表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
顕現っ!!アルヴァジオンッ!!  作者: 当世杞憂
夢生獣大戦争
54/108

夢生獣大戦争12

 咄嗟にゾウールは持てる全魔力を前面へと放出し眼前の死神に圧し掛かった。しかし所詮は最後の抵抗だ、直線上にいた死神こと夢聖士ラブリーアイシスは余裕をもって冷静にそれをガードし受け止める。だがそれこそが悪手、もはや瀕死の夢生獣達が故にラブリーアイシスはその立ち位置を見落としたのだ。というよりも、千鳥足のようによろめいていた夢生獣達の偶然も重なった形であった。夢聖士はゾウール達夢生獣に、三方を囲まれたその中心に位置してしまったのだ。そこに勝機を見いだしたゾウール最後の賭け。そのゾウールの声に引きずられるように、ワニゲータとベクマーも双方から藁をも掴むが如く魔力を放出し圧し掛かる。


「むっ……ちぃっ!!」


 偶然が味方した究極の反撃の転機っ!!三方からの魔力放出、中心で夢聖士は一人押さえ込まれ釘付けとされている。全方位に聖力展開し防御はしたが、三方向から押さえつけられ完全に身動きが取れないでいる。


「……ワニ!!ワニーッ!!」

「ゾウゾウマンモスゾウッ!!」

「クマーハチミツクマーッ!!」

「この、程度ぉおおおおおおっ!!」


 全力の押し付け合い。莫大量のエネルギーのぶつかり合いに空間に紫電が走り悲鳴を上げる。押しつ押されつの鬩ぎ合いは時折あらぬ方向に弾け、その余波を浴びて大地は砕け消失し、散乱した草花達は燃え上がる。夢生獣達はその両手を、見えない壁を聖士に押し付けるかのようにして両手で押し付け押し込んでいく。彼等も必死、歯を食いしばりながら両足でにじり寄る。中心にいる夢聖士は三方からの圧力を何とか押し返そうと抗っているが、その顔には焦りと必死さが顕わとなっている。


(全力の魔力放出の持続。……死ぬほど……苦しいゾウッ!!)


 ゾウールの息は上がり足は笑う。多分ベクマーもワニゲータも同じ思いであろう。されど今、そのまままともにぶつかり闘ったのならゾウール達の勝利は難しいのだ。せめて最初から一対一なら……そんなタラレバはこの時には必要ない。“鳥篭”へと閉じ込めた今だからこそ、絶好の勝機っ!!


「っ!!」


 その時、夢聖士の膝が堪らず落ちた。いかな強力な聖士とはいえ三体の夢生獣の全力を一人で押し返すには無理がある。確信を得たゾウールは己の身体に最後の鞭を入れる。咆吼とともに残りの力を振り絞る。


「ここだ!!ここが勝機だゾウ!!今こそ押し切るんだゾウッ!!」


 神はいるっ!!三対一という数的有利は味方するっ!!それは出力面だけの話ではない。挫けそうな時、苦しい時に同じ境遇の仲間が居ると言う事は同時に頼もしい支えとなり得るのである。本来は孤高、故に夢生獣達とは無縁に近い力、信頼。


「……我達は強いワニッ!!」

「クマベアアアアアーッ!!」

「世界よっ!!オラ達に力を分けてくれゾウッ!!」


 三匹の意識が同調し合い、世界が見る夢が肩を貸す。夢の中という夢幻の可能性がゾウール達の力を一瞬後押しする。夢の中でならそれも可能とする、それこそが夢生獣の真骨頂。瞬間的に増大した三匹の魔力放射に押し切られ、中心にいた夢聖士が魔力の渦に飲まれ天へと舞う。高々と巻き上がるエネルギーの濁流に煽られ、その破壊力に夢聖士の聖法衣は砕け裂け、肌が露出し鮮血が散っていく。やがれ静寂が訪れた後、数秒たって響く激突音。強かに頭から地面へとたたきつけられた夢聖士の身体は、微動だにしない。


「…………」


 全力を出し切っていたゾウール達もまた荒い息をつき、膝を着いて項垂れていた。しかし、暫らくしても夢聖士が起き上がってくる気配は無い。ゾウール達は思わず顔を見合わせる。


