深海の大決闘19
<もうー、時間的猶予はありませんー。そこでー、以前準備していた術式を利用し敵本体を判別しますー>
エルマイールの作戦に耳を傾ける正宗達。今回の戦闘の為に以前苦労して構築しておいた術式を即興改造、励起させ、それを受けた対聖力抵抗具合で敵本体を探り出すというのである。本来は本体との戦いを想定しての設置であった。しかしこれだけ場を改変され、更に相手が金導夢兵装ともなれば効果の程は知れてしまう。だが、放置するには少し惜しく思ってもいたのだ。
<廃品利用でコストも掛からず相手を探知できるかもーですー>
「その上で、本体に向けアルヴァジオンの最大火力を発射して撃滅させるのですか??成る程それなら……」
<いいえーアイちゃん、最大火力は今居る、その場で展開してくださいー>
アイシスの言葉を否定しつつ、エルマイールの提案した作戦が正宗達の脳裏に浮かんで来る。イメージ伝達にてより詳細が伝わるようにしてきたのである。
<最大火力は眼くらましというのが最大のキモですー。正直それで撃破できれば良いのですがー、そう上手くは行かない……とわたしはみてますー。仮に本体に距離を詰めたとしてもー、イグニッションを何らかの方法でかわされたとしたらー、出力低下した所に分体が押し寄せアルヴァジオンは終了ですー。ですから最初の改造術式励起で本体を確認ー、最大火力で分体の完全壊滅と場の混乱を計りますー。流石のカッサーナ自身もアルヴァジオンの最大出力を観測すれば様子見か距離を取るかする筈ですー。その間に平行して因夢空間補正術式を構築、展開ー。改変領域を元に戻しつつマー君達は混乱しているであろうカッサーナを補足、肉薄しー、現実世界でケリをつけましょー>
それは大胆であり無理矢理ひねり出した奇策であった。最早因夢空間時間内に決着をつける事は叶わない。だから決着は現実空間でつけるというものなのだ。その為に……海の中という戦場はかえって都合がいい。海の中であれば、巨大兵器が格闘していても現実世界で人目に付くことはない!!
「あーもーっ!!考えてる時間はねーっ!!やるぞアイシスっ!!」
「わ、わかりました!!エルマイール、了承しましたっ!!」
視線を移せばタイムリミットは一分を切っている。迷って考察している時間はなかった。
<了解ー。時間がないので早速行きますよー!!遠隔操作ー、術式改良……完了ー。励起させますよー、聖力ピンガー発射ーっ!!>
エルマイールの宣言と同時に発生した何かが正宗の身体、アルヴァジオンを装甲叩いて抜けた。結果を即座に解析し、エルマイールからその情報が送られ脳裏に表示されていく。その間にもアイシスの手は忙しなく動き、そしてポッコルが紫電に塗れ絶叫を上げる。
「ポゲヒャアアアアア…」
「聖力、最大解放、全術式……展開っ!!……よ、よし、正宗っ!!」
「アルヴァジオン──イグニッション」
振り上げた鉄塊の龍頭を、水中で思いっきり振りぬいていく。続く爆発、その破壊力に、アルヴァジオンを中心に全てのモノが消し飛んで行った。
<……っ!!……っ!!……!!>
エルマイールとの念話も寸断され、同時に殲滅の波動がその領域を押し広げ浸食していく。海を吹き飛ばし、陸を抉り飛ばし、世界を壊し進めていく。
「────っ」
急激な力の喪失に眩暈がして正宗の足がふら付いた。だがアイシスにもそれを補佐する余力があるわけではない。彼女は彼女で次の術式とそれを励起させるだけの聖力を確保せねばならないのだ。術式を構築し紋様化、逐一変わるデータに眼を走らせる。
「駄目ですっ!!流石に聖力が足りませんっ!!」
アルヴァジオンイグニッションは聖力を最大解放するだけあって流石のアルヴァジオンと正宗も大技直後の出力低下を起こしている。これでは次の、決め手の一手を用意できない……、
「聖力確保が大前提ですっ!!ポッコル強制パージっ!!」
焼け焦げ貼り付けになっているポッコルをアイシスが紋章盤から引き剥がし放り投げた。途端、アルヴァジオンの手から龍頭が失われていく。装甲が剥げ、フレームが砕け、塵となっていく龍の頭骨。しかし、武装へと回していた聖力を遮断する事で、
「──聖力確保、装填。制御問題なし、世界覚醒術式──準備完了っ!!」
正宗は眩暈にふら付きながらも、同時に少し戻した力に勢いを乗せ融解する大地をは駆け抜ける。そこはイグニッションの押し広げた本来は海底の場。目の前の向こうにはすり鉢状に押し広げられた海水が、視界を埋めるように壁となって押し迫ってきている。その壁目指し、疾走する足は一層の力を増し、一気に突き貫くべく突貫する。抵抗など、水圧など……一切関係ないっ!!この世界でなら、無茶すら可能となるっ!!。壁のその先へと海底を押し進む龍の視界に映るのは、エルマイールが残してくれたピンガーの跡っ!!それだけは今も尚、網膜に焼き付いたかのように捕捉し続けている!!
