人類の敵はやっぱり人類!?11
予想外の抵抗に自身の手を見る。少し表皮が焦げ、走る痛感を握りこむ。自然と浮かび上がってくるのは不敵な笑み。いかな気を抜いていたとして、大界盗の虚を突き罠にはめて見せたのだ。その手腕には賞賛しかない。
「この世界にあってこれだけの聖力による防御壁、なるほど敵も然る者じゃのう」
だが勝敗は既に着いている。流石にそれ以上の抵抗はないと看破し、彼女は悠々と玄関を潜り敵のテリトリーへと足を進めていく。土足で廊下を進む中、けたたましい破砕が鳴り響いてくる。床に落ち更に砕けるかけら達の音を聞きながら、悠然とその姿を相手に魅せるのだ。
「音に聞けっ!!ワラワこそが世界を股に掛ける大界盗!!サイワル……いかがしたのじゃ??」
声高に登場して魅せれば呆然と立ち尽くしている配下と化した獣人達、と、ぬいぐるみが一体サイワルサーの方を向いた。その表情には困惑というか動揺というか……、
「その……すいません。絶命させてしまいました」
「ふぁああああ~~っ!!」
思わず間抜けな声が出た。
「な、何をしておるっ!!仮にも相手は未開の地の、それも非戦闘員であるぞっ!!殺生はせず確保しろというたでわないかっ!!」
慌てて駆け寄ってみればこの世界の住民は横たわり、盛大に血を鼻と口から吹いて絶命していた。
「何考えてるポッ!!こっちの世界には理力なんてないポよっ!!だのに獣の肉体要素を強く引き継ぐドーベル人の一撃なんて喰らえば一溜まりも無いのは明白ポッ!!」
「いや……これはいいわけになるが、ここまでこちらの者達が脆弱とは思わなかったのだ」
「ど……どうすればよいのじゃ!?回復っ、回復術式使える者はおらぬのかっ!!衛生兵ーっ!!」
ポッコルに詰め寄られ困惑顔を見せる獣人兵。焦るサイワルサーが叫びながら獣人傭兵部隊に顔を向けるが、その中の一人が顔を横に振る。
「それが、回復術式を使用しようにも対象のマナ値がほぼ感じ取れません。ご存知かと思われますが回復術式とは外部から相手のマナを活性化させ回復の促進を促す物ですから……」
聖力や魔力といった理力、ドーベルのモノ達が言うマナなどは基本個人固有のものである。極論術式戦、聖力砲撃戦とは自身の聖力を相手の聖力にぶつけて破壊する事を意味している。つまるところ個体の聖力同士は反発しあうのだ。そのため回復術式とは外から相手の聖力を操り、或いは相手の聖力へと変調させ注ぎ込み回復力を増徴させる事で効果を成しているのだ。その為相手の体力や聖力が一定値より低いとなればあまり効果を成さない。その事から導き出されることは、理力の乏しいこの世界の者には全くと言っていいほど効果を発揮しない、ということになるのだ。
「おお、サイワルサー殿。首尾の方は……え!?」
上階から突入を指揮していた獣人が顔を見せる。横たわる現地人に目をやり、眉をしかめてサイワルサーを見る。
「……殺生はしない方向だったのでは??」
「これは事故っ!!不可抗力の事故なのじゃ!!兵士の者も悪気はなかったのじゃっ!!それで……その、タカイオ卿、こういった場合……どうしたものじゃろう??」
「なんとかするポよっ!!正宗を助けないと……」
一同が息を呑み対策を考えている中、ガラスの割れた窓からその廊下へと飛び込んでくる新たな人影。何事かと一同の視線が集まる中、
「ポッコル、解錠要請っ!!チェンジモードパラディンッ!!」
「解錠要請ー、変身っ!!エルマイールっ!!」
「解錠要請ですわっ!!術式展開、法衣装着、我は世界の護り手なりっ!!」
その声につられ、ポッコルが光の鍵を三つ放ち飛ばす。鍵は即座に彼女達の胸のジュエルへと吸い込まれていく。闇を裂く煌々たる輝き。獣士達が一斉に警戒態勢を取り陣形を固めれば、光の中から現れる三者三様。ビシッとポーズをとり、
「ラブリーアイシスモードパラディン!!愛の名の下に……浄化しますっ!!」
「プリティーエンジェルエルマイール、貴方の夢とハートをお守りしますー」
「ファンシーハートフラウニーナ!!正義と未来の為に、貴方の盾となりますわ!!」
決めポーズと共に現れるファンシー魔法少女達。場違いのフリフリに身を包み、それでいて圧倒的な存在感と共にその姿を──、
「そんな場合じゃないポよっ!!正む──」
「どんな場合でも関係ないですっ!!遊びでこんな格好してるわけじゃないんですよっ!!」
怒鳴りあがるポッコルに叫び返すラブリーアイシス。獣人達は哀れみの目を聖士達へ向けている。
「こ、こう衆人の目に晒されると、何故か途端に恥ずかしく感じてきましたわ」
