夢生獣大戦争15
人員が増えて安定したのは戦闘面だけではない。平民出身であるフラウニの家事レベルは高く、更にこちらの世界における家電製品、つまり洗濯機や掃除機などの使い方を即座にマスターし役立ってくれたのだ。
「ホント、役に立たないのはどこかの貴族お嬢様だけよな……」
「あら??ですがエルマさんの方はしっかりとこなしてくれておりますし、やはり本人の努力と教育、なによりやる気次第じゃありませんの??」
夕食を用意する正宗の視界の奥で、フラウニが小さな身体でテキパキと洗濯物を畳んでいる。その横で寝転がりポテチを貪っていたぬいぐるみの手が止まった。
「し、しょうがない、しょうがないポよっ!!ポッコルも人間サイズなら問題なく手伝えるのだけれど如何せんこの大きさポ!!手伝いたくともしょうがなく……」
「そんでアイシスとエルマは??」
「お二人は街中を走り回っておりますわ、この間の影響処理に奔走してましてよ」
「やっぱそのままにしてちゃ駄目なのか??」
夢生獣共の暗躍により影響は市内全域にまで及んでいた。徐々にとはいえ、最終的には意識や認識の齟齬を起こす程の影響を受けたわけであるが、その原因は夢生獣から受けた魔力によるものである。
「こちらの世界は聖力と言ったような理力が気薄ですの。その為そのままにしておきますと吸収、浸透された魔力残滓が何を起こすかわかりませんもの」
フラウニの説明ではその残った魔力により異常な事が引き起こされる可能性が高くなると言う。あらゆる物の魔力抵抗が低い為にそれが容易に内部まで浸透してしまう、当然抜けにくくなる。それは別段物だけというわけではなく、生物も例外ではないという話だ。特に生物の場合は生体エネルギーと絡み合い長期間残留し突然変異の可能性を高めたり、精神に強い影響を与え異常や覚醒の原因となったりするため厄介度が上がるという話であった。抵抗力が高いのなら自身の理力でそれらを上書き、駆逐できるのであろうがそれに関しては期待できない。
「単純に疲労や病気に対しての抵抗力が極度に低下するなどと言う事もありますが、夢生獣は夢や精神に影響を与えますでしょう??アレ等の魔力残滓となると連日の悪夢からバイオリズムの低下、精神混濁、場合によっては不幸を呼び寄せるなんてことも起きうりますわ」
「運気が下がる、確かにそりゃ恐ろしいな」
そんな馬鹿なとおもいつつも、夢生獣が荒唐無稽な夢物語な生物なだけに否定出来はしない。
「……ちょっと待て、今重要な事にはが付いたんだが」
正宗の絶望したような声、何事かとフラウニも視線を向ける。
「聖力や魔力がこっちのものに浸透しやすかったり影響しやすい、って話なんだよな??」
「ええ、そう言っておりますわ」
「だとすると、家はどーなるんだ??」
鉄家は聖力による生活費削減システムが導入されている。ということは聖力による浸食被害を常に受けており、実は既にボロボロになっているのではと考え至ったのだ。
「それに関してはエルマが以前言ってた通りポよ正宗」
「何か言ってたっけ??」
「エルマさんは対応策をとったと仰っておりましたわ。抵抗力や正常な浸透性を高める為に経路を描いたり、法陣で徐々に聖力に成らしたり、聖力の同化を慣らしているようですわ。いずれはわたくし達の世界の物質のように聖力を帯びても大丈夫のようになるやも知れませんが、そうなった時の抜けや拡散対策も行っているとのことですわ」
「いきなり今浸透して行っている聖力が抜けたのなら、ボロボロの素材が残るポが、抜けてないなら逆に頑丈になってるっ話ポ」
突如として家屋が倒壊する、そういったことは無いから安心しろと言う事であった。それどころか聖力慣れし聖力を帯びるようになれば、強度向上や材質の劣化防止、はたまた何かしらのパワースポットのような効力を発揮するようになるのでは??ともいう。仮にアイシス達がいなくなったとしても注入された聖力は次第になじみ、他の同素材よりも頑強な物となっていくだけだという話であった。
(あー、なんか防甲を設置した時に洩れとか対策とかなんか言ってた気がするなぁ。まぁ、ホントかどうかは実際の所わかんねーけど、そう信じるしかないな)
