夢生獣大戦争6
教室の自分の席に座り、机をそっと撫でる。やっと日常が戻ってきた……、正宗からしたらそんな感覚であった。久々の登校に友人達と談笑し、頭に入らない授業を聞きながら、早くも期末テストまで間もない時期となっている。季節はいよいよ本格的に暑さを増し、日中炎天下で活動するのは真面目に命に関わると思える程に暑くなってきている。しかし、世界の知らぬ所で夢生獣による脅威は依然として存在している為、正宗としてはその死ぬような暑さに拍車をかけられている気分であった。この暑い中防具をつける剣道部の部活動に加え、アイシスとのトレーニングも追加され肉体的に少々辛い。そこで考えたわけで、やはり自身の戦力強化に関しては専門家の意見をしっかりと聞くべきだろうという結論に達したのだ。
「闇雲にアイシス達の言うことを鵜呑みにして訓練しているだけでは駄目と言うわけだな」
「何をワケのわからんことを言ってるポ??どう考えてもそこらの学生よりアイシス達の方が専門ポ!!現役の聖士なんだからそりゃ間違いないポよ」
正宗が学校へ行っている間の護衛として渡されたポッコルが鞄の中から声を出す。流石はぬいぐる……いや、妖精。手荷物の中に隠れるなど造作もないことなのだ。
「確かに。まぁ金導夢兵装の事ならそりゃ間違いないだろうがそういうことじゃない。兎に角そこで聞き耳立ててろ」
正宗はそう言うと顔見知りの席へと向かう。そこでは男子二人が談笑を交わしている。
「ういっす、久しぶりテッちゃん」
「また長い休みだったなぁ。テスト前なのに平気なん??」
正宗が寄るとそれに気付いた二人がおもむろに声をかけてくる。
「ハカセに近ちゃんお疲れ、いや病気で……マジ参ったわ」
今田博士と近藤敏良は高校出来た正宗の知り合いである。テッちゃんとは正宗のあだ名であり、正宗の苗字は鉄、一般的にテツと読まれるのが普通でそのためについたあだ名であった。今田博士は漫画研究会に入っており、自主作製漫画を出している漫画家志望。近藤敏良は陸上部だが当然にして漫画やラノベが大好きなため話が合いつるんでいるといった間柄だ。そんなハカセが理解したとばかりに頷いて見せている。
「病気はなぁ……確かテッちゃん一人暮らしで親父さん海外なんだろ??ヘタに病気で倒れたら命に関わるもんな」
「テッちゃん気をつけろよ、救急車呼べずに倒れてそのままとか聞いたことがあるし。なんにせよ治ったっぽくてよかったわ」
二人の小言には苦笑するしかない正宗。実際包帯まみれだったためにあながち嘘でもない。それに本当のことは話せないし、当然にして巻き込むつもりもないのだ。
「わかってるし気をつけてるよ。それで寝てた時、暇でネット動画流してて気になったんだけどロボット物って今どんな感じなんだ??」
その正宗の問いかけにハカセがニヤリと笑みを浮かべる。
「ほぅ、“ロボット物”か」
「まー、今は流行ってはないよなー。今は異世界モノが主流だかんなー」
ハカセの笑みとは別に、近藤は別の感想を持っているようである。彼は異世界転生モノが好きなのだ。
「確かに流行り廃りはあるけどね。ロボット物は特に今はあまり流行ってないジャンルなんじゃないかな。異世界物、学園物、日常物、ラブコメ、ギャグ、さまざまなジャンルはあるけど、やっぱり僕としてはロボット物は無くならないで欲しい物かなぁ」
「なんで今は流行らないんだろ??」
素朴な正宗の疑問に二人は首を傾げる。
「動かすにしてもロボは作画カロリー食うから……かなぁ。あとは企画が通りにくいって聞くし。なんにせよ機体のプラモやおもちゃを出せる大手がスポンサーにならなきゃ作りにくいんじゃ無いのかなぁ」
「確かに最後モノを言うのは売り上げだよな。当たればそういう関連商品から大きな市場狙えるんだろうけど、プラモ作っても売れなかった……ってなると企業的には大打撃だろ??」
「あー……」
近藤の話に正宗が納得の声を上げる、思い当たる作品があるのだ。
「結果として変身道具などで稼げる特撮系の付加価値なら決戦用のロボットは売れるから企画が通るけど、単品アニメとしてはリスクが大きくなるからやりたがらないんじゃないかな」
「まぁ確かに。大きくなるにつれロボットが現実的にも無意味だと思えるようになるからな。巨大ロボで闘うとか良い的だぜ??ロマン以外のなにものでもないと冷めちゃうからな」
近藤が現実的でないと否定する。
「昔はアニメの中では大宇宙を舞台とした異星人達が地球侵略を企み、それを正義のヒーローロボが成敗する勧善懲悪物が主流だったわけだけれど、本来なら行き着く所は小型化の筈。アンドロイドや無人機ドローンの方がリアルだし説得力があるだろうね」
わざわざ巨大人型にする意味はないともいうハカセ。人型で無いにしろ、巨大兵器を投入すると言う事はそのフィールドを蹂躙、制圧するという意図があるはず、それならば別にロボットを投入せずともヤバイミサイル一発で済むというのが駆逐の現実だろうし、制圧するの結局の人である。
(まぁ金導夢兵装は元々対大型魔獣と闘う為の物だと言うし、法衣から発展したのなら人型なのもしかたがない……のか??)