「見つけ……たあっ!!」
頭上にある巨大な魚影目掛け海底を蹴り上げる。鋭角に上昇浮上する姿は発射された弾道ミサイルそのもの。瞬く間に目標へと襲い掛かり、その魚影を鷲掴みにしたまま海上へと躍り出た。そのままの勢いでハンドボールの要領で手の内の巨大魚を更に沖へと向かい、全力投球で投げ飛ばした。
「アイシスっ!!」
「術式展開っ!!目覚めの時よっ!!因夢は散り、正しき夢へと戻りなさいっ!!」
アルヴァジオンの力を借りて世界の改変が戻されていく。天に打ちあがった虹色の光は空を包むように広がり、モザイクを彩らせ変更事象を修正して行った。落ちるように落水するアルヴァジオン。
「時間はっ!!」
「残り19秒、今回の改変修正にはおよそ……15秒、約15秒程かかるから、ギリギリ何とか間に合った!!」
いつものように30秒の安全マージンは取れなかったがそれでも間に合った。後は…、
「よし、行きなさい正宗っ!!カッサーナを潰すんですっ!!」
「わかった」
龍の体をうねらせて、鋼の巨大魚向けて爪を研ぐ。待ち構えている魚人の巨影は三叉の槍を掲げ上げ、再度両者はもつれ合うように激突した。
「っ!!」
「因夢空間構成限界っ!!現実空間へと移行しますっ!!」
正宗の視界にノイズが入り、そして急激に身体にかかる圧力が上がった。夢の中ならなんでも出来るが、通常空間となれば物理法則に縛られる。強力にのしかかる水圧にアルヴァジオンの動きが阻害されていく。対するカッサーナは、
「 」
口をパクパクさせるケーニッヒカッサーナを疑問顔で見る正宗。
「んん??ヤツはなにをやってんだ??」
「うん、私にも良くわかりません」
暫らく一人でパクパクしていたが、次第に地団駄を踏むような動きを見せ始めた。そしてジェスチャーを始めるケーニッヒカッサーナ。
「なんだなんだ??頭に人差し指を当てて、拳銃自殺か??今度は手を横に振って……拳銃自殺良くないって事か??」
「何を馬鹿な事を!?この能無し野郎と罵っているのではないですか??」
「……違うポよ。多分カッサーナの声、つまり耳聞こえてないポよねーと言ってるつもりポ」
煤を払いながら起き上がったポッコルの説明に納得を示す正宗とアイシス。とりあえず頷き返してみるとまたジェスチャーをしている。
「念話チャンネルを961に合わせろと言ってるポよ」
「面倒くさいですね。でも確かにやり取りできないのは何かと不便ですからね」
アイシスがいそいそと紋章盤をいじり調整した。
<──……あーあー、聞こえているギョ??全く、水中で話も出来ないとはこれだから陸上生物は……>
「聞こえとるわ魚類っ!!つーかお前等発声器官持ってんの??」
<おーっ!!やっと通じたギョね??いやぁ……、してやられたギョよ。まさかこっちで決着つける腹積もりで焦らす作戦だったとは恐れ入ったギョ>
(いや、単にこっちの不手際で遅れただけなんだけどね)
実際引け目があるだけに大っぴらに理由は言えなかった。
「しかし余裕ですねカッサーナ。これで貴方の命運も尽きたというのに」
<ん??その声はあの夢聖士ギョね??はたしてそれはどう──ギョかねっ!!>
アイシスの声に口角を上げつつ威嚇するカッサーナ。それには各個たる自信が見て取れた。言い終えると同時にその身が流れるように急接近する。アルヴァジオンは迎撃するようにその爪を振り回すが、鈍い上に力も入っていない。暖簾に腕押し、スルリとそれをかわしたケーニッヒカッサーナの、鮮烈さを増したトライデントが踊りかかった。
<ギョッギョッギョー!!今の数合で理解したギョ!!所詮は肺呼吸の肉達磨っ!!水中で呼吸できるように進化してから出直してくるギョ!!>
それは正しく鍛え上げれた武人の連撃。その間隙に直撃する水中衝撃波と水流の捻れ。トライデントによる斬撃と刺突、それに魔法による攻撃が織り交ざり間隙なく龍の鱗を削っていく。完全に、水中での機動力不足を見抜かれている。
<この星の七割は海に覆われているギョっ!!所詮貴様らは残りの三割に押し詰められた敗残兵っ!!過酷な海での戦いに敗れた負け犬ギョ!!>
「何言ってやがるっ!!地表の下、海底の下の星は全部は陸地だろうがっ!!文句があるならマントルの中まで海水にしてみせろ魚類!!」
それでも追いすがり、抵抗せんと正宗は腕を振るう。しかし、その差は明瞭だ。
「駄目です!!近接では分が悪いっ!!もう一度武装させます、いきますよ正宗っ!!」
