深海の大決闘16
以外に思うかもしれない。強敵と出会うことで高揚している自分がいる。そしてソレをソレ以上の力で捻じ伏せて……己が存在の強さの照明としたいのである。いや、それは存在というレベルの話ではない。ひいては生物のあり方としての闘争である。水中に生きるものとして、陸上に生きるものに眼に物見せてやるためである。海から生まれた生命が陸に上がり反映したのではない。所詮陸など海の上にある孤島に過ぎない。なぜならば大陸と呼ばれる陸地であれど、その四方は海に囲まれているのだから。ヤツ等は海から上がり進化したのではない。海から逃げたのである。広大な海はその生にも常に危険が付き纏う。多くの者はより強き者に捕食され、潮流に水温に水圧にとその環境は苛酷の一言に尽きるのだ。その過酷さに萎え、生存競争から零れ落ちた者が、陸という封鎖された環境へと落ちぶれたのである。
(水中で呼吸も出来ぬ者達が……のうのうとのさばりおってっ!!)
我が物顔で地上の覇者、万物の霊長などとのたまう痴れ者共。永きに渡り陸上生物がこの星の覇権を執ってきたと言われている。しかしそれこそが間違いなのだ。
(地上など無くなってしまえば良いギョ!!全ては我等が海へと帰する刻であるギョ!!)
陸に生きる者達から、海で生きる者達へ、覇権を取り返す刻が来たのである!!
(その決着、雌雄を決する一戦ギョ――と、意気込んできたのであるんだけど……)
ケーニッヒカッサーナの映す視界から見る周囲。因夢空間を展開し金剛魔導兵装を励起展開装着し、かの陸上生物共の文化を破壊尽くしているのであるが……、
「一向に姿を現さないってどういうことギョ!!」
その現実に愕然とするカッサーナ。はたして雌雄を決する一戦!!……などと意気込んでいたのは自分だけであったのか??そうなってくると独り相撲をしていた自分に急に恥ずかしさを覚えてくる。
「いやいや……焦ることないギョ。コレもヤツ等の手。確か小ざかしい人類の、この国の出生の名を残した者が使った手ギョ」
焦りは禁物。対戦相手を待たせて焦らしてイライラざて、遅れてきて第一声で「小次郎敗れたり」と一言。動揺を誘った問答の後にその混乱に乗じて勝利を得る……かの剣豪の使った兵法の一つに違いない!!
「ならばそれを逆手に取るほかなしっ!!小生はそんな甘くないギョ!!」
カッサーナは魔力を高めその本領を発揮する。そう、陸地など不要、この星は水の惑星!!ならばっ!!
「母なる海よ!!その慈愛でもっとこの星を包み込むギョオオ!!」
カッサーナの侵食が世界を塗り替える。急激に嵩を増して行く海面。防波堤を越えて一気に内陸へとその支配領域を広げていく。5М、10Мと水嵩を増し、そして陸の文明は飲み込まれていった。人は魚卵に、木々は海草に。建物は穴の空いた岩塊に……次々に塗り替えられていく世界。砂も土も、大地も海水へと変化して、陸地すらその形状を変えていく。
「ギョー!!ギョー!!小生の勝ちぞ!!これにてこの世界は小生の天下となるギョー!!」
元街の中心部だった場所をケーニッヒカッサーナが悠々と泳いで行く。刻一刻、一分一秒を持ってしてその領域を拡大させていくのだ。しかし――、
「……え??マジで来ないギョ!?どーなっているギョかっ!!」
淡々と自身の思う通り以上の展開で進んでいくその事に、カッサーナは逆に戸惑い不安を覚えるのであった。
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「終ったー……詰んだわー」
エルマの口から魂が抜け出るような声が漏れた。
「……もうだめポよ……人間諦めが肝心ポよ……」
エルマに握りつぶされているぬいぐるみも力なく言葉にする。急ぎ帰ってきた正宗とアイシス。二人は今度こそ術式を発動させた。そう、再び発動させたのだ。
「まさか距離判定があるとはー……盲点でしたー……」
