夢生獣大戦争26
「燃えたー、燃え尽きましたわー」
「キュー!!キュッキュッ!!」
荒れた地面に倒れ空を仰ぎ見る、荒い息をつくフラウニには最早余力はない。限界レベルで聖力を使い果たし、金剛聖導夢想兵装が自壊する程まで精神と肉体を酷使した為身体全体に激痛が走っている。でも気分は晴れやかであった。自身に課せられた使命は全うし、今その結果であるモノがこの世界に顕現しようとしている。肌に感じる尋常でない聖力の波動にフラウニは希望を感じていた。
「これ程の力なら夢生獣が三体居ようと、いけそうですわね……」
「いけるとかいけないとか関係ないですよっ!!なんでもいいから直ぐに立つのです!!」
急に現れた人影の怒声に、フラウニとガープの口から心臓が飛び出した。
「び、びっくりさせないでくださいます~っ!!」
「ギュイギュイ」
「うるさいですよっ!!今は泣き言を聞いてる暇はないのです!!急いでここを離れないとっ!!」
何とか顔を向ければ、そこには頭に枝を付けながら見降ろしてくるボロボロのアイシスの姿。彼女は一通り声を荒げると再び脚を動かし走り出した。
「ちょっと!!……一体なにをそんなに焦っておりますの??今からは高みの見物じゃありませんの!?」
「いやいやー、いくら夢生獣達から離れたとはいえその判断は禁物ポよ??フラウニはアレの闘い見た事無いポ。寝てるのは勝手ポけど、ポッコル達は全力退散するポよっ!!」
遠のくアイシスに続くようにぬいぐるみが現れ、一言そう告げて通り過ぎていった。
「え……、でもわたくし今身体が動きませんのよ……」
「キュイー……キュッ!!」
ガープがポッコル達の後ろ姿を見て、フラウニを見た。そして猛然とポッコル達へと向かい走り去っていく。
「ああ!!ガープまで……って!!」
稜線をも越えて流れ込んでくる金色の風。その強力なエネルギーに当てられフラウニは上半身を起き上がらせた。稜線の向こう側で高まる莫大な聖力と魔力。その高まりに空間が歪んでいるような感覚さえ覚える程だ。ウルフェンとカンピオーネゾウールのぶつかり合いを越える衝突が予期される。
「冗談じゃ、ありませんわっ!!」
ガバリと起き上がると即座にアイシス達が消えていった方へと猛然と走り始めた。生き残ろうとする意志は力を底から引き上げてくる。鉛のように重い身体を、ソレを意識しないように言い聞かせ荒れた大地を爆走していく。
「流石に追いついてきましたねっ!!」
「何処まで行くつもりですのっ!!」
競争するように併走しながら爆走するアイシとフラウニ。それは人のスピードを遙かに超えての激走だ。寝転がり少しでも回復した微々たる聖力を駆使して肉体を強化し、へたる身体を無理矢理追い立てているのである。
「もっと遠くへですっ!!でないと……」
そう告げたアイシスが足を緩め後ろを振り返る。ソレはフラウニにも如実に感じられ、彼女もまた振り返った。凝縮された聖力の解放、そして轟く獣達の咆吼。
「な、なんですのこのエネルギー量っ!!」
「急ぐポよっ!!怪物達のぶつかり合いに巻き込まれるポよっ!!」
二人の間を超速で追い越していくぬいぐるみの姿がある。
「あっ!!このっ!!ポッコルッ!!待てーっ!!」
さらに速度を速めるアイシスの後を追うフラウニ。顎が上がり、息も上がる。
(わたくし……そろそろ限界なのですけど……)
しかし、背後から鳴り響く鋼鉄同士のぶつかり合い。その衝突の度にぶつかり合う聖力と魔力の余波が背後からヒシヒシと訴えかけてくる。
(死ぬーっ!!死にますわっ!!このままここにいたら絶対に助かりませんわっ!!)
死にものぐるいで脚を動かし、アイシスとポッコルを追い抜いていく。
「キュー、ギュウー!!」
その脇を走る緑色の影に目を向ける。ガープは先導するようにフラウニの前を走ると、そのまま更に速度を上げて駆け抜けていった。
「早いっ!!早すぎますわっ!!あっ……脇腹痛くなってきた……」
そのまま大地を駆ける一同。遠くに破壊されてない街を確認すると速度を落とし、遠ざかった後方の山間部へと視線を移す。そこら一帯はまさに魔境のようで……その瞬間、山の一部が吹き飛んだ。一拍、衝撃波が遅れて到達する。
「……あれがこっちに飛んできたら、ポッコル達も無事では済まないポよ」
「キュキュ~……」
「やばい、やばいですよ!!どんだけの出力でぶつかっているんですかっ!!」
「も……もっと離れませんとっ!!法衣すら展開できないわたくし達では余波でも大怪我喰らいますわっ!!」
アイシスとフラウニは頷き合うと再び重い足を動かし始める。だがしかし、流石に無理がたたり速度も距離も稼げない。息が上がり底を突いていたところを無理矢理振り絞った聖力がいよいよ底を告げてきていた。
「お先ポーッ!!ポッコルは安全圏まで逃げるポよーっ!!」
「く……そっ!!この糞妖精っ!!」
「お待ちに……なりなさい」
悪態をつく余力もなく、それでも足を止めるわけにはいかない。
「うるさいポッ!!生き残ったが勝ちなんだポよっ!!ポッコルはこのまま……あっ!!」
先を走っていたポッコルが突如として叫び声と共にその姿を消した。
「キュキュ!?」
「どういたしましたの!?」
戸惑うフラウニとガープ。すると、顔を青くしたアイシスが足下を走っていたガープの身体を掴み上げた。
「ガープッ!!貴方はカーバンクルでしたねっ!!その額に聖力溜めてるんですよね!?回してっ!!回してくだ
さい!!」
「ちょーとちょっと!!どう致しましたのアイシスさんっ!!わたくしのガープを放しなさいなっ!!」
ガープを掴んだアイシスに掴みかかるフラウニ。そうすると体内に少し聖力が循環していく。
「逃げるんです!!逃げるんですよっ!!ポッコルが消えたのは召喚されたからですっ!!……ということは……」
アイシスの脳裏に走る極光を放つ龍頭の姿が思い浮かんだ。アレの直撃……いや、余波だけでアイシス達は消し飛んでしまう。更に言えば“点火”などされたらこの周囲一帯は消し飛ぶどころの騒ぎではない。
(冗談じゃないですよっ!!あああ……乗り手にならなかった今だからヤバさが解りますっ!!)
エルマはいつももこんな気持ちだったのだろう、アイシスは傍観する側になって始めてアルヴァジオンの破壊力に恐怖することになった。兎も角、今は一にも二にも距離を稼ぐしかないのだ。恥も外聞もなく奪い取るようにして聖力を補充し脚を動かし続ける以外に方法がない。
「ギューギューッ!!」
「この子は予備タンクですっ!!とにかく走るんですっ!!走るんですよっ!!フラウニ他に霊獣つれてないのですかっ!!」
「ちょっとーっ!!ガープがっ!!ガープが苦しんでますわっ!!その手を緩めなさいなっ!!」
絶叫を上げながら必死になって走る少女達。それは正に夢生獣達との戦闘中より地獄を肌に感じる逃走劇であった。




