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顕現っ!!アルヴァジオンッ!!  作者: 当世杞憂
夢生獣大戦争
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夢生獣大戦争10

 それは尋常でない行為でといえていた。エルマイールの前には百を超える監視窓が展開されている。そこに映し出されている映像、魔力反応等を洩らすことなくチェック監視しているのだ。3桁ある監視カメラの映像をリアルタイムで全て把握しろ、そういわれても不可能であろう。16分割されたカメラ映像だけでも全体像を見るだけで、ひとカメラひとカメラの細かな映像をチェックすることはできないであろう。それに加え音声、サーモグラフィーまで加えられたらどうであろうか??それら全てをつぶさに映像内容まで監視観測するなど到底にして人の手に有り余る所業なのだ。しかしエルマイールはそれらを直接自身に無理に取り込む事で可能とさせていた。普通に考えればそれら処理だけで脳が焼き斬れるに違いない。


「だからあんなになっているのか??」

「もう十何時間あの状態だからポね、流石に精神の方は参ってきているポよ」


 そう呟く正宗の視線の先には、目の下にどす黒いクマを作ったゲッソリとやせ細った魔法少女の姿がある。焦点は定まらず中空に表示されるデータの海を眺めているか眺めていないのか、ただただ呆然と見つめているようにも見える姿であった。まるで生気が感じられない。


「……アレで本当に監視できているのか??」

「正直ポッコルにも目を開けたまま気を失っているように見えるポよ」


 まるで死した屍のような様に一応の心配を見せる二人。しかしその魔法少女には聞こえていないか、まったく微動だにしない。その横の陰にも動かない人影がある。それは体育座りをして顔を埋めただただジッと何かを待っているようで、はっきり言って幽霊や妖怪のようで気味が悪い。その時に備え、延々と己の力を蓄えているためなのらしいが、気配すら発しないためか背後霊などのこの世ならざる物に感じられるのだ。彼女もまた、身じろぎもせずに虚空を見つめ座っているのだ。


「まぁ、毎度の事ながらの後手後手状態に、つっこまれたくないわけポよアイシスは」

「あー、普段優秀な聖士とか息巻いてたくせに敵の策を見抜けなかった事に羞恥心を抱いているわけか」

「さらっと理由をバラすな糞妖精っ!!あと正宗も傷口に塩を塗るんじゃないっ!!」


 ポッコルと正宗のやり取りに思わず立ち上がって怒鳴り上げるてしまうアイシス。彼女は一旦咳払いすると、目を伏せながら再び体育座りへと戻った。


「……エルマイールがここまでして頑張って探してくれているのです、それに応えるよう私も出来ることをしているに過ぎません」


 先程も言った通りその膨大な情報の海から一粒に近い違和感を観測、探し出すのは至難の業である。既に出遅れている立場なだけに見落とし、見逃しは敗北……そのままこの世界の滅亡に繋がりかねない。エルマ自身が情報処理担当の聖士だとして、それでも鬼のように精神や魂をすり潰す戦いに他ならなかった。であるのだから、アイシスとしてはその発見と同時にエルマイールの頑張りに見合うだけの戦果を上げねばならないとそう決意を決めたのである。その為には体力を、聖力を、戦いに使う全エネルギーを少しでも確保しておこうとしているのだ。


「成る程、それで作戦は??これまでの話だと相手の待ち伏せがあるかもしれないんだろ??」

「これだけポッコル達に感じさせず暗躍している夢生獣ポ。当然露見して突入されるのも想定されていると見るべきというのがポッコル達の見解ポ」


 そう切り返してくるポッコル。


(バレたらバレたでその時勝負。いままで溜めた力で粉砕してやるわー……って作戦とか考えられないかな??)


