人類の敵はやっぱり人類!?18
闇雲に撃ち込んでくる法弾はアイシス達に叩き砕かれ、時に外れて着弾する。爆圧が土を巻き上げ、周囲の木々を砕き、壊して粉微塵として撒き散らし創り上げられていく視界を奪う煙の壁。突如としてそれを押しのけ、巨大な影が突き抜けてきた。
「フラウニーナッ!!」
ラブリーアイシスの叫びと同時にそれはフラウニーナに襲い掛かった。咄嗟に聖法具を盾に受けの姿勢を見せるフラウニーナ。一瞬の鍔迫り合いと轟音、しかし振り抜かれた巨大な長柄の戦斧によってフラウニーナの身体は打球のように打ち払われた。ダイレクトに地面へと叩き付けられ埋没するフラウニーナ。その姿を確認するより早く、流れるようにラブリーアイシスが肉迫し鋼鉄の巨体へと斬撃を繰り出した。飛び散る金属片と火花の尾。有り得ない量の聖力を注ぎ込まれた斬撃に鋼の装甲が弾き飛び、よろけるように後退する巨体。想定外の威力に戸惑うようにジッジル4の機体は素早くその場を跳び退いた。
「ちぃっ!!浅……っ!!」
追撃へと意識を向け身体を加速させようとした瞬間、側面から別の刃と巨体が煙の壁を突き破りラブリーアイシスへと襲い掛かった。思わず身体を捻りパラディンソードで受け止めるが、質量の差は如何せんどうしようもない。踏ん張る大地すらない空中では尚更どうしようもなく、フラウニーナと同じように吹き飛ばされてしまうラブリーアイシス。しかし空中で一回転し、山の斜面を爆散させるように豪快に着地してみせる。その切っ先は残心のように新たに現れた巨体へと向けられている。照準はそのままに、
「ラブリーッ!!フラッシュッ!!」
ピンキーな極光が穿ち放たれる。直撃コース、しかし桃色の波動は身を捩るようにして倒れ込んだジッジル4の肩部を掠め、その左腕を肩口ごと粉砕させながら通り抜けるだけにおわった。直撃していれば確殺の威力であった。
「躱されたっ!!」
咄嗟に防御もかなぐり捨てて倒れ込んだジッジル4の搭乗者の判断に感嘆を示す。しかしその程度の破損であれば金導夢兵装は随時回復してしまう。案の定、起き上がろうとするジッジル4の粉砕された肩口からは光の粒子が洩れ初めている。決定打を加えるべく寝転ぶ機体に狙いを付けるラブリーアイシス。
「っ!!」
だが更に別方向からの法撃にそれは阻止されてしまう。障壁で防御を固めながらパラディンソードで直撃弾は弾く。倒れた機体は土煙の向こうへと消え、防戦を強いられるラブリーアイシス。その法撃が止んだと思われた瞬間、再び巨大な物体が三機、土煙を突き破りながら同時にラブリーアイシス目掛け戦斧を振るって来た。直撃──その直前の間合いで跳躍すれば、彼女の居た跡は戦斧達の破壊力に抉り跳ばされていた。眼下の三機へと反撃を狙う所だが、上空へと逃れればそれは長距離からの法撃の恰好の標的となるのは仕方がない。間を置かずして飛来する法弾を避け、砕きながら即座に後方へと移動しつつ着地し体勢を立て直す。それを狙ったかのように追撃するべく襲い来るジッジル4部隊。しかし、今度は彼等が横からの法弾にその手を停め、圧力に後退を迫られている。割り込んできたのはフラウニーナである。構えた聖法具から雨のように撃ち出される聖力の刃。部位ごと吹き飛ばす威力はないが敵機の装甲は貫通するようで、ジッジル4は頭部と胸部を庇いつつ後退しているようであった。
「してやられましたわっ!!獣士達のこの動きは明らかにこちらの動きを予測してましてよっ!!」
「ああその通りのようですね。あのように行動されてはこちらは因果律改変夢幻空間を展開させざるを
えない、その直後にこの場所へと強力な法術を撃ち込むことでこちらの足を止め、金導夢兵装を突撃させる……狙い通りに動かされ、この場に縛り付けられてしまいましたっ!!」
ラウニーナと合流を果たすラブリーアイシス。流石は獣士という所か、眼を覆うような視界の悪さでも連携が全く崩れていない。臭い、気配、動物的感覚、それらを含め鍛え上げ、訓練してきた連携が念入りに立てられた作戦の上で機能していようであった、その隙を付く事は聖士達とはいえ容易ではない。更には近接を挑む金導夢兵装の隙を支援法撃と遠距離法撃部隊が上手くカバーしている。
