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顕現っ!!アルヴァジオンッ!!  作者: 当世杞憂
龍獅子相搏つ
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龍獅子相搏つ1

 そのたたずまいを見て、アイシスは顔色を青くした。彼女の瞳に映るのは、ピッカピカな壁面、傷一つ無い輝きを放つガラス窓。全体的にくたびれた感じの出ていた外観はすっかりと綺麗になり、客室棟の横にある母屋までも新築そのものの真新しさを見せている。眼をこすって改めて見ても間違いようはない、そこに建っているのはまさしく新築さながらの新品加減の“鉄邸”である。すっかり元に戻った山の斜面、周囲に建っているご近所さん宅に比べれば一目瞭然であった。つまり、現実的には襲撃に遭いバリバリに割られたガラス窓の廃墟が、翌朝突然新築同然となった状況なのだ。


「正宗……貴方は、貴方という人はっ!!何て事してくれたんですかああっ!!明らかなユメミール法違反じゃないですかああっ!!」


 そう言いながらアイシスは正宗に食ってかかった。それもその筈、正宗はドーベル達との戦闘後、世界の眼を覚ます時にちょこっと手を加えたのである。


「マー君が最後、アルヴァジオンちゃんの名を呼んだのはー、コレを願っていたからでしたかー」


 エルマは「成る程」と振り返る。確かに術式を励起させる寸前、正宗は何かを願うようにアルヴァジオンの名を呼んでいた。それはつまりアルヴァジオンに家屋の修繕を願い出ていたのだ。それも目が覚める時にはピカピカの家にしておいて欲しいな……と。結果、ドーベル人達に粉砕されたガラス窓達はおろか、年季の入った外壁まで新品となって回復し、世界が目覚めることによってそれが事実として確定してしまったという結末だ。


「文句言うならお前の部屋のガラスと家財は全破壊な。勿論修理するなら費用はお前が持てよ??あと今までとこれからの俺への協力代金払え。なんせ俺はお前等とは本来関わりないのに家までボロボロにされたんだからな??あの泥棒達に出し抜かれ、夢生獣解き放たれた原因はお前達にあるんだろ??」

「う゛っ」


 その正宗の返答に、アイシスの動きがピタリと止まる。スーパーサトウは武装占拠され店舗を盾に攻防が繰り広げられ、店内商品も食い散らかされた上駐車場などには燃え墨となったパトカーなどが鎮座している状況だ。現在はコスプレ外国人と目される武装集団が居なくなったとは知らず、周囲を警官達が囲み様子見している状況であろう。とどのつまり暫く営業どころではないことは確定している。そしてそのコスプレ外国人武装集団が気づけば居なくなり、足取りも掴めないという始末となる筈だ。パトカーやヘリなどの被害を出し、散々報道もされた結果取り逃がすわけだ。警察も頭を抱えるに違いない。当然徹底捜査が始まり、どう足掻いても普通に営業再開とはいかないであろう。結論としてアイシスには金子を稼ぐ手段を失ったのである。


「……折角頑張ってレジ操作も覚え、やっと仕事にも慣れてきたというのに……」


 我の強いパートのおばちゃん達に揉まれつつもなんとかやって来ただけに、アイシスとしても思い入れが出来はじめていた所であったのだ。


「どーでもいいけど着替えさせてくれ。この寒空の下このままだと……死ぬっ!!」


 正宗とエルマに至ってはバスローブ姿である。もうすぐ冬となる秋の風の下、そんなナリでは寒くて仕方がない。


「その通りですわ、コレもどうにかしないといけませんし」

「……面目ありません」


 異論はないフラウニが、彼女の前に立つクロノを見て言う。そう、アルヴァジオンが送り飛ばしたのは因夢空間展開時に敵対していたドーベル人に対してのみだ。結果としてその時敵対してなかったクロノは取り残されてしまった。彼の顔色は良くはない。なんと言っても一人取り残されたわけであるし、ドーベル人にこの地球での生活は酷なのである。


「とりあえず入るぞ」


 遠くに聞こえるサイレンの音を聞きながら、正宗達は鉄邸の家屋へと入っていった。内部もそりゃあもう新品そのものといった感じで実に真新しく感じられる。引き戸の動きや窓の開き具合のスムーズさ。正宗は自室に戻ると着替えを取り出し着衣する。衣類すら全て新品の肌触り。続いて携帯へ目を通せば、学校側から暫くの間臨時休校となる旨がメールで届いていた。そりゃまあテロリストが街に現れた……なんて事になれば大事を取ってそうするに違いない。予定が開いたことに安堵しつつ、部屋を出て居間へと向かう正宗。ドアを開けて中に入ればそこには吊されている焼け焦げたぬいぐるみとそれを囲むアイシスとフラウニ、そして正座しているクロノの姿がある。ついでにと彼女等の分の湯飲みも用意してお茶を入れていると、遅れてエルマがやってきた。畳の上に座り机を囲む一同。


「それで、客棟の方はどうだった??」

「ええっ!!ええ聞いて下さい正宗っ!!ガラスが全部入っていて隙間風もない!!素敵だった!!私の部屋も、布団も衣服も、家具も家電もピッカピカです!!」


 一新された素晴らしい生活環境に頬を紅潮させているアイシス。どうやらお気に召したらしい。


「お前さっきは違法だ何だ言ってたじゃないか」

「……それはそれ、それはこれです。まぁその、あれですよっ!!戦時下の緊急措置というヤツですっ!!この場合は仕方がなかった、はい」

「まったく、現金な方ですわね……」


 当初の聖士としての意志はへし折れ、怠慢に満ちた満面の笑みを浮かべるアイシスのヘタレ具合に溜息をつき、ジト目を向けるフラウニ。


「それで……その、ソレ、は??」

「ええ。度重なる逃亡が発覚致しましたので少々お灸を据えましたの」


 正宗が見上げるのは吊されている焼け焦げたぬいぐるみ。フラウニの物言いは当然のことであったようで、アイシスとエルマも頷いている。


「まったくもって災難でしたが、こと家屋の問題に関して言えばこれで不安は解消されましたね」

「解消したーどころではありませんよー。少々見て回ってきましたが、アルヴァジオンちゃん至る所に手を入れてくれた感じですー。特に光丸と防甲にも手を加えてくれてましてー聖力生成量がかなりアップしてましたー」

