人類の敵はやっぱり人類!?6
どこで選択肢を間違ったのであろうか??そう自分に自問し続ける。取れるべき手段、選ぶべき道筋は他に幾らでもあったであろう。必死に最善を目指した結果、辿り着いた先が地獄のようであったのでは後悔しかない。元々今回の始まりは自身にとっては重石でしかなかったのだ。血筋による家督の継承はどの世界にもある話ではないであろうか??富み栄えた利益を護るため、或いはそこからの更なる飛躍を目指し自身の血族にその利権を受け継がせていくのである。そうした世襲の中で、自分に残された物が名ばかりの貴族階級だけであっても全く以外ではないであろう。かつて先祖は積み上げた実績から貴族へと選ばれ、その血脈として其れを継いできた。しかしながら、先祖か優秀であったからと言ってその血脈、子孫まで優秀であるとは限らないのもまた事実なのだ。中には傑出し、先祖以上の功績を挙げる者も居るのであろうが、得てして自分はその枠には当てはまらず、親達もそれに当てはまらなかった。ただただその受け継がれていく栄光や利権をすり潰し、残ったのは貴族であるという肩書きだけ。しかし、貴族であれば責務もつきまとってくるのが世の常という物。それが重荷で押し潰されそうになりながら生きてきた。そんな中巡ってきた逃れられない新たな責務の話。その地位に、貴族位に見合うよう決意し、努力した結果が――コレだ。
「正直もうこれ以上持ちそうも無い。一刻も早く帰還し、ヤツ等の逃げた先、この地のポイントを本隊に知らせるべきだっ!!」
「だからこちらも言っているでしょう!!船体の損傷が激しすぎて再度潜界するなど自殺行為に等しい状態なのですよ!!よしんば潜界できたとして、再びあの荒れている航路内をドーベルまで航行するなど不可能と言っていいっ!!」
「では座してこのままマナ切れを待てというのかっ!!」
「少しでも生きながらえるにはそれしかないと言っているのですっ!!万に一つだが救援部隊が来てくれるかもしれない。マナの漏洩を出来うる限り抑えて体力と共に温存し、食事をできるだけとって静養していればかなりの期間堪え忍ぶことは出来る筈」
鋭い眼光を向けてくる傭兵に負けじと意思を込め反論する。傭兵は口惜しそうに顔を歪めながらも考慮思案する方向へと移ったようである。
「……食事をとった所で思った以上にマナが回復しない。正直絶界域というものがこれ程とは想定外であった」
「やはり深追いせず、一旦帰還すべきだでしたな。しかし絶界域の環境を軽視し、追跡の強行の案を押し通したのは貴殿達だっ!!」
「ではあのまま引き換えしたとして、夢生獣との戦闘の場に戻れば良かったというのか??あんな怪物と、それこそ寄せ集めの戦力である我々が再び相対していたら今すらなかったではないかっ!!」
「それは……そうなのですが……」
傭兵達としては夢生獣相手に戦闘を挑むなど御免こうむりたかったのである。もし、界賊を追撃せずに引き返していたのなら、貴族である自身を含めその戦いに駆り出されたであろう事は想像に難しくない。そうなっていたら傭兵を雇っての仮初めの艦など即轟沈していた事であろう。しかし、だからと言って無謀な絶界域への追撃と遭難に巻き込まれたのでは堪った物ではなかった。少しは愚痴も言いたくなるのも当然であるが、傭兵達からすれば自分達の判断と行動を責められているのも当然で、実際面白くないらしく実に不愉快そうな顔を浮かべていた。
「しかしこの結果はタカイオ卿も納得しての事だろうっ!!あの時あの界賊共を追えるのは確かにこの艦だけだった。先遣隊は壊滅混乱し、ドーベル本隊は夢生獣と戦闘に入っていた。闘いの終結を待っていては界賊共の痕跡は残っていまい。そうなっては到底に潜伏先を掴めるとは思えない。故に、この情報を持ち帰れば我々は一躍英雄となれる。……タカイオ卿とて貴族としての勤めを全う出来る、違いますかな??」
