人類の敵はやっぱり人類!?12
それは一方的な暴力であったと言える。世の中には多勢に無勢という言葉があるが見る限り現状はその言葉に当てはまらず、逆に一騎当千という言葉に相応しい戦闘力を見せ付けたのは魔法少女であるラブリーアイシス。迫る獣士達を彼等の数倍の速度で蹴り飛ばし殴りつけ、襲いかかる武器類はパラディンソードが否応なしに両断していく。その手のつけられない有り様に獣に獣士達が慄いた瞬間、彼等に向かいパラディンソードの切っ先が向けられた。
「ラブリーシューティングスターッ!!」
ソードから打ち出された星の流星群は鋭角的軌道を取りながら建物内を流れ飛ぶ。蜘蛛の子のようにワサッと散り散りに逃走した獣士達を瞬く間に追跡し撃ち落していく流れ星。廊下を駆け抜けた者、階段を駆け下りた者、逆に昇り屋上へと逃げた者、窓から飛び出した者、流星はことごとくを追いたて、撃墜した。その破壊力にある者は壁面を貫き昏倒し、ある者はドアを粉砕し気絶し、ある者は家財に突っ込み破壊し悶絶する。
「お前は何してんのっ!!」
「す、すみませんっ!!ちょっとだけ加減を間違ったんですっ!!」
流星雨によって破壊されていく鉄邸の惨状に正宗の悲壮な声色が響き渡った。同時に顔を青くし謝罪するラブリーアイシス。彼女の手によって鉄邸の被害はより一層酷くなっていた。バリバリに粉砕された階層の窓ガラスに留まらず、至る所に穴が開き、そこに引っかかるようにして獣士達がのびている。
「ラブリーアイシスはー全てが強すぎなんですよー。ですからこういった狭いトコでの戦いは不向きなんですよねー」
「基本脳筋だからポね」
「以前一緒した任務で坑道に生き埋めにされかけましたもの。流石にもう少し力加減というものを覚えた方がよいかと思いますわ」
友軍からの散々な言われように歯軋りを上げるラブリーアイシス。残る獣人達が必死に倒れる仲間を担ぎ上げ、最終的には謎の超臭いガスを置き土産に撒き散らし撤退して行った。兵どもが夢の跡、夜の闇の中ガラスのない窓から雨水が降り注ぐ。転がる破片は家財か建材か、まるで廃墟のような荒れように言葉も出ない。そうして漂うのは鼻を突くような異臭。
「……正直、散々の結果ですわね」
「一体全体ー、彼等はなんだったんでしょーかー??」
ドッと疲れがあふれ出し、溜息しかつけない一同。
「しかし、主犯格は取り押さえたポ。そのあたりは流石と言えるポよ」
体の埃を払って落とすポッコルが、ラブリーアイシスの足の下で倒れている獣人に向けられる。彼は一人だけ周囲とは違いゴージャスそうな衣類に身を包んでいた指揮官らしき人物だ。それに──、
「相変わらずのヤバさポね」
「それには同感です。アレからは何故か逃れられないですから」
ポッコルの独白にラブリーアイシスも同意を示す。見れば正宗の右手の中で泡を吹きながら痙攣している幼女がいる。正宗の腕を何度も三回タップし降参の意を示しているのであるがそのアイアンクローは延々と外れない。
「まー、アレには“必中”と“拘束”の効果がありますからねー。生身で抜けるのは中々難しいですねー」
エルマイールの台詞にフラウニーナとラブリーアイシスが顔を向ける。
「んん??それ、どういうことですの!?」
「アレの正体はー、所謂“スキル”なんですよー」
「スキル!?スキルってあのスキル!?という事は正宗は……」
スキルというのは異世界ではよくある特殊能力のことである。当然にしてこの世界ではありえないものであると考えていた。ともすれば、スキルを持っている正宗の出生はどういうことなのか……ラブリーアイシスが驚愕するのも不思議ではなかった。正宗の出生は他の世界との関係があるのではないか?
