夢生獣大戦争27
全力の魔力放出による攻撃は術者にも多大な疲労を要求する。それは無呼吸で全力疾走するような行為であり、加速度的にゾウール達を消耗させていった。しかし、それだけの対価で目の前の怪物に勝てるのであれば、破格の価格であると言えていた。結果──、
「な……ゾウッ!!」
チャンスと思われた垂涎の好機は、雲を掴むように泡と消えた。三方から一点へと集中させるべく放たれた暗黒エネルギー、それがその中から溢れ出た金色の粒子の障壁によって八つ裂きにされていく。行き場を無くし膨張するエネルギーを無理矢理四方八方へと弾き返され、ゾウール達はたちまちにして砲撃どころではなくなっていく。大技を仕掛けたつもりが、その障壁一つ貫けない。
「なんつー聖力クマかっ!!」
「……凶悪すぎる防御障壁ワニッ!!あったまおかしい出力でこちらのエネルギーごと弾き返してるワニよっ!!」
弾かれたエネルギーが足場すら崩し初め、体勢を崩す夢生獣達の金導夢兵装。その一瞬の隙を突き、集中していたエネルギーの圧が弱まった瞬間に襲い掛かる龍。
「クマッ!?」
足場が静され照準がブレた瞬間、自機へと向け飛び出して来たその金色の龍の姿。驚愕すべきはその全身にエネルギーを浴びながらも傷一つ付かない防御力。ベクマーワイズマンから放たれる暗黒エネルギーの中を逆流するように龍は突き抜け、その右手が瞬く間にベクマーワイズマンの頭部へと容赦無く襲い掛かった。悲鳴を上げる間もなく頭蓋フレームごと粉々に粉砕され、後ろに倒れる前に龍の追撃の前蹴りで機体の前面を粉砕されるベクマーワイズマン。陥没した胸部から部品を撒き散らし、吹っ飛んだ巨熊の機体が森林の中を跳ね転げ落ちる。射線上から逃れられ、包囲も崩されたカンピオールゾウールとデストロイワニゲータが砲台形態を解除する。
「……ベクマーっ!!……おのれ!!死を、くれてやるっ!!デスロールクラッシャーワニ!!」
一瞬で通常形態へと変形すると、デストロイワニゲータが螺旋を描きながら飛び金龍へと襲い掛かる。その龍からは怒鳴り合いが聞こえていた。
「──そう、そこ!!そこにポッコルを押しつけろっ!!」
「──ちょ、待っ、ポギャアアアアアアアー……」
絶叫にまみれる金龍が振り返りながら振るうは、その両手の中に現れ始めた巨塊。出来上がるそれを迫るデストロイワニゲータ目掛け問答無用で振り抜いた。爆裂的な打撃音、一瞬にして原型を留めなくなるまでに粉砕されるデストロイワニゲータの機体。無数の破片と共に圧壊した状態で地面を転がり、ビクビクと痙攣するように火花を上げてのたうっている。追撃すべくそのまま手にした龍頭を振り上げ、倒れるデストロイワニゲータへと迫る龍。
「ゾウイヴォワールッ!!」
ゾウールは咄嗟にカンピオーネゾウールの牙の鞭を龍に巻きつけ強引にデストロイワニゲータから引き剥がした。あまりに急展開する状況に背筋が凍る。
(あ……あっという間ゾウッ!!あっという間に形勢を逆転されたゾウ!!)
