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顕現っ!!アルヴァジオンッ!!  作者: 当世杞憂
人類の敵はやっぱり人類!?
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人類の敵はやっぱり人類!?9

 空を見上げれば鉛色の雲が覆い、霧のような小雨が降り注がせていた。時雨は冬の到来を知らせてくれる。そんな中、車が通るのも希な道路脇を歩く人影がある。


「正直に言います、寒い」


 身を震わせながらアイシスが言う。残暑をなんとかやり過ごし、やっと訪れたかと思えた穏やかな秋の気温も一転、昨日から一気に冷え込み肌寒さを感じさせている。残念な事に吹く風に凍え上がる程度に、彼女の衣服も厚くなかった。


「暑かったかと思えば今度は寒いとかー、まったくもってどんだけ気候が変わるんですかーこの国わーっ!!」

「巡る季節に合わせて衣服も変えねばなりませんのね。思わぬ出費ですわ」


 憤るエルマとは違い、家計を預かるフラウニとしては頭を抱える問題である。今三人は揃って冬物の買い物に出かけていた。星の生命力を変調し聖力化、それをさらに電力化することで鉄家の電気代や水道代は激減した。しかしながら衣類は当然にして必要であり、下着や肌着は兎も角上着や羽織りものまで年中を通して着るというわけにはいかない。保温性に富んだダッフルコートを夏に着るのは死の覚悟が必要だし、霙が降る中短パンにサンダルという出で立ちでは身が凍る。ともなれば衣類の購入は必須、ということで買い出しに出向いているのだ。


「とはいえー、もうちょっとこう……どうにかならなかったんですかー??」

「どう??とは、一体何の事を言ってますの??」


 訝しげそうな顔をするフラウニにエルマが悔しそうに空中を掻きむしる。


「予算ー、予算の話ですよーっ!!三人分でこんな低予算なんてー!!せめてこーモールとかに入ってるショップとかにですねー……」

「エルマの言うですよフラウニ、買うからにはやはり良いものを買うべきだと私も思います。価格の高い物とはそれだけ良い素材や造りをしているものです。物の本当の価値や良さと言った──」

「ぐだぐだと何言っていますのっ!!ショップやブティックなんて持っての外、低価格帯のアパレル量販店でも想定外の出費なんですわよっ!!」


 衣類一着に万を出すなど論外とばかりにフラウニが怒声を上げる。ブランドやデザイン、素材や造りだなどこの際どうでもいい。三人分も衣服を買うとなればそれなりの出費が掛かってしまう。セール品などで安くても数を揃えた方が代えがきくし組み合わせも増やせると現状のフラウニ達には最適解に近い買い方なのだ。


「わたくしだって良い物着たいのにっ!!予算が……そして状況がそれを許さないんですのよっ!!高い物がいいだとか良い物を知れとかっ!!まだ貴族感覚抜けきってませんのっ!!」

「あ、いや、…………すみません、もう文句は言わないです」


 血管が切れそうになっているフラウニの表情を見てアイシスとエルマは言葉を引っ込めた。傘をさしながら進む三人はそんな風に騒ぎながらも足を進めていく。山道を降り少し歩けば住宅街へと入っていく。そのまま進んで主要道路へとでればメジャーアパレル量販店の地域店舗がたっているのだ。彼女達の住まう周囲は街外れということもあり、歩道にも人影は見当たらない。裏の抜け道の道路という事でも無いため車道にも自動車の姿もまたなかった。──それはつまり、目撃者がほぼ皆無ということである。


「っ!!」


 アイシスとフラウニが即座に反応する。周囲へと隙無く警戒する視線を飛ばすフラウニに対し、アイシスはビニール傘を放り投げ開いた手を一閃する。手にしたパラディンソードで飛翔してきた物を粉砕するも、息する間もなく乱雑な軌道を描き迫る第二波をその返す剣で粉ごなに切り飛ばした。


「思考誘導性のある弓撃っ!?」


 破壊した飛翔体を視界の隅にアイシスの警戒度が一気に上がる。それは明らかにこの世界の物ではない。間を置く暇すらなく三度目の矢の群れが這うようにアイシス達を狙い、飛ぶ。あえてタイミングのズラされた高速の矢が一斉に、多方向から襲い掛かる。