金導夢兵装の在り方に疑問を持って悩む正宗。
「結局は企業の肝いりとか実績のある監督とかが名乗り出ない限りは難しいんだろ。昨今アニメが乱発している現状作画に時間や手間のかかるロボやるより異世界物やった方が低予算で済むし、ハズしてもダメージが少ないからな」
「その点はCGの投入で大分緩和されてきたけどCGはCGでお金掛かるらしいからね」
「下手なトコが請け負うとCG感モロ出しで浮くしな」
近藤の身も蓋もない結論にハカセと正宗が声を揃えた。ロボットは線が多い、それを動かすとなると中割を描くだけでも嫌になるのに違いない。漫画やアニメでロボモノが敬遠される理由のひとつである。バブルの頃やアニメ市場がうなぎ登りの頃ならまだしも、毎年制作作品が乱発している昨今では難しいのは当たり前だ。
(んー、背景的にはそういった様々な事情があるんだろうな)
話の掴みとしては十分だと正宗は本題を切り出す事とした。
「それは置いといて、だ。ロボモノで主人公達が強くなる定番といえばどんなのがある??」
正宗の疑問に二人は顔を見合わせるまでもなく答える。
「まずロボモノと言っても大きく二種類に分かれるよね。所謂スーパーロボットとリアルロボットの二つ」
「火力と防御力のスーパーロボットと機動性と俊敏さのリアルロボットってくくりだけど最近はどっちかわからんのも増えてきたよな」
「どこぞの科学者が単独で開発したモノはスーパーロボットと言っても過言じゃないよね。対してリアルロボットは軍や反乱組織が正式採用し運用している汎用機や最新鋭機とかリアル路線の作品の物が多いよね」
(んー、アルヴァジオンはタイプからいえばスーパーロボット……だよなぁ。オンリーワンな物らしいし)
近藤とハカセの説明に正宗も頷く。それくらいの知識は正宗も有している。
「前者の場合は武装の追加ってのが主だった強化かな。もともと超パワーなり火力は持っているからそれを遺憾なく発揮できる追加武装や更なる合体、そして新必殺技がメイン所だと思う。対して後者に関してはテクノロジーの進歩による新型機への機体乗換え、あるいは搭乗者の覚醒が主だったものじゃないかな」
ハカセのその意見にも近藤と正宗は頷きを返した。だいたいそれに当てはまるのではないだろうか。
「んー、機体の乗り換えか。それは無理……かな??」
思わず考えを洩らす正宗。金導夢兵装って物は所詮術式で組み上げられた物。だからこそ量産も出来るわけである。
(アレ??ってことは量産機な……もしかしてリアルロボット系!?……いやまて、アレには金玉が必須でアレは一品物だ)
正宗が混乱しているうちに耳にしたハカセは解答に出る。
「そうなると搭乗者の覚醒だよね。特殊な力に目覚めて機体の真のポテンシャルを発揮できるようになったり未来予知に近い予測をしてみたり。別段搭乗者の覚醒はリアルロボット系主人公だけの特権でもないしね」
(搭乗者……つまり俺の覚醒??そうか……覚醒しちゃうのか俺)
ハカセの話に考え込む正宗。しかし、そこで近藤が待ったをかけた。
「そりゃ機体と搭乗者だけの話だって。まだあるだろ??操縦方法とかで!!」
ハカセは解ったかの様子だが、余計な事を考えている正宗は反応が遅れる。
「テッちゃん、基本ロボモノの主人公機にはワンオフものが多い。なんでかわかるか?」
「特別感、主人公感を出したいからだろ??」
