夢生獣大戦争13
「嘘……ポ」
あまりの衝撃にポッコルは食べていた煎餅を机の上に落とした。周囲に撒き散らした食べかすに混じり破片がコロリと転がる。
「ラブリーアイシスが……負けたポ……」
中空に映し出される映像を見ていたポッコル、そしてエルマと正宗には声が無かった。その状況を信じられなかったからだ。エルマの必死の探索により敵の出現場所を特定した。特定したのだが、
「三匹同時とかー、ありえないでしょー!!……あー、終ったー、詰んだわこれー」
「まぁ、しかたないよなぁ、常に排水の陣だったものなぁ。補給や増援なんてこれっぽっちも無かったし。結局いつかはこうなる運命だったんだ……」
ソレはエルマの残した式神から送られてくる映像であった。夢生獣三匹の魔力放射の直撃を受け、ラブリーアイシスは垂直に打ち上げられ頭から落下、以降微動だにしない。対して夢生獣達は蹲り肩で息をしているが、未だ意識はあるような状態である。とどめを刺されたならば、勝敗は決する状況だ。
「それにしてもー、唐突に三匹とはー……卑怯ですよー!!」
「こっちだって今まで三人プラス1で戦ってたんだから、あっちからしたら今さらだろ??」
嘆くように怒るエルマに達観したかのように言う正宗。残るは聖力を使い果たしたエルマにポッコルと正宗のみ。余力もなく余剰戦力も無い、これでは足掻きようも無い。完全な諦めの境地に達していた。
「さて……と。ポッコルはデートの約束があるからそろそろお出かけする──エルマ放すポッ!!ポッコルには約束があるポオオ!!」
煎餅を転がしたまま立ち去ろうとしたポッコルを無言で握り締め逃さないエルマ。一匹だけ逃げ出す事は許さない、死なばもろともの精神だ。ラブリージュエルの組み上がりは上々であり、アイシスの力もかなり発揮できていた。強襲も成功し、戸惑う夢生獣共の虚を付けて勝ちが目の前まで迫っていただけに、落胆もまた非常に大きかった。しかしながらいままでの闘いも常に綱渡りだったのだ、いつこうなってもおかしくなかったと言えていた。
「もう駄目ポーッ!!こんなところでこのポッコルが死ぬなんて様々な世界の大損失ポーッ!!せめて、せめてもう一人戦力さえいればなんとかなったポっ!!」
「そんな都合よくー、戦力が現れるなんてー……待って下さいー??……キタァー!!キタキタキタアアアー!!」
何がどうしたのかはっきりしないまま、唐突にエルマが身体を起し活気付き始めた。どう見ても精神を病んだ発狂者にしか見えない。正宗は仕方なく、生暖かい顔をして語りかける。
「どうしたんだ??ついに触れてはいけないところに触れてしまったのか??」
「そーじゃないですーっ!!援軍ですーっ!!今接触を試みますーっ!!」
エルマの言葉に正宗とポッコルも即座に身を乗り出す。
「どういうことポ??ついにユメミールから援軍が来たポかっ!?」
「違いますよーっ!!──お久しぶりですーフラちゃーんっ!!」
<……その声は……エルマですのっ!!やっと、やっと知り合いに出会えましたのぉぉおお……>
聞こえてくる声は涙声になっていた。エルマが街中に放っていた式神、その中の一体がこの因夢空間内で動くモノをキャッチした、そういった事だったらしい。
「よくー、本当によく来てくれましたー!!」
<随分、随分探して苦労しましたの!!ですがここ最近のニュースを拝見していてコレはとお思いましてっ!!今度こそ必ずこの地にお二方ともいらっしゃると確信して近くで張っておりましたのよっ!!>
流石は聖士というる。熊や鰐や象、アレだけの異常事態をニュースから判断し、この街の周囲にまで来てくれていたというのだ。
(どこかの見逃していた奴等に見習わせてやりたいなっ!!)
