夢生獣大戦争20
見ようによっては相撲取りが子供にぶちかましをしているような、それ程の体格差である。再び形成された盾が火花を上げ、凹みながらも巨象の体躯を受け止めている。
「いい加減しつこいゾウ、ユメミールの夢聖士」
獰猛に両眼を光らせながら、鋼の巨象がうんざりした声を上げた。白銀の騎士はその盾に身を隠しつつ、それでも警戒を解かず後退する。その装甲や盾に凹みや破損は見られるが、未だその動きには余力が見てとれた。圧倒的な質量とパワーに屈せず、木の葉が風で舞うように力を受け流すその技術。
「まだまだこれからと申し上げましたでしょう!!」
一段と姿勢を低くすれば、バネの如く飛び出し槍を繰り出す白銀の騎士。しかし、カンピオーネゾウールの巨体が苦もなくそれを振り払う。逆に後退させられたのは槍を弾かれた騎士の方。体勢の崩れた騎士に向かい山のような巨体が襲い掛かるも、その手はギリギリ騎士には届かない。一泊遅れた魔力波動によって騎士の居た場所は粉々に粉砕されていく。その破壊力に、騎士は盾を構えつつ身長に間合いを取って見せた。
(このカンピオーネゾウールが、……もう一押しが届かないゾウッ!!)
ゾウールは冷静にその瀕死の得物を見据える。そこには盾を前にし、その影から覗く白銀の騎士の姿。それはカンピオーネゾウールの防御力に手も足も出ず、引けぬ防戦を繰り広げる消極的なように映る。しかし槍の切っ先は常にゾウールを向いており、そこからも牙を剥く意志は消えていないように思えた。優勢なのはゾウールの方である。しかしあと一歩が押し切れず、仕切り直そうとすると距離を詰めちょっかいを掛けてくる。
(……実に……、実に焦れったいゾウッ!!)
深く息を吐き焦れている自分を落ち着かせるゾウール。結果は見えている。所詮聖士の金導夢兵装程度では夢生獣のソレは止められない。金導夢兵装にとって出力とは性能そのものと言って良い。出力が装甲を硬くし、出力によってパワーを上乗せできる。出力が多ければ夢の世界への干渉力が増す、機体性能から夢への干渉力まで出力次第と言えるのが金導夢兵装だ。その根幹、ベースの時点で人と夢生獣では出力に差がありすぎるのだ。だからこそこの闘いは前哨戦。楽に勝利して当然であるのだが……それが爪の先だけ……届かない。
(もう少し、もう少しで刈り取れるんだゾ……ウ??)
落ち着きを取り戻そうとするゾウールの心境を見抜いたか、白銀の騎士が即座に跳び込んできた。舌打ちしたくなる気分もそこそこに応戦にでるゾウール。飛来してくる刺突衝撃波を弾き飛ばし、反撃しようとしたその瞬間……違和感を覚えた。……何かが……おかしい。
(ゾ……ウ??しかし、ダメージはしっかり与えて……いや、与えていないゾウッ!!)
第六感と言うべきか、動物的感覚と言うべきか、ソレに従いゾウールは闘いを思い返す。よくよく考えてみれば、最初に腕と盾を吹き飛ばして以降、盾や装甲は削れたがそれ以上のダメージは与えられていない。機体性能に胡座をかき、相手のギリギリで闘うその技術力を楽しんでさえいた。徐々に追い詰めているのは自分であると、どこまで相手はそのギリギリを維持できるのか……そう狩る者の立場となっていた。
(圧倒出来ていると慢心して雑になっていたゾウか!?……というか、何故そんな事をする必要性があるゾウ!?)
闘いを挑んでくる以上、今のような消極的な戦い方はしない。今の戦い方はそう、相手はゾウールに攻め込ませ、追わせ、時間を稼ごうとしている……そう仕向けているように感じられた。
(いや、相手は防衛戦の為……いや、何か策があるゾウかっ!?初手では限界時に大技を仕掛けてこちらを狩りに来ていた……けど今は無駄に時間をかけ、戦闘を引き延ばそうとしているようにしか感じないゾウ??)
