人類の敵はやっぱり人類!?19
世の中は理不尽だ。大抵にして人は思うように人生は歩めない。最善を選択したとして時には失敗し、理不尽な出来事は選択とは関係無くやってくる。そんな「運命」とか「天道」とか呼ばれる物にまた一人、打ちのめされる若者がいた。
「なんでだよー、なんでほかっておいてくれないんだよー、俺が何したって言うんだよー」
クロノに担がれている正宗は泣きながら文句を垂れ流す。それは周囲に飛び交う轟音と振動にかき消されるような呟きであった。だが、流石に彼を担いでいるクロノには聞こえているようで、彼の表情もまたいいものとは言い難かった。
「……なんというか、この御仁の泣き言にも……どこか共感を覚えてしまうんですよ」
かく言うクロノも貴族の縛りに翻弄された結果、絶界域でマナ枯渇により死にそうになっているという理不尽な目にあっているからだ。
「マー君はさらに一般市民ですからねー、そのこの国は平和ですからー」
陰鬱な顔をしているクロノであるが、彼の根底にはどこか弱肉強食の考え方がある。それは彼がドーベル人、つまり獣人という野生の特性を多く引き継いでいる人種であるからかもしれなかったが、平和ボケした日本で生活していた正宗には十分応える事であった。
「襲い掛かってきたテメー等に何がわかるんだよーっ!!昨日なんて俺一度死んだんだぞ!?ふざけんな、ふっざんなよぉ!!」
尚、クロノのぼやきも聞こえていた為か正宗の癇癪は余計に酷くなっている。
「勝手にやってきてこの世界が危ないとか世界の為に住まわせろとかっ!!勝手にやってきてひとん家寄越せとかっ!!しまいにゃ殺しに来るとか!?どいつもこいつも頭おかしいだろがよぉっ!!常識考えろよっ!!」
「なんというかーっ!!マジすみませんーっ!!」
「私なんて敗戦の将の身ですからね、かえす言葉もありませんな」
閉口しながらもクロノは正宗を抱えたままでその足を止めない。そこに飛来する法撃や木々の破片等をエルマイールの張る障壁が全て弾き落としていった。正宗を抱えるクロノとそれを護衛するエルマイールが山道へ入り、更に木々の間を抜け飛び降りるように山を駈け降りていく。
「しかしこれは一体どういうことなんですー??どう考えてもおかしいですよねー??」
少し余裕が出てきたのかエルマイールが首を捻り思考に入った。正宗は泣きわめくだけでクロノは黙ったまま何も返さない。
「どうみつくろってもこの数は異常ですねー。単刀直入に聞きますよ獣士クロノ殿ー、これだけの夢獣士ー……どう用意したのですかー??」
それがエルマイールの疑問であった。現状既に金導夢兵装10機に謎の夢装兵装10機、全て因夢空間で動いているのである。因夢空間、世界の夢の中で活動するには特別な才能が必要である筈なのだ。理力などのない陰の世界であるこの世界などではそんな才能は必要とされるワケもなく、逆にそれを持った正宗などは非常に希有な存在であると言えるであろう。なにぶん持っていたとしても何の役にも立たないのだから存在する理由がないのである。しかし、陽の世界であるドーベルやユメミールなどではそれは非常に貴重な才能であると言えるのだ。何しろ夢見ている間に一方的に攻め立てられるのだ、それを有しているだけで特権階級の一角となれるほどに優遇されたとしておかしくないであろう。その特別な才を持っている者達が、ただの一部隊にそれほど集まっていると考えるのは一般的に言って“ありえない”。
「……確かに夢獣士の資格持ちは、私と私が雇用した傭兵部隊の隊長、あと彼の側近の3名だけでした」
「ですけどー、実際問題として金導夢兵装が10、それ以外も稼動しているようですけどー??」
「それはサイワルサー殿が持ち込んだ“呪具”によるものと聞き及んでいます」
「呪具、ですかー??その呪具といいー、あの金導夢兵装モドキといいー、どうにもあの大界盗様達は異世界間の兵力バランスを狂わせる恐れがありますねー」
