夢生獣大戦争25
荒野の至る所から新たな土煙が立ち上っている。戦場に残るのは三機の金導夢兵装の機影のみ。
「いやー……、やばかったゾウねあの聖士」
「鬼気迫る何かを感じたクマ」
「……ていうか頭部を槍が貫通しているが、大丈夫ワニか??」
夢聖士達の気配を感じ取り、その場へ向かいカンピオーネゾウールとデストロイワニゲータとベクマーワイズマンの三機を歩かせていた。しかし、そうは問屋が卸さないとばかりに立ちはだかるのはやはり夢聖士の駆る金剛聖導夢想兵装であった。白銀の騎士のような機体ナイトオブユメミールが一機、行く手を遮るように立ちはだかっている。ゾウールなどは先程圧倒してやった機体であっただけにタカをくくっていたわけであるが、いざ襲い掛かってくれば先程までとは大違い。大暴れするその金剛聖導夢想兵装の戦い方は捨て身の覚悟の特攻に近い。戦々恐々しながらも何とか押しとどめると、最後の抵抗とばかりにベクマーワイズマンの頭部を槍で突き貫き、夢聖士が駆る白銀の騎士は散っていった。
「危なかったクマ。金導夢兵装でなければ即死だったクマ」
ズルリと頭部から槍を引き抜くベクマーワイズマン。それを放り捨ててみれば、その槍も夢聖士の金導夢兵装と同じく粒子と化して散っていく。
「正直アレが量産機とはとてもおもえないゾウ!!あんなのを部隊で組めるとか、ユメミールってばどこの魔境だゾウ!?」
「……いや、今のは流石に自力のある聖士だからだったワニ。……きっと、多分」
「まぁ、一番ヤバイ年増のBBAが後に控えているから、実際はもっとやばいクマよ」
緊張を解きつつ談笑しながら、いよいよゾウール達は機体を進め稜線を越える。見降ろす視線のその先に、なぎ倒されている木々の中に光る物がある。
「……タマゴ……ワニか??」
「そうらしいゾウね」
三機とも近寄りながら注意深くその輝く金の卵を眺めて見る。存在自体が異様だが、ソレを捉えた計器や夢生獣の直感は警告を放ちまくっている。
「正直逃げ出したいクマ。何クマ??この放たれてるエネルギー量。頭おかしくなりそうクマよ??」
「……ヘタに刺激しない方がいいワニ。それとも今の内に割った方がいいワニか??」
「んー、なんとも言えんゾウな。ただ紳士としては相手の準備が整うまで待つのが心得だゾウ」
三機は顔をつきあわせると体勢を体育座りに移行させ、じっと卵の孵化を待つ。そうして数分も待たずして、
「おっ!!ヒビが入った、ヒビが入ったクマッ!!」
「いよいよゾウね、気合い入れるゾウよっ!!」
亀裂の入る卵を目の前にして機体を立ち上がらせ尻と脚の土砂を叩き落とせば、いよいよ戦闘準備へと入る。見れば亀裂は卵全体に奔り渡り、遂に弾けるように飛散した。中から溢れ出るのは金色の暴風と濁流のような聖力。
「顕現!!アルヴァジオンっ!!」
荒れ狂う風の中、龍が咆吼を上げる。その波動に巻き込まれ、周囲の木々が一瞬で上空へと舞った。土砂と樹木が降りそそぐその向こう、そこに金色を身に纏った埒外の怪物が姿を見せる。その姿は力の象徴、強き者のイメージの具現、幻想でありながらにして食物連鎖の到達点である存在。その姿に、同じく獣であるが故に夢生獣達は身を震わせた。
「……金龍、我とあまり大差ないワニね」
同じく爬虫類を彷彿される外観にワニゲータが強がりをいってみせる。
「いや、それはどうゾウか??ワニと龍では全然違うと思うゾウ」
「ワニゲータ氏はもっと現実を見た方がいいと思うクマ」
「……酷くないワニかっ!!これでも緊張を解そうとしているワニよっ!!」
しかし現実は厳しく同士に突っ込まれる始末で格好が付かない。一端咳払いし間を開けると、ゾウールは仕切り直すように金龍に向かって吠えた。
「オラの名は夢生獣ゾウールッ!!」
「同じく、夢生獣ベクマーッ!!」
「……同じく、夢生獣ワニゲータッ!!」
「「「我等貴殿を狩る三獣士なりっ!!」」」
予め決めていた見得を切る。この闘い、生存競争なれどそこにはやはり己の命と志、正に全てを捧げた闘いであるのだ。泥仕合のようなグダグダな物にしたくなったのである。それだけの決意を持って挑んできている。
(決まったゾウッ!!……さぁお前も名乗……ッ!!!!!)
