社員の離職率が増加したって言ってたポよ??平凡な職に就けるほど正宗は優秀ポか??」

「うっ……ぐっ!!それを言われると、確かに将来が不安になる……」


 ぬいぐるみの癖に言葉のナイフが鋭すぎる。というか、コイツはぬいぐるみであるが痛覚などはある。だとしたら、今素っ裸の状態で外に出ていて大丈夫なのだろうか??と関係無い事を疑問に思うわけで……。


「それに正宗は人付き合いが得意な方には見えないポ。昨今そこら中クリスマス一色でカップルだらけポよ??そんな平凡な家庭を築き上げようと夢見ている正宗、クリスマスのご予定はどーポ??」

「ハ、ハカセ達とささやかなクリパを開こうかと……」


 その言葉にポッコルは腹を抱えて笑い出す。


「野郎友達だけのクリスマスポ??正宗の言うとおり、強烈に平凡っポねぇええ!!」

「ぬぅぅぅ……」

「第一正宗、修学旅行や体育祭や文化祭もあったポ??そのわりには全然仲良くなった女子とかいないポねっ!!」

「そんなことなくね??立岩さんだって岩田先輩だって……」

「友達や知り合いとしてじゃないポッ!!親密なご関係にはいたっていないと言ってるポよっ!!」

「っ!!」

「そんな奥手で臆病で人付き合いが下手な正宗が、平凡とかねぇ。精々頑張るポよ」


 笑うように言ってポッコルは再び前を向く。抜き身のナイフは正宗のハートを余裕で斬り裂いていた。一瞬よろけた自転車だが、なんとか姿勢を立て直すと再び路肩を進み始める。


(くそ、……しかし人生について、将来について一度しっかり考えないとなぁ。異世界……かぁ、いや、やっぱ無いな)


 異世界を外国とすげ替えて想像してみたが、外国であろうとそちらの習慣や言葉、常識や食習慣と新しく学ばなければならない事は山程出てくる。


(そういうのめんどくせぇもん)


 根っからのめんどくさがりの正宗にはそれが億劫なのだ。日本国内ですら方言などで苦労する事もある。食習慣ですらそうだ。他県の人間がこの地方の味噌汁を見た時、「黒いけど大丈夫なのか??」と不思議に思ったという話を聞いた。それに豆腐やカツにまで味噌を付けるとか頭おかしいんじゃないかと思ったという。


(五平餅とか想像を絶するって言ってたからな)


 日本国内ですらそうなのだ、地道にその地域の職場に着いた方が無難であろう。そんな事を考えつつ暫く進めば、郊外の交通量の少ない道へと入った。その道路の向こう側、反対側に光のない空間がポッカリ空き、まるで闇に埋もっているようで目に付いた。広がった暗がりをよく見れば、奥に電灯等が一切点いていない建造物がうっすら建っているのが見える。


「スーパーサトウポね」

「ああ」


 先日の一件は日本全国、いや世界規模でもセンセーショナルなニュースとなった。とある日の早朝テロリストと警官隊の間に衝突が起こって以降、そのテロリスト集団が忽然と姿を消したのである。何処の国のどんな組織なのか??逃走手段は??何が目的でスーパーマーケットを武装占拠したのか??一切が全て謎のまま。彼等が用いた火器すら判明しなかった。火薬でも科学物質でもない爆発反応。コメンテーターやその筋の専門家と言われる者達がこぞって意見を言い、警察や自衛隊と思われる科学捜査班や各国からの調査団体なども来日したが、全く持って手がかりナシという結果に終わり帰国していったという。未解決で不可解、摩訶不思議な事件ではあったのだが、その後の捜査の進展も何もないともなれば二週間もすれば違うニュースに話題を取って代わられるのは仕方が無い。結果、ホラーじみた謎の騒動のままの未解決事件となって終ってしまったのだ。スーパーサトウの敷地は当然にして警察や国が立ち入り禁止とし、抜け道や隠し部屋や隠し研究施設などがないか徹底調査されたようである。その為か再開営業はできなくなりアイシスの働き口は唐突に消滅してしまう事となった。スーパーサトウの再開については、国が接収したから建物自体を立て直す金が入った筈だとか、調査のために店を差し押さえられたから注文していた野菜や商品の支払いが出来なくなって倒産したとか、謎の組織を引き入れたのはオーナーではないかと言う事で取り調べを受けているとか、様々な憶測が噂を生んでいたのだが、その中にはオーナーの佐藤氏の不倫がばれ慰謝料請求された為に夜逃げした……という物もあったようだ。