エルマイールの表情が厳しくなる。それらはサイワルサー一味が多くの異世界から盗み出した禁術や界宝に違いない。個でも十分な力を持つそれ等を大量に手にしているサイワルサー一味は、恐ろしくも組み合わせるなどして相乗効果を発揮させているようであった。結果、現行の異世界間の軍事力、パワーバランスを狂わせられる存在と化しているのだ。夢戦士でない者も夢戦士とでき、特出した力を持たない者達でも協力する事で彼等並みの強力な兵装術式を行使できるようになるというのだ。サイワルサー達の技術提供を受けた異世界が他の異世界へと軍事侵攻すると言う事も現実と化してくる。
「うわあ!!……アイツ、殺った……殺りやがった……」
難しい顔をしていたエルマイールだが、正宗が上げたその悲鳴じみた声に視線を向けた。そこではナイトオブユメミールが敵機ジッジル4を串刺しにしている姿があった。ナイトオブユメミールが槍を引き抜けば、ジッジル4の機体が砕け、破片は落下しつつ霧散していく。
「いや、金導夢兵装は破壊されても搭乗者は瀕死となって放り出されるくらいで命に別状はありません。無論、回収されなければそのまま戦闘に巻き込まれたりしてして死に至りますが、今回の場合は呪具の装備者である為その通りとはいかないという話でした」
クロノは視線を向けつつ、正宗を安心させるようにそう口にした。
「成る程ー、つまり機体と共に呪具も破壊されてー、“夢戦士としての資格”が無くなるというワケですかー」
「その通りですな。資格を失った時点で夢中での出来事となるという話でした。つまり、この因夢空間内での活動はできなくなり、たとえそのまま戦闘に巻き込まれようが後で元に戻る為何の支障もなくなると言う話です。ただ、“呪具”の名に恥じず、装着するとその身に同化するのと同時に、味覚と嗅覚に異常が出るし、呪具が壊れるまで外す事もできなくなると言う話でしたな」
「嫌な効果ですが破格の性能ですねー。なんといっても夢戦士の才覚がなくともその資格を得れるという点が凄まじい上にー、量産ができてますー。コレが出回ると本当にパワーバランスが崩れてしまうかも知れませんねー」
エルマイールは唸るように眺めている。これだけの力を持っていると知られれば、いくらサイワルサー達が世界を股に掛ける大界盗であろうとも、裏で接触しその力を利用とする輩達が現れるかも知れない。
「……確かに下手をすれば世界間戦争の引き金、サイワルサー殿達も夢生獣達と同じく“無視できぬ監視対象”という事になるわけですな」
「今後はそうなるかも知れませんねー。尤もー、彼女達はそんな事をしなさそうですけどねー」
エルマイールの感想にクロノも同意を示した。大界盗サイワルサーは確かにパワーバランスを崩す要素を含んでいる。が、彼女等はそれを自分達以外に利用させるつもりはないように思えるのだ。今回も自分達の為に仕方なく貸したという感じだ。決して死の商人をするタイプには思えなかったのである。
「いや、つーか待てよっ!!俺はこっちで死ねば死ぬって聞いたけど!?さっきの奴等生きてんの!?」
「マー君もわたしもー、天然の資格保有者ですからねー。わたしだってこっちでやられればそれまでですよー」
「いや、つーかなら卑怯じゃんっ!!こっちは死ぬのにあっちは死なないってっ!!」
身も蓋もない事を言い出す正宗。
「それになんで攻撃してくるんだよ!?俺ん家がほしかったんじゃねーのかよっ!!」
「いえ、我々が欲しかったのはマナ生成システムですので。戦闘終了後この夢空間を覚醒させる際そこだけ修正すればいいだけの話ですから……」
「じゃあ何かっ!!やっぱり俺達殺して家屋ごと乗っ取ろうて話かっ!!くそくっそっ!!どいつもこいつも馬鹿にしやがってっ!!」
正宗はくだを巻くように不平不満をぶちまける。いままでの闘いの不可やストレスは予想以上に正宗の精神を蝕んでいたのである。それが露わになり始めており、エルマイールは咄嗟に落ち着かせようと精神安定術式を符に封入し、正宗に渡そうとした。
「あっ」
そう短くクロノが声を発した時、飛来した術式が鉄邸の客室棟上層部へと衝突したようであった。術式の直撃により最上階が爆散し、昨日の襲撃などにより亀裂が入ってしまっていた外壁が一気に剥がれ落ちていく。上層階の破片が一挙に下層階へと雪崩れ落ち、耐え切れなくなって溢れ出た瓦礫が母屋すら飲み込み全て崩れ落ちてしまう。そして、鉄邸倒壊の衝撃がトリガーとなったのか地面から嫌な音が響き始める。
