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顕現っ!!アルヴァジオンッ!!  作者: 当世杞憂
夢生獣大戦争
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夢生獣大戦争3

「しっかりとしたトレーニングが必要なんです」


 そうアイシスに告げられトレーニングの面倒を見ることになったのだが、実際はとんでもないモノであった。準備体操や動的ストレッチを行ったアイシスは全身にその聖力を行き渡らせるとまずランニングから開始した。今は原付で前を走るアイシスを追っている、まるで駅伝などの追走車気分だ。麓から鉄邸等が並ぶメインの山道、それとは違う山奥へと進んでいく裏道のような山道を爆走するアイシス。聖力により強化された肉体は普通の人のそれとは異なり、尋常ならざる加速と速度を生み出してアイシスは駿馬のように駆けていく。整備の行き届いていない裏道はアスファルトも割れ、穴の開いているところもあれば、そこから野草が伸び放題となっていたりと有体に言ってコンディションの良い路面状態とは言い切れない。それすらも見切りつつアイシスは速度を緩めることなく進んでいく。逆に原付で追う正宗の方がビビっておいて行かれている現状である。


「あんま無茶すんなよ??無茶して怪我したら元も子もないからな」

「わかってます。しかし戦場の道や足場が常に正常であるとは限りません。だからこそ、どんな足場でも関係なく練習しなくては実戦では意味がないのです」


 ランニングが済むと今度は鉄邸から自転車を借りて麓まで下っていく。そして上り坂をヒルクライムサイクリングしようとするトレーニングに移るのだ。


「行きますよ正宗っ!!」

「了解っ!!」


 アイシスがペダルを漕げば一気にタイヤが空転し始める。一瞬ゴムが溶けるような匂いと共にグリップを取り戻した自転車は、スロットカーのように激烈な加速で坂を上り始めた。正宗が慌てて原付のアクセルを開ければ原付よりも早くアイシスの駆る自転車が走り昇っていく。ギア比を変え更に力強くペダルを踏みこむアイシス。凶悪なトルクが車体を押し上げ自転車とは思えない速度を叩き出しつつ山道を爆走する。そのケイデンスはとんでもなく高回転。はっきり言って通常の自転車なら最早走行分解しているはずである。それをエルマが用意した術式を用いてアイシスは補強し、壊れないように制御しながら走っているのだ。術式を展開制御しながらの動作作業、これが自然にできなくては実践においては役に立たないと再びアイシスは言う。常に足を止めて術式を展開励起できるとは限らない。移動しながら術式行使を行えてこそ意味があると彼女は言うのだ。


「アブドミナル・マッスルッ!!アブドミナル・マッスルッ!!何人たりとも私の前は走らせませんっ!!」


 アイシスの自転車がヒルクライムなのにコーナーで横滑りしながらタイヤを空転させつつ昇りあがっていく。正宗の原付を抑えて登り切ったアイシスはインターハイ大会で優勝したかの如く両手を上げて歓喜した。


「そしてやはり最後は実践トレーニングです」

「ふむ、それはわかるがちょっと待て」


 正宗の静止も構わず謎のゴングが鳴らされると二人の戦いが始まった。アイシスの前に立つのは状況を理解できていない正宗だ。しかし、あまりの早業に、フルボッコされた正宗は言葉を発する間もなくそのまま即座にマットに沈む。


「なんと言うザマ、ちゃんと手は抜いてますよ正宗。貴方も夢生獣に追われている身なのです、少しは鍛えて護身術くらい覚えておかないといざとなったらシャレにならないでしょう??」

「そ……それはそうだが……型や基本を蔑ろにしてなにが……何が訓練だこの教え下手っ!!」

「それくらいわかってますっ!!というか、まず貴方がどれだけ出来るのか確認のつもりだったのですっ!!……思いの外ダメすぎて逆に戸惑っているくらいですよ。人の頭を潰しに来る時はあんなに素早いのに……その無防備さは一体なんですっ!!」

「言わせておけばあ~っ」


 正宗は咄嗟に周囲を見回すと、急いでリングから降り、庭先にあったモップの柄を手に取った。それを持ってリングへと戻り正眼に構える正宗。剣道部でそれなりに練習はしている、アイシスのような生死を賭けた戦いに身を置いているわけではないが、素人よりはましという自負があった。


「ふむ。その辺にあるものを武器として利用する、いい判断です。しかし──」


 アイシスが正宗に向け、手でクイクイと招いて見せる。かかってこいと言っているのだ。正宗がみれば半そで短パンのスポーティーな美女である。それに棒を持って殴り掛かるなど……明らかに気の引ける行為であるが心を鬼にして打ち込みをかけた。自身の武器のリーチをいかし、間合いを把握した打ち込みである。が、アイシスは同時に素早く踏み込むと得物にかすることもなく懐まで潜り込み、


