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顕現っ!!アルヴァジオンッ!!  作者: 当世杞憂
夢生獣大戦争
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夢生獣大戦争9

「正宗、単刀直入に聞きます、この周辺で熊やワニや象が出没するというのは……その、現実的な事なのですか??」


 正宗が帰宅して麦茶で喉を潤している所に、真剣な顔をしたアイシスとエルマがやってきたのだ。一端口を拭い二人を注視する。アイシスもエルマも真剣そのものの表情で、肩で息をしている所からかなり焦っている印象を覚えた。


「はぁ??何をワケのわからないことを言っているんだ??」


 正直彼女達がどのような意図でその質問をしてきたのかが正宗には想像できていない。とりあえずこの夏日の中、授業を受け部活をして帰宅してきた直後なのだ。正直シャワーなり風呂に入りたくて仕方がない。不快感の中意味不明な質問をされればイラついてしまうのも仕方がないであろう。


「つーことで風呂のあとじゃダメか??」

「いや、せめて質問に答えてからお願いします、事は一刻を争うかもしれないんです」


 真剣そのものなアイシスに負けて正宗は一度溜息を付くと、応えてやることとした。


「そんなの当たり前だろうが。インドだって路上に象がいるんだぞ??日本にいないとでも思ってんのか??」


 正宗がそう応えるとアイシスとエルマが顔を覆い始めた。実に、実に残念がっている顔である。


「いけない……これはマジでまずいかも。ポッコル!!いますね!?」

「モガーっ!!一体なんだポ??」


 アイシスが呼べば正宗の手提げ袋の口の中からぬいぐるみがヌルリと姿を見せる。


「ポッコル、貴方的にはやはりいままで通り……ちょっと待って下さい、貴方どうしたんですその姿は!?」

「んー??ああこれポか??日光浴ポ。正宗が授業受けている間暇だから日光浴していたところ、こうなっちゃったポ。かっここいいポ??」


 全体的に色あせた感じになっているポッコルボディ。


「日焼けだよ日焼け。この夏日でポッコルも焼けちまったんだ。インドやアフリカのように日本は今、暑いんだっ!!象が出没してもまったく不思議はないだろ!?」

「うおおお正気に戻りなさい正宗っ!!」


 アイシスの拳をモロに受けて昏倒する正宗。


「何だポっ!?どういうことポ!?アイシスが乱心したのか正宗を殴りつけたポよっ!!」

「まーちょっと事情がありましてー……」


 頭を抱えつつエルマは事のあらましをポッコルに説明した。話が進むにつれて段々とポッコルの表情に

陰りが入っていく。そうして今ある情報を刷り合わせ対策を練るべく話し合っているのだと耳にした所でポッコルの膝は崩れ落ちた。


「……ちょっと待つポ??それだとポッコルの存在意義の四分の一を失ったって事ポ??」

「いや待つのはポッコルの方です。残りの四分の三は一体なんですかっ!!」

「失った三分の一というのはー、夢生獣の探知装置的役割の事ですよねー??」


 わからないといった様子でエルマは首を捻る。対して嘲笑するようなむかつく顔で首を振るポッコル。


「そんなの決まってるポよ。第一に聖士達の抑制役ポ、第二に再封印パーティーの良心的役割ポ。残る最後の一つは最強のイケメン枠というところポ!!」

「「…………」」


 アイシスとエルマは無言で視線で会話すると何事もなかったかのように席に着いた。死んだように床の上に放置されている正宗をそのままに、ポッコルも一言も発せずに机の上で正座する。


「……正直、調子に乗って口走ったと思っているポ」

「問題はポッコルの感覚がまるで役に立たなかったというところです。ポッコル、貴方的にもそういう認識なんですよね??」


 まるで先の会話はなかったかのように本題を語ってくるアイシスにポッコルは死にたくなる。


「……そ、その認識であってるポ。というか本当に夢生獣の活動の影響なのかポ??……いや、正宗の反応を見るにその可能性が高いポね」

「アイちゃんの方はー、どうでしたー??」

「街中を走り回って奴等の痕跡を探し回ってみたのですが……はっきり言って収穫なしですね」

「わたしの方では町全体に微量な魔力反応は観測できたのですがー、それがこちらの世界とはいえ自然現象であるとも言われれば否定できないレベルの物でしたー。明確な残留魔力は確認できてまませんー」


 そのエルマの報告にアイシスも眉を顰める。


「ということは、全くの杞憂……或いは、自然現象レベルにまで偽装され浸透化された策略……といったところですか??」

「そう考えるのが妥当でしょー。恐らく相当力を入れてきているのではないでしょうかー??」


 そういった結論意外に考えられないのだ。実際アイシス達がこちらの世界に来てからその辺を闊歩している象など見た事無いし、そんなニュースなど無かったのだ。であるのならなんらかの策謀が働いている、夢生獣がなにかしらしているに違いない。