正宗がチラリとエルマとポッコルをみたが、その避難めいた視線を感じ取ったのか双方とも決して視線を合わせようとはしなかった。
「そうだよな。普通“実力のある聖士様”と言うくらいなら、それくらい予測して近くにきているよな」
「~~♪」
正宗が独白するかのように言うが、横の少女は明後日の方を向いて口笛を吹いている。
「そうだよなぁ、“役に立つ妖精様”と名乗るくらいならちゃんと感知するなり役に立つはずだよなぁ」
「あー、これなにポかね?年輪??いや年輪はもっとこうバーとしているポよね??」
視線をチラリとずらせば、そのぬいぐるみは机の表面の模様に興味津々だ。
「──つーか、お前等のことだぞっ!!」
「正直言い訳もできませんーっ!!」
「うるさい、少しは反省してるポよっ!!」
<……あのう、一体全体どういう状況ですの??>
詰り合いが始まった正宗達に置いておかれ、放置されるフラウニ。エルマは焦るように声を出す。
「早速ですがー、フラちゃんっ!!今大大、大ピンチなのですよーっ!!因夢空間展開中なのでわかっているとおもわれますがー、現在交戦中でマズイ状況なのですー。是非とも協力してくださいーっ!!」
<……えっ!?わたくしその、いろいろありまして。野営の数々で、つまりその、お腹が少々空いて力が出ないんですけれど……>
「ごめんなさーい!!兎も角ー、今はフラちゃんしか頼れないのですよーっ!!もう間もなく夢生獣に敗北確定しちゃいますー。フラちゃんが合流できてもユメミールに敗走撤退することすら不可能となっちゃいますよー、正念場なんですー!!ですのでーそのまま紙飛行機に続い来てくださーいっ!!」
エルマの式神、紙飛行機を通じて通信し、そしてラブリーアイシスの居る現場へと誘導する。その間に手短に現状をフラウニに伝え聞かせた。同時に視線を別の映像に向ければ、向かい獣達が立ち上がり何やら仲間内で揉めているようだ。
「多分首級を何奴が取るかで揉めているポっ!!」
「手柄の証明だからな、三匹とも我先にと主張しているワケかっ!!」
正宗達としたらありがたいが、立ち上がれる程回復したのなら最早時間がない。
<お待ちになってっ!?ご存知でしょうけどわたくし妖精召喚できませんのよっ!!生身で夢生獣に向かい合えとおっしゃるのっ!!>
「相手のダメージは相当ですーっ!!今回はその隙を突いて救出最優先でーっ!!それなら今後たとえこちらに不利な状況だとしてもー、なんとか応戦できる戦力を維持できるのですよー!!アイちゃんの救出と離脱をなんとかしてもらいたいのですーっ!!」
確かにフラウニは優秀な聖士である。しかし、だからといってアイシス以上の戦果を上げられるか??と問われれば「否」という以外に他ならない。現状、アイシスさえ失わなければ夢生獣三匹相手だろうが打ち破れる可能性を含んだ“切り札”をエルマ達は有しているのである。しかしその発動に成功しているのは今のところ“正宗とアイシス”のペアだけなのだ。切り札こと、アルヴァジオンはこの二人でないと起動させられないかもしれない……その選択肢を失うことは完全敗北を意味している、それだけはなんとしても避けたかった。
<~~ん~んんん、……わかりましたわ。やるだけやってみますわ!!>
少し力のない返事を返しながら最後の希望フラウニをもってして現状の打破を試みる正宗達。聖力により肉体活性をかけたフラウニは猛スピードで街を走り、夢生獣共が倒れたアイシスをつついたりして嘲笑している隙に現状へと突撃して見せたのだ。
「間に合ったーっ!!」
「夢生獣共、敗者を辱めているから不意打ちを食らうポよっ!!」
安堵のエルマにその場にいないからこそ言いたい放題に言うポッコル。更に思った以上にフラウニが活躍し状況は優勢に傾いいる。アイシスの与えていたダメージは相当であった事が伺え、正直このまま押し切れそうな流れでさえある。エルマの式神から送られてくる映像をTV代わりに野球観戦するかの如くテーブルに着きながら居間で一喜一憂する正宗達。
「おーっ!!流れるようにマウント取ったぞっ!!強ええっ!!」
「そこだポッ!!脇ポ!!脇がガラ空きポよおおっ!!」
「なにしてるですかーっ!!聖力の集中が甘いですよーっ!!もっと鋭角にー!!抉るようにー!!」
<うるさいですのよそちらの方々っ!!>
観戦者によくある当事者や経験者でもないのにしったかぶって的を得ない指示やアドバイス的な声を上げる正宗達に怒鳴り返すフラウニ。優勢に展開するフラウニであったが夢生獣による最後の抵抗に、状況は一気に劣勢へと追いやられた。その上でフラウニの……エネルギー切れである。好機とみた夢生獣達が一斉に撤退を始めていく。
「くそーっ!!痛みわけってところか……」
「いいえー。どちらかといえば此方の方が不利な状況ですー」
「善戦したほうポ、上々ポ」
式神からの映像は倒れている二人を映し出すだけとなった。
「……ん??この後どーすんだ??」
「とりあえず休憩ポ。フラウニを迎えて対策を練るポよ」
「いやいや、そうじゃなくて……」
正宗がそう言ったところでエルマの顔色が悪くなる。やがて因夢空間の限界が来て通常空間に戻っていく、しかしエルマは既に聖力枯渇、アイシスと増援フラウニは映像の向こうで倒れている。