「当たらなければどうという事はありませんっ!!」


 密着に近い状態から苛烈な反撃を加え残心をとるアイシス。正宗は一人膝から崩れ落ちるように再びマットに沈んだ。


「ヤバいっ!!普段頭の上がらない相手をボコすのは思った以上に気持ちいいっ!!」

「き……貴様ぁ!!トレーニングだというから必死に協力してやっていたのに……目的は憂さ晴らしだったのかっ!!」


 死に体だった正宗が驚くべき速度で起き上がると、眼にも留まらぬ速度でアイシスの頭部を掴み上げた。


「ヒェッ……コレこれっ!!何でこれが避けられない!!って、イダダダダああああ」


 締め上げられる頭蓋が悲鳴を上げるアイシス。


「反省するまで締め上げて……うごぉぉ」


 凶悪な笑みを上げていた正宗であるが唐突に悶絶し始めた。揺らぐ視界を必死に動かし確認すれば、頭蓋を締め上げられるアイシスの抵抗である拳が深々と正宗のボディに叩き込まれている。


「死……死なばもろともです……」

「ア、アイシスウウッ」


 それでもその掴み上げる頭部を締めつける正宗と、二度三度とその腹に刺さるアイシスの抵抗。


「二人とも頑張っているポか??イケメン妖精であるポッコル様がわざわざ応援に来て……ポッ!!一体なにがあったポッ!!敵襲ポかっ!?」


 覗きに来たポッコルの前に屍が二体転がっていた。その現状に夢生獣の襲撃を予測したポッコルであるが、二人が倒れた理由を事細かく説明していけば呆れ果て苦言を放つ。


「ポッコルが心配になってきてみれば、そんなので次も大丈夫なのポか??」

「まぁ今のはちょっとした息抜きです。正宗はタオルやドリンクを持ってついてきて下さい、正直に言ってちゃんと役に立ってますよ」


 アイシスが立ち上がりながらそう告げた。


「あまり根を詰めるのもよくないだろう??実際奴等がいつ何時に攻めてくるのかわかんねーんだから」

「ううむ、正宗の言うことも一理あるポね。けど、ポッコル的にはアイシスの戦闘力が訛る事を危惧しただけポよ」

「確かにこっちに来てからは訓練に時間を割いていませんでしたからね。実のところ夢生獣との戦闘とそれによるダメージの回復で手一杯なんですよ。特に聖力的には余力がありません。余剰戦力があれば私もしっかりとした休息と訓練、調整にてより良い状態で戦闘に挑めるのですが……無いものは強請れないですから」


 実際ところもっと訓練などはすべきなのだろう。しかし主戦力がアイシスである今、アイシスにはできるだけ常に万全の態勢でいてもらわねばならず、自ずとその回復や休養により身体を休めてもらう以外手立てがないのだ。特訓などで体力や聖力を消耗するわけにもいかず、さらに言えばそれに付き合えるだけの実力を持った相方となる人材もいない。訓練の相手や、アイシスが抜けてしまった際の穴埋めの戦力、それ等を補える手段は現状ないのだから。


「なるほどポ。なら今やっている訓練はできるだけ流しつつ調子を落とさないための訓練ポね??」

「そんな感じですね、日課のトレーニングといっていい程度です」

「エルマとも話したんだがこれ以上は難しいって話だ。ホントはもっとアイシスに特訓とかしてもらって力をつけてもらいたい所なんだが、それを行える広い場所も提供できないし、洩れる聖力を誤魔化すのにも限界があるって言うし。エルマも接近戦訓練ではアイシスの役に立てないとも言うしな」


 聖力をつかった術式やそれへの対抗対策……つまり聖法術の打ち合いや障壁による防御等の訓練などは、いかに山の中で人目に付きにくいとはいえ音や発光的にしずらく、聖力の余剰余波のなどから夢生獣達に探知される恐れがある。奴等に感づかれないよう聖力余波の放出を極力押さえて行なっている今のこのランニングやサイクリングは、考え抜いた上での苦肉のトレーニング法だったのだ。


「まぁいいポ。それよりそろそろ準備をしないとダメポよ??」

「くっ!!出来るだけ考えないようにしてたのにっ!!」

「……お前等ホント女王が怖いのな」


 いよいよユメミールとの通信が迫っいるというのに、どうにもこうにも女王への報告に二の足を踏んでいるようであった。


「こう……何を言っても怒られそうで……ですね、正直夢生獣を相手にするより緊張するのです」

「まぁ、なるようにしかならないポよ」


 いよいよ、審判の時は迫ってきていた。

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