人類の敵はやっぱり人類!?17
「はぁ!?それではこの家の設備だけでなくわたくし達の潜界航行船をも狙っていたと仰いますの!?」
「ええ、大界盗サイワルサー殿の立てた計画ではそうなっておりました」
詰め寄るフラウニの圧に押され顔を青くしながらも返答するクロノ。
「あぁー……その辺りは完全な勘違い-、認識に差異がありますねー」
「どういうことだ??」
正宗の問いに首を振りながらエルマは言う。
「わたし達が航路を突破できたのは-、夢生獣が航路への妨害をしていないうちに航路内へと突入したからなのですよー」
エルマ達の住むユメミールとクロノの住むドーベルとでは、聖法術式の技術レベルに大きな差があるのである。異世界間でのこの技術格差というものは大きな問題となっているが、進んでいる世界からしたら自分達のアドバンテージを易々と他の異世界に供与するはずもなく、そのあたりは仕方のない事とされているのが現状であるらしい。それはさて置き、その進んだ技術の中に聖士達が扱う聖法衣の術式技術があるわけなのだが、つまるところユメミールは“自身の着ている衣類”を“他の物質などで構成された物”であると世界に誤認識させ、変換する技術を有していると言う事なのだ。
「結果としてユメミールの聖士レベルであれば聖法衣の応用として纏っているものを簡易的な潜界航行船にする術式を持っているポよ」
「緊急時の手段ではあるのですけれどね。荒れていない通常レベルの世界間航路であれば問題なくソレで突破できるのですよ」
アイシスが頷きながらそう答えた。しっかりと安全を考慮するならちゃんとした潜界航行船や戦闘力を有した潜界航行艦などを用意するという。アイシス達の場合はそんな時間的猶予がなかった為、術式による強制航行を試みたという話であった。
「かなり危険な航行法であることは確かなんですよー。渡航中に勢力が尽きればお陀仏ですからねー。今回わたし達の場合は聖力満々のアイちゃんが居ましたからねー、頑強な術式を構築することができ安全に辿り着けましたー」
「せ…聖力満々って……言い方」
エルマの言葉にアイシスが赤面する。そんな事は無視しつつ、エルマはちょっと首を傾げながら更に考えを述べていた。
「フラちゃんは単独でしたけれどもー、多分そこはフラちゃんの専売特許で乗り切ったんでしょうねー。およそにしてガーちゃんを予備タンクとして使ったんじゃないでしょうーかー??それなら通常の聖士達より遙かに多くの聖力量となりますからー」
「ご察しの通りですわ。わたくし達はガープの聖力を使い術式を維持しましたの」
ポッコル達の会話を聴く正宗とクロノであるが反応はニ極端である。正宗は無知ゆえにそんなものなのかという反応であるが、クロノの表情は一層悪くなっている。
「それでは……我々の行為は初めから無為であった、と??はじめから……潜界航行船など……」
「おそらくですがー、サイワルサー一味に謀られたとみるべきでしょーねー。大界盗であるのであればー、ユメミールのその辺りの事までも熟知していると見るべきでしょうしー」
「確かに。聖法衣での航路突破は軍事機密でしたからドーベル側が知らなくとも仕方がなかったと言えますね」
「それでも……どうなのでしょうね??騙されていなかったとして、いずれにせよドーベルの方々には他に手段がありませんのでしたでしょう??」
問題はそこであった。ドーベル人、彼等には絶界域においては彼らの肉体だけで聖力補給が賄えない。そのために鉄邸を狙い、結果としてドーベルの獣士達はスーパーサトウを占拠するに至っている。自分達の生死がかかっている以上、それを満たせる可能性のある施設が在ったのであれば、必然的に武力制圧へと向かったであろう。フラウニがクロノを見れば、彼は視線を外しつつも頷いていた。
「それで??この後はどういう展開を予定していたのですか??」