「不憫な事件だったポね」

「だな。関与しているだけに本当申し訳なく思うよ」


 正宗は自転車のペダルを漕いで進路を山へと向ける。山道へと入れば、寒く人通りのない道は湧き水などで凍りやすく滑りやすく、落ちた枝葉や斜面で路面も悪い。冬の木々とは言え月明かりを遮り視界も悪く一層危険なのだ。さらに防寒の為の動きづらい服装が登る為の力を奪って来る。ギアを最低にして立ち漕ぎする事で無理にでもペダルを回す正宗。


「ハァ、ハァ……正直、電動アシストが、欲しいなぁ」

「アレ高いポ??なんだったらエルマに相談してみるポ。聖石使ってそれらしきもの造ってくれるかもしれないポ」

「そりゃ、いいなぁ。ボタン押して、坂の時だけでいいからっ!!使わない時の為に軽いのがいいなぁ」


 息切れしながら山道を登るが、結局途中で力尽きてしまった。フロントのカゴに買い物袋が入っているしバランスが悪いから余計に登り辛かったのだ。諦めて自転車を押しながらトボトボと進んでいく。街灯もい冬の夜の山道は真っ暗である。本来備え付けられてる程度の自転車のライトでは全くと言っていいほど光量が足りない。だから鉄家の自転車にはしっかりとした増設ライトがつけてあり、これによってその問題は大きく改善されている。10000ルーメンのライトは明るさがハンパではない。だが、それでも心細くはあるのか、山道を昇りきり家が見えてくると何故だかホッとするのだ。窓には明かりが灯っており、それが人の温かさのように感じられるのだ。


(何だかんだいって、やっぱり出迎えてくれる人がいるって……やっぱありがたいんだな……)


 そう思いながら帰宅する。自転車から降りるとポッコルはさっさと飛び降りて玄関に向かう。その間に正宗は自転車を軒下に入れ、鍵を取り出しながら玄関へと向かった。するとドアの前で佇んでいるポッコルに気がついた。


「どうしたんだ??」

「なにか揉めてるっぽいポよ」


 ふと意識を向ければ、確かにドアの向こうが騒がしい。ポッコルと顔を合わせ躊躇する。


(また面倒事かよ、勘弁してくれよ……)


 気後れするが、開けない事にはどうしようもない。意を決してドアを開け、


「ただいま」

「ただいま……ポ」


 中へと入れば、


「おお正宗殿っ!!不審者っ!!不審者を捕らえましたぞっ!!」

「きっと泥棒か何かに違いありません!!今警察に電話しようか話していたところです」

「空き巣狙いとかー、下着泥とかかもしれませんよー」


 クロノ、アイシス、エルマがしたり顔で語ってくる。簀巻きにされる中年男性と、それを取り囲む居候共。簀巻きの中年男性は必死になって身体をグニグニ動かし拘束を解こうとしているが、バッチリ咥えさせられた猿轡にぐもった声しか出せないようであった。知らない人物の登場にポッコルは硬直し、正義を執行したと自身ありげな居候三人、その隣に憮然とした顔がもう一人。


「わたくしはもう少し待った方がいいと仰いましたのよ??正宗さんに絶対確認を取ってからの方がいい、と」


 不服顔のフラウニが言うに、きっと他の者達が先走ったのだろう。いや、どうせならフラウニのように先走らないで欲しかった……。


「……ああ、俺もそっちの方がありがたかったよフラウニ。ついでにその拘束を解いてやってくれ、おかえり親父」

「正宗の父ちゃんポ??」


 軽い眩暈を感じながら簀巻きの中年男性に声を掛ければ、三人組の視線が簀巻きの中年男性に集中する。いまだ持ってグニグニと抵抗を試みている簀巻きの中年男性。それと正宗の顔を交互に見る。正宗=家主(仮)、正宗の父親=家主(本物)っ!!その方程式が脳内で出来上がる。


「ヒィィャアアアアッ!!」


 アイシスが悲鳴を上げながら簀巻きの拘束を引きちぎり、クロノとエルマがその横でぺこぺこと交互に土下座謝罪を始めるのであった。

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