水中のダイバーが魚に使う武器としたら水中銃が強力で有効だ。人は水中で魚ほど鋭敏には動けない、ナイフなどの近接武器は取り回しが良いが、やはり自身も傷を負うリスクは高くなる。その為に遠距離兵器で動作の緩慢さを補うのである。理屈は同じだ。アイシスはそういいポッコルを手に紋章盤へと向け、再び龍頭を顕現させようと試みた。
「なっ!!」
有無を言わさず紋章盤に叩き付けたところで、一気に赤色の警告反応がアイシス達の視界を埋め尽くす。
「何!!どうしたポっ!!ポッコルは助かったポっ!!」
再びの電撃に焼かれようとしたポッコルだが、急ぎアイシスが引き剥がす事で無事に済んだ。それを放り捨てるとアイシスは即座に浮かび上がった赤い紋様に眼を通し、状況の確認に奔走する。同時に、アルヴァジオンの動きが一気に鈍くなった。
「どうしたポ……って、アイシスっ!!アイシス!!正宗の様子がおかしいポっ!!」
ポッコルの慌てた声に振り返れば、アルヴァジオンを駆る正宗の表情が非常に苦しいものになっている。顔は赤く、息遣いは深いが荒い。
<ギョエエ!!やはり万事!!全てが小生に味方しているようギョッ!!>
聞こえてくるカッサーナの歓喜と、それと伴って襲い掛かる振動。アルヴァジオンは棒立ちで殴打され続けるボクサーのようになっている。
<動きが如実に悪くなったギョ??アレだけの出力の放出、とうとう限界が来たと見たっ!!>
(確かに優に地形を変貌させるほどの大技です、その前にも大出力の聖力法撃を乱射しているし。しかし──)
アイシスは正宗の様子と、排出されているデータを凝視する。
「あたりまえポ!!あんな無計画にバカスカ撃ってれば聖力枯渇になるのは自明の理ポよお~!!」
「いや、ポッコル、それは違うようです。正宗は聖力枯渇を起こしてるんじゃありません」
アイシスが小さくそう言葉にする。気付いたポッコルが視線を向ければ、アイシスは紋章盤に向かい再び手を動かしていた。
「どういうことポ??」
「症状やデータを見るに聖力枯渇の症状じゃないと言っているんです。ホラ、これを見て下さい」
紋章盤の上に描き出された紋様をみてポッコルも眉を顰めた。
「棒立ちの癖にえらく聖力を輩出しているポ??アルヴァジオンでの正常値とは違うポか??」
「ええ、普段はもっと低いのに今はかなりの聖力が漏れてます。正宗の様子からして、多分聖力の排出量制御不全じゃないでしょうか??普段聖力に慣れ親しんでない正宗の肉体が、戦闘により多大な排出を繰り返したために制御不全を起こしたんですよ」
「排出を停められない状態……って事ポ??」
「そうです。蛇口の壊れた水道と一緒です。排出を停めようと絞めこんでも、壊れているから水が漏れて流れ出てしまう、それと一緒です」
その例えにポッコルも納得を示す。
「兎に角通常の状態ではないのは確かで正宗に大きく負担がかかってます。更に言えば変身を解いても症状は改善しないでしょうから急がないとそれこそ聖力枯渇、命に関わって来ます」
アイシスは同じような症状をユメミールの同僚達で知っているが故に真剣そのものであった。
「けど、過剰に排出している状況ならその分以上に消耗させればいいだけじゃないポか??吐き出せる分がなくなれば口も閉まるんじゃないポ??」
「それは違いますよ。現状でもっと消耗させようとするといわば傷口を広げるような行為となります。広がった排出口をもっと広げる行為です。それに吐き出せるものがなくなった状態とは手遅れという事です。聖力を排出しすぎて枯渇、死に至るということなんです。ただその前に、正宗の身体が耐えられません。現状では即座に施術に入るのが望ましい。……望ましい、けど」
アイシスが顔を上げれば、猛攻してくるケーニッヒカッサーナの姿がある。
(しかし、負荷を掛けないレベルで、余剰分内に収めれば進行は緩やかに出来る……のでしょうか??この状況下、何とかして突破口を開くしか勝ちはありません、どうすればっ!!)
今、正宗はその不調から作戦云々を議論する余裕は無いであろう。ポッコルも挙動不審で頼れる場面ではない。
(戦闘において、そして現状において正確な判断を下せるのは聖士である私だけです、しっかりしなさいアイシスっ!!)
自身へと冷静に、落ち着けと必死に鼓舞することで精一杯の平静を保つ。そうする事で、見えてくるもの、聞こえてくるもの、できる事と出来ない事への判断が付きつつあった。
「アルヴァジオンっ!!エルマイールに念話を繋げてくださいっ!!」
アイシスの願いを龍が叶えその道を繋ぎ合わせていく。そしてアイシス達の、最後の攻勢が始まろうとしていた。




