夢生獣大戦争19
遠くから戦闘音が、無音の世界に木霊する。空にうっすらと見えるのは既に動かないムーブメント。時の止まった世界が見ている“夢の世界”、そこは特別な者達以外は動く事も適わない、即ち一切の音を発生させるモノはない。だからこそ遙か遠くまでその音は響き聞こえてくるのだ。
(けど、音は振動だろ??なんで空気も止まっているのに、どうして……)
物理法則も糞もない、解答のでない雑念を払い校舎の窓から遠くを眺める。視界に映るのは田んぼと民家、だがその遙か向こう側から微かに鳴り響いて来るのは重厚な爆発音と金属の激突音であった。
「これアイシス達が闘ってる音だろ??いやぁ、めっちゃ離れていても聞こえてくるもんだな」
惚けながら正宗は息を吐く。窓を開けて、ただ聞こえてくる戦闘の音が鳴り止むのを待つだけの簡単なお仕事。いやいや、アイシス達の勝利を信じる作業に没頭していると言っておこう。正宗には彼女達のように闘う力はない。そして、遙か遠くまで破壊音を轟かせるその戦場へまで赴き、更に生き残れるバイタリティもあるわけではない。援軍に出向くなど自ら死にに行くようなものだ。
「先手を打てたかは定かじゃないが、なんとか戦闘にはなってるってことか」
夢生獣の挑戦状受け取り、ポッコルを先駆けてアイシス達の元へと送り込んだ。奴等が現界してくるまでの僅かながらの時間的余裕だが、その間に作戦会議くらいは出来たであろう。夢生獣との闘いは今のところ広大な土地で大部隊が激突し合うような戦闘ではない。その時間的余裕を上手く利用して夢生獣の出鼻をくじくこと出来ないか、さう前々からアイシス達は話し合っていたのだ。結果として彼女達がどのような策を立てたかはわからないが、今はただ夢生獣を混戦へと撒き込めたとのだと信じたい。
「まっ、離れて待ってるだけだから安心だしな」
校舎の三階から見渡せる景色からは魔法少女とゆるキャラの闘いは勿論、巨大兵器同士の戦闘すら見ることは出来ない。僻地であるが故に、学校は戦場となっている場所からは相当に距離があるのだ。だから平気なのだと気を許していた最中、視界に映っていた畑から突如として爆煙が立ち上った。耳を叩いた衝突音にビクリと身体を震わせつつも、今も尚煙を上げているそれを呆然と眺める正宗。
「……いや、何だ!?」
思考が戻り窓から身を乗り出すようにして目を懲らせば、なにかの破片が落下したようだ。その直後、発光体のようなレーザーが彼方から伸びるのを一瞬見た。光が通り抜けた跡は燃え上がり、家屋や建造物に樹木、あらゆる障害物を焼き切り両断されている。その光景に顔を引きつらせる正宗。
(……全然、安全じゃなくなくね??)
どういう戦闘なのかわからないが、遠くであろうと安心していたが流れ弾や破片は飛んでくる距離らしかった。楽観視していた自分の無能さを嘆いていると、
「……う、おっ!!」
今度は間近で起こった破壊音に頭を抱えてしゃがみ込んだ。心臓が飛び出しそうになりながら、それでも恐る恐る顔を窓から出し横を覗く。見れば隣のクラスの外壁が砕け、埃と煙を吐き出している。慌てて隣のクラスへと様子を伺いに行こうとしたが、正宗は自分の教室を出た所で足を止めた。
(うっへー、校舎貫通したのか。中は……)
破片と埃、煙にまみれた廊下、校舎を何かが貫通したのか大穴が開いていた。眺め見れば、瓦礫に埋もれ、飛び出ている手や脚の姿。その惨状に即座に目線を反らせる羽目となった。貫通したとあっては校舎自体もそのうち崩れてしまうかも知れない。
「ヤバイ!!全然安全じゃないっ!!俺も肉塊、蒸発しかねないっ!!」
急いで踵を返していつも使うのとは違う階段へと向かう。兎も角校舎から出てもっと距離を取らないと命が危ない。ポッコルやエルマの防御障壁も何もないのだ。先程並の攻撃や破片が直撃、いや、間接的にも当たったとすれば、肉片すら残らず死に至るに違いない。その場合通常空間へと戻ったのなら朝礼の時間帯に突如として正宗の姿が消えることになるだろうが、今は四の五の考えず校舎から距離を取るべきだろうと行動を起こしたのだ。
「当然かっ!!街中でドンパチやってんだからなっ!!普通街が戦場になったなら直ぐ街を出るなり避難、より安全を期するなら国外へ行く筈だよなっ!!」
平和ボケと言うべきか、街外れに逃げていれば危険は無いだろうと考えていた自分に腹が立つ。
「因夢空間で動ける俺はこっちで死んだら生き返れないって話だからな……」
一応は仮定の話であったが、十中八九そうであると考えるのが現実的。その可能性がある以上はジッとなどしてはいられない為自転車置き場から自分の自転車を出し、なるべくこの街から離れるべくペダルを漕ぐ。最悪アイシス達が因夢空間を解いた時に教室まで帰れない可能性はあるが、死ぬよりはマシと考えるべきだろう。
「何とかやっつけてくれよ~」
ポケットの中をさばくりその感触を確かめれば、その手の中には符が握られていた。