「敵襲!?一体なんですのっ!!」


 その事に即座にフラウニも法具を召喚、聖力を注ぎけたたましい音を鳴らすチェーンソーを振り抜いた。アイシスも剣を振りそれら全てを迎撃してみせる二人。その影から、


「そこですーっ!!」


 間延びした声のエルマが符を投擲した。淡い光を放つ符は尾を曳き茂みの中へと吸い込まれれ破裂する。飛び散ったインクを浴びたかの如く、突如現れた輝きを放つ人型へと向かいフラウニが聖力の刃をガトリングガンのように撃ち込んでいく。


「あっ!!フラウニ、人命第一で」

「アイシスさん、そういう事はもう少し早く指摘して欲しかったですわ……」


 もし仮にこの世界の人類だった場合、命を奪ったともなれば大問題だ。ともなれば大々的な注目を集める事となり、捜査なども手広く行われるであろうからアイシス達としても活動がしにくくなる。


「っ!!」


 しかしその着弾よりも一瞬早く、飛び出してきた光のペイントと透過を纏った数々の揺らぎ。


「……貴方達、何者です!!」


 人の姿をした揺らぎは透過し、しかしその景色を歪ませながら蠢いて来る。その数にして二十は越えるであろう。アイシスの問いに答えるわけもなく、一気に間合いをつめてくる揺らぎ達、いや、アイシスの右手側の者達が一瞬速い動きをみせた。


「っ、ちっ!!」


 それはフェイント。注意を引いたその揺らぎ達とは反対の揺らぎ達が、その間に襲い掛かる。アイシスが不可視の一撃を火花と共にパラディンソードでいなせば、波状的に襲い掛かってくる揺らぎ達へと応戦する。迎撃する度に散る火花、間違いなく相手方は武器による攻撃を仕掛けてきている。


「アイシスさんっ!!」


 フラウニが素早く動き、流動的にアイシスと立ち位置が入れ替わった。押し込んできた揺らぎ達を彼女の攻勢が押し戻す。


「フラウニッ!!相手の得物の間合いを見誤らないことっ!!」

「言われなくともわかっておりますわっ!!」


 矢次に迫る揺らぎ達の挟撃を弾き投げ飛ばし、攻撃をいなし蹴りつけ、同時攻撃されないよう様立ち回りながら各個撃破対応していくアイシスとフラウニ。その二人の目掛け放たれるのは距離を取って潜んでいる別働隊の敵の弓撃。襲い掛かる揺らぎ達の合間を踊るように通り抜け、確実にアイシス達の急所にだけ狙いを着け飛来してくる。死角から迫るそれ等すらも砕き落とし、流麗な殺陣のようにアイシス達二人が攻勢を凌ぎきってみせれば揺らぎ達にも動揺の気配が見てとれた。近接と同時に襲い掛かる遠距離攻撃、それ等を完封されては致し方もないというもの。


「光学迷彩??とかいうヤツですか??」

「いよいよこちらの軍隊にも、目をつけられたということですのね??」


 アイシスとフラウニは周囲を警戒しつつ牽制する。背景に溶けている様な揺らぎ達の姿は実に捉え辛い。しかしそれでも防ぎきって隙を魅せない二人の力量に、揺らぎを纏っている者達も動揺しているようであった。


「透明になる迷彩ですかー??ならこちらの世界の軍隊ということは多分ありませんねー」


 アイシスとフラウニの後ろからエルマが言う。光学迷彩という技術はまだ実戦配備に至る程にまで成熟していないはずである。二人が意識だけをエルマへと向ければ、彼女はその間に符を取り出し空へと投げ周囲一体に特殊な波動を生み出した。波が一瞬で広がりを見せれば揺らぎが一瞬、無作為な模様へと移り変わる。それらが示す事柄をエルマの目は明瞭にデータとして見極めている。


「こちらの波動への反応と反射してくるその数値ー、特徴的な透過迷彩仕様ー、導き出されるのは“ドーベルの環境擬態スーツ”ですねーっ!!」


 間髪いれずにエルマがもう一枚符を投げ飛ばし、先程とは違う色の波動が放たれると剥がれ落ちるように揺らぎが霧散して人影を白日の下へとさらけ出させていく。頭部に見える特徴的な聴覚器官に尾骨部より生えて揺れている尾っぽ。正宗が見たのならこう呟くはずである、「獣人」と。獣の特徴を色濃く残しながらもコンバットスーツのような仰々しい服装に身を包んだ人類種であった。