詳しく聞いた所で正宗には理解出来ない。対策されているというのならそういう事なのであろうと信じるしかないのだ。
「ん??ちょっと待て、家に関してはそれでいい。けどさっきなんか不幸がどうの言ってなかったか??」
疑問顔をみせる正宗をみて、ポッコルがそそくさと部屋から出ていこうとする。否、フラウニに掴まる事で阻止されたようである。
「昨今の俺の、夢生獣に追っかけられたり闘いに巻き込まれたりの不幸はお前達のせいなんじゃ……」
「そそそそそんな事はありませんのことよ、??ねっ!!ポッコルさんっ!!」
「当然ポよっ!!フラウニの言う通りポッ!!正宗は疑り深いポよねぇっ!!」
「……そうかぁ」
満面の笑みで答えるフラウニとポッコルをみて気を落とす正宗。原因がわかれば対処も出来たのにと言うような表情だ。
(完全に否定できない話だった為に危なかったですわ)
(今正宗の強力を得られなくなるのは困るポッ!!なんとしても誤魔化し抜けるポよフラウニ)
笑顔を引きつらせつつ二人は正宗とは違う思惑を見せている。
「それにしても、フラウニはその年齢で博識なんだなぁ」
会話や応答の速さに正宗は感心しながらフラウニを覗き見た。身長は150センチちょっとだろうか?ぱっと見はコチラで言う中学生のようであり、きっと幼くしてその能力を買われ聖士となったに違いない。更に夢の中での行動も可能とする夢聖士の才能も持っているというのだから、能力重視のユメミールならではの採用なのであろうと正宗は考えていた。しかしポッコルが両手を拡げ否定するように首を振る。
「待つポ正宗。アイシス、エルマ、フラウニの三人の中ではフラウニが一番年長ポよ??」
「なん……だと……」
ポッコルに言われ再びフラウニを凝視する。言われ慣れているのかその表情は冷静に見え、いや、口元がヒクついている。
「ええ、ええっ!!そうですわっ!!わたくしの方が年上ですっ!!何か文句がありましてっ!!」
「つまりロリババアって事かっ!!」
幼女姿の年上でお嬢様言葉で平民とか全てがチグハグで合っていない。しかし驚愕を示し暴言を吐いた正宗を殺気が籠もった視線が貫く。彼女の手の中で握り潰される人形もどき。そして……、
「ただいまー、今戻りましたー」
「暑い、死ぬ……ふわわっ!!部屋の中涼しいですよエルマッ!!」
エルマとアイシスが居間に入ればそこは冷風の中、エアコンの恩恵に喜びを上げる。そのままアイシスが足早に冷蔵庫へ向かおうとすれば、
「……??何をしているんです正宗??」
物言わぬ正宗が両鼻から鼻血をダラダラ垂らしながら倒れていた。彼の横には血染めのぬいぐるみが落ちている。対照的に優雅に床に座りつつ麦茶を飲むフラウニ。
「それで??どうなりましたの??」
「あ??……ああ、ヤツ等の残した魔力残滓回収にはもう少し時間がかかるようです」
「なにせー、結構な広範囲に広がっちゃってますからねー」
再び炎天下の中動き回る事をイメージしたのか顔が曇るエルマとアイシス。血染めのぬいぐるみがなんとか起き上がる。
「し、しかたないポね。この所為でどこかの誰かが不幸な死に方されたら回り回ってユメミールの所為って事になってしまうポ」
「誰もがその原因にお気づきにはならないでしょうけどねー。それでもーわたくし達としては後味が悪いですものー」
夢生獣の逃走はユメミールの不始末なのだ。故に夢生獣が起こした事柄はユメミール人としては見過ごすことが出来ない。しかもそれが夢生獣の暗躍に気づかなかったのが理由ともなれば尚のことだ。
「それで??今後はどう致しますの??アイシスさんの方が序列は高いのですから指示には従いましてよ??」
「あーフラウニ、ここではそういうのは無しで行きましょう」
「アイちゃんの言う通りですー。なんといっても相手は夢生獣三匹なのですー。夢生獣が共闘してくるとは露にも思っていませんでしたからねー、此方も戦力増強が望めない以上、序列とか関係無くもっと協力し合いませんとー」