「下がってくださいっ!!」
クロノが正宗を担いだまま咄嗟に飛び退けば、エルマイールも中空へと避難しそれを見る。木々達が地面と一緒になって周囲一体がズレるように流れ落ちていったのだ。途端、状態を維持できなくなった滑落部は上に乗せていた建物群を飲み込むように土砂となって崩れ流れ落ちていく。一瞬の出来事に息を呑めば、残るのはパラパラと転がる石と土の音と立ち込める土煙。今の今までクロノの目の前にあった森と山腹の建物の景色は既になく、切り開かれたかのように土の地肌が崖のように切り立つ災害跡と化していた。
「……はぁ??はぁあああっ!!ありねーんだけど!!マジありえねーんだけれどおおっ!!」
視界に映るその惨状に正宗は暴れ、クロノが肩から降ろせば這い蹲って嗚咽する。目の前で自分の住む家が、その周辺地域もろもろ含んで土砂と化したのだ。流石にエルマイールもクロノもいたたまれない気持ちになり、
「ほ、ほら!!貴方がたが勝利して、夢から覚めるとき直せばいいだけですしっ!!」
「そ、そーですよーっ!!お任せ下さいってーっ!!」
元気付けるべくそう正宗に声をかけるわけであるが、
「クソッ!!クソーッ!!なんで俺ん家が壊されなきゃなんないんだ??ユメミール人がいるからかっ!!」
「ひぃー……」
「ユメミール人達が住みついた、結果ウチの家を!!施設を狙ってきたわけだっ!!」
正宗の目に光は無い。その顔を見て視線を逸らすエルマイール。
「そのせいでこの様だっ!!よく撃っていいヤツは撃たれる覚悟の在るヤツだけだ……って言うけど、撃たれる覚悟がないオレはどーすりゃよかったんだっ!?撃たれる覚悟がないオレは撃たれても反撃しちゃいけないってことなのかっ!?見てみろ!!勝手にお前等が初めたドンパチに巻き込まれて……何故か悪くもなんともない俺が被害を受けちまったっ!!家も何もかもなくなっちまったっ!!こんなことが許されるのか!?そりゃねーだろぉ!!」
正宗が発する狂気にクロノも目を逸らす。
「相手が勝手に撃ちまくってくるんだっ!!こっちは撃たれる覚悟なんてこれっぽっちもないのに、だっ!!そうなったら逃げるしかないと!?一方的に被害を受け入れろと!?ふざけんなっ!!だったら撃つなら撃たれる覚悟のあるヤツだけにしろよぉぉぉ、撃たれる覚悟がないヤツ撃つなよぉぉぉ……」
正宗は破綻しているという。絶対撃たれる覚悟がないのに撃っているヤツばかりだろ……と。
「だったら、壊される前に、殺られる前に殺るしかねぇだろうっ!!泣き寝入りなんて御免なんだっ!!撃たれる覚悟は全くないけど、やられたならその数倍の苦渋を飲ましてぶっ潰してやらなきゃ気が済まないっ!!」
地面をガンガンと殴る正宗。
「あのぅ……ちょっとこの御仁大丈夫なんですか??」
「ここのところー、大分堪えて溜め込んでいたようですからー」
ヤバイのを目にしてしまったかのようなクロノの物言いだが、エルマイールも流石に否定は出来ない。しかし、怒りの矛先はどうやらドーベル達へ向いているようである。これを使わない手はない。
「うぉほん。……えー、マー君の言うことは尤もだと思いますよー。そうー、全部あいつらが悪いんですよー」
「えっ!!」
そうしてエルマイールはにこやかに暴れるジッジル4を指した。その言葉、腹黒さにクロノは絶句するしかない。
「アイツ等が原因……アイツ等が。……そうか、前提からして間違ってたんだ……撃っていい者はとかどうでもいい、我が身を抓って人の痛さを知れ、だっ!!」
その発狂者は大きく息を吐くと、ゆっくりと立ち上がる。しかしとても……非常に澄んだ、ドス黒い眼をしている。
「目には目を、歯には歯を、暴力には暴力を、右の頬を殴られたなら、相手の顔面左右を殴りつけろっ!!おいコスプレ聖士、ポッコルを呼べ」
「コ、コスプ──」
「いいから、呼べっ!!」
顔すら動かさず言う正宗に言われエルマイールは焦って符を取り出し放り投げる。軽い煙と共に現れたのはせっせと手足を動かすぬいぐるみである。