咄嗟にカンピオーネゾウールにバックステップを行わせる。直後空振りした金龍の右拳がカンピオーネゾウールの眼前を通過した。しかし、それだけでカンピオーネゾウールの顔面に叩き付けられる強烈な聖力の余波。勢い余って尻餅をつけば、追撃とばかりに腕を振り上げ追いすがる金龍。
「ちょーとっ!!待つゾウッ!!こちらが名乗ったのに無視して殴りかかるとか、ドンだけ野蛮人だって話しだゾウ!!」
「はぁ!?なんだ??……闘いなんだから何でもありだと思ってたんだけど……」
咄嗟に割り込んだ巨象の姿に、腕を振り上げた姿勢で急停止した龍の返答には戸惑いが見て取れた。命拾いしたゾウールは思わず深く嘆息する。
「闘いといえど作法はあるクマッ!!まったくこれだから未開の地の住民は怖いクマ」
「……こっちはさっき孵化するまで待ってやったワニッ!!そのことを考慮するワニよっ!!」
「……そういうもん……なのか??まぁ解らんわけではないが」
金龍が顎を掴み思案する姿を見せ一端後退した。確かにその搭乗者である正宗は一応武道を嗜む者なのだ、試合前の礼などに始まる礼節などは心得ている。戦国時代などにおける死合いにおいても名乗りは行われたと言われるし、それならば理解も出来ると納得したようであった。
「なら名乗ればいいのか??えーと、俺の名は鉄正宗。この機体、アルヴァジオンを操縦する──」
「すごーい、すごいですよーっ!!このパワーっ!!わたしは今究極のパワーを手に入れたのですよーっ!!」
「ちょっとっ!!今こっちでしゃべってんだから静かにしろよエルマッ!!」
空の彼方を見つめたまま動かなくなった金龍を呆然と見つめる夢生獣三体。どうやら龍は脳内で揉めているようである。
「……もうグダグダ、ワニ」
「さっさと雌雄を決っした方がいいクマよ??」
改めて金龍を覗き見てみれば、いまだ脳内会議で揉めているご様子である。
「……先手必勝ゾウ!!」
虚空を眺めている金龍にカンピオーネゾウールが全力で体当たりを敢行する。超重量のカンピオーネゾウールのもつ質量は絶大だ。それでも不意を突いた金龍を転ばすには到れない。体勢は崩した物の、カンピオーネゾウールの機体はガッシリと受け止められている。
(コイツも十分に重いゾウッ!!相手にとって不足なしなんだゾウッ!!)
金導夢兵装としては超大型の40メートル級同士のぶつかり合い。その衝撃は衝撃波を発生させる程にデカイ。
「ああっ!?結局不意打ちとかっ!!騙されたわっ!!」
金龍の眼光に蒼い光が灯ればゾウールの背筋に強烈な悪寒が奔り、おもわず全力で仰け反った。それを忠実に再現するカンピオーネゾウール。その皮膚たる鋼の装甲を、容易に引き裂く金色の爪。龍が下から掴み上げるように振り上げたその爪が掠めたのである。密着していたカンピオーネゾウールの腹から胸へと爪の跡が鮮明に刻まれている。はっきりいって装甲による防御など期待できない。
(とんでもない殺傷力だゾウッ!!これが狩る者……強者の象徴ゾウかっ!!)
