人類の敵はやっぱり人類!?23
這うように絡みついてくる蔦達が瞬間的に太い幹へと成長していく。その上で意志を持つかのように、龍を飲み込むかの如く全身を覆い始めていた。咄嗟に踏ん張り力を込め、絡みついた植物を引き千切こうとする正宗。しかし、新たな蔦達が触手のように生え伸びてきて、アルヴァジオンは終ぞ身動きすらできなくなっていく。その間に大元の機体の原型すらわからぬ程に枝葉を伸ばし、内部から植物体を膨れあがらせていくデカブツ。その広がる浸食の根は大地に達し、周囲一帯から更なる芽吹きを見せる程に広がりを見せていく。
「何が、起きてるっ!!」
「あーっ!!あああーっ!!世界樹ですっ!!世界樹が芽吹いたんですよー!!きっと制御に失敗したんですーっ!!」
急成長していく植物体。しかしどういったことか??デカブツの身体や四肢を模倣するように、まるで巨大な木人となってアルヴァジオンに絡みついてくる。その動きは植物と言うよりも、まるで生きている……動物のそれに近い動きであった。
「世界樹ったって、明らかに動いてるぞっ!!植物なんだろうっ!?」
「こっちの世界だって食虫植物やオジギソウみたいなのは葉とかを動かしたりするでしょー。繊維や葉脈、内部の細胞や液体の圧、それらの変化でだって十分動きますよー。樹人族とか知らないんですかー」
「しらねーよっ!!それより因夢空間内なのになんで動けるんだよっ!?」
「それこそ理由なんて知りませんよーっ!!件の呪具とか取り込んだんじゃないですかねーっ!!」
エルマの反論を聞いても釈然としない正宗は、何とかしようと腕に絡みついた植物体を引き千切りに入る。本来ならいかな世界樹とはいえ、因夢空間では動けるはずが無い。しかし疑問の解答を見つける間もなく伸びた蔦が遂に足にまで絡みついてきており、遂には全身を締め上げてくる程に圧力は増してきている。
「くそ、向こうさんこっちを栄養たっぷりの何かと勘違いしてんじゃないのか??──っ!!」
その時、髑髏雲と同時に何かが打ち上がり飛んで行く。視線で追えば突如として空中に見た事もない船が現れ、次いでこの件の主犯達がもぐりこんで行くではないか。間を置かずしてその船が七色の飛沫を上げ、潜るようにそれが空間に沈み込んでいく。
「あーっ!!逃げる気だなーっ!!こらーっ!!責任取っていけーっ!!」
紋章板をバンバン叩くエルマをよそに、
「逃がす、かよっ!!」
正宗は咄嗟にその左手の拘束を振りほどくと、迷わず七色の境界線の中へと突っ込こませていた。ねじ切れるかと思える衝撃を受けつつもかろうじて中のソレを掴み、潜ろうとする巨大魚を引きずり出すかのように腕を引く正宗。しかし、世界樹の絡みつきの為力が一向に入らない。
「マー君マー君っ!!惜しいけど今は世界樹に注力しませんとー……」
「…………くっそ!!」
それはエルマの言うとおりであった。世界樹は地球を含むこの世界そのものを養分とするという存在と言うのだ、なら今全力を注ぐべきは世界樹への対応の方である。だが、このまま事の首謀者達を逃すのは腹立たしい。せめて、せめてっ!!
「せめてテメー等だけでも、全員で出て行けっ!!禍根を残して逃げてくんじゃねーよっ!!アルヴァジオン、出来るよなっ!!」
正宗が自身の相棒に願い出た。応答するは聖魔導大全の書、あらゆる聖魔導術式を内包するという神域の秘宝。エルマの目の前の紋章板に、緻密で膨大な術式陣が浮かび上がる。その術式に眼を輝かすエルマ。食い入るように見つめ、その術式を読み解いていく。
「こ、これはー、敵対ドーベル人だけを対象とした人体送還術式……ですかー??は??指定対象は因夢空間を展開した時点ー!?過去の存在履歴を対象にしてるんですかーっ!?」
そうでないといけなかった。でないとこれまでの闘いで消し飛んだ可能性のあるドーベル人達が残る事となる。彼等は本来現実世界に戻った際、何事もなかったかのように元に戻る。今確認できるドーベル人を対象としていては、結局消し飛び元に戻ったドーベル人達が残る事となり、再び正宗達に襲い掛かってくる可能性がある。しかし流石に対象を過去の者とし、その効力まで遡及させる事など不可能なのではないか??
