人類の敵はやっぱり人類!?16
「よーしよしっ!!敵の突入部隊の阻止は成功したと見えるのっ!!」
「はい、敵対勢力の各部隊が距離を取り、一時的膠着状態となるのを確認致しました」
死者は出ていないであろうが重傷者なりはそれなりに出ている筈である。執拗に数を投入されるでもなく、且つ慎重にならねばならない程度には痛めつけた筈であった。案の定、敵勢力はきょりをとりなにやら拡声術式を用いた魔導具的ななものでこちらに訴えかけてきている次第である。
「これで暫くは大人しくなる筈じゃ」
「相手側へは一切応答しておりませんし、アチラ側としてはこちらの意図を計りかねている状況か……と」
「じゃな。精々困惑してもらいたい所じゃ」
サイワルサー達はスーパーサトウの施設占拠後、なんの要求もしていない。当然にして警察関係はサイワルサー達と交渉なりを行おうと試みているわけであるが、暖簾に腕押し……全く持って無反応なのだからやりようが無く戸惑っている状態であった。何の主義主張もなく、何故日本のスーパーマーケットを武装占拠するのか??人質であった従業員達は開放されている……しかし会話の余地がない。一体全体何が目的なのか!?相手方はそう頭を捻っているに違いなかった。
「敵の“てっぽう”なる武装はこちらの“矢除けの加護”術式で封殺、発煙投擲物も障壁で対応可能でした」
「身体能力ではこちらが圧倒的なのは昨日の件にて立証済みであるからの。問題はあの武装兵器であったが、とりあえずはあの警邏隊程度の物であれば脅威ともなり得ぬようじゃ」
「それ程警戒すべき戦力が他にあるのでしょうか??正直矢除けの加護を抜けたとしても、あの“てっぽう”なるものの火力では我等の兵装を抜けますまい??外観からも騎士らしくなく近接兵装も殆ど所持していなかったようですが……」
「あの程度であれば、の。しかし“てっぽう”にも種類があるのじゃよ。対物ライフルと呼ばれる物ともなれば流石に風の加護程度ではその射線を逸らすことは敵わぬであろうな。それに奴等はホレ、鋼の箱に乗っておろう??」
「ええ、あの異様に高速で動く鉄の箱ですな??先程落としたものは空も飛んで、しかも滞空しておりましたな」
「その搭乗員は無事であるな??」
「そこのところは問題なく。空飛ぶ箱は軟着陸させましたし搭乗員の離脱も確認しております」
その返答にはサイワルサーも文句がなかった。ヘタに死者を出すなどして刺激して、大量の部隊に突貫されては流石に敵わないからだ。サイワルサー達の目的は現地民である自警、防衛集団との全面衝突ではない、そんな事に余力を裂いては居られないのだ。
「今はまだ様子見しておるようだが鉄箱の親玉のような戦車という物や、高速飛翔するタイプの戦闘機と言う物があるらしい。その辺の物より一層頑強な、そして大火力を保有する鋼鉄の乗り物じゃ。この世界の者達はそれを何十、何百と用意しておる。それらがこちらの軍隊の本領なのじゃ。そしてそれ等兵装が搭載しておる火力ともなれば、流石に我等が今張れる障壁や加護でどうにかなる物ではない」
成る程とばかりに隊長も頷く。実際問題として、特殊部隊や警察官が携帯していた拳銃やライフル程度ならさしたる問題はなく、そして接近戦においても後れを取ることはなかった。しかし、動員される全員がその武器を持ち、それを何発も発射できるとなると話が変わってくる。今でさえ対抗する為のその術式兵装を起動してモリモリとマナを消費しているのであるから、数の暴力には耐久する手段がないといえるのだ。持久戦は厳しい……その上で、それ以上強力な戦力が現れるというのであれば最早退路もない彼等には手立てがない。
「であるからもう少しの辛抱じゃ。アレ等は今叩くべき本命ではあるまい??」
「仰る通りで」
彼等は招かざる客なのだ、本来相手にもすべき相手ではない。いや、出来うることならば相手にさえしたくなかったのだ。何せ事が始まるまで目立ちたくなく、消耗したくもなかったのだから。サイワルサー達はマナ消費を出来るだけ避けたい、温存しておきたいのである、本命の者達と闘う為に。それでも発見され、部隊を突入されては困ると言う事で排除しただけの話だった。
「──感知、来ますっ!!総員待避ーっ!!待避ーっ!!」
一人の獣人が声を上げれば皆が一斉に壁際へと待避する。その間に店内に虹色の輝きが波打ち、その中から激しいスパークと共に巨大な物体が姿を見せて来る。荒れ狂うマナの奔流と発光、施設内の什器は虹色の中に飲み込まれる中、現れた巨体の一部が開き、その中から一斉に部隊が物資を押し出し始めた。3メートル程の卵が天井スレスレに建物内に並べられ、激しく揺れる天板や照明が一拍おいて滑り落ちるように落下して来る。それなど気にもせず、慌ただしく物資搬出は進められていく。
「では作戦は最終段階に入る!!先鋒隊コクーン搭乗者は準備せよっ!!サイワルサー殿から借り受けた呪具は忘れるなよ!!」