突然の、しかし違和感による気づきでしかない為にその理由にまでは頭が回らない。
(焦れてあせり、大振りになった隙を伺う為??こちらの防御が硬い為、隙を見て大技を放り込んでくる……初めはそう考えていたゾウ)
だが明確な隙があってもそうはしてこなかった。手数でゾウールを誘い、苛立たせてきた。戸惑いながらも必死に思考を回すゾウール。だが思考させない腹づもりなのか、動きに迷いの出始めたカンピオーネゾウールに槍の雨が降り注ぐ。防御の為に腕で頭部を庇い、後退しつつ障壁を強めて思考にふける。明らかに騎士の金導夢兵装は、ゾウールの注意を、意識を自身に繋ぎ止めるような動きを見せている。
(時間稼ぎ??……そんな事をして、何の意味があるゾウッ!?)
混乱しつつある思考を回す、回す。そして、やっと行き着く解答。今回、夢生獣達は“徒党”を組んでいるのだ。
(ヤツ等は、ベクマーやワニゲータはどうなっているゾウッ!?)
背筋に走る嫌な予感にゾウールは周囲を見回した。そうしてやっと余所から莫大量に膨れあがっている聖力に気づく。カンピオーネゾウールの眼が、身体ごとそちらへと向く。すかさず騎士が回り込み、しかし今までにない騎士の槍による激しい打突が火花を生み出した。障壁をも砕かんとしてくる先程までとは違う激しい攻撃、しかし今はそれ以上に火花の向こう、別の戦場を見る。そこに現れたるは昇雷。──しかし、
「貴方のお相手は、わたくしでしてよ!!」
挑発的な声色と同時に強力な聖力を纏った槍がついに障壁を越え、カンピオーネゾウールの肩へと深々と突き刺さった。たちどころに表示される警報と警告、そのダメージ報告にゾウールの思考は更なる混乱を極めた。感覚共有をしているが故に、自身の肩に走る痛みがダメージを受けたことを知らせている。
(ダメージ!?障壁は!?貫いてきたゾウかっ!?……では矢張り今までの攻撃は??何がどうなっているゾウッ!!)
戸惑う頭で必死に操り、障壁を越えてきた騎士の猛攻を捌く。されどその一撃一撃は確かに今までのモノより遙かに重く、カンピオーネゾウールの装甲を削り穴を穿っていく程に鋭い。対応に追われ考えを纏めることが難しくなる。
(実力を隠していた、これが本気の、全力の攻撃力ゾウか!?何故ひた隠していたものを見せるゾ……)
それはゾウールの視線を、思考を、注意を釘付けにしたかったからだ。本命から目を反らさせる為、与し易い相手と印象づけ、盲目的に追わせたかった為だ。本来は単体である夢生獣。目の前に餌が居たのなら──追って狩らずには居られないっ!!
(明らかに誘われたゾウッ!!振り返ってみればあからさまだったゾウッ!!)
集団戦に慣れず個で闘う習性が強い故に、仲間へ向ける意識が希薄であった。いや、ヘタをすれば気づかなかった!!それは囮行為、誘い役が用いた時間稼ぎっ!!気づかれた可能性を考慮して、隠していた実力を発揮して妨害してきているのだ。
(何の為の??決まっているゾウッ!!オラ達に、勝つ為だゾウッ!!)
その銀の槍が腕に刺さるのもそのままに、戦場の状況把握に奔走する。構わず勢い良くカンピオールゾウールに四股を踏ませた。伝わる振動は波となり広がり、その脚を通して伝わってくる様々な情報を読み取っていく。象の足と同様にして、ゾウールも足の裏から大地を通し様々なことを感知する術を持っている。その感応力が如実に戦場の状態を語っている。
(ワニゲータは抑えられ、ベクマーは……窮地だゾウッ!!)