「出来る、絶対出来るっ!!出来ないことも……可能とするのがこの“夢の中”なんだろ!!それに過去だと言うが、現実的には一秒だってたっていないんだろうがっ!!」
「──っ!!了解ですーっ!!聞こえてますかフラウニーナ!!」
エルマは即座に状況判断へと移った。アルヴァジオンが感じ送って来る情報を短時間で精査し、その後の展開を予測する。そして迷わずナイトオブユメミールへとチャンネルを繋げた。
<何ですの??まさか加勢ですの??それ必要ですの!?>
ナイトオブユメミールは既に全てのジッジルと術鉄巨人を下し、倒れ動けない数少ない夢獣士を拘束確保しつつ距離を取っていた。フラウニーナからすればアルヴァジオンになっての正宗達の敗北は想定していない。しかし相手が、それも暴走した世界樹ともなれば話は別だ。最悪世界再編に巻き込まれぬよう脱出も考えねばならないのだ。距離を取りつつ様子を伺っていてもおかしい事ではなかった。
「違いますよー。それよりー、事の収束を計りますーっ!!」
<りょ、了解致しましたわっ!!>
それだけ伝えれば、ナイトオブユメミールが夢獣士を手に更に遠ざかっていくのが見える。フラウニーナは知っているのだ、そうでもしないと巻き込まれる……と。
「それではマー君いきますよーっ!!術式へと聖力装填、励起開始ーっ!!リポップ先はー、敵ー艦ー内ーっ!!」
決意したエルマが術式へと必要要項を追記して手を叩き付ければ、輝きを増した術式が紋章板へと転写され発動されていく。突如として戦闘領域のいたるところ、それこそ百以上のポイントにモザイクが現れ、その反応が唐突に消えた。
(異世界人の方は問題なく指定できたようだなっ)
正宗はそれを確認し、船を掴んでいた手を放し、アルヴァジオンの左腕を境界線から引き抜く。流石に航路とやらに完全に潜られて距離を取られていたらどうかは判らなかったが、直接掴みその中を送還ポイントにしたのだから成功率は格段に上がった筈だ。直後、七色の境界線が瞬きを残しながら凪のように消えていった。船はそのまま航路とやらへ進んでいったようだ。エルマもそれを確認したのか次の術式の準備に入る。その間に、左腕をも飲み込んでくる植物体。もう完全に幹の中へと埋没していた。
「続いて指向性聖力衝撃波術式構築、威力は最大ー。照準対象は生命体世界樹ーっ!!アルヴァジオンの動作に連動励起させますー、マー君、振り払って下さいー!!」
「応さっ!!」
エルマの声に気合いを入れて全身に力を入れる。途端、全身から波動が放たれた感触があった。アルヴァジオンを包み込み、樹木の塊となっていたものが内部からの金色の圧力に晒され爆散し砕け散る。中から現れるのは金色の龍と、肉体のいくつかを吹き飛ばされた植物の怪物。だが植物の怪物は更にその身体を再生……隆起成長させ、再び龍を飲み込まんと襲い掛かり始めた。
「世界樹といえどまだ苗木のような状態-、再びこちらを取り込み栄養源とするつもりですー。ですがー、成長速度以上の破壊力で押し切れば負けませんーっ!!もう一度、今度は種の想定を越える力で吹き飛ばし、守勢に回らせた所で再封印しますー。ポッコル召喚っ!!」
「──と、ここまで来ればもう安泰ポ…………ポ??ああああああっ!!」
息をついていたポッコルを手元へ召喚、有無を言わさず紋章板へと叩き付けるエルマ。物理的に炎上するポッコルと共に、アルヴァジオンの手の中に巨大な鉄塊が生成されていく。
「龍頭生成完了ー、聖力最大解放、装填開始ーっ!!」
エルマの声を聴きながら、出来上がった龍頭を両の手で振りかぶるアルヴァジオン。膨大に膨れあがる聖力を感じ取ったのか、吸い尽くすべき養分と認識したのか、世界樹がアルヴァジオンを取り込もうと膨れあがり、押し迫る。濁流のように蔦や枝が伸び、再び龍を覆い尽くしていく。
「全術式展開ーっ!!」
振りかぶった龍頭の眼の部位が光り輝き、アルヴァジオンの周囲へと、小、中、大、平面、積層、立方、螺旋、あらゆる術式が溢れんばかりに溢れ出た。それぞれが光り輝き、それそれれが明滅し、運河、星の坩堝のように天体となって両者を覆い尽くす。
「アルヴァジオン──イグニッションっ!!」
正宗の気合と共に打ち付けるは龍の鉄槌。手応え、その瞬間、爆発的な聖力放射が坩堝内へと放たれ、夢の世界は燃え上がるっ!!
