始まりの物語4
正宗は自転車を漕ぐ。再びの道交法違反で二人乗りしながら自転車を漕ぐ。後ろに乗っているのはエルマでこれまた楽しそうに足をブンブン振っている。横乗りでされているためにあまりバランスがいいとは言いがたかった。アイシスはファミレス駐車場に置いてけぼりである。なんでもエルマを連れて行けば、聖力を辿り、追ってこれるという話であった。30分程かけて下道を走りついに山道に入る。流石に自転車を押して歩き、山腹にある建物へと向かえば、
「さて、着いたぞ。ここが俺の家だ」
目の前の建物を、山道を歩きゼーハー息を切らせているエルマに紹介した。
「ゼェ、ゼェ、ゼェ、ゼェ、ハァァ……。……ングッ、しょ……紹介してくれる所って……鉄君家だったんですかー?」
「そうだ。家は元小さいながらもホテルだったからな、部屋は余ってるし、しばらく住むのなら丁度いい」
そう言いながら正宗はエルマにその場で待っているように言い、母屋の方から入って客室棟へ向かう。そして使っていなかった客室棟の玄関の鍵を開けた。元々ロビーのようになっていたフロントホールもいまは何も無いガランとした部屋となっている。そうしてエルマと合流し玄関の前で暫らく待っていれば、星の瞬き始めた夜空を駆ける流星が見えた。正宗達の上空で光が消えたかと思えば、
「あっ!!来た来たーっ!!アイちゃんっ!!ここですよー!!」
空から降ってくるのはアイシスである。華麗に着地するのを見れば、正宗としてはポカンと口をあけるばかりであった。
(……こうして摩訶不思議な現象を見させられたら、信用するしかないよなぁ……)
散々騙されたかのような話を聞かされていたわけであるが、それが本当の事であるのだと認識するしかない。二人揃ったところでとりあえず物件として見て貰うべく案内することにした。再び中から玄関の鍵を閉め中へと進んでいく。
「一階は使ってない大広間や大浴場になってる。二階から上ならどの部屋でも好きに使っていい。各部屋にユニットバスとトイレはあるけど今は水も止めてあるから使うのは遠慮してほしい。大浴場も同じく使える状態じゃないな。飯と水回りは済まないが母屋の方で一緒に取ってくれると有り難い。なんというか、電気代や水道代もバカにならんからな」
二人を連れ今度は母屋を簡単に案内する。風呂場やトイレ、居間にその横にある台所、それらを簡単に説明していく。そして客室棟のメインブレーカー等をいじり客室棟への通電を行う。当然にして普段掃除する為とかに電気は通るようにしてあるのだ。スイッチを入れ点灯した廊下と階段を上り、客室棟二階へと足を運んだ。早速アイシスとエルマが我先にと部屋を物色し始めている。
「時々掃除はしてるけど、まぁ少々埃っぽいのは勘弁してくれ。気になるなら掃除換気してくれて構わない。布団も圧縮パックしてあるのがあるから一応だが直ぐに寝られるぞ」
「いやっ、いやっ!!最高ですよっ!!ちゃんとしたプライベート空間っ!!これこそ人の営みです!!」
アイシスが涙を流しながら両手を挙げて感謝を述べ踊っている。
「でもー……いいのですかー??わたし達なんか勝手に泊めちゃってー。……ご家族の方はー??」
「ああ、親父は海外、今は俺の一人暮らしだから問題ない。それにあのバケモノから身を護るのなら、闘ってくれるあんた等の体調が良くないと俺も困るしな」
「成る程ー。護衛と引き換えにー、こちらの暮らしを提供してくれるー……そういうことですかー」
「まぁそうだな、世の中ギブ&テイク……だろう??」
確かにとエルマは頷く。そうしてアイシスの方を向いた。流石に協議しなければ決められない問題だ。
「どうますアイち……」
「住まわせてもらうに決まってる!!私はもう漫喫暮らしは嫌なんだ!!お風呂だって毎日入りたい!!身体は汗臭いし!!漫喫はいつもガヤガヤしてて不安でゆっくり寝られない!!もう耐えられないぃぃぃ……」
「メンタル弱いな次期女王候補」
喚き散らすアイシスに溜息をつくエルマ。そうして正宗に向き直り、
「……そういうことですのでー、何卒よろしくお願い致しますー。改めまして-、わたくしエルマ=マーナ=リトールと申しますー」
「アイシス=ニール=ダイキスだっ!!多大なご恩、このアイシス一生忘れません!!」
挨拶するエルマの横に並び、アイシスも頭を下げた。口頭でだが契約が済んだところでいろいろと取り決めをせねばならない。
「つーことで寝泊りはいいんだけど。問題はやっぱり光熱費と食費なんだよ。俺も一人暮らしなもんだからバンバンお金使えるわけじゃねーし。親父からの仕送りをやりくりして生活してるから」
