人類の敵はやっぱり人類!?5
無心になってページをめくっていく。そこには無限の可能性と世界が広がっている。広い海原に眠る大秘宝を探す旅に出る若者、強いヤツに会いに行く武闘家、果ては麻雀で地獄を巡る権力者、物によってはおっさんがただ食事しているだけのものもある。だがそれ等にはそれの数だけそこに物語がありキャラクター達の数だけの人生が詰まっている。彼等の話を第三者視点で眺めていると言っていい。ストーリーに混じる複線、戦いの場の臨場感とスピード感、スポーツにおける一瞬の心理戦、笑わせる為にひねられたギャグやネタの数々。それらを書き手が意図を持ち、構図をひねって、より魅せる効果を模索して、表現してみせるもの、漫画。
「違いますっ!!この際ストーリーなんてどうでもいいんですっ!!このコマを見て下さいっ!!人が空を飛んで気功波を撃っているっ!!このイメージを脳裏に焼き付けるのですっ!!」
正宗が仏頂面を上げれば、真剣な顔のアイシスの顔がある。溜息と共に再び視線を落とせば手にした漫画が目に入る。現実とは思えない、現実ではありえない世界が描かれ、その中でキャラクター達が闘っていた。
「目覚めた力で不当解雇してきたパーティーを蹴散らちますっ!!婚約破棄された直前前世の記憶が戻りその知識で化粧品や医療、生活用品の開発という技術無双をしてイケメンで優しい真のパートナーを射止めます!!やりこんでいたゲームの知識でそれと似た世界で無双します!!前世ではニートだったのに生まれ変わった世界で得たチートスキルで成り上がります!!どれも楽しく爽快な話ですか今の貴方には話の内容自体は必要ありませんっ!!今っ、貴方に本当に必要なのはよりイメージですっ!!刀を振るって火や水や雷で相手を滅却する姿っ!!この肉体的性質を利用して伸びる手足で活躍するこの姿ですっ!!」
様々な漫画が机の上に積まれ、正宗はアイシスに延々と読まさせられているのだ──その戦闘シーンのみを。正宗とて漫画も読めばアニメも見る。しかし無理矢理長時間、強制的に読ませられては嫌にもなるというもの。しかも話の筋は横に置いておき、戦闘描写のみともなれば面白くも何ともない。続きが気になったとて、読まさせてくれないのだ。
「あのなお前等。これ、意味あんのか??」
流石に疲れてきた正宗が愚痴を漏らす。そんな正宗を見てエルマは真面目に頷いてみせるのだ。
「マー君はなまじ現実を直視し過ぎますからねー。そのせいでいまいちアルヴァジオンちゃんの真価を発揮できていないところがあるんですよー」
「不可能なことも可能とする、夢生獣が十八番とする攻撃法ですし、またこれこそがそれ等に対する一番の防御方ともいえるのですわ。その根幹になるのがより鮮明、明瞭なイメージですの。これらの作業はそれを容易にするための訓練なのですわ」
エルマに補足するようにフラウニも続き漫画を追加してきた。周囲の環境や生き物等を自分色に変質させるとか、陸地を海のように液状化したり海の底に沈めるとか、超巨大な隕石を出現させ落としてくるとか、光速で地表を走ってみせるとか……馬鹿げたこと、あり得ない行為もそこでは当たり前と出来るのが“夢の世界”なのだ。そこでモノを言うのが“イメージ力”なのだ。夢であるからこそ、妄想、空想、願望、それらが非常に重要となり、それ等を形とするのにその情景を鮮明に思い描く力が必要となるのである。そうして初めて想像は創造となる。想像した姿や情景を再現させようと、夢が夢であることをいいことにあらゆることを形と成し可能とさせるのだ。
「常識に縛られてしまいますとそのイメージを強く持つことがし難くなります。そこでこうして様々な情景、不可思議を画像や映像で見る事で明瞭にイメージしやすくするのですわ」
そう言った意味で漫画やアニメという素材は実に優秀な教材なのであるのだ。それ等が溢れるこの日本と言う環境は、イメージ力を高めるのには良い環境であると言えていた。
「漫画にアニメに小説にと、実に多彩で想像性豊かな作品に溢れてますから。ユメミールでは伝承や英雄譚はありますがこういった嗜好に富んだ物語は発展することはなかったですから、私達には物珍しい物なのです」
アイシスはコミック本を感慨深そうに持ちながらそう語る。その一言に正宗も興味を示した。
「じゃあユメミールには本や雑誌ってのは殆どないのか??」
「んー主に歴史書や記録書などが殆どですねー。大昔に政治批判や危険思想の流布のために悪用されー、それが規制された以降廃れていったといった方が正しいですかねー。純文学や思想観念等も流行らずー、本はもっぱら教科書や資料-、芸術における画集などのためにあるようになっていきましたー」
「宗教観念からしてこの国の何でも取り入れる懐具合は少々恐怖を覚えてしまいますわ。他宗教の催し物を取り入れるなど、国や世界によっては邪教の慣わしを正当化する行為に他ならないんですわよ」
(クリスマスを祝った数日後には除夜の鐘付きに初詣だものな。他にもバレンタインやハロウィン、イースター祭等節操ないからな……)