それはクロノ=タカイオにとっては確かに喉から出るような栄誉であった。そうすれば名ばかりであった貴族としての役目としては十分であったのである。もはや没落し、廃れた世界間潜界航行艦を一隻有するだけのタカイオ家であったのだ。界賊が秘宝を強奪し、それを捕縛せよとの王命が発せられた事で再び貴族としての役割を負う事となってしまった。なけなしの金を集め艦を整備し傭兵を雇い入れ、何とかはせ参じたまではいものの所詮は旧式の艦艇。新鋭艦達の速度について行けず、先遣隊ながら先陣から少し遅れてしまったのも事実である。勢いのある貴族達が声高に鬨の声を上げ、逃げる界賊を捕縛すべく新鋭艦で追い立てていくのを苦い思いで見送っていたのだ。だが、それが逆に幸運であったというのも事実なのだろう。突如現れた怪物に先陣は壊滅状態に陥り、遅れていた為にタカイオ家の艦はその被害を最小で免れたのだ。混乱混迷する戦場の中、界賊達が悠々と去っていくのを確認したタカイオ艦内は、味方の救助をすべきか賊を追うべきかで意見が割れた。とりあえず周囲の生存艦の救援と、救護とその界域に散乱した物資の回収に奔走する。その間に意思決定として味方を救出し本隊に戻るべきだとクロノは主張した。しかし今引き返せば夢生獣と本体との戦闘に巻き込まれる事、そしてこの混乱の中界賊を追える艦は自身達だけである事を傭兵達は進言し、名ばかりの貴族より現場の判断に富んだ傭兵達の意見を渋々飲み込んだ結果がこの結末だったのだ。救護した人員を他の僚艦に預け、無傷に近かったタカイオ艦が行き着いた先が絶界域であったのは当然にして想定外。
「それでも、その欲に駆られて命を落としては出世も糞もありませんな。最早こうなってしまったのだから、たらればを言っても始まりません。出来うる対策として兎に角節制し、ただただ助けを待つ以外方法はないでしょうが」
タカイオのその問いに傭兵は振り返り、床で項垂れている自分の部下達を見下ろした。広くは無い艦内の通路一杯に幾人もの人影が横たわり荒い息をついている。顔色も悪く、倦怠感が色濃く表れているその表情からも明らかなマナ欠乏の症状を見てとれた。
「しかし、我々とてこうなのだ。あの界賊共も同じとなっていると考えるののが普通ではないか??」
「それはどうかと、秘宝艦に絶界域で生存可能となるような機能があった話は聞いた事はありません。ですがあえてこの地を目指したと言う事であれば、何かしらの対策があったと考えるべきです」
界賊の通った航跡を追い、進み続けた結果辿り着いた別世界であるのは確かなのだ。だが、たどり着くまでに荒れた航路内で負ったダメージ、そしてそこの特殊性に一気に艦の制御を失い墜落するような形で近郊の惑星にタカイオ艦は落下したのである。その特殊性とは絶界域特有の物である無マナ地帯ゆえのマナ欠乏であった。艦の操艦は全て搭乗員のマナで制御されている。それは主機関出力にも及ぶことであり、その制御と出力を担っていた搭乗員達のマナが急減したとなれば制御不能となるのは目に見えて明らかであった。小型とはいえ巨大な艦の制御には多量のマナ制御が必要であり、艦船制御を行っていた者達はそのフィードバックを受け瞬く間にマナを吹き飛ばされてしまった。お陰で界賊達も見失い、現状自分達が何処にいるのかも解らない状況に陥る羽目と成ってしまったのだ。墜落した先で艦の損傷や修理の有無の確認、落下点周辺の環境調査、喪失した界賊の足取りを探る等の部隊を展開させた結果、ものの見事に数日でその者達の大半がマナ欠乏の症状を訴え、皆動けなくなっていったのである。