「とった……獲ったゾウオオオオオ!!」


 ゾウールは感極まって力拳を天へと突き上げた。同時にガッツポーズを取り、笑い始めるワニゲータとベクマー。足をつきふらつく身体を起き上がらせれば、真っ直ぐに立てずによろめいてしまう。しかし、未だ煙を上げる夢聖士は全く身じろぎすらしなかった。


「こちらの全魔力と、己の防御に回した聖力をモロに浴びたクマ。流石に無事ではすまなかったということクマね??」

「……へ、下手したらコイツに全滅させられていたワニ。恐ろしい聖士だったワニ」

「オラ達を追ってきただけは、あるって事だゾウ」


 ゾウールの意見にベクマーとワニゲータも頷く。夢生獣達は封印から解放されると一路異世界へと逃亡を画策した。その先で潜伏し力を着け、復讐、或いはその手に全世界を手中にせんとする野望を持った。封印され続けていた彼等の力は著しく低下してしまっている、回復の為の時間稼ぎが必要であったのだ。だが彼等を封印していたユメミールとて、逃亡に気づけばに再封印隊を差し向けてくるに違いない。手安く手に入り、且つ他の世界からの干渉の難しい世界。それこそ、陰と陽、魔力や聖力といったものが無い特殊な異世界が妥当であったのだ。本来魔力や聖力がない世界という所は、魔力や聖力を持つ者にとっては非常に生きづらい世界であるからだ。魔力や聖力がその世界に満ちていないのだから、使用した魔力や聖力は己自身の回復力で補う以外にない。経口摂取する食物ですら魔力や聖力を持っていないのだから、当然にしてその効率は著しく低下する。だからこそ、“個”スペックこそがものをいい、そして因夢空間を操れる夢生獣だからこそ、それを使い魔力を生み出し吸収することを可能としたのである。だからこそそんな彼等を追撃でき、相手取れるラブリーアイシス達は相当の実力者であるか、あるいは歴戦の戦士以外に他ならないといえるのだ。


「……我等が用意した妨害術式をいち早く読み解き回避しながら追ってこれた猛者であるからワニね、ここで止めを刺しておくことに異論はないワニッ!!」


 と、ワニゲータは「さぁどうぞ」と言わんばかりに手を差し向けた。


「いやいや、ここはゾウール氏に譲るクマー」


 ベクマーが焦るようにゾウールへと向く。


(こいつ等っ!!夢聖士が死んでなかった時のことを考えてビビってるゾウねっ!!)


 ゾウールとてその心境はわからなくもなかった。つい先程まで死を覚悟するほどにボコボコにされていたのだ。確実にダメージは与えたであろうが、倒れているソレは演技で実の所はダメージの回復を待っており、トドメを刺しに寄ってきた獲物にはガブリと逆襲する用意をしている……とも考えられなくはないのだ。ゾウール自身は嫌がったものの、ワニゲータとベクマーに押されるようにして仕方が無く近寄る。観察してみるがうつぶせに倒れた夢聖士には生気を感じられない。その辺に転がっていた木の枝を拾い、鼻を器用に使ってその枝で排泄物を突くかのように突っついてみせる。しかし、反応は……ない。


「よ、よし、たぶん、大丈夫だゾウ。トドメを……なんだゾウ??」


 安心して近寄りその頭をゾウールの超重で押し潰そうと足を上げたその時、背後のベクマーに引っ張られ注意を引かれるゾウール。視線を向けるが、ベクマーはあらぬ方向を凝視したままだ。


「……なんか来るワニよ??」

「どういうことクマ??今、因夢空間展開中クマよ??」

「あれゾウかっ!!コイツの残りの仲間の……」


 思い当たるのはトンテッキやトットリッキー、それにカッサーナとの戦いの時に映っていたもう一人のユメミール夢聖士。撃たれ封印されたトンテッキ達による覗き見防止妨害もあったためあまり手元に資料があるわけではないが、確か戦闘向きではない夢聖士であったとゾウール達は認識していた。しかし、猛然と接近してくるその人物は見たことも無く……。


「……なんか、違う人間っぽいワニよ??」

「そうクマか??人間の顔の見分けなんてつかないクマ」

「ともかく先にこいつの頭を……」


 ゾウールが勢いをつけ踏み込むや否や、


(潰すゾ……ウッッ!!)