「よーしよしっ!!このまま逃げて妖精界にさえ飛び込めばいずれユメミー……って、ポーッ!!ここどこポーッ!!」
突如として別の場所に召喚され戸惑っているその生物(?)を捕まえ、
「さてはポッコルーッ!!一人で逃げてましたねーっ!!」
「あたりまえポッ!!ポッコルはこんな所で死んでいい妖精ではないポよっ!!こうもっと崇高で輝かしい存在である……ポ??」
怒るエルマイールに講釈垂れるぬいぐるみだが、その横の見知った顔の様子のおかしさに硬直する。
「ポ!?ポ!!……何だか、様子がおかしそう、ポね、正宗」
「心理だ、真理を得たんだ。ポッコル、金珠出せ」
「えっ……ポッコルの金玉つかってなにする気ポ??」
「違うそっちじゃないそんなのはいらないご免被るっ!!その汚いのじゃなくて聖魔法の大全ってヤツだ」
「ああ、四十八手の輝玉ポね」
言われたポッコルが鼻の穴から金色の宝玉を取り出す。それを見て顔を顰める正宗。
「お前、それ仮にも界宝ってヤツなんだろ!?なんて所に入れてんだよっ!!」
「ポッコルは自身の開発に余念がないだけポ。それでそれどうするポよ??近くにラブリーアイシスはいないポよ??」
「わたしやー、もちろんクロちゃんでは聖力不足で励起できないでしょうしー」
ポッコルの言うとおり近くに起爆剤となるラブリーアイシスが居ない、それでは術式励起が不可能であるのは立証済みであった。エルマイールでは励起にいたる聖力不足であることも解かっていたし、当然にして彼女より出力のないドーベル人のクロノでは到底にして不可能だ。
「しかしだ、真理を得た今、なんかいけそうな気がするんだよっ!!なぁ、相棒。なぁ、アルヴァジオンッ!!リヒカバイフィ=ニショケミューコン──」
言うが早い、正宗が金珠に手を伸ばせば、ビクンと身体を震わせヘタリ落ちるエルマイール。いや、その法衣が揺らぎ、唐突に変身が解けてしまった。
「どっ!!どーいうことなんでしょーっ!!超ごっそり聖力持っていかれたんですけどーっ!!」
エルマが嘆き上げれば逆に光る金の珠。その輝きは中空に陣と術式を描き出し、そして焼けきれるようにそれを発光させれば途端にその場に召喚される者がいるっ!!
「げぇーっ!!わたしの聖力でアイちゃんを召喚したんですかーっ!!」
「え!?はっ!?何何なに!?何が起こったんです!?」
驚くエルマイールと突如現れた聖法陣から放り出され戸惑うラブリーアイシス。彼女等には目もくれず、
「──カインゼロイカ=ユメソウサ!!」
正宗の祝詞がその場に響けば、今度ガクリと膝を付くのはラブリーアイシス。
「なんかごっそり持ってかれたんですがっ!!先の戦闘とこれでスッカラカンですよっ!!」
呼び寄せられたラブリーアイシスのラブリー部分を全て吸い尽くされ、残されたアイシス部分が干からびたミイラとなってぶっ倒れる。そして弾け飛ぶのは正宗とエルマの衣服。
「いけたっ!!行けたかっ!!流石は相棒だっ!!俺の気持ちをしっかり理解してくれてるっ!!これであの馬鹿共に制裁を食らわしてやる事が出来るっ!!」
「わ、わたしとマー君と聖魔導大全の書で励起条件を満たしー、足りない起爆剤だけをわたしの聖力で引き寄せたわけですかーっ!!ですからアイちゃんではなく条件を満たした際にいたわたしがパートナーとして選ばれたとー。……と言う事はマー君はもう特定の条件さえそろえば何処でもアルヴァジオンの励起できると言う事ではーっ!!」
狂気を孕んだ正宗の声に混じり、その術式のコンボに興奮するエルマ。
「なにポ!?どーいうことポ!?アイシスが電池のように使い潰されたポー。正宗の様子はおかしいし、おいっ!!お前説明するポよっ!!」
「いや、私に言われましても何とも。それより彼等は何故全裸に??ここに来て早脱ぎかなにかの一種なんですか??」
誰もしっかりと説明をせず場は混迷を一層深めていっていた。そんな状況では掠れるようなその声は誰の耳にも入らない。しかし、干からびたミイラのような状態ではそれが精一杯であったのだ。
「どうでもいいですけど……介抱してくれないと、流石に死にそうなんですが……助けてくださいぃ」