「いやー、そのように考えるのは早計でしたー。詳しく調べた結果ですがー、こちらの方々もスキルを持っている方はいるようなのですよー」
スキルはその者が生まれ持って備わった特殊能力、わかりやすく言えば特出した個性だ。本来備わっている能力を、聖力を注ぐ事で活性化し発揮させる。ユメミールでは当たり前のそれもこちらの世界では当然にして持っているだけでは役に立たず、使われない能力などはどんどん退化しスキル保有数も格段に低くなっているという。ただ、修練などによりその特性が肉体に影響を与える、そういったことはあるかもしれないとエルマイールは言う。例えばテニスのトッププレイヤー達などのラケット捌き、或いは一流料理士の包丁捌きなどはもしかしたら剣聖や剣士などの剣スキルの影響により著しく他者より振ったり扱ったりする行為が上達した結果かもしれない、という事であった。所謂才能があるとか天才とかと呼ばれる人々は、そういった使われず眠っているスキルからの恩恵を受けている可能性はあるのかもしれないとエルマイールは言う。
「本来ならこの世界-、絶界域でスキルの効果が発揮されるなどありえないですー。しかしながらわたし達はスキル等を持つ世界の住人でー、こちらの生活環境にも聖力を活用していたりしてますー。更に言いますとマー君は夢生獣と関わりを持ったりと-、こと更理力に関して触れる事が多かった事からその影響を強く受けたようでー……少々変質してますが意図せずアイアンクローをする場合のみー、しかも対象がわたし達のようにこの世界とは関わりのない者限定に対してその効果が発揮されてるようですー」
「──ああぁぁ、逆に私達が変な影響を与えた結果なのか……」
聖力などの理力という強い刺激を受けた為に変貌したのではないかとエルマイールは言う。更に言えば正宗はアルヴァジオンへの登場すら可能としている。その際にも強い影響を受けたとしてもおかしくない考えであった。
「尤もー、もっといろいろ検証してみませんとはっきりとはいえませんがー、少し興味深いですねー」
なぜ異世界の者達には強く影響するのか、エルマイールはそこに興味が尽きなかった。つまりスキルの自在発動の出来る世界から来た彼女達は無意識下でその見えない法則に縛られてしまうのではないか?という仮説の話である。面白そうに笑うエルマイールに対し、ラブリーアイシスはその仮説にショックを隠せないでいた。
(ということは何ですか!?私達が正宗を変貌させてしまったのですか??……うううう無関係の世界の者達に無自覚に影響を与えてしまうなど責任問題……いやいやそれよりも、あのアイアンクローは今後も防御不可という事なのですかっ!!)
責務と嫌な今後の事に頭を悩ませながらも確保した獣人を掴み上げる。
「まぁ正宗のスキル問題は一端横に置いておきましょう」
エルマイールとフラウニーナが寄ってくる中、ラブリーアイシスは獣人の目を覚まさせるべく強く締め上げた。呻き後えをを上げ薄目を開ける獣人。
「さぁ答えなさい、何故ドーベルの獣士がこの絶界域に居るのです??そしてここを狙った本当の目的は何です!?」
凍えるような声色でラブリーアイシスが問い詰める。その迫力と格好がマッチしていない。フリフリを着ながらそんなドスの利いたような脅迫をするビジュアルは実に滑稽であるが、拘束されている獣士にはそんな事を笑い飛ばせる余裕は無い。
「といいますか、この方ドンドン顔色が悪くなっていってますわよ??」
「んーと……あー、これやっぱり聖力欠乏の症状ですねー」
エルマイールの診たてに頷きつつ獣人が口を開く。
「わ、わたしの名はクロノ=タカイオ。お気づきの通りドーベルの末端貴族です。とりあえずマナを……マナを恵んでくれませんか!?」
懇願して這いつくばるドーベル貴族。
「マナ……つまりわたくし達で言う聖力ですわよね??」
「ドーベル人の聖力生成力ではー、この絶界域で生活を営むには支障が出るのですよー。ちょっと待ってて下さいー」
そう言ってエルマイールが席を外す。その間にフラウニーナはクロノへの尋問を進めていく。
「その補完としてこちらにある聖力生成システムを狙ったことは理解できましたわ。ですがどうしてドーベルの獣士方がこの星におりますの??」
「それは……」
クロノは観念してその口を開いていく。サイワルサーにドーベル界の秘宝を盗難された事。そして彼女達界盗一味を追跡していた事。夢生獣が現出したこと。そしてそれに乗じて手柄を上げようとしてサイワルサー達を追跡し続けた事。その結果、絶界域に到達し身動きが取れなくなった事。一時的なマナ供給の末に協力してユメミールの現地拠点の奪取案に協力することを約束した事。そして、サイワルサー達が渡った航路は、先の夢生獣が踏破してきた痕跡を辿ってきた事。
「のわーっ!!こやつペラペラと全部喋りおった……ちょっ!!イタ……し、締め付けがキツくなっておるぞっ!!」
正宗の手の中の幼女が叫び上げたが、途端に締め付けが強くなったのか再び黙ってペシペシペシとタップを繰り出している。しかしそれに意識を払う者はその場には誰もいない。それよりも重要な情報に思考を回しているからである。
「やはり夢生獣が一体この地から離れたということですか。その航路の先がドーベルであった、と」
「そういう事なのでしょー。きっと夢生獣側も一枚岩ではないのでしょーから、ラムダッチャが抜け道を用意していた可能性がありますねー」