隊長の指示より早く、各自の作業に没頭する獣士達。卵が並ぶ横のスペースには三人一組となった術士部隊が10組ほど並んでいた。
「よいな、ぶっつけ本番となるが諸君等は後方からの法火隊となる。仕様書には眼を通しておるな??やる事は配置へと移動し法火を放つだけの簡単なお仕事じゃ。だがその火力は通常の比ではない。十分戦力として活躍できるじゃろうっ!!」
サイワルサーに檄を飛ばされ気合を入れる術士部隊。
「コクーン起動っ!!金剛マナ夢想兵装体へと変態後ユメミール側拠点を強襲奪取するっ!!」
10個の卵に搭乗員が乗り込み一気に羽化を開始する。それはドーベルの保有する金導夢兵装。ドーベルはユメミールほど術式兵装が進んでいるわけではない。ユメミールのように布の服を鉄の鎧へと、そして鋼鉄の機体であると世界を書き換え変換させる術を持っているわけではない。しかし、技術的に遅れているとはいえ、他の世界と対等であるために型落ちながら独自の金導夢兵装は保有しているのである。
「さぁお前達もいけっ!!似非金導夢兵装再現術式っ!!“術鉄巨人”、一斉励起っ!!」
続いて10組の術士部隊が各個術式を励起させる。それは三人一組でくみ上げる簡易金導夢兵装。サイワルサー一味が作り上げた似非金導夢兵装“鉄巨人”を更にデチューンした術式兵装であり、彼女等が開発した秘術でもある。三人の術者のマナを汲み上げ、術式法陣が加速度的に輝きを増していく。
「煙幕展開っ!!」
隊長の指示に従い手の空いている術者が建物外へと煙を吐き出させ始めた。立ちこめる煙に現地人の警邏部隊は視界を奪われ、ユメミールの者達へもそれが判るよう行動を示したのだ。
(見ておるだろうっ!!こちらの機体が飛び出す位置を判別させにくくする為の煙幕じゃっ!!もう時はないぞっ!!さっさ動けっ!!貴様等には他に方法は無いじゃろうがっ!!)
不敵に笑うサイワルサーの居る建物内は間もなく臨界へと達する卵と秘術術式で高濃度マナで一杯となっている、敵がコレを感知出来ないわけがない。その時、世界に強烈な波動と同時にノイズが奔った。瞬く間に、才能ある者と呪具を持たせた者以外、ただの獣人達の動きが緩慢となり、止まる。いや、それは獣人達だけではない。建物を囲んでいた現地人の部隊も、それこそ世界の総ての時が止まっている。
「予測通りっ!!貴様等の打つ手はソレ以外に方法はあるまいてっ!!術鉄巨人、法撃開始じゃあっ!!」
サイワルサーが吼えると同時に術式陣より巨大な鉄巨人が現れる。15メートルほど在る巨体は建物内へは収まらず、天井を突き破り建物をも破壊しながら実体化し起立する。横並びとなると胴体両腕部に付いた長い円柱のような両腕を持ち上げると山腹へと狙いを付け、そして轟く豪撃を撃ち放った。その一斉法火による強力なマナ衝撃波が奔る中、
「効果確認っ!!」
「法撃弾着、今っ!!……しかし対象は障壁により防御、損害及び効果なしっ!!」
着弾した山の山腹に立ち上る黒煙と猛烈な砂煙の向こうに微かに障壁による輝きが見て取れた。それを消し飛ばすかのように続く術鉄巨人の攻撃術式。術鉄巨人は似非金導夢兵装を更に法術特化に術式換装したものである。鉄巨人の胴体をそのままに、機動性などを一切犠牲にして法術火力に重きを置いた機体設計であった。操作においても簡略化されている為重鈍な機動性としょっぱい操作性で運動性能には見るべき所はないが、その長い円筒形の腕は伊達でついているのではなく、素人でも簡易に操縦できる法戦兵器としては破格の火力を実現させるものである。次々放たれる轟音と伝わってくる着弾の振動、連動するように土煙と黒煙が間欠泉のように立ち上り、その影響で山の姿さえ霞んで見えるほどである。
「だが……奴等の足は止めたっ!!金導夢兵装第一陣は起動され次第即時攻勢に移れっ!!」
隊長が、時を停めた部下の横を声を張り上げながら歩く。その声も、羽化した金導夢兵装の起動音に紛れ聞こえなくなった。崩れた瓦礫を押しのけ立ち上がるは、ガゼルの如き礼敏な機械人形。ドーベルの正式採用金剛マナ夢想兵装ジッジル4と呼ばれる汎用型の傑作機である。物質体であるコクーンを使用しているところから技術的な古さはあるが、機体を構成する術式が洗練されており、その外観から彷彿されるのと同様に高くしなやかな機動性を持つ。素早くバネに富んだ俊敏な動きから繰り出される攻撃は想像以上にパワフルであり、搭乗するのが獣士だけに正に獣の如き動作を実現せしめている金導夢兵装だ。それが10機、跳ぶガゼルの如く山腹を目指して発進していく。
「さぁ、決戦ぞっ!!」
その動きを見つつサイワルサーが笑みを浮かべ振り返る。彼女の眼前には搬出口を閉じ、更に浮かび上がってくる巨大過ぎる影。崩れた施設を完全に押しのけ姿を現すそれは、残りの15個の卵と共に間もなく産声を上げる超巨大な巨兵の影であった。