バスタオルで術式が中断してしまうと理解した為に、今度はちゃんと全裸で過ごすこととなった。しかし、やはり人前で全裸は恥ずかしい。一般市民たる正宗ですらそれなのだから、箱入り貴族のお嬢様たるアイシスには最早地獄であった。その為お互い草むらに身を潜め時間経過を待つことにしたのである。……それがいけなかった。どうやら一定以上二人が離れると駄目になるらしい。
「再びの術式の中断ポ。とんぼ返りでまた衣類を取りに行ってるポが……、これもう時間的に無理ポじゃないポか??」
「…………」
ポッコルの言葉にエルマは否と答えられない。彼女の口から漏れたように詰んでいると言って過言ではなかった。何がって??……そりゃもう時間である。まだこちらは戦闘態勢すら取れないというのに、
「……因夢空間の限界時間ー、そろそろ近づいてますからねぇー……」
自身の言葉に溜息が漏れた。ソレが全てである。仮に二人が戻ってきたとして、最早カッサーナとの決戦を繰り広げている時間的余裕が無いのだ。初撃一撃で撃破、一撃でゲームクリアーなら話は別であろうが、そんな都合のいい展開になるわけがない。大急ぎで帰ってきた正宗とアイシスを見つつ、エルマは再度諦めの境地に立つ。
「よーし、じゃあ最後くらい盛大に行きましょー」
「やるっポー!!」
定まらぬ焦点でそう叫ぶ二人を見てアイシスが頭を抱えた。
「まだ終ってません!!諦めを入れた妙な開き直りをしない!!」
「でもまぁ、ほぼもう無理筋だからなぁ」
現実逃避するエルマとポッコルの姿をみてアイシスは逆に冷静さを取り戻しつつある。だが如何せん正宗のボヤキの通り時間的余裕はなくまた取れる策などない、無理な話なのだ。兎も角、あとは全力を持って最善を尽くすのみと正宗が術式を展開させる。二人とも恥ずかしいが今回はその場に体育座りのように蹲り術式の成り行きを見ることとなった。気まずい沈黙が続く中、いよいよ正宗と金珠から金色の風が溢れ出す。
「……おお……おおお!!きた!!きたっポねえええ!!」
「この時をどれだけ待ったことかー、最早致命的ですけどー」
その光景に涙するエルマとポッコル。
「よし。正宗、出来うる限りの事はしてみせましょう!!変身完了と共に飛び出し最速で決める!!これ以外にありません!!エルマは残りの因夢空間がどれだけ持つのか正確に観測し報告して下さい!!」
アイシスの声に頷きを返す一同。
「流石に感づかれているようポね」
高まりあがる聖力の発現と発光。相手側が気付かない筈もない。ポッコルが言う通り、水没した街並みの中から鋼の鱗を身に纏った巨影がこちらへと視線を向けている。
「こちらを待っているポよ!!ヤツもきっとちゃんとした決着をつけたかったんだポよ!!」
「ま……まぁ、確かに釈然としないまま勝ったとしても、なんとな~く勝った気になれませんからね」
ポッコルの推察にはアイシスも同意しかない。しかし、決着をつけるという点では異論はないっ!!アイシスと正宗が引き付けあい、それを金色の殻が包み上げていく。その黄金の卵から生み出されるのは眩い巨龍。人のイメージ、強さの象徴、幻想の代名詞というべき虚構の生物の頂点、龍。産み落とされた夢幻が、産声という咆哮を上げる。
「顕現!!アルヴァジオンッ!!」
無から有に変わるように、その言葉と共に質量を得たようにしゃがみ込む。高台の広場の地面がその重量に陥没し、一挙に土煙と悲鳴を上げた。かかる重さにを耐え切れなくなり、地すべりを起そうとする……その寸前、凶悪な龍の爪がその陥没穴を蹴りつけた。内部から爆散するかの如く、大量の土砂を撒き散らし丘が抉れ飛ぶ。立ち昇る土煙の中から巨大な金色の砲弾が勢いのままに水中の巨影目掛け飛び込んでいった。
「ギョエエッ!!」
それをヌルリと交わす巨大魚の影。聳え立つ水柱を上げいよいよ金龍がそのフィールドに舞い降りた。だが、そこは明らかに相手のフィールドである。ケーニッヒカッサーナは30メートルもあろう巨大兵装。だが40メートル近いアルヴァジオンの方がその巨大さで言えば上であった。そのアルヴァジオンがスッポリと沈み込むほどの水嵩。既に街は水没しそこは海と化している。そう、その場所は陸上生物の住まうべき世界ではない!!