 あまりの事にゾウールは顔を背け狙いを外してしまったのだ。その間隙を、一瞬で駆け抜けた影。


「やっと……やあああっと見つけた希望ですのよっ!!簡単にはやらせませんわっ!!」


 その影はゾウールの踏み込みを見た瞬間、爆発的に聖力を活性化させ加速し倒れた夢聖士を担ぎ助け出したのだ。


「……何、何ストンピングをはずしているワニかっ!!」

「しかしだなっ!!この乱入聖士メチャクチャ臭いんだゾウッ!!」


 ゾウールが顔を背けてしまったのはその臭いの為だった。助けに入った人物の臭いがキツ過ぎて顔を向けていられなかったのだ。


「なっ!!あ、あまりにも酷い侮辱ですわっ!!確かにまともにお風呂など入れる状況じゃありませんでしたがそこまで臭くは無いはずですわっ!!」


 赤面しつつ憤慨する乱入者。しかしゾウールは長い鼻を器用に堅結びにしばり手を振り否定する。


「いやいやっ!!超絶臭いゾウッ!!思わずフレーメン反応しそうになるくらいに臭いんだゾウッ!!」

「なんとっ!!ご褒美じゃないクマかっ!!」

「「「…………」」」


 嬉々としたベクマーの表情に、ゾウールとワニゲータと乱入夢聖士は彼から距離をとった。


「それはそうと、貴様っ!!何者クマッ!!」

「お前達に名乗る名前は、ないですわっ!!」


 赤髪の少女は傷ついた夢聖士を寝かせると、一気にベクマー目掛け襲い掛かった。


「血迷ったかクマッ!!人間如きが生身で夢生獣に勝てると思ったクマかっ!!とっ捕まえてその臭い匂いを思う存分嗅ぎまわってくれるクマッ!!」


 何故か興奮しつつ咆哮し応戦するベクマー。いかな夢聖士とはいえ、聖法衣も着ていない聖士など夢生獣の敵ではない。得意のベアークローを突き出せば、あっさりかわされ拳の乱打を受け倒れこむベクマー。ワニゲータも噛み付きに掛かるが、その口を片手で押さえられ執拗なボディブローの連打に倒れ嘔吐し始めた。


(あかんゾウッ!!そういえば、オラ達も満身創痍だったゾウッ!!)


 肉体はボロボロな上、魔力も殆ど空に近い。そんな状態ではいかな夢生獣とはいえ聖力を纏った夢聖士には歯が立たないっ!!ゾウールが鼻を緩め封印を解き、フリッカーのように放つ。されど以前のキレはどこに行ったのか、あっさりとパーリングで叩き落とされると猛烈な膝蹴りを喰らい腰が落ちた。


(こうなっては、せめてもう一人の……)


 咄嗟に倒れている夢聖士を狙うべく視界に入れる。しかしそれに気付いた乱入夢聖士は即座にゾウールを蹴り倒し、あわてて蹲るゾウールに跨りマウントを取って執拗に殴り続けて来た。


「ゾーウゾーウッ!!これ以上はまずいゾウッ!!お前、お前ーっ!!動物愛護団体に訴えられるゾウよっ!!」


 傍目に見たら確かに動物を虐待する人間そのものだ。亀を苛め抜いた浦島太郎に出てくる子供達に他ならない。しかし相手は夢生獣、お詫びと称して浦島を数十年後の世界に放り出すべく竜宮城に案内した亀よろしく、虎視眈々と憎き人間に恨みを返すべく逆転の策を練っている者がいる。


「確かにこのままではまずいクマッ!!」

「……こうなっては手段を選んでいられないワニッ!!秘術をつかうワニッ!!」


 ワニゲータが眼前に幾何学な紋様を描き出す。術式は激しく明滅し輝くとワニゲータに纏わり付き体内に吸い込まれていった。突如、ワニゲータはいままでの嘔吐っぷりが嘘だったかの如く加速し、瞬く間にマウントを取る乱入夢聖士に向かい襲い掛かる。