「ドーベルの獣士達ですかっ!!」

「一体全体、どういうおつもりなのでしょうね」


 アイシスが驚愕しながら吠え、フラウニが探るように洩らす。ドーベルといえば世界間連合に加盟している世界であり、ユメミールとの同盟を結んでいる世界でもあるからだ。つまり今彼等がとっている戦闘行為は明らかな同盟条約違反行為であると言えるのだ。


「擬態術式が完全に機能不全を起こしている……クソッ!!ユメミールの“糸目魔女”めっ!!」

「“聖士に法衣を着させるな”……か。生身ですら此方の戦闘能力を凌駕しているぞ」


 自分達の姿が丸見えになった事で彼等も焦りを隠せないでいた。しかし、それはアイシス側にも言える事であった。


「い……糸目魔女ってなんですかーっ!!わたしドーベルでそんな風に言われているんですかーっ!!」


 顔を青くするエルマだが、アイシス達の視線は冷たい。


「いや、ユメミールの方々も結構おっしゃってますわよ??」

「流石に本人の前では言えませんし、世間の陰口に蓋など出来ませんから」

「ひどーっ!!それじゃわたしは周囲にそんなふうにいわれてると知らずにこれまでのほほんと過ごしていたわけですかーっ!?」


 アイシスとフラウニは顔を見合わせると、頷きで返した。ガックリと崩れ落ちるエルマ。


「エルマさんの知識と術式技術に恐れ戦いてついた“通り名”みたいなものですから気にする事はありませんわ」


 落ち込むエルマを気遣うフラウニだが、その横でアイシスも震え始めている。


「ちょっと待って下さい!!相手がドーベルということは、私は同盟界の戦士達を蹴り飛ばしたわけですかっ!!せ、世界間問題になるんじゃありませんかっ!!」

「え??ちょっと……アイシスさん??いまさらそこですのっ!?」

「せ……世界間問題ともなれば重罪、夢聖士の資格剥奪に投獄に尋問、どう足掻いても詰問はさけられません……」


 戸惑うフラウニを余所に生まれたての子馬のように足腰をガクガクさせていくアイシス。


「もう嫌ですっ!!なんで一生懸命働いた先に詰問と収監が待っているんですっ!!私はただ食っちゃ寝して過ごしたいだけなんですよぉぉ!!」

「壮絶なまでにダメ人間じゃないですのっ!!あーもーっ!!これはあちら側から仕掛けてきたのですから問題なんてありませんわっ!!正当防衛、こちらは正当防衛ですので非はあちらの方にあるんですわ!!」


 そうして一歩前に出るとフラウニは相手にチェーンソーを向けた。


「そ、れ、でっ!!どうしてドーベルの獣士の方々がわたくし達に仇しますの!?事と次第によっては実力を持って排除させて頂きますわっ!!」

「……問答無用、我々も座して死を待つわけにはいかんのだっ!!覚悟しろユメミールの聖士っ!!」


 フラウニの気迫に殺気で返すドーベルの戦士。さすれば一斉に周囲の獣士達も殺気を放ち、武器を構え直せば途端に場を緊張が支配する。一歩も引かぬ姿勢を見せる彼等の姿にアイシス達も何かを察する事が出来た。


「成る程、貴方がたも切迫した状況にある……と。その顔色、発汗、消耗具合、さしずめ聖力欠乏症といったところですわね??」

「ドーベル人は特に肉体活性で聖力を消耗しますからねー、聖力回復が追いついていないのでしょー。つまり狙いは家の光丸と防こ──」

「そんな恥ずかしい名称口にしないっ!!聖力生成蓄積装置でしょうっ!!」


 一瞬獣士達の中の男性陣の視線が自身の下半身に向くがそれも束の間、


「やはりっ!!所有しているのだなっ!!」


 フラウニ達が勝手に推理し解答を導き出した結果、叫んだアイシスの台詞に獣士達の目の色が変わる。


「「「…………」」」


 三人が視線を交わし「墓穴を掘った」と顔を青くする。とんだ失態であり正宗に知れたらどうなることか解からない。


「な、なんのことでしょうか??」

「今更とぼけるのか脳筋魔じ──」


 指揮官らしき獣人が言い終える前にアイシスの飛び膝がその顎を抉った。眼にも留まらぬ早業にドーベルの獣士達も唖然とし、あっけに取られている。指揮官が沈み落ち、一拍置いて混沌とした乱戦が再開された。