「どういたしますのっ!?」
「こうなったら応戦するだけです。間を作ります」
その言葉にチラリとラブリーアイシスを見るフラウニーナ。
「正宗さんは大丈夫ですの??」
「エルマイールが何とかしている、筈ですっ!!ポッコールッ!!」
ラブリーアイシスが叫べば、彼女達の眼前の土の下から這い出てくるぬいぐるみ。その間、フラウニーナが一時的に前に出て聖法具を振り刃の弾を広範囲に撒き散らして牽制をかけていく。
「酷い眼にあったポ!!生き埋めポよっ!?」
身体に付いた土を払い落としているポッコルを余所に、ラブリーアイシスがパラディンソードを掲げ上げた。
「ラブリーシールドッ!!」
掲げ上げたパラディンソードの刃が強烈な輝きを放つ。集約された聖力が放射され、壁となり、土煙も何もかもを押し返す強固な障壁となって展開されていく。それを見ずして法撃を止め下がったフラウニーナが願いの声を上げた。
「敵対勢力の術式兵装を確認、金剛聖導夢想兵装使用、要請致しますわ!!」
「要請承諾ポ。ナイトシールド、受け取るポよっ!!」
ポッコルが背後から取り出した盾を投げて寄越せば、フラウニーナがそれを腕へと装着させる。堰を切ったように流し込まれる聖力に盾は輝きを増し、組み込まれていた術式が紡がれるようにフラウニーなの周囲へと築き上げられていく。その聖力上昇に気づいたか、近隣のジッジル4と遠距離からの法撃が棒立ちするフラウニーナへと狙い襲い掛かる。だが、
「ぐっ!!」
数機の金導夢兵装をも寄せ付けず、且つ遠距離からの強力な法撃をも防ぐ強固なラブリーアイシスの聖力による盾。しかしながら流石のラブリーアイシスといえどもそれ程の盾を長時間維持することは不可能というもの。されどその一瞬、その間を創り出せれば……、
「我が盾は人々の為に!!我が槍はその悪を討つ聖槍なりっ!!」
フラウニーナの法衣と構築された術式が結びついていく。夢想が形を成し物質と化す。現れたるは白銀の巨人の騎士。
<顕現っ!!ナイトオブユメミールッ!!>
その手には護りの盾、その手には敵を討つ銀槍、白銀の騎士は巻き上がる土煙の中身を沈め、弾けるように突貫した。破城槌の如しその突撃は寄ってきていたジッジル4の機体数機を吹き飛ばし、その包囲網に穴を開けた。白銀の騎士は更に斜面を蹴り、そのこじ開けた穴から他の金導夢兵装へと向かい襲い掛かる。瞬く間に銀槍が一機の胸部を突き貫き、その機体は堪らず光の粒子と液体金属を撒き散らして崩れ墜ちた。残骸の中には聖力総てを使い果たし昏倒している獣士の姿。されど白銀の騎士は動きを止めず、次の相手を狙い走り進む。しかし、それと併走するように左右から追走する機影を見る。
<流石に、直ぐに立て直してまいりますわねっ!!>
本来なら金導夢兵装対金導夢兵装と対等の闘いであり、数の多い方が有利な筈である。だがその機体技術も搭乗者の技量にも大きな差があるのだ。獣士の扱うジッジル4では、夢聖士が駆るナイトオブユメミールには手も足も出ない。現代の戦闘機にもあるようなキルレシオといえばわかるであろうか。しかし所詮は一機である。獣士達はそれを補うべく完熟された連携と、数的優位で攻め立てて対応しているのだ。ジッジル4部隊は即座に陣形を組み一対一には持ち込まさせない構えを見せた。ナイトオブユメミールによる派手な登場、そして初の被害に獣士達の視界が狭まっていたのは確かであった。
「トランスフォームッ!!ラブリーアイシスモードマジックキャスター!!」
その隙を見逃すラブリーアイシスではない。パラディンソードが姿を変え、宝玉輝く杖へと変化させる。
「マジカルバレル展開、装填聖力強制注入……」