「幸いにしてこの周辺域には魔物の類は居ないようだが、大気中、水、生息している獣、植物や果実などにおいてもマナが殆ど含まれていない。これでは食事として摂取したところでマナ回復に至れない」
「それでも何かしらの栄養はある筈。ともなればあとは各個人の体力、マナ生成力だけが頼みとなりましょう。ここは危険ではありますが、マナ浪費する兵装や術式の使用は制限するべきではありませんか??」
クロノの言い分に傭兵は渋る顔をしたが、背に腹は代えられないのか結局折れることにしたようであった。彼等の装備や道具はマナ使用を前提として造られた物である為、なにをするのにもマナを浪費してしまうのだ。数日で身動きすら出来なくなってしまったのはその為でもある。特に警戒に当たっていた者達など常時マナ消費する防御術式を施された防御服などを纏っていたものだから当たり前と言えば当たり前と言えたのだが、それでも危険かもわからない領域でそれを脱ぐ事には躊躇いが生じていたのだ。
「それで界賊達の足取りは??何か痕跡はあったのですか??」
「それがさっぱりでしてな。探しては見たものの今のところ手がかりすらありませんな」
「ではこちらの船体のカモフラージュは??」
「周囲は起伏が激しく船体は上手く隠れていると言えます。原始的ではありますが木や草で偽装はして見せました、しかしどれだけ有効かは甚だ疑問が残るところです。なんと言っても術式を主軸に考えていましたからな……タカイオ卿の言う通り術式の使用を止めるとなるともう少し丁寧にやっておいた方が良さそうです。ま、偽装術式を使い続けるとしたら確かに全員潰れる状況ですが」
「苦労をかけますね」
「かまいません、これも仕事です。それにこの辺りの木々は脆いですからな、枝木を切っての偽装程度ならなんとでもなるでしょうよ」
「ほかには何か??」
「そうですな……いるのか解らないですが、原住民とは接触してませんな。とはいっても我々もそこまで遠くまで見回ったわけではないですが」
流石は傭兵を取りまとめる隊長という所か、やる事はしっかりとこなしていたようである。
「しかしタカイオ卿はさっきじっと待つべきだと言っていましたが、何故賊の足取りを??」
「出来るだけ動かないでじっとしていた方が良いと考えているのは事実ですが、もし隊長の仰った通り界賊側も私達と同じ状況であるなら協力できるかも知れないではないですか。それに先程申した通り彼等にはこの状況に対処する術があった為にこの世界に逃げ込んだという可能性があります。そう考えるのは妥当でしょう??」
「……成る程、彼等との共闘もやむなし、或いはその手段の供与や奪取も念頭に置いておく……と??」
傭兵の問いに頷きで返す。出来うる限りは温存に温存を重ねる。だが、それではジリ貧なのも事実であり、なんらかの別な手段などアンテナは常に張り巡らせておかねば破綻するのは確実なのだ。救助し預けた者達から伝わり後続隊なり救助隊なりが来てくれれば話は別だが、残念ながら夢生獣が現界した以上、ドーベルはそちらへの対応で忙しく救援どころではないであろう。
「よく耐えてくれましたがこの艦はもう限界、つまる所我々には自力でこの界域から脱出する手段すらないといえましょう。堪え忍ぶことが基本ですが、助けが来るのをただ待つというのも楽観視しすぎですし、それまで持つ筈がありません。なんとしても別の手段を模索致しませんと……」
全滅するのは目に見えている。クロノの言い分に傭兵も納得を示す。確かにどれだけ耐えればいいのかは彼等には判らない。だが、現実に絶望だけしているわけにもいかないのは確かなのだ。それは絶界域にある彼等の知らない世界の知らない星、中国と呼ばれる国の山深くにある森の中の出来事であった。