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……………………」
断末魔……なのだろうか??トッカンゴーを取り込んだ世界樹生命体ことデカブツは霞む音を響かせながら陥没圧壊し、閃光に焼かれ消し炭すら残さず消し飛んでいった。常軌を逸した閃光に焼かれぬよう、一粒となったソレが最後の抵抗とばかりにその身を守る事へ奔走する。
「……種化を確認っー、封印固定っーっ!!」
エルマの声をは閃光の中に消えていった。結局また都市一つを抉り跳ばし、クレーターの中に一機たたずみ身を置く金龍。
「……なんとかなった……のか??」
「はいー。世界樹は幹も根も吹き飛ばされてー、消滅しないよう種まで戻りー、その種皮を固めるまで追い詰められましたー。流石にそれ程のダメージを受けては回復に出力を回す以外方法はありませんからー、その隙に封印しましたー。マーくん上をー……」
エルマに言われ顔を上げれば、アルヴァジオンの頭上に一つの種が降り落ちてくる。そのまま中へと吸い込まれ、
「“世界樹の種”封印回収、完了しましたー」
目の前へと浮かぶ方陣で包まれた世界樹の種を手にするエルマ。彼女は慎重に様子と状態を伺い、安堵したように深い息を吐きいて脱力した。
「内部から食い破る様子もありませんー、状態は問題なく落ち着いているようですー。何とか沈静化に成功しましたー」
「そうかー……お疲れ様」
エルマの報告を受け正宗も息をつく。流石に自分達の世界を養分にされかけて肝が冷えたのだ。
「んじゃ後は元……に……」
ふと、正宗は一考する正宗。そしていたずら気味に口角を上げた。
「エルマ、元に戻そ、術式くれ。宜しく頼むぞアルヴァジオンッ!!」
正宗が言えば、エルマはその間に小首を傾げながらも頷き世界覚醒術式を正宗へと転送した。アルヴァジオンが龍頭を掲げれば、空に昇る一条の光が撃ち出されるのであった。
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「潰れる潰れる潰れるっ!!押すなっ!!押すでないっ!!」
サイワルサーが悲鳴を上げた。それもその筈、艦内は百人規模の人員でおしくらまんじゅうのようになっている。更に、
「こりゃいくら何でも荒れすぎですぜーっ!!船体が折れそうですわーっ!!」
カクシンが涙声を上げながら操艦し、洗濯機の中のような乱流に秘宝艦は木の葉のように踊らされている。当然にして、
「か、舵そのまま。もう少しいけば多少荒れもまともになる……筈だ。って!!待て待て吐くな吐くなよってwefw」
シェイクされまくった艦内に耐えきれなくなったドーベルの獣士達はたまらず嘔吐した。スーパーサトウで食い散らかしたものをぶちまけて、秘宝艦の操艦室は地獄絵図そのものだ。
「おのれ~、この恨みきっとはらしてやるのじゃ~!!」
「アレに再び敵対するというんですかお嬢っ!?」
「流石にそれはちょっと……」
「……ま、まぁ??今日のところは、見逃しといてやるわ」
なんとかギリギリ、堪え忍びながら秘宝艦は進む。絶界域からも距離を取り、航路が安定する場所を目指しトロトロと。
「サイワルサー殿、気分が悪……うぉええぇぇぇえええ」
「やめ、我慢せよ隊長……って、みぎゃああああっ!!」
絶望的な絶叫を乗せて。