陣形を敷くジッジル4達が立ち上るその聖力と声の主を探した。ラブリーアイシスは獣人達の意識がフラウニーナのナイトオブユメミールへと向けられている間に移動し、攻撃体勢をとる隙を造ったのである。彼女が狙うは彼女達の頭を押さえつけていた長距離法撃兵装、やっとラブリーアイシスの位置を見つけ攻撃させまいとジッジル4、その陣形に歪みが生まれる。
<あらっ!?わたくしを無視することなど、させませんわよっ!!>
しかし、同時に攻勢へと転じた白銀の騎士とのぶつかり合いに邪魔どころではなくなる。遠距離法撃部隊が直接ラブリーアイシスを狙うが、彼女が眼前に展開した強大すぎる聖力に阻まれ決定打を出せないでいる。ダメージを負いつつも術式展開を完了させたラブリーアイシスが不敵に笑う。
「ラブリーフレア、シュートッ!!」
広いひさしのとんがり帽子はピンク色。ピンクのローブに身を包み、キラキラとした宝玉一杯の杖を大きなリボンが飾りついた手袋で振り回す姿は正に魔法少女そのもの。マジックキャスターと化したラブリーアイシスがその眼前の聖法陣へと杖の宝玉を叩き付けた。撃鉄に叩かれ発火した聖法陣が術式で造られた大砲を炸裂させる。聖力を臨界暴走させて放たれた法撃の効果は一瞬にしてその力を知らしめた。
<……術鉄巨人部隊……壊滅……しました>
一機のジッジル4から震えた声が聞こえてくる。術鉄巨人は法撃に入ろうとしたその瞬間、全機が一斉に消し飛んでいた。遠距離法撃部隊がいた箇所は抉り飛ばされクレーターとなっている。そこには術鉄巨人を作りだしていた三人の術者達がそこら中に横たわっている姿が確認できた。
<…………っ!!>
そうなれば混乱の一途だった。金導夢兵装にならずして金導夢兵装を粉砕できる人間など獣人達の常識の範囲外の存在である。いかに術鉄巨人が金導夢兵装の劣化版であったといっても10機が一撃で吹き飛ばされたのだ、途端にしてドーベル軍の統制は乱れ始めた。
<いい感じですわねっ!!更にかき回しますわっ!!ラブリーアイシスさんはその間にっ!!>
「ええ、少し休憩させてもらいます」
肩で息をするラブリーアイシスが伝う汗を拭いながら返答した。流石にラブリーアイシスも無理を推した攻撃であったのだ、その直前のラブリーシールドもあってラブリーアイシスの消耗度はかなり高かった。そのため小技で牽制し聖力回復を図るラブリーアイシス。回復次第金導夢兵装ウルフェンへとなればこの状況程度覆せない程ではない。その時、ラブリーアイシスの視界に七色の光が映り込んできた。
「な……アレが改造潜界航行艦ですかっ!?」
スーパーサトウの崩れた施設跡を押し退けあまりに巨大な巨体が浮かび上がってくる。足がアスファルトを砕き、ゆっくりとその身を起こす巨大すぎる物体。船に手足が付いたような異様さだが問題なく歩き、向かってきている。重力を無視したかのようなその摩訶不思議な姿は正しくこちらの世界の物ではない証左であった。しかしそれに注意を向けていた為棒立ちとなっていたラブリーアイシスに法撃の雨が降ってくる。改造潜界航行艦の両舷に展開している新たなジッジル4の部隊からの法撃であった。術鉄巨人程の威力も精度も連射性もないが牽制とはなっていた。
「っ!!」
そんなラブリーアイシスへ改造潜界航行艦の主砲が向けられている。砲身に集まった尋常じゃないその聖力量に危機感を覚えた時、彼女の足下の感触が振動を伝えてきた。
「な、ななななんです!?」
慌てて空へと逃げれば彼女の下を猛烈な速度で木々が流れて行った。いままでの盛大な法撃戦に耐えられなくなったのか、一気に山腹の斜面が崩れ墜ちるように崩落していく。山雪崩となって流れ落ちる土砂を互いに距離を取って躱すナイトオブユメミールとジッジル隊。一瞬にして地形は変貌し、更なる土煙が立ち上る。それを見て、
<「あああああ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」>
ラブリーアイシスとフラウニーナは声にならない声を上げた。最早見る影もない山の景観。地滑りにより地肌が大きく露出し、その山腹にあった総ての物は土の下に姿を埋めた。そう──鉄邸の家屋も勿論、飲み込んで。