しかしゾウイヴォワールにより締め上げ、持ち上げ放り投げようと意識して、その感触に恐怖する。締め付けようにも……それはまるで形状の変わらない堅固な塊のようで、持ち上げようにも……踏ん張っているソノ物体に逆に引きずり倒させられそうになっている。カンピオーネゾウールがゾウイヴォワールで縛り上げているその隙に、破損部を修繕補修するベクマーワイズマンとデストロイワニゲータ。二機は這いずるようにしてカンピオーネゾウールのそばまでやってきた。
「た……たすかったクマよ」
「……なんというか、やはりとんでもない相手ワニ。徒党を組んで正解だったワニ」
その意見にはゾウールも同意であった。狙いが分散されているから事なきを得ているが、一対一で挑めといわれたらとてもじゃないが歯が立ちそうも無い。そう思えた瞬間、押さえ込もうとしたその意識ごとゾウイヴォワールが内側から破壊された。柔軟かつ強靭なゾウイヴォワールの拘束を強引に引きちぎる金龍の力。飛び散る鋼の象牙の破片、拘束を強引に解いた龍の碧い両眼が夢生獣達の機体へと向けられていく。
「パワーで強引にゾウイヴォワールを砕いたゾウかっ!?なんでも力技で解決するなゾウッ!!」
引っ張っていたロープが急に断裂したも同然のカンピオーネゾウール、その反動に思わず尻餅をつきながら悪態を吐きながらも即座に体勢を立て直す。
「「「ゲッ!!」」」
が、それも刹那の事。金龍が鉄塊を向けて構えるや、その一部がガクリと下がり展開したのだ。その鉄塊の姿はまるで開口した龍の頭部。その開かれた顎から放たれるのは……幾度と無く資料として覗き見てきた破壊の息吹だ。
「防御術式!!展開したクマよっ!!」
「……加勢するワニッ!!」
「全力で防ぎきるんだゾウッ!!」
ベクマーワイズマンが展開した防御障壁に、デストロイワニゲータとカンピオーネゾウールも加わり改変と強化を施して最強の防御壁を作り上げた。直後、その作り上げた防御壁が逆に金導夢兵装三機に叩きつけられる。最強防御壁へ龍の息吹が直撃し、受け止めた障壁が今度は壁となって展開したベクマー達へと直撃したのだ。
「なんとか踏みとどまるクマアッ!!」
「……全力でやってるワニよっ!!」
直接防御障壁を機体の手でささえ、姿勢を低くし構え踏ん張る夢生獣三機。それでも勢いに押され金導夢兵装の足が樹木の残骸を圧し折り後退させられていく。三匹で支える防御障壁は、金色の濁流に飲み込まれ光彩を放って物凄い勢いで削り取られていっていた。支える機体の腕のフレームが悲鳴をあげ、各部を巡る魔力回路がショートし火花を上げる。流水の中に石を置いたように、光の濁流が防御壁へと当たり四方へ散り、その散った粒子の欠片だけで容易にも山も谷も消し飛ばす。
「ゾウアアアア……」
防御壁に全力を注ぎ込み維持する夢生獣達。先にも述べた通り、魔力の全力放出とは無呼吸で全力疾走するような行為であり、モロに操縦者である彼等への負担となる。金導夢兵装はただの機械ではない、そのメイン出力機関は操者本人なのだ。確かに操者の力を抽出増幅する炉心は備えている。しかし、その根幹となるのは、エネルギー源は操者の力に相違ない。そこがガソリンや灯油、石炭や電気などを利用する地球の近代科学と最も違うところと言えよう。息もつけない全力疾走の継続、夢生獣達の意識が一瞬飛びかけたところでやっと光の濁流はその排出を停止した。崩れるように膝を付く三機の金導夢兵装。
「た……耐え切った、クマ」
「……え??嘘、ワニよ、ね??もう、二発目撃てるワニかっ!!」
膝を突いて全身各部から煙を上げている夢生獣達の金導夢兵装に対し、金龍の持つ鉄塊の口内が再び輝きを増していく。
(ここでやられるわけにはいかないゾウッ!!こうなったら再びマストパワーを……しかし……)
「ここは任せるクマッ!!その隙に対策を立てて欲しいクマよっ!!」
ゾウールが決断に躊躇した隙に飛び出したのはベクマーワイズマンだった。ベクマーワイズマンは金龍の前に躍り出るとスッと手を差し出す姿勢を見せる。
「アルヴァジオンさん、お待ちなさい。ちょおおと、落し物」