正直父親は結構稼いでいると思うが、なにせこのホテルを買い取ったりそれの維持や税金等いろいろ金が掛かりまくっている。そうなるとどうしても生活に回せる金額が限られてくるわけで。だから女湯があるからと毎日湯船を張り、二人分の洗濯機を多く廻す。そんな生活をしていたら水道代などで直ぐに今の倍を越えてしまうであろう。電気料金だって、住む人が増えるかぎり増加するのは当然で、一番の問題はやはり食費だ。女子とはいえ二人増えるわけである。それが家計に掛ける負担は決して優しい物ではない。そう説明していると、
「その辺りはお任せをー!!そこで役立つのがわたしエルマさんなのですよー!!」
自慢げにそのダイナマイト乳を誇張するエルマ。アイシスは照れるようにエルマを指して言った。
「あ、エルマはこれでも特級聖技士ですから。いろいろ出来ますから期待して貰っていいですよ」
「性技??」
「違いますっ!!貴方が考えているものは間違ってます!!聖力を使った術式技術士の事を言うんですっ!!」
首を傾げる正宗にアイシスが赤面しながら補足を加えてきた。
「そーですー!!わたしが家屋を改造し光熱費なんかこうこちょこちょっと改造……ちょ……オゴゴウゴオオオオォォ」
右手でエルマの顔面を握り絞める正宗。
「……却下だ。何勝手に人様の家異世界風に改造しようとしてんだ。いいか?なんかする時はその都度許可を取れ??でないとたたき出すからなっ」
正宗の迫力にコクコクと頷く青い顔をしたアイシスとエルマ。彼女達からしたら折角手に入れた人並みの生活を失う方が恐怖である。そうして色んな取り決めを行なっていくことにした。各部屋は自分で片付けること。風呂や洗濯の決まりetc、etc。残るのは最大の問題、食費について。
「こればっかりはな……」
「大丈夫ーっ!!帰る場所があるなら山で山菜や茸とって来てー、海で海産物獲ってこればいい話しだしー」
「……密漁じゃねーのかソレ??」
正宗の問いかけにお茶目に舌を出すエルマ。途端、逆に顔を青くしていくアイシス。
「だだだ駄目じゃないかっ!!あわわわ……私達いままで違法行為に手を染めていたのか!!」
「ほらー??わたし達別にーこの世界の住人じゃないですしー??」
「エルマっ!!知ってて私にやらしてたのかっ!!」
「生きる為にはしかたなかったじゃないですかー」
もみ合う二人に溜息を吐く正宗。
「そういえばもう一人??一匹??はどうなってんだ??」
「おっとー、忘れてましたよー」
そう言うとエルマが自らのバッグの中をゴソゴソと探る。そうして取り出したのは、
「やっと出れたでポー。ん??ここはどこポ??」
床の上に置かれた白色したモコモコのぬいぐるみのような物が周囲をキョロキョロと見回し、
「…………」
「…………」
正宗と眼が合うと、微動だにしなくなり動きを止めた。徐々に顔が青くなっていくぬいぐるみ生物。
「……コレは、何だ??」
「紹介します!!私達の仲間のポッコル……」
「お前等、ふざけてんのかぁぁ!?」
「ヒェェ……」
今度はアイシスの顔を鷲掴みにする。ガタガタと震えだすアイシス。とすると、
「アイシスになにするポ!!非道はポッコルがゆるさないポよっ!!」
シュバッと勢い良く立ち上がり啖呵を切ると、ぬいぐるみももどきは猛烈にダッシュし正宗の足に拳と蹴りを入れ始めた。
「グレートハイパーポッコルパーンチ!!スーパーウルトラポッコルキークッ!!」
ポフポフと叩き込まれる感触に、正宗はエルマに視線をやった。エルマは視線を返さずあさっての方向を見ている。仕方が無いので顔面への締め付けを強くしつつアイシスに問いかける。
「それで??このパイパーなんチャラが夢生獣には強烈に効くとかあるのか??というかコイツはこれで戦力になるのか??」
「イター!!イタタ、す、すみません!!ならないっ!!なりません!!全く戦力足りえません!!ですから放してくださいぃ」
悲鳴を上げるアイシスを溜息を吐きながら開放する正宗。
「ということはアレか??こっちの戦力はほぼアイシスさんとエルマさんだけ、だと??」
「いえー……そのー、わたしは後方支援なので戦闘に関しましてはそのー……」
頭をさすり照れながら言うエルマ。正宗はいまだ足に続くポフポフとした衝撃を受けつつ、瞬く間に二人の顔を掴みあげ……締め上げた。
「お前等やっぱり俺等の世界舐めてんだろ!!戦力たったの一人きりじゃねーかっ!!」
「イッダアアアア!!イダイ!!イダイ!!スイマセン!!」
「オオグウオオオオオ……く……鉄君ー、エルマ頭割れちゃうー……マジ割れちゃうー!!」
こうして、正宗達の奇妙な共同生活は始まった。
仕事も生活も上手くいかず現実逃避で「そうだ、小説でも書いてみよう」と書き始めました。ですので小説書きの「イロハ」も知りませんので間違った事していても暖かい目でお願いします。
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