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顕現っ!!アルヴァジオンッ!!  作者: 当世杞憂
夢生獣大戦争
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夢生獣大戦争17

「これ、いつも思うんですが地味にめんどくさいんですよね」

「そー言わないで下さいよー。こっちは猫の手も借りたいくらいなんですからー」


 額から垂れる汗を軽くぬぐうアイシス。逆の手に持った符をみれば、最初手にしていた頃とは色が変色し始めている。それはエルマが用意した魔力吸着用の符で、その変色もまた汗によるものではなかった。人やモノに残った魔力残滓を回収する為に用意された専用の符で、その吸着力はかなり高い。その分吸着できる容量や効果範囲は少なくあまり広くないものなのだが、周囲に魔力等が停滞していないコチラでは一級の性能であると言えていた。夢生獣が影響を与え残した魔力の残滓、それは異世界ユメミールであれば無視していいモノであるのだが、魔力や聖力といったものがない……正確には、利用する機会に至らなかったが為に退化し、それらの力が極端に弱まってしまったこちらの世界では、無視していいモノではない要因となってしまうのだ。この世界では人や物の魔力に対する抵抗力や吸収力も極端に弱い為、内部にまで浸透しやすく、更に体内に停滞し吸収融合され汚染や改変の元となってしまうのだ。量は微量だが、“質”と言う点では夢生獣の魔力は特級品の品と言えるのだ。それが及ぼす影響、可能性は無視できない。なにせこちらの世界ではあってはならないレベルの魔力残滓なのだ。上手く霧散消滅してくれれば問題ないが、それを期待し推移を見守られる程の時はない。その為、アイシス達はトンテッキ戦やトットリッキー戦などの闘いのあと、今のように足を使い歩き回り、街や人、環境へと蒔かれてしまった魔力残滓を毎度毎度回収しているのである。


「それにしても……、暑いですわね」


 増員されたフラウニが眼を細めながら空を見上げる。自身が被った大きめのキャスケットの向こう側には空が高く青く覗いて見える。ハンカチを団扇のように扇いでみるものの、全くと言って効果も無く体感的にも涼しくなるわけではない。


「帽子はしっかり被っておくこと、あとこまめな水分補給」

「昨日だけで3人の方がー、熱中症でお亡くなりになったらしいですしねー」

「季節気候で死ねるとか、ユメミールでは考えられませんわね。ですが、この不快な暑さなら納得ですわ」


 タンクトップにGパン姿のアイシスがキャップをしっかりと被る。エルマも麦わら帽のひさしに手をやり、取り出した飲料水で喉を潤している。木陰に入ってもジメジメと蒸し暑く、正直に言ってどこか涼しい所に入って休みたいという欲求が鎌首を上げてくる夏の外気。アスファルトから照り返す熱の温度は鉄板の上にいるようである。


「しかしまぁ、よくこちらの方々はこの暑い中働きますわね??ほんともう驚きの連続ですわ」

「ユメミールからしましたらー、こんな大都市は考えられませんからねー」


 フラウニの言葉にエルマも視線を道路に向ける。そこにはひっきりなしに走る鉄の荷車の姿があり、往来する人の数に圧倒されるばかりである。魔物の住むユメミールの世界では何十万といった人の住む都市はそれこそ数えるくらいにしかない。人の繁栄という面を見ればこちらの世界はユメミールのそれを圧倒している。聖力を用いた法術学で発展したユメミールとでは、科学を用いて発展した日本の都市は、地方都市とは言え摩天楼のように感じられた。


「ですがー、生活環境は雲泥の差がありますねー。慣れれば平気なんですがー」

「ですね。食品や食事は別として、空気や水なんかはユメミールの方がおいしいと感じます。それよりも暑いっ!!というかなんなのでしょうこの暑さっ!!」

「ちょっと、イライラした声上げるの止めて下さるアイシスさん??こちらまでイライラしてきそうですわ」


 気晴らしをするもダラダラと流れ出る汗は止められない。


「あー!!もう帰って冷たい麦茶飲みたいー」

「このっ、エルマっ!!あえて言わないようにしてたのにペラペラ口にしてっ!!」

「……貴女方、少しはしたな過ぎですわよ??まったく以前の──……っ!!」


 その瞬間、三者が一斉に背中を合わせ各人が周囲へと視線を彷徨わせる。


「いま、奔りましたね??」

「ええ、明確な敵意も感じましたわ」

「これはー、来そうですねー」


 すると、エルマの前に一枚の符が現出し、煙と共に…、


「愛と正義妖精ポッコル登場っポー!!あまりのかっこよさに惚れたら駄目ポよっ!!」


 愛嬌を含めたらしいポーズであらわれた趣味の悪いぬいぐるみは、瞬く間に怪力ゴリラの手中に落ちるのであった。


「いい所に現れました、このくされぬいぐるみっ!!それで状況はっ!?」

「ぐぇぇ……今の感じじゃあと20分くらいで来そうポ!!さっきのはアイシス達への宣戦布告ポね」

「20分……時間がありませんね」


 アイシスはポッコルを握り締めるのを止めて放り出す。エルマが持っていた符にはエルマ達の場所を示す目印符もあり、今回ポッコルはそれ目掛け飛んできたのだ。


(コレを持っていましたら、わたくしも苦労しなかったのですけれど……)