「あー、いよいよフラちゃんも……はぁー??」
もじもじ身を捩るフラウニーナを余所にエルマイールの視線がポッコルの方へと向けられる。ポッコルは必至に横たわる現地人を指差していた。その姿を見てエルマイールに電流奔る。
「しー、ししし死んでるーっ!!」
獣士達が道を開ける中エルマイールが駆け寄り現地人の容態を確認し始めた。獣士が正宗の動きを封殺する為腹パンした所、それによって内臓破裂やショック症状が起きた為による絶命であった。
「は??はあああああっ!!嘘ですっ!!嘘ですよね正宗っ!!」
「ちょーとっ!!わたくし達の今後はどうなりますのーっ!!」
ラブリーアイシスとフラウニーナも顔を青くしながら駆け寄ってきた。二人とも事の重大さを認識しているようである。
「すまぬ。こちらの手違いでこちらの世界の者に犠牲者が……」
「そういった事ではありませんっ!!あああ貴方達なんて事をしてくれたんですっ!!」
謝罪するサイワルサーに頭を抱え上げるラブリーアイシス。彼女達にとって正宗は文字通り生命線であったのだ。彼の協力なくして一般的な人としての生活……いやいやそれは兎も角、今後の対夢生獣戦を生き抜く事は現実的に見て困難であるのだ。
「詰んだー。わたし達ー、終ったわー……」
エルマイールがガクリと消沈し崩れ落ちる。サイワルサーや獣士達としては何故ここまでユメミールの聖士達が気落ちしているのかが理解できない。
「その、貴女は“糸目魔女”とお見受けしますが──」
「そんな変なあだ名で呼ばないでくださいーっ!!エルマイールっ!!わたしはエルマイールなんですーっ!!」
「も、申し訳ない。聖士エルマイールとお見受けいたしますが、なんら方法はないのですか??」
獣士の中で一人だけ格好の違う貴族のクロノ=タカイオがエルマイールに話しかける。エルマイールは青い顔をしながら首を横に振っている。
「マー君の身体は術式での回復は難しいですしー、こちらの世界での医療技術ではこれだけのダメージを即時回復する手立てはありませんー」
「かなり強い回復薬などはどうでしょう??あれは薬品自体に聖力が宿っているものですから……」
獣人の衛生兵の一言にエルマイールが沈黙する。一考したあと頷きを繰り返し始めた。
「んー、確かに可能性としてはそれが一番高そうですー。塗布する軟膏型でなく内部から回復させる為飲める、しかも陥没して裂傷している破裂部の細胞代用をさせるため患部へ掛けて覆えるジェル系の物の方が最適でしょうねー」
「貴方がた傭兵かドーベルのどこかの部隊、あるいはそこの貴族の私兵ですわよね??どなたか持っていませんの!!」
フラウニーナが獣士達に顔を向けるが、流石に彼等も持って来ていないらしい。そうなると自然にサイワルサーに視線が集中する。彼女はソレ等を受け苦い表情を見せたが、覚悟したように溜息をついて見せた。
(うー……しかし、いや……それでも矜持にはかえられぬか)
彼女は数多くの世界を股に掛けてきた大界盗。流石に何の名乗りも宣言もなく相手……それも一般市民を一方的に殺害したとなってはその名に傷が付く。彼女達はそこらの界賊のように殺戮と略奪の上に立っている無法者とは違うと自負していた。大胆不敵且つ華麗に国や世界の至宝を奪う事にプライドを持っているのである。散々悩んだ挙句、サイワルサーは中空に法陣を展開しその中に手を突っ込んだ。そしてその法陣から一升瓶程の大きさのガラス瓶を取り出してくる。そのビンの中は濃厚な紫色の粘体で満たされていた。
「それは??」
「特級の“エリクサー”じゃ。この際じゃ、使用するがよい」
怪訝そうなラブリーアイシスの問いに返答しつつエリクサーを手渡すサイワルサー。エリクサー……言わずと知れた死者をも蘇らせるといわれる秘薬中の秘薬である。様々な世界の秘宝や秘薬、法具を採集するサイワルサーだからこそ持っていた秘蔵の一品であった。流石にラブリーアイシスもその価値がわかるのか手元の秘薬に息を呑み、それでもそれをエルマイールへと手渡す。エルマイールは興味を丸出しにしながらもそれを受け取ると、エリクサーの封を切って一気に正宗の口へと粘体を瓶の半分ほど流し入れると、残りの半分を患部である腹部へと掛けまわす。すると、掛かった紫色の粘体は波打つように暴れながら体内へと吸収されていくではないか。途端、表面上復活した正宗の腹がボコボコと隆起したりし、全身を痙攣させるように暴れさせ始める。
「押さえ込めっ!!」