強力な“個”である夢生獣が群れて共闘の姿勢を見せるなど過去にはない異例な事態である。光と影、陰と陽、光と闇のように、多数と唯一という相反する存在。世界へ唯一個体として現出する夢生獣には番いすらいないとさえ言われている。だからこそその世界を自分色に染め上げ、個の持つ孤独、渇望によりその世界を自身と眷属で満たす事を願いとしているという話だ。或いは眷属達の究極、進む先に辿り着いた可能性の形として顕現する為、結果それ等の導き手、“王”という形となる為に個として現れるのではないか??とも言われている。いずれにせよ彼等は世界を塗り替える王。世界に君臨できる唯一神であり、神は一人で完結しているが故に群れることはない。つまり本来彼等夢生獣同士はライバル関係であり、排除すべき敵同士なのだ。
「そんなヤツ等が手を組んできたのです。恐らくですが正宗のアルヴァジオンに脅威を感じ取って対抗する為なのでしょうけど」
「多分そうでしょうねー。夢生獣単体では歯が立たないようなー、いわば天敵とも言えるような存在が現れたわけですからねー、そりゃ手も組みますよねー」
「……話だけ聞くと、嘘をおっしゃっているようにしか聞こえないのですけれどもね」
アイシスとエルマの話しにフラウニが苦笑する。フラウニも今までのいきさつは情報のすり合わせからある程度理解していた。ユメミールにいる頃のフラウニであればそこらのただの男が金導夢兵装を展開し夢生獣を凌駕した……などという話を聞いて信じることはなかったであろう。だが、フラウニ自身はこちらの世界に来ていた。当然にしてこちらの世界の因夢空間展開には巻き込まれており、その際に信じがたい超強力な聖力放射を感じ取ってしまっている。だからこそ、そんな荒唐無稽な話も嫌が応にも信じるほか無かったのだ。
「で、今後ですが正直な所作戦の立てようもありません。ヤツ等が次、単身個別で来るのか、はたまた再び三匹同時に来るのか、それすら予想できないんですから」
アイシスの思案顔にエルマとフラウニも顔を見合わせる。二人もそれに関しては同意するしかない。夢生獣の潜伏先は未だ不明。捜索は続けるつもりだが、およそにして相手方が動く方が先であろうというのがアイシスと同じくする見解だ。
「実際の所どうなのでしょー。次回の攻勢があったとしてー、夢生獣は金導夢兵装を使用してくるでしょうかー??」
「……金剛魔導夢想兵装な」
「わたくしは降着ですから夢生獣側の余力はわかりませんが、あのニュースが流れ始めた時期から考えますと……結構な魔力量を貯蔵なさっているのでは??」
「んー、となるとですねー、わたしは次、全力で来ると見ますねー」
エルマの確信めいた物言いにアイシス達は視線を向ける。
「どうしてポ??そう考える理由は何ポ??」
「この間の戦いですがー、実際夢生獣側はアイちゃんの戦闘力に結構舌を巻いたと思うのですよー」
まともにぶつかり合うのは得策でないと理解した筈だ。その上で自身達の暗躍も露呈し今後は警戒網が厳しくなる……そう考えるなら次回に全力を持って力押しで来ることは想像に難しくない。
「しかしながら、その裏をかいて来ると言う事も考えられますわよ??」
「どうでしょー。時間をかけユメミール側のわたし達の本体がやってくるのを夢生獣側は危惧しているのでしょうしー、本来なら彼等は群れませんー。群れた理由は対アルヴァジオンちゃんに対抗する為の筈ですー。それなのにアイちゃんへの対応などで折角溜めた魔力を浪費するなど本末転倒ですー。となるとー……」
「確かに、な。だとすると、残りの夢生獣が漁夫の利を狙ってくる可能性は??」
アイシスの発言にエルマは首を傾げた。三匹と正宗達、双方が激突し疲弊した所に横槍が入ったとしたら……どちらもひとたまりもないのではないか。
「過去の文献やー、これまでの戦闘から考えるにー、彼等夢生獣は一度行動を開始すると性急に事態を進めていく傾向が見られますー。それが習性なのか現実世界で顕現する為のタイムリミットなのかー、或いは夢生獣間の取り決めなのかわかりませんがー、なんにせよ今回夢生獣達は今日までにかなりの時間をかけた作戦を展開してきていますー」