 散々放浪して苦労したフラウニが意味深な視線をその符に送る。今回のそれは動き回って居場所のわからないエルマ達の所へ直で向かえるよう、その目印として特別にあつらえたものである。何かあった時の為、今回のようにポッコルの方から彼女達の元へと飛べるように用意した物であった。


「それでー、アチラは何匹体勢で乗り込んできそうですかー??」

「ポッコルが感じるに、三匹同時、けど別々の場所に現出してきそうポね」


 ポッコルの受けた感触を元にアイシス達は作戦を練る。20分程度では、街外れの学校にいる正宗と合流するだけで浪費してしまう、それでは時間が勿体ない。夢生獣はその種の到達点の一つとされている、それ故に自尊心が強い傾向がある。結果として正面切って攻めてくると宣戦布告してきたのだ。敵があえて自身達の攻勢を事前に知らせてきてくれたのだからその時間を使って相応の迎撃準備を整えるのは礼儀であろう。ならばこそ、正宗と合流する事より、夢生獣の現界時期と場所を出来るだけ正確に予測し、対抗準備する方が有用であるとアイシス達は判断した。ポッコルの話を聞き入れつつ、ハンドマップを拡げ作戦を詰めていく。


「……大方事前の予測通り、という所ですわねエルマさん。──では、ポッコルさん」


 フラウニの声に頷き、ぬいぐるみが股下から銀のバングルを取り出した。差し出すポッコルだが、フラウニが嫌そうな顔を向けなかなか受け取らない。


「……今、どこから出しましたの??なにか、汚らしい感じですわ」

「さっさと受け取るポよ!!」


 ポッコルが放り投げると華麗に……指先で掴み上げ、ウエットティッシュで一拭きした後バングルを左腕にはめるフラウニ。


「最終確認します。因果律改変夢幻空間が展開されると同時にこちらも変身、各自が展開し現界してくる夢生獣の先手を打って撃破封印します」


 アイシスの言葉にエルマとフラウニが頷きをもって返す。視線を街頭へと向ければそこには日常が闊歩している姿がある。通り過ぎるサラリーマン。日傘を差して歩いている女性。行き交う車にバイク。照りつける太陽にアスファルトは熱を帯び、道路の上には陽炎のような揺らぎが見えている。そして耳に聞こえてくる蝉の声。その中に、不自然に増えていく耳慣れないノイズ音。


「いよいよポね……」


 それはこちらの世界の人には気づけない怪音。いや、こちらの世界の人々だけでなく、特別な才能が無くては感じ得ない夢幻への子守唄。やがてゼンマイの切れるおもちゃのように、人の、世界の、時の動きが緩慢になっていく。それを包むのは様々な歯車がかみ合ったムーブメント達。やがて彼等もその歯車も動きを止め、そして振り子が制止する。


「聖力全開っ!!解錠要請っ!!チェンジモードパラディンッ!!」

「ラブリーエナジーフルパワーっ!!ラブリーアイシスモードパラディンッポー!!」


 声を上げたアイシスに光の鍵が突き刺さる。


「聖力全開ー!!解錠要請ー!!……変身っ!!エルマイールっ!!」

「プリティーチャージマキシマイズ!!プリティーinエルマイールッポーっ!!」


 続いたエルマにも光の鍵が躍りかかった。


「聖力開放、解錠要請ですわっ!!術式展開、法衣装着、我は世界の護り手なりっ!!」

「ファンシーレベルオーバーリミット!!フラウニーナオンスーデジッポー!!」


 そして差し出されたバングルの紅玉にポッコルの光の鍵が吸い込まれる。三人は輝きを纏い、その衣服は弾け術式を紡ぐ。やがて紡がれた式は全身を覆い尽くし煌びやかな法衣となって閃光の中から生まれ出る少女達。


「ラブリーアイシスモードパラディン!!愛の名の下に……浄化しますっ!!」

「プリティーエンジェルエルマイール、貴方の夢とハートをお守りしますー」

「ファンシーハートフラウニーナ!!正義と未来の為に、貴方の盾となりますわ!!」


 三者が決めポーズを取って顕現する。途端、


「やっぱこの決めポーズいらなくないですか??」

「わたしもーそう思いますー」

「??どう致しましたのお二人とも??」


 力なく崩れ墜ちるラブリーアイシスとエルマイールに、まだこちらの常識と羞恥に毒されていないフラウニーナは首を傾げた。一息吐いて落ち着きを取り戻すと、三者はハイタッチを交わし、時の止まった“世界の夢の中”へと飛び出していく。各人が向かう先は、輝く粒子が舞い落ちるその先である。時を待たずして、音のない世界に爆音が鳴り響く。それは戦闘開始のゴングであった。

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