「エルマ、聖力生成蓄積装置、な」


 かなりのパワーアップ具合だったらしく、エルマもちょっと興奮している様子である。


「家屋全体の耐性、浸透具合も改善されてますねー。気密性も上がってましてー、この鉄邸の中限定ですがー微弱ながら聖力が満ちるようになってますー。これでわたし達の聖力回復量問題が一気に改善されたも同然ですよー」


 その報告にクロノが顔を上げる。それは彼にとっての朗報、生存の道が開かれたという事でもあるからだ。


「生成する水も今までより聖力を帯びているようですのでー、食事に飲料ー、そして入浴などによる皮膚や肌からの吸収-、鉄邸内満ちた聖力の呼吸による摂取等々考えればー、鉄邸内に限りドーベル人でも生命維持には支障のないレベルでの聖力……マナ回復が見込まれる筈ですー」

「おお……おおっ!!かたじけない、感謝いたしますっ!!」

「事が全て解決致しましたらー、ドーベルの方まで送り届けて差し上げますー。それまでは協力して生活していきましょー」

「ありがとうございます。それまでは何なりとお申し付け下さい。私も全力でサポートさせて頂きます」


 クロノが感極まって涙する。対してフラウニはまだ不安があるようで、キョロキョロと室内の様子を窺っている。


「しかしそれはそれで大丈夫ですの??この家の内部に聖力が満ちると言う事は、換気などによって外部に聖力が洩れると言う事では??この家はまだしも、外や環境などへの影響はありませんの??」

「流石に密閉されている室内ならの話でー、換気などで散ってしまえば影響が出るレベルとは言えませんねー。室内の聖力もわたし達が大部分吸収しきってしまうでしょうしー、仮に誰も居なくて溜まりに溜まる状況であったとしてもー、この絶界域を覆せる程には達せないでしょー。こちらの世界の住民が摂取したとして無意味でしょうしー、問題はないか、とー……」

「じゃあ聖力のせいで家自体が脆くなる、って事とかはないんだな??」

「浸食された場合はその通りなのですがー、浸透し補強されている状態ですので逆に強固になっている感じですねー」


 正宗的にはあまり違いがわからないのだが、そのエルマの言を信じる事とした。


「正宗さんへの影響は??」

「マー君は聖力関係はノー才能ですから大丈夫かと思いますけどねー。もともと聖力吸収し難い体質ですしー、わたし達による肉体改善で抵抗力も上がっていますしー、……それでも摂取量は当然増えるでしょうから一応少し様子は見ますけどー。……まー、大丈夫かと思いますけどねー」

「そのあたりの健康チェックはしっかりとお願い致しますわ」


 フラウニが正宗の方を見てきたので、自身の身体や体調の良し悪しをチェックしつつ頷いて返してみせた。今後何かあれば直ぐにエルマに相談する事を心に決める正宗。


「……そうなると残る問題は二つ……、いや、一つですね」

「そうですねー、最後且つ最大の問題ですー。つまりー、夢生獣側に……所在がばれましたー」


 アイシスの呟きにエルマは解答で返した。そう、問題はあのアルヴァジオンが“何処”の“何者か??”だったワケであるが、今回のドーベルとの闘いによりアイシス達は聖力を戦闘領域で使用し、闘っている。それも鉄家内で、だ。仮にアルヴァジオンを使っている者が何者かがわからなくとも、この世界ではアイシス達と寝食を共にする、つまり協力態勢を執っているその家の者である可能性は十分高い。結果として、彼女等の潜伏先がバレたと同時に、アルヴァジオンが誰の金導夢兵装であるのかおよそ判明してしまうのだ。なにせ彼等は鼻が効く。正宗が怪しいと目を付け観察すれば、特異性は直ぐかぎ分けられてしまうだろう。


「まぁ……判明してしまった所で、こちらに打てる手立てはないのですけれど」


 フラウニが溜息混じりに言う。夢生獣側にアイシス達の所在がばれたとして、夢生獣側の所在は知るよしもないからだ。では潜伏先を変えるのか??それはなかなかに難しい、現実的ではない。正宗はこの家に住んでいる上に普段の生活もある。正宗を連れて所在地を転々としたとしても、夢生獣の起こす事は今までと大差ないだろう。対処フローすら変わらない。ようは今までに比べると強襲されるリスクが高くなっただけで、やる事は結局後手に回り、その現場へと急行し、なんとかしのぎ勝つ以外に道は無いのだ。


「いや、強襲されるリスクってのは十分デカイけどなっ!!」

「嫌ですっ!!こんな寒い中当てもなく住処を捜してさまようというのですか!?なら強襲されてあっさり敗北した方がマシでしょうっ!!」


 正宗の言にも悲観的な泣き言を言うアイシス。ユメミール法がどうとか言っていた凛々しいアイシスは既に死んでしまったようであった。鉄邸を捨てると言う事は他に住む場所を探さないといけないワケで、そんな資金的余裕は正宗達には無いのだ。


(なんだかアイちゃんー、どんどんニート化が進んでいるようですねー)


 エルマの心配を余所に、今後の対策は「現状維持」という結果に終わったのであった。

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