それは幻想種最強と誉れ高い超常の獣。それは人類が想像し畏怖を抱かせる力の具現。あるときにはより強い者を強調する引き立て役として、ある時にはその強さから災害や戦争などの揶揄として、そしてある時は神の如き存在として語られる強者の象徴、龍。
「ゾウール氏、危ないクマッ!!」
「……こちらもいくワニよっ!!」
左右から挟み込むように、ベクマーワイズマンがその爪とパワーで掴みかかり、デストロイワニゲータの巨大な顎門が食らいついた。
「離れろこの野郎っ!!」
金龍は身をよじり、二機を振りほどかんと強引に身体を振る。組み付いたベクマーワイズマンも、食らいついたデストロイワニゲータもそのパワーには吹っ飛ばされるだけであった。
(なんつーおっそろしいパワーと防御力だゾウ!?ベクマーとワニゲータの攻撃を平然と受け止めても傷一つ付いてない。そして片手で悠々と大型の金導夢兵装を振りほどくそのパワー、……想像以上ゾウ)
ベクマーワイズマンとデストロイワニゲータは30メートルはある大型の部類に属する金導夢兵装だ。それを片手で放るように振り払うなど尋常の沙汰ではない。
「……これは、見てきた情報以上にヤバイワニね」
「いや、のぞき見していた頃より確実に強くなっているクマよ」
体勢を立て直し、起き上がりつつも警戒を解かないデストロイワニゲータとベクマーワイズマン。
「前とちがうだと!?当たり前だっ!!俺とアルヴァジオンのシンクロ率が上がっているからなっ!!」
胸を張る金龍に戦慄する夢生獣達。
「……シンクロ率ワニ……か」
「あがっているクマねっ」
「あのねマー君、金剛聖導夢想兵装にシンクロ率なんてありませんよー??ただ単にマー君が操作に慣れてきただけだと思いますよー」
「あああ!!人が気分良く闘ってんだから高揚感落とさないでくれよ!!」
しかしまた脳内会議で揉めているらしい。
(……けど、想像以上なのは確かワニよ??どうするワニか??)
(よし、あれだゾウ、以夢前聖士に決めた三方からの同時魔力波動砲で押し潰すんだゾウ!!)
(デルタアタッククマねっ!!)
金龍に悟られないようこそこそと相談する夢生獣達。
(……ンン??アレはそう言う名の攻撃だったワニか??)
(いや、オラも初耳だゾウ)
(以前キメてからずっと考えていたクマ!!格好いいクマよっ!!)
自慢気なベクマーワイズマンに視線を合わせる残りの二機。
(やっぱコイツの感性少しおかしいゾウ??)
(……ま、まぁなんでもいいワニ。ヤツが脳内で揉めているウチに決めるワニよっ!!)
夢生獣達が素早く行動に移す。対する金龍は……いまだ何やら言い合いをしている状況だ。
(確かに脅威の防御力とパワーだゾウッ!!しかし、つけいる隙は依然としてあるんだゾウッ!!)
それは相対しているからわかる相手の技量。先程にしても容易に左右から両腕を捕られるなど対応がなっていない。攻守の動き全てが素人過ぎるのである。明らかに闘い慣れていない人間の動き。今もそうだ、三方を、特に背後を容易に捕られるなど……、
(戦士としてはあってはならないゾウよっ!!)
配置取り、そして急速に魔力を高める夢生獣達の金剛魔導夢想兵装。
「……押しつぶすワニ!!」
「破壊するクマッ!!」
「目の前から消え失せるんだゾウッ!!」
夢生獣の意志に呼応し、夢の世界がソレを後押しする。三機の金剛魔導夢想兵装の突き出した両腕が異様な展開を見せ、さらにボディーの各所も開放させ姿形を変えていく。それは夢生獣の形をした砲台のようで──、
「「「デルタ、アタックッ!!」」」
全身を砲身としながら放たれるのは黒色の烈光。中心にいる龍を殺すべく、三機からそれは同時に襲い掛かるのであった。