「こちらを見てくださいー」


 エルマが紋様の刻まれたコースターを机の上に置き手をかざすと、中空に地図が描き出された。そのいたるところに赤いポイントのようなものが刻まれている。


「今表示されているポイントがー、噂による熊やワニや象の目撃ポイントですー」

「それで??」

「ちょっと警察にハッキングしかけたリ催眠術で聞き込みしたりと色々やりましたがー、ニュースになっている事件などは矢張りこの街が中心となっていますー」

「どういうことポ??」

「おそらくですがー、狙いはわたし達である事は間違いないということですよー。夢生獣はいわば到達点の頂点的存在ですー、しかしその心理はやはり獣性が強く出てしまうのもまた過去のデータから読み取れるのですよー。つまり縄張り争いですー」

「成る程、この街は私達の基点、いわば縄張り。ここを中心として活動しているって事はいわば縄張りを侵す事、詰まる所宣戦布告って話ですね??」


 本来なら余所で暗躍し力を溜めて正面から突破してもおかしくない状況なのだ。なのにアイシス達の住むこの街へ固執してくると言う事はそれなりの理由が必要となる。夢生獣がどれだけ知謀に優れているかアイシス達には想像が付かないが、奴等は獣の到達点の一つであると言われている。獣であるがためにその本能、縄張り争いが無意識的に策謀に影響を与えたとしてもおかしくはない。


「ただー、なにかしらしているというのが予測できただけで対策のしようもないんですけどねー。ポッコルさんが感じ取れない以上後手の後手、事が済んでからそれをニュースで知るとかしかないんですからー」

「厄介ポね。しかし正宗の認識にまで影響が出始めているということは、そろそろその異常に感づき始めてくる者が出始めるポよ??」


 この街の人間が熊や象の出没を当たり前と誤認してでも記憶や常識を擦り合わせようとしているのだ、隣の町に住む影響の少ない者……いや、他県などからみればそれが異常である事は直ぐに明白となる。今は「何言っているんだこいつら??」とか「ちょっとおかしくなっちゃったのか??」程度に思われているものが、何十万人もが同じように異常な感じ、“何か不可解な事が起こっているのでは??”と気付くのには時間は掛かるまい。


「いずれにしても、今回はかなり用意周到に手を伸ばしてきたと考えるべきでしょうね」

「んー、今出ている材料から想像するに、今回の夢生獣は何らかの手段でその気配を殺しつつ、通常空間を使って攻め手を進めていると考えられますねぇー。徐々に認識を上書きしてー、気がついたら有り得ない状況が現実となっているように世界を塗り替えていっているようですー」

「ですね。私はここ最近因果律改変夢幻空間の発生を感じた覚えはあれませんから」


 力を溜め、一気に因夢空間を使い自身達の世界へと塗り替える。トンテッキやカッサーナ達とは違う方法だ。実際問題今正宗達この街に住む住人は日本であるにもかかわらず、街中を象やワニや熊が闊歩してもおかしくない物であると思ってしまっている。


「わたしも展開は感じてないですねー」

「ポッコルも同じポ」


 二人の意見を聞いてアイシスは頷いた。


「だとするのであれば、やはり何かしらで隠匿しながら活動していると見るべきですね。……何か対策は思い浮かびますか??」

「既に相当に後手を踏んでいる筈ですー。ありきたりですがー、兎に角監視の目を常に光らせて異常を察知したら即応対応しかないかとー」


 エルマの言葉に眉を寄せるアイシス。それは不眠で町全体を監視しつづけるのと同じで、非常にアイシス達に消耗を要求する対策案であった。つまり少人数でしかないアイシス達には無理な作戦なのだ。


「他にも何か手段があれば……」

「──あるぞ??」


 突然あがったその声にアイシス達は視線を向けた。そこにいるのは身体を持ち上げ起き上がった正宗がいる。


「マー君、大丈夫ですかー??」

「ああ、おかげでサッパリして眼が冴えた」

「そんで何ポ??正宗にはいい案があるというポね??」

「ああ、まずは象だ」


 そう断言する正宗にアイシス達は顔を見合わせる。


「……象、ですか??」

「そう、象だ!!アレがシュババっと繰り出す鼻のラッシュッ!!しなる様で力強いアレはフリッカーに近いっ!!だがフリッカーは所詮ジャブだっ!!被弾しても即ダウンとまでは行かないだろう。そこで耐えて耐えて懐にもぐりこみボディーを狙うっ!!執拗にボディーを狙っていけばやがてガードが下がるっ!!そこが好機だっ!!耐えに耐え抜いたその先に、ガードの下がったその顔面目掛け──」