呆れ混じりの視線を受ける正宗だが、そう言われると肩身が狭い。神道の懐が広いと言えばそれまでなのだが、敗戦し復興していく中で日本は貪欲に様々な観念や文化を取り入れていった。それら多種多様な刺激は、近代文学を経てより一般人へと浸透しやすい漫画へと、そして遂にはアニメへ、そして様々なサブカルチャーへと影響を与えてきたのだ。焼け野原から都市を再建させるように、ゼロ地点からオリジナルの物語を模索するという先人達の努力と苦悩が窺い知れ、それは今も“より独創的な作品作り”をすべく新たな作家達の中に根付いているといえる。他者とは違い、それでいて面白く魅力的な作品を創り出す。そのためにストーリーを、画力を、構図を、キャラクターを、設定を、テンポを、視線誘導を、特殊効果を、経験と技術、努力と忍耐と時間、様々を駆使して自身の世界を世に生み出すのである。彼等の研鑽の賜物として、現在の日本の漫画やアニメの文化は世界に誇れるものにまで至っている。
「ですからー、これらの日本の文化は実に変幻自在で千変万化ー、参考にするのにはもってこいなのですよー」
エルマが言うに、漫画故に突拍子もないことを平然と劇中で行っており、それを“絵”にしているが故にどのようになっているのか一目で解るのが良いらしい。刀の斬撃が飛んだ、手から光線が出た、姿が怪物になった、星が割れた、それは幻術だった、起こっている物事が画像や映像として容易に認識できる。
「つまる所、これらをベースとすればイメージしし易いでしょう??」
「まぁ、確かにそうなんだが……」
そう言うアイシスに次の単行本を渡され、正宗は仕方なくそれを受け取った。確かに「お前空を飛んでみろ」と言われたらどうすべきかイメージし難い。両手を広げ鳥のように羽ばたくのだろうか??その時足は駆け足のようにバタバタするのか??だが、手の中にある単行本のように、顎を上げまるで起立しているかの如く姿勢をただして目的地に飛翔していく……このような模倣しやすい手引きが頭の片隅にあるのなら、そのようにやってみようとイメージできるわけである。そしてそのイメージを実現してみせるのが夢の世界なのだ。
「これはー、そーいったイメージの補強の為の訓練なのですー。ほらー、このアニメを見て下さいーっ!!」
エルマに即されて今度はテレビに映したアニメを見せらる正宗。そこには地球に落とされようとする隕石を、主人公達が必死にロボットで押し返そうとする映像が映し出されていた。
「これなどはこの間の隕石落としの時など参考となった筈ですー。ロボットで落ちてきた隕石を押し返すのですー。この場合のようにー、隕石が落ちてきても受け止めれば謎の光につつまれて隕石が逸れるんだー……とイメージできていればこの間の時はもっと楽だったかもしれませんー」
「いやな、このシーンは実に印象深いシーンで今までいがみ合っていた者達も地球という存在の危機には協力し助け合えるというバブ味を──」
「幼女にパブ味を期待して自分の母親に育成しようとかどれだけキマッてるんですって話ですー。T字型の謎の金属もバブ味の命が吸い取られていくシーン等もこの際横に置いておいてー、今必要なのは映像のイメージなんですーっ!!これがマー君の戦力となりえるのですよーっ!!」
エルマ達の主張は単純なものなのだ。イメージ、妄想力が戦力に直結するのが夢の世界“因夢空間”での戦闘なのだ。そこで正宗に漫画やアニメを見させまくりイメージ力を補強して手っ取り早く正宗を強くしようというものなのである。漫画やアニメでの通常ではあり得ない事を読み、見て記憶することで因夢空間戦闘時の想像力の土台とするのである。この展開はあの漫画のあのシーンに似ている、この展開はあのアニメのあの時にそっくりだ。それだけでその時の対処法などイメージが湧きやすくなるだろう。それは正宗の肉体強化や戦闘技術向上を望むよりも遥かに簡単で効果的であるといえていた。正宗とアルヴァジオンのスペック能力は抜きん出ているのだからそれを生かさない選択肢はあり得ない。イメージ補強さえ上手くいくようになれば、その馬鹿げた超出力をもっと効果的に運用できるようになるからだ。
「私のオススメとしてはコレです。この気合で戦闘力が変わるところなど参考になるでしょう??金色に光ってるところなどそっくりですしね」
「ダーメーでーすーっ!!アイちゃんのは人が戦ってるから参考としては微妙でしょー??わたしのオススメはコレですー。ちょっと乗っているのが赤い量産型みたいな異星の巨人な機体ですがー、この圧倒的な破壊力は真似すべき案件ですー」
「お待ちなさいっ!!そんなの真似されたらわたくし達が居る状態で地球が真っ二つではありませんかっ!!それにそれは全滅エンドですわっ!!」
「ストーリーはこの際関係ないでしょうーっ!!ようは技や破壊力のイメージの仕方の話なんですからーっ!!」
「なら尚のことですっ!!ゲージが上がらねば威力が出ないなど今の現状と何も変わりませんっ!!それよりもこっちのように自ら気合を入れてスーパー化して自在に戦闘力を引き出せるようにすべきですっ!!」
「メカモノ限定というお話でしたらわたくしはコレをオススメしますわ。敵の使用した重力砲弾の重力湾曲を利用して超破壊大口径ビーム砲で遠距離の都市群を破壊するなど参考になりましょうっ!!姿形も龍っぽいですしこの凶暴具合を真似すべきですわっ!!」
「ダメですよーっ!!それボス機体ですよーっ!!次の瞬間には青い獅子型の主人公機に腹ぶち抜かれるんですからーっ!!」
「ストーリー関係ないって言ったの貴方ですわよねっ!!」
なにやら女性陣がやいのやいのと盛り上がっている。
(なんでもいいからじっくり読むなり見させてくれよっ!!)
正宗は閉口しながらも次々に作品を押し付けられ続けるのであった。