「……はい。強襲が失敗に終わった場合は一旦拠点を作りそこへ籠城。本隊である別同部隊の到着を持って全力攻勢へと移る予定でした」
「全力攻勢……ですかー。大界賊達の狙いはわたし達とドーベル戦力とのぶつけ合い……なのでしょうかー??そんな事に何の特がー……」
アイシスの問いに素直に続けるクロノ。だがエルマはその物言いが気になったらしい。
「それはさておきー、その戦力はどれ程のものなのですかー??本隊の部隊編成などはどういったものだったのでしょうー??」
「戦力としては元々我が部隊が用意していたコクーン4個と、先にも説明した回収物であるコクーン21個の計25機の金導夢兵装となります。そして本命は大破した潜界航行艦の回収と改修です」
「なっ!!金導夢兵装25機ですってっ!!どうやってそれだけの数運用致しますの!?第一、そんなの一大戦力じゃありませんことっ!!」
「フラウニ、金剛聖導夢想兵装、な」
「潜界航行艦の改修ーって!!なにをするつもりなのですかーっ!!」
フラウニとエルマがクロノの首を締め上げる中、ポッコルがTVを凝視しつつ注意を即した。
「待つポッ!!アチラになんか動きがあったみたいポよっ!!」
言われて再びニュース画面にかじりつけば、現場を映す画面の奥でなにやら煙が上がり続々と警察官達が後退して来ている様であった。喧騒の中報道陣へも警官達が退避を促し、画面が乱れ突如としてまたスタジオへと画面が切り替わる。
<現場の佐竹さん、大丈夫ですか!?佐竹さん!!……えー……、現場の方が混乱しているようですので再びスタジオからお送りいたします>
MCの緊迫した声だけが正宗達のいる居間へと響く。
「さて……と。ポッコルは今から旅に出るポ。ポッコルの理想のワタ探しの旅ポ、探さなくてけっこうポよ」
言うが早い、ダッシュをかけたぬいぐるみを無言のエルマが掴み捕縛する。
「なにするポッ!!放すポよっ!!ポッコルはこの件にはかかわりがないポッ!!異世界の露見には関係ないポよおおっ!!」
「一人だけ助かろうとはいい根性ですねっ!!絶対に道連れにしてやりますからねっ!!」
暴れるぬいぐるみに血涙を流しそうな目で凄むアイシス。使命在る彼女には逃げ場も無く、かつ逃げる手段もない為にかなり精神的に追い詰められている様子であった。凜としていたこの世界に来た頃の彼女はどこへやら……いまは平穏に過ごしたいのにそれを許さない現実を呪っているかのような節が在る。
「その通りですわっ!!絶対に巻き込んでやりますわっ!!」
「ぬーけーがーけーはー許さないからねーっ!!」
いや、それは彼女だけではない。ユメミールの面子達全員、かなり心に来てしまっているようである。掴むエルマの手を上から更に握り締めるアイシスとフラウニ。その姿はまるで生者に群がるゾンビのようで……圧迫されもがくぬいぐるみは泡を噴き始めていた。それを眺める獣人の姿。
「……この方達は大丈夫なんでしょうか??」
「人には色々……あるんだよ」
縛られながらもアイシス達を心配する獣人の姿に、「お前の姿も大概だろ??」と心の中で言う正宗。だがそこで、ユメミールが誇る聖士達が一斉に動きを止めた。そして部屋の壁の向こう、スーパーサトウのある方角を見つめだす。
「え!?はっ!?はあああっ!!何を考えていらっしゃいますのっ!!」
「本気で異世界の存在を晒す気なのですかっ!?」
「ポッコ、ポッコルーっ!!解錠、解錠要請ーっ!!」
叫ぶと同時に走り出し、慌しく廊下へと飛び出していく聖士達。ワケもわからず、兎に角正宗も簀巻きを引きずりながら後を追う。
「どういうことだ??何があった!!」
「ドーベルの獣士達ですっ!!コクーンの……金剛聖導夢想兵装の励起を開始しましたっ!!」
「金導夢兵装の励起って……現実世界でアレを起動させるって言うのか!?あの巨大ロボットをっ!!」
「どうやらそのつもりのようですっ!!10機ほど絶賛励起開始中ですっ!!」