「……死を、くれてやるっ!!デスロールクラッシャーワニ!!」


 螺旋弾丸となったワニゲータ、それを間一髪で回避する乱入夢聖士。流石に虚を突かれたためか、乱入夢聖士の表情には驚きが露わとなっている。そのまま乱入夢聖士は下がり即座に倒れている夢聖士を抱え上げる。ベクマーとゾウールもまた、ワニゲータの下へと走った。睨みあう両陣営。それにしてもとゾウールが観察すれば、ワニゲータの活力は戦闘開始前にも引けを取らない程に満ち溢れている。


「すごいクマッ!!これなら勝てるクマッ!!ていうか、こんなことならさっさと使って欲しかったクマッ!!」

「一体それ、どうなっているゾウ??」

「……これはお前達と雌雄を決する時まで取っときたかったワニ。取っておき中の取っておきの秘術ワニ」


 ワニゲータの発言にベクマーとゾウールは何もいえなくなる。彼等は生き残り、勝ち残る為に手を組んだ間柄だ。しかし、この戦いの先に、三匹で真の勝者を決める勝負をしようと誓いあっている。ワニゲータの使っている秘術は本来その時に使いたかったモノらしい。


「……しかしその前に負けては話しにならないワニからね。……この術式は“前借魔術”というものワニ」

「前借、クマか??」

「……そう、前借ワニ。我は明日使うべき魔力を前借して今使っているワニッ!!」


 聞けばそれはとんでもない秘術であった。ワニゲータ曰く因夢空間だからこそ可能な秘術という。指定した日数などの分を前借して“今現在”使うというものだ。借りれば借りるだけ大きな力を借りられるが、借りれば借りるだけ、使えば使うだけその反動もでかいらしい。


「なら100日分とか前借したらどうなるクマッ!!」

「……100日分とか前借したら当然死ぬワニッ!!」

「やばいゾウッ!!なんとなくその物言いはヤバイ感じがするゾウッ!!」


 自身達はボロボロ、なんとか痛みわけにしたい夢生獣達。しかし、今両者が引くとして、徳をするのは一体どちらかという話である。夢生獣達が引き、聖士達が改変され始めた影響を修正したとしても……夢生獣達としては別に構わないのだ。この周辺地域に浸透した影響の修正までに掛かる時間、そして今まで影響下に置いてきた事で積もり積もらせて溜めたエネルギー、それをただ粛々と回収するだけなのだ。その溜めたエネルギーを身体に馴染ませれば、最後の決戦は問題なく行える……それ程までに蓄えている。それを聖士達もわかっているであろうから、易々と手を引くわけにも行かないのだろう。だが、その片方の夢聖士は倒れ、そして……、


「グルゥォォオオオオオオオ!!」


 猛獣の咆哮が鳴り響かせ、乱入夢聖士が腹を押えた。


「今の何クマ??腹の音クマかっ!!」

「この隙だゾウっ!!撤退っ!!撤退だゾウーッ!!」

「お腹が減って力が出ませんわ…………あっ、この、お待ちなさ……」


 全身から粒子を上げうっすらと薄くなっていく夢生獣達。乱入夢聖士はそれを阻止しようとして、再び壮大な腹の音を奏で上げついに倒れ込んだ。やがて粒子と共に夢生獣達の姿は消え、そして天を覆っていたムーブメント達が動き出す。モザイクのノイズが世界を駆け抜け動き始めた現実の中、残ったのは完全に崩壊した河川敷という散々な痕跡であった。因夢空間で起きた出来事を修正修復できなかった結果、世界は因夢空間での戦いの跡を現実として認識したのだ。砕け穴の穿たれた河川敷、堤防までひびが入って砕けており、川の水流が流れ込み間を置かずしてその破損具合はより広がって行く。このまま侵食が進めばやがて堤防も決壊、川の水が反乱して市内に流入し莫大な被害を広げて行くに違いなかった。周辺地域の住民による通報でその場しのぎの補修は早急に行われるであろうが、それでも正式な市や県の修繕補修工事が入るには時間が掛かるだろう。そんな中水に浸かり、泥をかぶった事で傷ついていた聖士達が目を覚ます。


「…………ぅぅ、くっさいっ!!」


 しかし、そのあまりの臭気に背負われた夢聖士は即座に気を失ってしまった。


「ちょっと!!アナタ酷すぎますわよっ!!」


 背負う夢聖士の怒声は聞き入れられることは無く、急ぎその場を後にするので精一杯であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