ワニゲータは本体を夢聖士の封印術式に縛られ四苦八苦し、ベクマーの方は正に絶体絶命の危機にあった。体勢の崩された鋼の巨熊であるベクマーワイズマンは、今まさに必殺の一撃を受けようとしているのだ。先程の莫大量の聖力放射、昇雷する剣を振るうは白狼の金導夢兵装。振り下ろされればベクマーワイズマンの機体は、それを駆るベクマーはどうなるのか??それを──、
「甘んじて待つわけにはいかないゾウッ!!マストパワー、オンッ!!」
有無を言わさぬ決断、それはゾウールが持つ秘術、ワニゲータがひた隠しにしてきた奥の手と同じくするゾウールの虎の子だっ!!ゾウールから溢れ洩れた紋様は操縦桿を伝わりカンピオーネゾウールへと浸透していく。その影響はカンピオーネゾウールの装甲までも犯し、その全身をピンク色へと染め上げていった。刹那的に増大したエネルギーが溢れ出て、近接していた白銀の騎士が吹き飛ばされる。全身をピンクに染め上げながら灼熱の排気を吐くカンピオーネゾウール。その姿は幻覚、その色は悪夢と語り継がれるピンク象。それ故に、夢の中でのドーピング能力は半端ではない。沸き上がる破壊衝動そのままに、
「ゾウイヴォワールッ!!」
カンピオーネゾウールの牙が嵐と成って猛り狂った。眼前の全てを粉砕させながら、その残骸を巻き込みながら戦場を撃ち貫いていく。破片を、岩を、無数の弾丸へと変貌させつつ、それを纏った伸びゆく牙の刃。破壊の嵐と成って伸びたゾウイヴォワールは、その先戦場にいる人型の巨大な白狼へと襲い掛かる。雷刃を振り下ろそうとした白狼は想定外からの攻撃を浴び溜まらず横転し吹き飛んで、蓄積させた昇雷の聖力エネルギーは行き場を無くし雷となって四方八方へと弾け街そのものを斬り裂いて行く。彼方に見えるビル街の中に沈んだその白狼の姿を確認する間もなく、カンピオーネゾウールの背後から白銀の騎士が突貫して来る。
「このっ!!」
「ソンナモノッ!!クラワナイゾウッ!!」
機体を振り向かせるやいなやその突き出された槍を鼻で絡め止めた。そのまま強靱すぎるパワーを持って槍ごと白銀の騎士を引きずり倒し、振り回す。更に鼻を伸ばし、遠心力をこれでもかと乗せ、目標目掛けその騎士の巨体を投擲するカンピオーネゾウール。白銀の騎士は遠投されたかのように飛び、白狼が倒れ込んだ周辺へと落下した。遙か遠方に立ち昇った爆煙の土煙をみてカンピオーネゾウールが吠える。だがそんな事でゾウールから放たれる凶暴性は衰えない。
「クダク、コワス、フンサイスル、ゾウッ!!」
サバンナの戦場の向こう側、いまだ都市の姿を残す廃墟の中に白狼と騎士が横たわっている。伸びた牙と鼻を戻し、代わりに倒れた相手目掛け手を伸ばす。遙か彼方のそいつ等を粉砕すべく、そのイメージに沿わせその手を握り込んでいく。呼応するように、周囲のビル群ごと軋みを上げ圧壊していく夢聖士達の金導夢兵装。
「ツブレロッ、ツブレロッ、ツブレルンダ、ゾウッ!!」
世界の夢へと、ゾウールの怨嗟が訴え吠えかける。眼に見えない、感じ得ない、だがそんな不可思議な力が圧力となり二機の金導夢兵装を押しつぶしていくのだ。それは本来はあり得ない、それこそ荒唐無稽な現象であった。周囲が、空間が、世界が今、ゾウールが呪う二機の金導夢兵装を潰そうとしているのだ。
「ぐぅぅぅぅうううああ……」
「な……なんという圧力ですのっ……」