ラブリーアイシスとフラウニーナがその身体能力をもって正宗の身体を完全に拘束する。相変わらず正宗の鼻の穴から紫色の液体が飛び出し、戻れば今度は耳から伸び漏れ引いていく。何かに呪われたかのように蠢く姿に獣士達も一歩引き、眉を寄せ視線を逸らしている。
「と、言って使用させてみたものの、本当にこちらの世界の者に効くのかの??」
サイワルサーの首をかしげた疑問符に、エルマイールは頷くことで肯定を示した。
「逆に効きは一段勝ってしまうかと思われますねー。先程言われたとおり薬品自体が強い聖力を帯びてますからー、一見すると内部から聖力侵食で破壊されそうですけれどー、回復薬などは聖力影響が別方向、つまりは回復補助の方へと働く筈なのでーこっちの世界の人には一層強い効果として効能が発揮されるかと思われますー」
ユメミールやドーベルなどの世界の医療とこちらの医療とでは進んできた過程が違う。ユメミールやドーベルでは回復薬や毒消し草、万能薬といったものが主流であり、それによって傷を治癒しているのである。今の正宗のように半分を経口摂取し、半分を患部へと掛けるのだ。そうすることで中と外から、患部へ掛かった粘体や薬草の果肉が損傷部の細胞の代替をし損傷箇所を回復させるのである。その為致命傷に近いダメージも、ある程度の欠損などもかなり早く回復させることが可能であった。しかしその簡易さ故に切開、縫合など外科手術や病気に対する知識は培われてこなかった。ある程度の傷は飲み掛けるだけで治る薬があり、ある程度の症状は飲むだけで改善する万能薬があったからだ。そのため医療技術が育たなくても仕方が無いといえた。だからというわけではないが、今回のケースでは威力を発揮したともいえていた。体内に入ったエリクサーの粘体は損傷した正宗の体細胞の代わりとなり、いや、それこそ正宗の細胞そのものとなって致命傷であった損傷箇所を無かったことのように作り直した。しかしその体内をかき回し作り治す感覚はとてつもない嫌悪感を引き起こすのだ。回復薬などがあるのに回復術式が開発された背景、それは物資の消耗を無くすという意味合いもあるが、ユメミール人やドーベル人がそれを体感したくないから……というのもその一つであった。詰まる所兵士や戦士である彼等も今までに……過去に一度は体験済みだからだ。目を逸らすのは思い出してしまうから……その嫌悪感をっ!!エリクサーともなればそれは別格の嫌悪感である、それこそ、死から呼び戻される程のっ!!
「それより問題はアレルギー反応や拒絶反応でしょうねー」
正宗の様子を伺いながらエルマイールが言う。この世界にはない物質を体内に入れるわけである。こればかりは症例や前例がないわけでエルマイールにも知る術はなかった。肌に触れさせたりとパッチテスト等をしている余裕は一切無かったのだから仕方がない。一同が見守る中、押さえられていた正宗の目がカッと開かれた。その様子にラブリーアイシスとフラウニーナが拘束を解く。すると、
「おおおおおうぇぇぇええええええ……」
その名に違わず、エリクサーを飲んだ正宗が復活すると身を起こし同時に嘔吐する。涙も鼻水も涎も吐瀉物も全開で排出する。その中に余剰分の紫のジェル体も含まれており酷い事となっていた。
「きったないポっ!!」
「ちょっと酷くねーかっ!!……ぅぅぅぅ酷い味だったし腹はなんか違和感あるし、マジ死んだかと思った」
「いや、正直な所暫らく正宗さんは死んでいられましたわ」
「ハ??……マジで死んでたのっ!?……いや、そんな事よりもお腹の違和感が凄いんだけど??」
「ホント凄かったポよ。お腹の中にウツボでも飼っているみたいにボコボコしていたポ」
「……それ何かの幼体が腹を食い破って飛び出してこないよね??」
フラウニーナとポッコルの言葉に復活した現地人が顔を白黒させている間に、サイワルサーは自身の後ろに獣士達を整列させる。
「えー……うっほんっ!!ワラワの言葉は通じておるか??」
その声に正宗達は視線を向け、頷いてみせる。
「よしよし睡眠学習は上手くいったようじゃ。それでは改めて……、ワラワこそは世界を股に掛ける大界賊サイワルサーッ!!いざこの建物を奪わせてもらうぞっ!!」
「お断りだド阿呆がっ!!この餓鬼何をとちくるってやがるっ!!」
瞬く間に迫った現地人の手に額を鷲掴みにされ締め上げられるサイワルサー。
「うごッ、イ、イタイッ!!痛いのじ──」
「お前等もだっ!!何ガラスぶち破って突入してんだ弁償しろっ!!さっさととっ捕まえろラブリーアイシスッ!!自宅警備も出来ねーんならお前追い出すぞっ!!」
途端、動揺する獣人達に必死の顔を浮かべたフリフリの魔法少女の牙が襲い掛かった。