「因夢空間での出来事をー、修正できる者はー……居ないのですー」
「「…………」」
正宗とポッコルが顔を見合わせた。そしてエルマを見て指差す。しかしエルマは首を左右に振る。
「わたしは既に聖力カラカラですしー、アイちゃんフラちゃんはあの様ですしー……」
因夢空間はやがて醒める。世界が夢を見ていられる時間はそう長くないからだ、しかし、それを修正前に醒められてしまったら……。案の定、既に正宗たちの視界にモザイク状のノイズが走り始めていた。世界の覚醒が始まったのだ。
「ヤバイッ!!いろいろヤバイぞっ!!修正は無理なんだろうけどあの二人を回収しないとっ!!」
「河川敷がバッキバキに壊れているポ!!下手したら川の流れに崩れて一緒に流されちゃうポよっ!!」
「わたしは自転車で行きますー!!マー君も原付出してくださいー!!」
バタバタと正宗達も慌しく動き出し、なんとかその場を離れてきた這う這うの体の二人の回収には成功した。現場には直ぐさま野次馬達が集まり、遠くから警察や消防の音が響いてくる。アイシスとフラウニの恰好は正に河川敷崩壊に巻き込まれた被災者のようではあったが、とある理由から救急隊ではない野次馬達は遠巻きに見守るだけであった。そのどさくさに紛れ逃げおおせたのだ。しかし、鼻栓をしてエルマに回収された臭うフラウニは、まず鉄家正面入り口の駐車場で水での洗浄をされその上で風呂場行きが決定事項となった。
「……その、なんといいますか、その前に何か食べる物をいただきたいのですが??」
「うるさいっ!!そんな臭う奴を家に上げさせられるかっ!!まずは洗浄だ!!何したらそんな状態になるんだ!!その間にエルマ、おにぎりでも作ってやってくれ!!そんで風呂に入りながら食え」
あまりの物言いだが渋々了承するフラウニ。
「なんでも食べ物を何とかする為にリアルに狩りをしていたらしいポ。そのためには野生動物の鼻を誤魔化すのと人の体臭を消す必要があるポ??野生動物の糞尿を衣服などに染み込ませたりして誤魔化していたらしいポ」
「街に下りたときのナンパの撃退にもなりましてよ??」
水で大まかに洗い流され、そして風呂場へと連れて行かれるフラウニ。狩猟銃など勿論ないため罠や接近しての狩りをしていたという。石を砕いて尖らせた石槍や石ナイフを使っていたというのだから凄まじい。同時に戦闘でボロボロとなったアイシスもエルマにつれられていった。
「しかし、狩りして血抜きして皮剥いで肉食ってたって……凄いな」
野生動物を狩り、野草を食ってのサバイバル生活。流石は冒険者なんかがいる世界から来ただけはあるが、異世界と言う事で食べられるキノコや山菜などは見当も付かず、かなり手探り状態であったとか。たまに街に降りてきては公園や地下街などに住む者達と情報共有し、なんとかいままで生きてきたというのだから驚きのバイタリティだ。この世界は確かに魔獣が闊歩する世界よりかは甚だ安全といえる。そんなせかいで生きてきたフラウニからすれば電車や車の存在の方が脅威であったという。巨大な鉄の塊が人を殺せる速度で走り回っているのだ、狂気の沙汰のように眼に映ったそうだ。そして百人単位で人を運ぶ電車、いや、何十万トンといった重量で浮かぶ船舶。はたまた鉄の塊が人を乗せ聖力も使わずに空を飛ぶというのだ、頭が追いつかなくなって基本山に篭っていたのも無理は無い。
「ルールや常識などは催眠学習で習いましたが、知識があることと体感するのでは天と地ですわ」
「まったくです」
「ですねー」
風呂から出てきたフラウニの愚痴に、座らされ治療符と包帯まみれのアイシスと彼女に施術しているエルマが同意する。どうやら彼女等も同様な意見と感想だったらしい。
「情報なんかはどう仕入れていたんだ??」
「先にも言いましたがわたくしにも段ボール生活する知り合いがいましたし、たまにわき水や河で水浴びして臭いを落とし街に下りたりしてましたのよ??ほら、街中利用すればTVとか置いてあるところは結構ありますし、自販機??ですか??あれに液晶がついていてニュースを流したりするのがあるでしょう??」
「すごいポね、こういったサバイバルに関してはやっぱりフラウニの方が秀でいるポね」
「わたし達はー、散々苦労しましたからねー」
「ええ、もう駄目だと何度思ったことか……」
実際アイシスには泣きが入っていただけにその言葉に重みがある。
「まぁ、わたくしは所詮出が平民ですからアイシスさん達とは違いますもの」
「平民??」
「フラウニは元々平民から聖士までのし上がったたたき上げポ。だからこそ他の者より貴族然としようとた結果か、お嬢様口調がまじって変な口調になっているポよ。言語変換も完璧ポね。フラウニのしゃべり方を日本語で完全再現してるポよ」
「ポッコルさん!!わたくしの秘密をペラペラとお喋りになるのは止めてくださらないっ!!」
ワタワタし始めたフラウニ、暫くして落ち着くと背筋を伸ばして改めて彼女は口にした。
「始めまして地球の方。わたくしの名はフラウニ=ベルクーダ。ユメミールが夢聖士にして女王候補の末席に名を連なるものですわ」
フラウニ=ベルクーダは優雅に正宗に会釈するのであった。