「遅い!!遅すぎるギョ!!まったく持って色んな意味でっ!!マジでっ!!」
全身をうねらせ水中を加速するケーニッヒカッサーナ。背びれが水面を切り裂き、瞬く間に沈み込んだかと思えば大きく弧を描きながら水面へと跳ね上がるその魚体。その勢いのまま頭上からアルヴァジオン目掛け落下しトライデントで飛び掛かるケーニッヒカッサーナ。その攻撃をモロに直撃で受け、泡ごとそのまま岩塊化しつつあるビル群へと叩き込まれる金龍。体勢を立て直すも視界を泡が埋め尽くし何も捉えられない。その最中、追撃とばかりに泳ぎ加速してきたケーニッヒカッサーナのチャージを受け更に海底を転げまわる。四肢と尻尾を駆使して立ち上がろうとするが、その動きは緩慢の一言で表された。巻き上げられた土砂で海底は濁り一層視界を奪っていく。その中をよぎる巨大な魚影が在る。
「遅れてきたツケギョねっ!!無駄な抵抗をせず――」
悠々と泳ぐカッサーナがギュルリと水中で一回転する。
「――海の藻屑となるがいいギョ!!」
その勢いを全て乗たトライデントが投擲される。矢の様に進むソレはまるで魚雷のよう、一直線に濁りの中を切り裂いて推進する。水の抵抗などないように更に速度を増し、虚を突かれた金龍に激突すれば水中に炸裂の花が咲いた。大きく水面を隆起させ、周囲に水飛沫を撒き散らしながら轟々と白い泡が一帯を包み上げる。水中を駆け巡った衝撃波はいかほどであったのか、元は高層ビルであったろう岩塊達が水面下から崩れ落ち海の藻屑と消えていく。
「――ギョ!?」
しかしそのアブクの尾を引きつつ中から現れ出るのは金色の龍。水面から落ちた光が揺らぎながらその装甲を照らし、輝きを反射しながら悠然とその姿を現してくる。
「アレを直撃で食らって傷一つ付かぬとは、予想以上の堅牢っぷりギョ!!これは面白くなってきたギョ!!」
ケーニッヒカッサーナが腕を伸ばせばその手に舞い戻ってくる水中を駆ける影。難なくそれを掴み取れば器用にグルグルと廻し、手元に戻ったトライデントを構えてみせるカッサーナ。対する金龍の動きはゆったりしており、よく言ったところで重鈍であるといえた。理由は単純だ、水の抵抗が邪魔をしているのである。水中で陸上のように走ったり出来ないのは体験した事があるだろう。足の踏ん張りも効かず、俊敏な動きが取れないでいた。
「この……」
それでも沈み込むように力を溜め、跳躍するように全身と手を伸ばしカッサーナの機体を捕らえようとする龍の爪。
「ギョッ!!」
それをケーニッヒカッサーナが見切るようにかわし、逆に強かにトライデントで打ち据えてくる。
「どれだけパワーがあろうとも!!当たらなければどうということはないギョ!!」
石突で打たれ、捻り上げられた尾びれでひっぱたかれた。
「さて、どれだけ耐えられるかギョ!!」
更にカッサーナは持ち手を変え、踊るように肉薄すれば……恐ろしく鋭いトライデントの連突きの雨、直後の横薙ぎが流星のように襲い掛かる。全く手が出ずに土砂を巻き上げ土泥に沈む龍。陸の者と海の者、その水中戦の能力は言わずもがな、如実にその結果となって示されていた。




