始まりの物語6
「行くぞっ!!ポッコルっ!!」
アイシスが手を上げて叫べば、ボフッと手の先の煙の中から現れる妖精ポッコル。
「ポッコル参上っ!!呼ばれたポー!!」
それを見てアイシスが顔を引き締める。
「聖力全開っ!!解錠要請っ!!チェンジモードパラディンッ!!」
「ラブリーエナジーフルパワーっ!!ラブリーアイシスモードパラディンッポー!!」
アイシスの力がポッコルに注がれ、ポッコルがその手に光の鍵を創り出す。そしてその鍵を、アイシスの胸のネックレスへと刺し入れた。途端、爆発的光を放つ赤色のネックレス。
「うおっ!!眩しっ!!」
そう言いつつも両目を見張る正宗を余所に、アイシスは全身を輝かせその身の衣服を破砕させる。いや、衣服はネックレスの光と混じり合い、そしてそれは羽衣のようにアイシスの全身へと巻き付いていく。
「眩しくて良くわかんないが、確かに今、全裸みたいだなっ!!」
「だろブヒっ!!聖士達は毎回闘う度に全裸になっているブヒ。毎回見せつけられるこっちの身にもなって欲しいブヒ」
巻き付いた羽衣は形状を整え、耀きを撒き散らしながら法衣へと変化する。それは強力な力を宿した戦闘服。着用者の力を増し、その身を守る戦士の鎧。
「この間には攻撃しないんだな」
「それが様式美ブヒ。と、いってもこの間に攻撃しても余程じゃないと逆にその攻撃を向こうの聖力に変換されて吸収されちゃうブヒよ」
最後に胸の宝石をリボンが彩り、アイシスに周囲の光が集中する。
「ラブリーアイシスモードパラディン!!愛の名の下に……浄化しますっ!!」
アイシスの宣言と共に決めポーズを取れば、耀きが爆散し中からラブリーファンシーなアイシスが姿を現し……、
「…………死にたい」
顔を両手で覆い蹲ってしまった。
「あの決め台詞とポーズはやらなきゃ駄目なのか?」
「アレをしないと聖法衣は定着しないポー。みんな恥ずかしがってるけど仕方ないポ。きまりポよ」
「……なんか大変なんだなぁ」
「哀れみの眼で見るなあっ!!ああああ……何でこんな羞恥プレイに晒されなきゃならないんだっ!!……王位継承権なんて獲得するんじゃなかったっ!!」
自身を磨き、他者を下して上を目指し、皆に認められ聖士として胸を張れるようになった結果、異世界で異性に変身と羞恥ポーズを見られるという結果となったわけである。
(……仕事とはいえ、惨いな)
正宗は心中を察しながらもポッコルと共にラブリーアイシスの後ろに回ろうとする。しかし、
「ふざけるなっ!!もういいっ!!お前等まとめて浄化してやるっ!!」
「おい待てっ!!俺は家主だぞっ!!」
「そうっポっ!!ポッコルは何も悪くないポっ!!召喚されて変身させたらなんで成敗させられるポ!?理不尽ポーっ!!」
「うるさい知るかっ!!もう警察のお世話になるからいいっ!!毎回恥ずかしい事をさせるお前等妖精族も敵だっ!!こんな世界だいっきらいだあ!!」
有無を言わさぬラブリーアイシスが、その手の剣を振り襲い掛かる。
「うおっ!!トンテッキっ!!ホラっ!!お前の出番だぞっ!!」
「わかっているブヒよっ!!さあ夢聖士──」
「その当て字で呼ぶなああ!!」
トンテッキとラブリーアイシスが激突する。ラブリーアイシスの剣に対し、トンテッキは拳をもって応戦する。両者の激突に正宗とポッコルは弾き飛ばされた。一撃一撃がぶつかり合い、その数だけ校庭が割れ砕けていく。
「やるブヒねラブリーアイシス(笑)」
クスリと笑みを浮かべるトンテッキ。
「ばば……馬鹿にするなあっ!!」
激高したラブリーアイシスが胸の宝玉に手を当て、
「ラブリィフラッシュッ!!」
光宿った腕でトンテッキを指し示した。途端、トンテッキは砲弾のように吹き飛び、一拍おいて……、
「うわっ!!」
校庭を抉り飛ばす破壊の波動がラブリーアイシスの前方を凪いでいく。その余波に叩かれ数十メートル程吹っ飛ぶ正宗。勢いのまま地面へと叩き付けられそうになれば、ビタリと身体が宙に浮いて停まった。恐る恐る目を見開けば、正宗の横にポッコルが浮いている。
「凄いポ??これがラブリーアイシスの実力ポっ!!」