 肉の潰れるような音と共にアイシスのかかと落しが正宗の頭頂部を直撃し、何事もなかったかのように再びその場に沈み込む。


「正直正宗はもう駄目ですっ!!」

「マー君、侵食がここまでー……」

「こりゃ本腰入れてやらなきゃまずいポよ!!」


 アイシス達は再び顔を見合わせ頷き合った。もはや手段は選んでいられない。


「でわでわー、敵の探知に関しましてはわたしが対応しますのでーアイちゃんはいつでも飛び出せるようにしておいてくださいー」

「待って下さい、エルマ一人で見張りをやる気ですか!?交代でやらねば持ちませんよ!?街全域という広範囲、かつ今日か??明日か??といつ行なわれているかもわからない状況なんですよ!?」

「不眠不休での作業になるポよ??」


 アイシスとポッコルの言いたい事は尤もだ。しかしエルマは覚悟を決めた顔で頷き作戦案を続けた。


「符術式を多数用意して街中をカバーしますー。異変があり次第アイちゃんに連絡するので急行し対応してくださいー」

「だからエルマ……」

「アイちゃんの言いたい事はわかりますー。しかしわたし達は既に後れを取っている状況ですー、それが致命傷レベルかも見当も付かない今ー、形振りなど構っていられませんー。戦闘能力では圧倒的にアイちゃんの方が上なのですからー、アイちゃんには次でこの状況を打破なり打開なりできる戦果を上げてもらわなくてはならないのですよー」

「その為にアイシスをそこまで温存しておくと言う事ポか??」

「はいー。索敵はわたしの得意分野の一つですしー、ここは役割分担で行きましょうー!!ですがそうなると戦闘時のサポートまでは手が回らないかもしれませんー」


 街全域の索敵監視ともなればエルマの余力などないに等しいほどに消耗してしまうだろう、アイシスはそれを理解して肯定を示した。


「了解しました、私達の方はポッコルとどうにかします」

「突入の際も十分に注意してくださいー」

「というと??どういうことポ??」

「これだけ用意周到に事を隠匿してきた相手ですー。当然にして事が発覚しー、わたし達が乱入してくることも想定しているでしょうー」

「……成る程、確かに私達が反撃に転じてくる事を予測して、何かしらの手立てを用意している事も考えられますね」


 待ち伏せ、というよりも迎撃用準備といったところか??相手は慎重かつ狡猾にその魔手を伸ばしているのだ、アイシス達が考えも着かない手段を用意している事もあり得る。それでも、


「──と、いってもやることに変わりはありませんが。発見次第、因果律改変夢幻空間を展開し強襲、夢生獣を撃滅再封印しますっ!!」

「了解だポっ!!」


 アイシス達は頷き合うと即座に各自の作業に入った。アイシスは即休息に入り、いつでも飛び出せるように体調を整え聖力を溜めていく。その間にポッコルも聖法具等の入念なチェックを忘れていない。そしてエルマは符術術式の刻まれた符を使い折り紙として折っていく。鳥、鼠、など様々なものを折っていき、それを端末として街中に放っていくのだ。


「はじめますー、ポッコルっ!!」

「任せるポ」

「聖力全開ー!!解錠要請ー!!……変身っ!!エルマイールっ!!」

「プリティーチャージマキシマイズ!!プリティーinエルマイールッポーっ!!」


 鉄家の居間が眩いピンク色の輝きに埋め尽くされ、その輝きがエルマの肢体に巻き取られていった。


「プリティーエンジェルエルマイール、貴方の夢とハートをお守りしますー」


 居間で一人ポーズを決め啖呵を切る少女。横でガッツポーズしているぬいぐるみを他所にエルマイールは静かに机に突っ伏した。


(死にたいーっ!!)


 いい歳して一人でフリフリを着て何をしていると言うのか??その事を、ユメミールでは全然気にしなかったのだがこちらの世界に来て急激に恥ずかしくて仕方がなくなってきていた。ブンブンと頭を振って意識を切り替えるとバッと勢い良く立ち上がる


「それではみんなー、頼みますよーっ!!」


 エルマが意識を切り替えそう言えば、百を超える折り紙達が我先にと鉄邸から飛び出していった。それを見送ったあと中空に座したエルマが手を横に振る。途端に現れる幾つもの紋様を枠としたウインドウ。その百を超える窓には街中から送られてくる様々な映像が映し出されていた。屋根を走る物、側溝を進む物、それらが別の様々なデータも取りながら進むように流れていく。


「さてー、必ず見つけ出してやりますよー……」


 エルマが放った符術術式の端末──所謂式神達から膨大な量の情報が送られてくる。こちらの世界で出合った“折り紙”という文化。それが式神のポテンシャルやスペックを大きく跳ね上げていた。今までは符をそのまま飛ばしたり、鳥などの形にきったりしていただけの物であったのだが、折り紙により形、すなわち“容”を得ることで感覚や性能が飛躍的に向上したのである。そこにはユメミールにはない物体、飛行機や船といったものも含まれており、その性能も手に入れることで符術として大幅なレベルアップを果たす結果となっていた。それら小さな端末群を全て掌握して街中の情報を網羅する。


(絶対に見つけてみせますー)


 エルマ達の反撃がついに開始されたのであった。

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