「或いはあえて造っておいたという場合も考えられるな、我々がそこに気づき援軍なりを引き入れる、そうすれば接触するであろう我々の存在やこちらの本拠地を炙り出すことも可能だ」
「いずれにせよお母様との情報と合わせればー、夢生獣ラムダッチャがドーベルへ逃げた事は間違いなさそうですねー」
ラブリーアイシスが一瞬視線を獣人貴族へと向ける。
「どちらにせよ彼等獣士達はその穴を通ってこちらに来たという事ですわよね……この事をユメミールへと連絡してはどうですの??」
フラウニーナはその穴を通して支援部隊なりを送れないかと考えているようである。エルマイールは少し思考するが首を振る。
「やはり微妙ですねー。穴がそのままという確証もありませんしー、回廊の出入り口はドーベル界に在るとの事ですから突入となるとドーベル界からとなるでしょー??戦力を通してもらえるかどうかも怪しいところですねー」
「確かに。ドーベルからすれば自界内を支援能力まで完備した大戦力が通ることになるのですから、いい顔をする筈がありません。まして自界で夢生獣が暴れているともなればそんな大戦力そのままそちらの支援に回してくれと言うでしょうね」
「……となりますと、結局のところわたくし達への援軍は無理筋……と考えるべきですわね??」
「でしょうねー。それに他の夢生獣がその期を見逃すという事も考えにくいですしー……大部隊を移動中に回廊内の流れを急変させられたら壊滅は確実ですからー」
エルマイールの言葉に無言で頷くラブリーアイシスとフラウニーナ。その視線が今度は獣人貴族へと向けられる。
「それで、その結果ドーベルへ帰れない聖力欠乏した獣人の傭兵部隊が再度攻勢を仕掛けてくるわけですか??全く、冗談じゃありませんよ……」
「その件も問題ですー。今回わたし達は状況から戦闘を余儀なくされましたー。つまりー……」
「……夢生獣側にもこちらの所在がバレたと、そう考えるべきですわね……」
聖力隠蔽など無視した戦闘を行ったのだ。夢生獣がそれを座視しているとは考え難い。相手は狡猾で且つ、獣のように気配に鋭敏で鼻が効く相手なのだ。
「獣士どもをこっちに取り込むのはどうポ??」
ポッコルが提案を向けてくる。獣士の目的はこの絶界域での聖力確保である。防甲に守られた光丸が生成する聖力を分けさえすればこちら側に引き込める可能性があるのでは??と問うているのだ。
「正直あれだけの数のドーベル人の生命維持となると生成量的に難しいところですねー。そうなれば今度はわたし達にも影響が出るでしょうしー」
「実際の所私達も栄養摂取だけで聖力回復と体力の維持をするのはキツイですからね。聖力生成蓄積装置によって造られた水は聖力を含んでおり、それを飲料する事や入浴などで肌を濡らす事で吸収され取り込む事でかなり回復が活性化されているところもあるんです」
「つまりラブリーアイシス達も聖力に浸かっていたポね??つまり聖飲や聖浴を──」
張り切るポッコルをラブリーアイシスのパラディンソードが一閃した。
「ポポポ……綿が、綿が……」
腹を切り裂かれ白いモコモコを飛び出させたポッコルが必至に縫い針で自身の腹を縫合していく。
「第一、正宗さんが良しとしませんわよ」
フラウニーナが気の毒そうに佇む人影を見る。散乱したガラスに雨に濡れる廊下、そして穴の開いた壁に悪臭を放つ家財。倒壊や焼け落ちたわけではないとはいえ、それは十分惨状といえた。そうした相手を正宗が許すわけが無い。無論、アイシスも頷いた。
「アチラもこちらを排除して奪うつもりなんです、当然にして譲るつもりはありませんっ!!」
「ここは他世界の為なら我を飲んで協力すべきところですわよね??本音はどうなのですの??」
「やっと人の生活が送れるようになって、部屋も色々好きにさせてもらっているんです!!私にだってこの家、あの部屋には愛着がありますっ!!」
ぶっちゃけたラブリーアイシスの物言いにはエルマイールもフラウニーナも苦笑し、それでいて二人とも同意である。ユメミールとドーベルは同盟界ではあるが、ここは絶界域。両世界からは目の届かない僻地中の僻地だ。相手もそれ故に無茶を犯しているのであろうからそれに便乗するつもりである。売られた喧嘩は買うだけだ。
「ドーベルの獣人共が束に掛かろうと、ユメミールの聖士には叶わぬことを証明してやるポッ!!」
腹に縫合跡をつけたポッコルが吼える。
「──さて、それはそうと……」
ラブリーアイシスがゆらりと、
「現状に至るまでの全ての元凶が判明し、それが今手元にいるわけですわよね……」
フラウニーナが聖法具を展開する。猛烈な音を奏で旋回する聖力の刃。
「一体どうしてくれましょーかー……」
そしてエルマイールが符を手にし、事の発端である幼女に視線を向けた。正宗の手の中で拘束されつつも、集中してきた殺気にビクリと身体を震わす幼女。即座にもがき抵抗を見せるが……、
「おのれっ!!なんぞこれっ!!まったくもって拘束が解けぬっ!!助けてたもーっ!!誰ぞーっ!!」
己が欲望の為数多の世界の財宝法術法具を盗む大界盗。彼女の欲により夢生獣は解き放たれ、その為に絶界域の地で血反吐を吐きながら生き抜くこととなった夢聖士達の抱える恨みの想いは計り知れない程であり、その為に家を壊された者の恨みもまた激しい物がある。
「ギャアーッ!!」
児童虐待などが叫ばれる昨今では耳にする事のない甲高い絶叫。それは降りしきる雨の音に掻き消されていくのであった。