「っていうか、あれのどこがフラッシュなんだよっ!!」
どこをどう見ても、フラッシュというよりゴン太ビームである。しかしそんな中でもポッコルの周囲だけまるで結界や障壁に守られたかの如く穏やかで、戦力外だと思っていたが存外にしてこのぬいぐるみもどきも役に立つようであった。
「ブヒィィ!!やってくれたブヒねっ!!コレでも食らうブヒっ!!」
起き上がったトンテッキが砕かれた大地にその前足を叩き付ける。途端、ラブリーアイシスの周囲の地面が隆起して、豚足の形をした土塊がラブリーアイシス目掛け幾つも襲い掛かった。咄嗟に剣を前面に構えるラブリーアイシス。さすれば彼女の周囲を光の膜が覆い尽くし、その大地から襲い来る土の豚足の接近を弾き返す。強力なフィールドの様な光の膜が幾つもの豚足を砕き、瞬く間に土砂へと変えていっていた。
「この程度効くものですかっ!!」
掲げていた剣を一振りすれば忽ちに彼女の防御フィールドが巨大化、地面が豚足形状になる前に抉り飛ばし、土すらめくり上げてその領域を押し広げていった。その圧にあてられ踏みとどまるトンテッキ。途端、ラブリーアイシスはその右手の剣を振り上げた。一瞬だけ視線を正宗に向けると、再びトンテッキを睨みながら声高らかにその言葉を張り上げる……顔を真っ赤にしたままで。
「ラブリーパワーマキシマムッ!!ラブリー……ハートフル──」
轟々と昇るオーラが剣へと集中していく。光が収束しピンクに輝くその剣はまるでネオン管の如き輝きを放つのだ。柄にはめ込まれたハート型のジュエルが輝き、姿勢を低くしたラブリーアイシスが……意を決して跳び出した。
「──ボンバァア!!」
衝撃波を纏いながら直進するラブリーアイシスという弾丸。大地を拭き飛ばし、めくり上げ粉砕しながら轟音を上げトンテッキへと肉薄する。トンテッキは驚き防御姿勢を──とる間も無く、爆速のラブリーハートフルボンバーをその身に受けていた。
「モ……モ……モーレツブヒィィィッ!!!!」
刀身の輝きを全て撃ち込まれ、内部からラブリー光が溢れ出すトンテッキ。ラブリーアイシスは冷静に一足でその場から飛び退いた。刹那、
「わっ!!」
一瞬ハート型の輝きが散開したように見えた。途端、正宗はポッコルの結界ごと吹き飛ばされる形となった。凄まじい力が波動となって爆発し、周囲一体の破壊の跡すら薙ぎ払う爆心地へと変えていく。正宗が起き上がり顔を上げれば、光が渦となり土煙を巻き上げる巨大な極光の柱を築き上げていた。
「……すげぇ」
「ムッ!!安心するのはまだ早いポっ!!流石は夢生獣ポっ!!ラブリーアイシスのラブリーハートフルボンバーのラブリーパワーをアレだけ受けてもまだラブリーしてないポっ!!」
(どんだけラブリー言うんだよ……)
しかし確かにポッコルが言うとおり、ラブリーアイシスも緊張した面持ちで剣を構え、その光柱の中でのたうっているコミカル豚の影を見つめている。
「……十分効いているようだが??」
「いや、ラブリーアイシスのラブリーにあてられたのならもっとラブリー爆発している筈ポ」
「ポッコルっ!!ラブリーラブリー言いすぎですっ!!」
恥ずかしいのであろう、魔法少女姿のアイシスは赤面しながらポッコルに文句を言った。
「何を恥ずかしがっているポ??いつものことだポよ??」
不思議がるポッコルであるが。
「それは……その……いつもは他人の眼なんてないし??同じユメミール出身の者達ならまだしも鉄君は……こっちの人……でしょう??」
モジモジとするラブリーアイシスは非常にかわいらしい……が、滑稽にも見える。
「まぁ、こっちで羞恥を生むような技名にしたり格好にするのは妖精族の趣味なんだけどポね」
衝撃の事実をポッコルが告げ正宗にサムズアップした。正宗もそれを見て返す。あまりの事にラブリーアイシスは口をあんぐり開けている。
「よそ見している暇はないポよっ!!ヤツが復活したポっ!!」
「……後で、ポッコルには話がありますっ!!でもその前に……」
注視すれば、確かに光柱は既に消えていた。そこには確かに影がある。いや、それは影ではなく真っ黒に焦げた焼き豚であった。