急いで屋外へと出れば、アイシス達はかぶりつくように駐車場脇へとへばり付く。そこからは良く景色を見渡せる、煙が立ち上っているからその場所は一目瞭然であった。
「それ以外にも妙な聖力術式が稼働しているようですわっ!!これ、間違いなく仕掛けてきますわよっ!!」
「解錠っ、早くしなさいポッコル」
「ポ、ポッ。ちょっ、ちょっとまつポよー!!」
「ポッコルー、錠、錠、急いで下さいーっ!!」
三人に急かされて焦りながらも鍵を創り出すポッコル。即三人に放り投げれば、
「ラブリーアイシスモード……あああーっ!!夢見の時よっ!!恒久の無限、されど虚ろいの刹那。因果はたゆたい、世界は眠れっ!!」
名乗りをする間も惜しんだラブリーアイシスが上空へと聖法術を撃ち放つ。途端にして世界にノイズが奔り、世界の動きは緩慢と化し、止まる。上空の空を埋めるムーヴメント達が浮かび上がればその動きも完全に止まり世界は夢の中へと落ちた。何もかもが制止し音のない世界、だからこそその遠くから響く轟音と振動を耳が捉えることが出来た。何かが光った。途端、
「ほえーっ!!ま、まずいですーっ!!」
エルマイールが乱暴に符の束を放り投げれば、その符達がチャフのように四方へと四散してゆく。正宗がそれを認識する間もなく、耳を裂くような爆音と衝撃に失神しかけた。周囲一帯は既に黒煙と炎にが埋め尽くされているが、薄く光る障壁がそれを防いでいるようであった。
(さっき光ったのは敵の術式攻撃ってヤツか??)
エルマイールが投げ四散した符が造りだした障壁、その向こう側は黒と赤。しかし助かったことに安堵する間もない。
「嘘ですわよねっ!!」
「冗談じゃありませんよっ!!本気でこちらを潰す気ですかっ!!」
感じ取った次弾の接近に、悪態をつきながら障壁の向こうへと飛びだしていくフラウニーナとラブリーアイシス。彼女らは手にした聖法具へと聖力を漲らせ、飛来する法弾、続くその次の法弾を砕き飛ばしていく。
「うわっ!!」
破壊された法術の余波が周囲へと飛び散り、木々は粉砕され土砂が舞う。山腹一帯は瞬く間に破壊され始めた。
「正宗殿、貴殿が居るのでユメミール聖士達は防御に廻っておるのだ。じっとしてなさいっ!!」
簀巻きの獣人がのたうちながらそう言うが、正宗の耳にはもっと違う音が聞こえ初めていた。それは地面から聞こえてくる不可解な音。
「なんだ??この音??」
「恐らくですがー、法火の衝撃でーこの山腹が崩れ墜ちようとしているんだと思いますーっ!!」
障壁防御を行いながらのエルマイールの声に、正宗とクロノは足下を見た。
「どうしろっていうんだっ!!」
「ドーベル貴族クロノ=タオイオ卿ー、貴方の拘束を解除しますーっ!!自由になったらマー君を抱えてわたしに着いて後退して下さいーっ!!」
「──っ!!心得たっ!!」
正宗達を襲っている法火の威力は尋常ではない。ドーベル人とは言えクロノ=タオイオの展開できる障壁では間違いなく貫通され粉砕されるレベルの破壊力である。それを防ぎ弾いていられるのは彼女達がユメミールの聖士、その中でも抜きんでている夢聖士であるからであろう。それが理解出来ているだけに、クロノもヘタに抵抗せず彼女の言う通りにすべきであると判断したのだ。この法撃の雨の中、生き延びられる手段はそれしかないと感じ取ったのである。自身を縛り上げていた紐の拘束から解放されるや否や、クロノは正宗を担ぎ上げ直ぐさま走り始めた。激震が始まった地面を獣人ならではのバランス感覚と筋力で押さえ込み、驚くべき速さで後退を進めていく。エルマイールはその上方に位置し、障壁展開を続け彼等を護り続けた。
「こちらは大丈夫ですーっ!!ラブリーアイシスーフラウニーナッ!!反撃をーっ!!」
「心得ましたわっ!!このまま──」
上空で返答したフラウニーナ、その彼女へと黒煙を突破してきた鋼鉄が襲い掛かり、吹き飛ばした。