 正宗は素朴な疑問を抱く。夢生獣は案外単純なだけに考えられない事ではない。が、素人である正宗は口を閉じておく事にした。


「最早手段は選んでいられません。夢生獣発見と同時に因果律改変夢幻空間を展開、現場に急行し強襲します」

「ウルフェンを励起していかないポか??」


 ポッコルのそれは尤もな疑問であった。相手が手が込んだ方法で且つ力を貯め策を弄しているのであれば、それに対するには最上の戦力で……金導夢兵装を展開して強襲するすべきではないのか??その方が勝率は高い筈だ。


「それでは駄目ですね。因果律改変夢幻空間を展開し、更に金剛聖導夢想兵装まで励起展開していては、それこそ逃げられたり防御を固められる恐れがあります。今回の相手はここまで用意周到に隠れながら暗躍し、その手を広げ力をつけてきています。当然相手も金剛魔導夢想兵装を展開出来ると見るべきでしょう。それでは駄目なのです。どれだけ後手を踏んでいるかわからない以上、せめて打撃を与えないと……そうなると必要となるのは、スピードですから」


 因夢空間を展開すれば相手にもアイシス達の意図は伝わるはずである。本来は因夢空間すら展開したくないのだ。相手が気づかずまた事象改変に精を出している所に後ろから突っ込むのが最適解なのだ。しかしこそこそ隠れながら近づいていては相手が事を終えて取り逃がしてしまうかも知れない。そうなったなら命取りなのはアイシス達なのだ。エルマイールの状態を見てもわかる通りこれ程の索敵は二度三度とは行えない。しかしこの機会を逃せば夢生獣はより一層の力を付け、或いは世界が夢生獣の色に染まりきってしまうかも知れない。金導夢兵装の励起展開には膨大な聖力とある程度の時間を必要とする。時間を与えるということは、相手が立ち直る時間を与えると言う事なのだ。


「だからこそ今回は速度重視って事か……」

「その通りです。相手が立ち直りこちらへの迎撃体勢を整える前に一撃食らわせないと意味がありません」


 今後の為にもなんとしても、このような策に対しても“此方には手立てと打撃を与える用意があるんだぞ!!”と夢生獣達に示さねばならないのだ。その為には相手がいかに迎撃策を用意していようが危険だろうが、それ等すら食い破って一矢報いねばならなかった。その為に力を蓄え、最速で且つ全力の一撃を与える為に法衣形態をチョイスした。


「それよりも正宗の方はどうなんです??本当に大丈夫なのですか??」


 チロリと横目で見てくるアイシスの視線を受け、正宗は自身の額に手をやった。そこには熱さましの冷却材のような護符が額に張り付いている。


「ああ、おかげさまでなんとなく正気に戻ってきた……多分」

「随分曖昧ポね。まぁ症状が改善したのはたしかポね」


 ポッコルが不安そうに見ているが、護符はエルマイールが用意した術符であった。正宗は既に夢生獣の影響を受け始めていた。それは此方の世界の一般人では仕方の無いことで、聖力や魔力といった物に抵抗力が低い為に受けた改変である。アイシスやエルマ達に影響がなかったのは抵抗力が高かった為である。本来おかしな事が起きているのにもかかわらず、それをおかしいと認識できない。それはやがて一般人もが夢生獣を受け入れるように意識改変が強くなっていき、やがては夢生獣の思うとおりの姿形や心のあり方にまで変わっていくのだ。それは人から人へ、そして更には物へとまで侵食を進めて行き、そしてやがて世界を塗り替えるであろう。


「抵抗力が低い為に薄い改変ですら徐々に浸透したポし、薄いが為にポッコル達には感知出来なかったということポね」


 ポッコルは頷きながら護符を見た。護符にはそれら影響を排出する効能があった。護符を額に張ったことで外部からの侵食をシャットアウトし、同時に影響を与えていた魔力などが頭から抜けて行ったのだ。時間がたつにつれて正宗の中の改変され書き換えられたものが正常なものへと戻って行っている。