「その通り。本来現実ではテスト機でネガティブ要素を洗い出して改良改修して正式採用機とするから量産機の方が高性能なんだよ。けど量産機……それだと他と一緒だから“特別感”がない。だから限界性能を知るために採算度外視で造られた一機とか、その為に操作性が劣悪でピーキーだとか、それを乗りこなした時の真の性能は通常のそれを遥かに凌駕するとかそういった設定が多い」
「だから作品の中には逆にあえて量産機が主役ってものもあるよね。まぁそっちの場合はパイロットが凄いタイプの話になるかな。こう同じ量産機を扱いながらもベテラン以上の操縦技術でで敵を倒すってのがクルんだよね」
(アルヴァジオンに関して言えば完全にワンオフ機だよなぁ)
ハカセは量産機に燃える感性のお持ちのようである。そんな彼等を見ながら違うことを考える正宗は頷いてみせる。
「まぁつまり俺が言いたい事は、その機体をどう動かすって話なんだ」
偶発的にスーパーロボットを手に入れる、偶発的に戦闘に巻き込まれ新型機に乗り入れる、心踊る機体と搭乗者の出会いのシーンである。しかし、それをどう動かして良いのか、直感的に、或いは既に訓練を受けているのか??
「で、だ。普通に考えて、テッちゃん巨大ロボット操縦できると思う??」
(出来る、というか出来たっ!!……とは言えねーな)
そこまで考えそれでハッと気がついた。
「まぁ、普通は初見のロボなんて動かせないよな」
「その通り。ロボモノでネックとなる一つが操縦方法の話だ。一般人が最新鋭機に偶然乗り合わせ大活躍する、そこに魅了される要素があるのは間違いない。だけど、そうなるとなんで一般人にロボが操縦できるのか??という命題にぶち当たるわけだ」
「重機や飛行機なんか思い浮かべるに、どう考えても最低限の知識はなきゃ普通無理だよなぁ」
近藤の言葉に正宗は頷いてみせる。ゲームのように前後左右、ジャンプに攻撃とボタン一つで動かせられるようになれば理想だろうが、実際それを巨大ロボットでやれるかと言えれば疑問が残る。さらにいえばそれは“意のままに動かせている”と、果たしていえるのだろうか?
「それを解決するために搭乗者は特殊訓練を受けたテストパイロットだとか傭兵だとかする作品があるけれど、それだと一般人を主人公に出来ないものね。打開策の一つとしてあるのが、モーションフィードバック形式の操縦法だよね」
「こう右手を突き出せばロボも同じ動きをする、行き着く先は脳波や精神接続による操作法だな」
ハカセの言葉に近藤が右手を出してみせる。
(アルヴァジオンでいえばこれにあたるわけだ。俺の意志通りに動くわけだからな)
後者の精神接続に近い物だと正宗は理解している。
「で、パワーアップの方法としてこの操縦法が理由になる場合があるよね」
「所謂同調率やリンクパーセントの上昇だな」
「あー…」
その説明で正宗も理解に及んだ、確かにそのパターンが考えられたからだ。
「だいたい暴走すれば勝ちのパターンが多いよね」
「だな。暴走したらどっかの眼鏡かけたおっさんが“勝ったな”とかにやけ顔で言っちゃう程の勝ちパターンの一つだ」
正宗がうんうんと頷く、確かに見た事がある。
「で、いずれそれを克服するか、それ以上の同調率に至るとか、兎も角更に機体とのリンクが深くなり真の力を発揮するパターンが多い」
近藤が満面の笑みで解答に至る。
(俺の覚醒、それか機体の真の力の解放っ!!それだっ!!)
正宗はそこに盲目的な光明を見いだした。