「夢生獣側にも何かしらのルール、制約ががあるのでは??という事ポね。侵攻している夢生獣が居る場合は他の者は不可侵とか、その期間やなにかしらの取り決めがあるポとか」
ポッコルの話は考えられなくはない。特に夢生獣は強烈な“個”である。己の矜持を護る、その為であれば他者からの利に乗ぜず、対等、或いは正面から突破してこその勝利、そういうものに拘る習性があったとしても不思議ではない。
「つまり三匹であるが為に膨大な力が必要で、その為に非常に慎重に事を運んでいた。事が露見するまで十分に力を溜めはしたが、結果長期間活動に及んでしまった為に共闘夢生獣側にはあまり時間も残されていない。更には共闘を結んだのはこちらの切り札に対抗する為ですから露見した以上、余分な力を使わぬ為にもあの三匹は次で決めに来る筈……そうおっしゃりたいのですわね??」
フラウニのまとめにエルマは肯定すべく頷く。
「しかし、夢生獣の金剛魔導夢想兵装が三体同時顕現するとして、流石に何が起きるかなんて予想も出来ませんよ??作戦を立てるにしても、かなり無茶なものになります」
「わたし達ー、いつも後手のでたとこ勝負の背水の陣……ですからねー」
思案を始めるアイシスに、エルマがうんざりしたように弱音を吐く。もっと人手や聖力に余裕があるのなら相手の潜伏先を探し先手を打つなど出来るのであるが、戦力も人員も聖力もギリギリ、どちらかと言えば不足している状態なのだ。それなのに余計なことに労力を裂き、肝心の戦闘に負けでもしたら目も当てられない。出来うる限りの力の蓄積温存、ユメミール本体がくるのでの状況維持、それが今のアイシス達の基本戦略なのだから。
「それでも、最低でも三対二には持って行ける……筈です」
そう言ってアイシスはフラウニを見る。彼女達はただの聖士ではない、世界の見る夢の中で活動できる夢聖士なのである。アイシスの視線を受けフラウニはポッコルに視線を向けた。
「バングルと盾ならあるポ、安心するポよ」
「という事は、エルマさんは相変わらずですの??」
「ええー、金導夢兵装励起はちょっとー」
「……金剛聖導夢想兵装な」
フラウニの問いに苦笑で返すエルマ。フラウニのその視線はそのまま指摘を加えたアイシスの方へと向いた。
「アイシスさんの方は実際どうですの??前回のダメージ……抜けきっていないのでしょう!?」
「……問題ありません。戦闘には支障がないくらいには回復しています」
フラウニの問いに憮然とした表情で返答するアイシス。だが、ポッコルは手を広げ首を横に振る。
「実際は十全とは言い難いポね。でもだからこそフラウニが合流してくれたことに実は感謝している筈ポよ」
「ばらさないポッコル!!うるさいですよ!!」
アイシスは顔を赤くしながらグラスに注がれた冷えた麦茶を一気飲みする。夢生獣三匹からの全力の魔力放射を一身に浴びたのだ。そのダメージは計り知れない物であったが、そこでも新型に強化されたラブリー法衣の防御力が役に立ったわけだ。その後のエルマの治療のかいも相まってなんとか戦線に復帰出来るくらいには回復してきている。
「本来はもっと休養してちゃんとダメージ抜いてもらいたい所なんですけどねー、今はそれだけの余裕もありませんー。アイちゃん、ごめんなさいー」
エルマが頭を下げれば、アイシスがそれを手を振って流す。
「いいです、気にしないで下さい。聖士なんですからこれくらい当たり前です」
「よくおっしゃりましたわアイシスさん、実にその通りですわ!!」
頷くフラウニであるがエルマは苦笑するだけだ。
「方向性は決まりました」
「今まで通り出たとこ勝負ですー」
「なんともまぁ、不安で仕方がありませんがやるだけやるだけですわね!!」
夢聖士三人がやがて来る戦いに向け気合いを入れる。
「どうでもいいけど、正宗ピクリとも動かないポよ??大丈夫ポか」
仕方がナシに蹲る正宗に声をかけるポッコル。
「暴力系ヒロインって……もう流行らないんだぞ……」
「しかしアレ等は聖士ポ。闘う戦士ポよ??気が強く、直ぐ手が出るのは当たり前ポよ」
血溜まりに沈む正宗はポッコルに完全論破されるのであった。