「口火を切ってどうなさいますのっ!!」

「しかしダイキス家としてあのような不名誉な通り名で呼ばれるのは心外に他なりませんっ!!」

「ヒーヒッヒッ!!アイちゃんも散々な通り名持ってるんじゃないですかーっ!!人の事言えませんねー!!」


 獣の如きスピードと連携を見せる獣士達の猛攻を捌く三人。アイシスがパラディンソードで薙ぎ払えば、フラウニが聖力の弾を撃ちつける。エルマが合気のように投げ飛ばせば符を展開し相手の術式を潰して見せた。


「こうなると我々王位継承権を持っている聖士達にはそれらしい名がついていると見るべきですね」


 アイシスが視線を動かせば、エルマも同じようにしてフラウニを見る。嫌な顔をするフラウニを余所に、手元で捻り上げている獣士にキツイ言葉で問いただした。


「そこ、答えなさいっ!!フラウニ=ベルクーダには何か通名はないのですかっ!!」

「ろ……違和感年齢詐称ぐえっ!!」


 言い終える前にフラウニのかかとが脳天に落ち昏倒する獣士。下衆いアイシスとエルマの笑みを無視しつつ、フラウニの視線は顔を歪めはいつくばっている獣士達を一瞥する。フラウニからの怒気を感じ取ったのか、頭を軽く振ると彼等は笑う膝を押さえ込みなんとか立ち上がってみせた。


「……くそ、戦闘力が違いすぎる。撤退だっ!!」

「させると……ぎャっ!!」


 指令を出す獣士の合図で各獣士も即座に逃げの姿勢をみせた。アイシスは即座に反応し指揮官の取り押さえに動いたのだが一歩遅い。獣士達がコンバットスーツの紐を一気に引けば、強烈な煙幕が周囲に散布され一面を黄色に染め上げる。その猛烈な刺激臭と視覚への刺激に流石のアイシスも堪らず身じろぎする。咽あがるような煙に咄嗟に後退しその領域外へと飛び出る三人。


「これはー獣士達の逃避用兵装の一つ……オェェエエ」


 エルマがあまりの臭気にもんどりうつ。動物界では分泌液や棘、はたまた毒を用いて身を護ったり獲物を捕らえたりするものがいる。進化の先に獣人となった彼等にもその器官や特性の名残はあり、研究しそして発展させてきたのだ。獣士達が用いた散布ガスもその一つであり、強烈な臭気と催涙効果のある煙幕ガスを周囲一体に撒き散らす。逃走や突入時に使用する特殊ガスであった。視界を奪いつつ、衣服へと吸着させることで持続効果を高く保つこのガス下では、耐性のない者達が通常時同様に活動するなど不可能に近い。


「ぐぅ……このガス毒性は!?」

「痙攣を起こす神経毒が含まれてますー、急いでこれをーっ!!」


 苦悶するアイシスへエルマは丸薬を投げつけた。同じく丸薬を受け取り口にするフラウニ。しかし三人とも堪らず路上ストリップを開始する。我先にと下着姿になると転がるように煙幕から距離をとった。


「この雨の中でも全然臭いが落ちませんわっ!!おかげで着ていた衣類がパーですっ!!想定外に想定外を重ねた損失ですわっ!!」

「寒いっ!!寒すぎますっ!!下着姿で雨ざらしとか踏んだり蹴ったりですっ!!」


 愚痴りながらも警戒を強めるが、獣士達の気配は一切感じられなくなっていた。


「……本当に退いた??」

「一体あいつらの目的はなんだったんですのっ!?」

「散々言ってたじゃないですかーっ!!不味いですよー、今家にはー……」


 エルマの言葉にアイシスもフラウニも顔を上げる。雨の降る視界の中に、上へと向かう山道が見えていた。

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