抵抗する二体の金導夢兵装だが、その装甲に真新しい亀裂が次々に刻まれていく。砕けた破片は存在を消されるかの如く押しつぶされ、関節という関節から火花上げ拉げ始めている。聖力を総動員しイメージにより防御と補強を行っているようであるが、そんなものは今のゾウールにとっては児戯でしかない。抑えられない破壊衝動、それを扱うのは夢の中でこそ真価を発揮する夢生獣なのだ。マストパワーを発揮し、スーパーゾウールと化したゾウールに敵わないのは当然と言えた。
「ウ……ウルフェンッ!!力を、貸せぇぇえええ!!」
夢聖士の絶叫にも近い願いに、潰れゆく白狼の眼光が光り輝く。遙かに離れた位置ながら、ゾウールは確かにソレを認識したのだ。そういう眼をゾウールはよく理解している。それは諦めず、その上で抵抗し反撃してみせる者の生きた眼だ。咆吼を上げ、全身から雷と聖力を撒き散らしゾウールの圧力を押し返すのは白狼の金導夢兵装。膝を振るわせながらも立ち上がり、横たわる騎士を護るかの如く前に出た。
「ゾゥアアアアアアアアッ!!」
ゾウールが激情そのままにカンピオーネゾウールを駆けさせる。暴走する巨象は眼前の物を全て粉砕し、猛烈な勢いのまま白狼へと襲い掛かった。カンピオーネゾウールとウルフェン、発する双方の力がぶつかり合い、押しつぶそうとするイメージと弾き返そうとする意志が激突し不可思議な力場となって荒れ狂う。衝突する力に大地が割れ、雲ごと空が裂けていく。
「ゾウウアアア……ッ!!」
尚も収まらぬ破壊衝動に身を任せ、カンピオーネゾウールはウルフェンへと襲い掛かった。ウルフェンも咆吼を上げ迎え撃つ。正面からぶつかり合う二機の獣、しかしその優劣は決定的であった。手四つに組んだ金導夢兵装同士だが何事もないようにカンピオーネゾウールの巨体がそのまま押し進む。必至に踏ん張る白狼の機体は脊椎から火花を上げ、関節をあらぬ方へと曲げて、全身の亀裂から煙を噴きながら後退していく。倒れた白銀の騎士を弾き飛ばし、ウルフェンを壊しながら圧し進むピンクの巨象。
「ゾウアアアアゾウアアアアッ!!」
山のような鋼の巨象は機関車のように大破した街の中を縦断していく。眼前の半壊した白狼を雪除けとしながら、ビル群をラッセルして突き進むのだ。白狼の形をした雪除けはすでにボロボロ、だが未だその原型は留めている。そのボロボロな外観とは裏腹に強力に聖力を高めていく白狼の金導夢兵装。それを証明するかのように、壊れたその場から修繕が開始されていった。
「……ああ、あああああっ!!」
獣のようなアイシスの咆吼を受け、ゾウールの肉体がそれを感じ取とった。それは“痛み”。見れば手四つに組んだ手に白狼の爪がめり込んできている。足の爪は大地へとめり込み、遂にカンピオーネゾウールの猛進を止めるに至る。拮抗し始める力、それでも進めとゾウールの本能が吼える。ゾウールが全身から魔力を暴走させれば、それを受けたカンピオーネゾウールがピンク色のオーラを振りまきながら脚を出す。されど微動だにしない。白狼ウルフェンもまた聖力を噴流させながら抵抗しているからだ。両者の力のぶつかりあいに、周囲には奇っ怪なオブジェが乱立していった。超高出力のエネルギーが夢の中で取っ組み合いをした結果、現代アートのような訳のわからない謎の物質となって整形されてゆく。それは本来この世界にはない代物。ミスリルやオリハルコン、魔核や聖鉄といった夢物語に出てくる異界物質。それ等が今、世界の夢を交いしてこちらの世界に現界しようとしてきていた。