「まだ影響が微弱だったから排出に成功しるポよ??微弱とはいえ長期に渡って影響を受け続けていれば根付いてもう戻すことは叶わなくなるポ」

「そりゃ確かにやばいな。こりゃエルマイールになんとしても見つけてもらわないと」


 今頼れる者はエルマイールしかいない。彼女の情報処理解析能力に賭ける以外に手立てはないのだ、アイシスでは今回の襲撃の糸口を掴めない。期待を込めてエルマイールを見る。……見るのだが、やはりゾンビのような魔法少女は空ろな目でここではないどこかを見つめているだけだ。


「……正直、敵を見つけるまでもつと思うか??」

「ポッコルは持たないとおもうポ」

「残念だが私もだ……」


 相手がいつどう動くかもわからないのに延々と街一つを監視しつづけるのには無理がある。


「しかし可能性がないわけじゃありません」

「というと??」

「相手はこれまで問題なく手を進めてきました。今までバレていない、という事は当然今まで通り事を進める可能性が高い筈。こちら側は未だに気付いていないと思っている筈です。徐々に影響を与えその行動の痕跡は残さない……、非常に優れた手腕ですが当然にして得られる報酬も多いわけではありません、なんせ大っぴらに出来ないわけですから。ともなれば……」

「数をこなさないと、敵の手は進まないって事か」


 正宗の導き出した応えにアイシスは頷いて見せた。


「ならばまたいつ現れてもおかしくないポ。あと何十時間も膠着状態のまま──」


 何十時間も膠着という言葉に反応したのか、エルマイールの体がビクリと揺れ動く。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……」

「ヤバイ!!本格的にk点越えたかっ!!」


 恐怖を感じさせる身震いに正宗がエルマイールの精神を心配する。彼女は更にガタガタガタと全身を痙攣させるていく。


「ア゛イ゛ぢゃ……ア゛イ゛ぢゃん゛……」


 エルマイールの腕が震えながら動き、のっそりと自身の紋様盤を操作していく。同時に──、


「ポッコルっ!!」

「まかせるポーっ!!」


 立ち上がったアイシス達。ポッコルが光り輝きその手の中に光の鍵を創り出す。


「聖力全開っ!!解錠要請っ!!チェンジモードパラディンッ!!」

「ラブリーエナジーフルパワーっ!!ラブリーアイシスモードパラディンッポー!!」


 その鍵を、アイシスの胸のネックレスへと刺し入れた。アイシスを包む衣服が光となって弾け飛び、そして輝きとなって聖衣と化していく。その間に正宗は外へと繋がる窓のガラス戸を開けた。


「ラブリーアイシスモードパラディン!!愛の名の下に……浄化しますっ!!」


 居間の中でパラディンソードを一閃させキメポーズを取るラブリーアイシス。


「座標ー転送ー……」

「後はまかせて下さいっ!!」


 そう言い残しラブリーアイシスが正宗の開けた窓から躍り出た。倒れこむように変身の解けるエルマを一瞬視界に入れたラブリーアイシスはその手の剣を空へと掲げ上げる。


「夢見の時よっ!!恒久の無限、されど虚ろいの刹那。因果はたゆたい、世界は眠れっ!!」


 パラディンソードから迸った光は天を貫き、瞬く間に世界の動きがスローモーへと移り変わり時を止めていく。そしてモザイクのノイズが空間を奔る中、一直線に進む輝きがある。ピンク色の軌跡を引きながら、パラディンソードを振り上げたラブリーアイシスは空を裂くように流れ飛んだ。


「ラブリーパワーマキシマムッ!!」


 山の中腹から飛び立った流星は、街を横断する河川敷へと向かい流れ落ちていく。


「ラブリーハートフル──」


 そのラブリーアイシスの目の中に、河川敷で右往左往する三匹が映り込む。


「ボンバァアアアアア!!」


 その中の一体に向け、アイシスは加減なく特攻を仕掛けた。

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