えらく紳士的でいい声を出したベクマーワイズマンが取り出したのはなんでもない、その辺に転がっている金導夢兵装達が圧し折った木々であった。が、それを見るや否や金龍が鉄塊を持つ構えを解き、グォーグォー叫び始めたのだ。
「ちょー!!マー君何やってるんですかー」
「ららららーらーらーらーらー、ららららーらーらーらーらー」
両手で手拍子を打つベクマーワイズマンに対し、金龍は錯乱したように咆哮を上げ奇妙なダンスを踊り始めた。
「……でたーっ!!べクマーの条件反射魔法ワニッ!!アレをやられると何故か歌って踊らずには居られなくなるワニ」
「とにかくよくわからんが凄いゾウ」
「このベクマーにはワニゲータ氏やゾウール氏のような切り札はないクマからね。まぁこっちの世界に来てからも蜂蜜片手にゴロゴロしてただけだったクマから、当然と言えば当然なんだクマけど」
そう呟くベクマーワイズマンが金龍の間合いへと歩み寄っていく。ゆったりと進む巨熊の全身からあがる蒸気は熱暴走のようで、それでいてそれを超える闘気のようなものを持っていた。
「だがその間に会得したモノはあるクマッ!!昨今はパンダですら功夫を積む時代っ!!」
「……そうなのワニか??」
「この世界の生物は凄いんだゾウね」
そうして今度は野太い気合を入れるベクマー。すると脱皮のようにベクマーワイズマンの装甲が裂け落ち、中から一層ガチムチしたベクマーワイズマンの機体が現れた。
「そこからヒントを得たクマ!!これはこの世界の星の力を借り生み出した暗殺拳っ!!」
「すごい嫌な予感がするゾウ!!」
「……それ以上は危険ワニッ!!」
停めるゾウールとワニゲータを他所に、ベクマーワイズマンが両手を広げワキワキと動かし始めた。
「あれ、なにしているゾウか??」
「……ベクマー氏は幻覚でも見え始めたワニか??」
「違うクマ!!星の力を借りると言ったクマッ!!星座、空におおぐま座を描いているクマよっ!!」
全身と両手をワキワキさせているベクマーワイズマンは、その軌跡でおおぐま座を描いているという。しかし、クマはこの世界ではマスコットとして愛されるキュートさも兼ねそろえた生物である。その仕草は描いているというよりマスコットが愛嬌を振りまいているようにしか見えない姿であったのはベクマーには内緒であった。
「雄雄雄雄雄っ!!北斗っ!!流星拳っ!!」
「いろいろギリギリだゾウ!!」
空を見上げ雄たけびを上げ続けている棒立ちの金龍に、ガチムチベクマーワイズマンの屈強な拳が叩き込まれる。
「ドゥベー!メラク!フェクダ!メグレズ!アリオト!ミザール!アルカイド!!」
流星の如く一瞬で七発叩き込まれたエネルギーが金龍の内部で超新星爆発のように集約し弾け飛んだ。たまらず屈折してぶっ飛んだ金龍の体躯。残心とばかりに拳を突き出しているベクマーワイズマンの眼前に、金色の破片が降り注ぐ。星の力を借りたというのは名ばかりでなく、それが重力か光量か物資かガスかはたまた呪術的な物かはわからないが、ベクマーワイズマンの機体と魔力以上の破壊力を示して見せたのは事実である。まさに因夢空間を用いて実現させた夢生獣ならではの摩訶不思議な一撃であったと言えた。倒れる龍を見下すベクマーワイズマン。その手を龍に向け一言、
「お前はもう、死──」
だがその決め台詞を言うより早く、金龍はノロリと身を起こして来てしまった。更に、腹に開いた陥没が瞬く間に塞がってきているではないか。
「やっぱし通信空手では限界があったクマッ!!それでっ!!なんか案は浮かんだクマかっ!?」
「……少し期待したのに、やっぱ駄目そうだゾウ」
振り返り必死に問いかけてくるベクマーワイズマンの姿に、ゾウールは消沈し肩を落とした。同様だろうと隣を見れば、そこには閃いた表情を見せるデストロイワニゲータの機体が見える。
「……あるっ!!あるワニよ勝機っ!!こんなこともあろうかと、同盟を提案したときから暖めていた秘策ワニっ!!」
ワニゲータの発言に、ゾウールとベクマーは期待を集約させる。
「それは何クマ!?」
「何なんだゾウ!?」
「……それは……“合体”ワニ」
ワニゲータの声にあわせ、デストロイワニゲータの顔がニヤリと蠢いた。




