深海の大決闘7
空は青く高い。日差しも良く洗濯物が良く乾きそうである。庭には洗い終わった洗濯物とぬいぐるみの吊るされたハンガーが並んでいる。日々日差しも強くなりもうすぐ夏の季節がやってくる。そんな夏を感じさせる日差しの下、家の裏庭でゴソゴソと作業している一同。正宗達は今、組みあがったモノが外からよく見えないようにする為、そして雨風に晒されないようにする為に百葉箱のような外装を日曜大工で組み上げているところだった。
「配管良しー、配線も良しー。設置完了ですー!!」
「「おおー」」
正宗とアイシスが拍手を送る。以前から着手していた変換聖力蓄積装置がやっと完成したのである。
「アイちゃんー、ちゃんと打ち込んで来てくれましたよねー??」
「ええ、指定通りの位置に聖印を打ち込んできました」
エルマの問いにアイシスは視線を山に向けていた。
「なんの話だ??」
「ん??地脈の流れているところに汲み取り用の術式を埋め込んできたんです。数箇所に打ち込んであるからそこらから地脈の力を引っ張ってきてこの聖法具に注入するんですよ」
「あー…そんなようなこと言ってたな??それでその地脈の力なんかが聖力になるのか??」
「そのままでは無理ですからこの聖法具に入れます。私は専門外だから詳しくはないですが、そういった力をフィルターに通すことで聖力へと変調させるらしいですよ。……いや、変換や生成といった方がわかりやすいか??」
「まぁ言いたい事はなんとなくわかった」
電波を飛ばしてそれを受信、電力へと変換する……そんなイメージで理解を示す正宗。そこでフと疑問がわき上がった。
「なんで幾つものポイントから引っ張ってくる必要があるんだ??地脈って結構デカイ力があるものなんじゃないのか??」
正宗の漫画などの知識では地脈とかは力の集まる場所なので非常に力が強いものという印象が強い。その地域を活性化させている力の塊、そう言った説明の物が多い。だとすれば、数カ所から持ってこなくとも十分なのではないかと疑問に思ったのだ。
「その通り。地脈の力を全部を引っ張ってくる訳ではないですし、そんな事したらその土地にも影響が出てしまいます。地脈そのものは大動脈に近い、ということはその流動圧も高い。そんな所からは流石に取り出せません」
そう言いながらアイシスは眺めるように山の幾つかのポイントを見つめまわす。
「ですからその支流、枝分かれして細く流れの穏やかな箇所へと針を刺してそこから溢れた分をポンプで汲み上げてくる……そんな感覚に近いですね。流石に設置聖法具と術式で出来るのはソレくらいのもんなんですよ」
その説明には納得がいった。量や質を求めるのであれば確かに本流ど真ん中を狙うべきなのであろうが、それには課題や難度が跳ね上がる。だから比較的取りやすい所から確実に取得を目指す……現実的と言える。
「いくつかのポイントから汲み上げてきてますけど、それでもフィルターを通すと少量の聖力へしか変調できません。変調する際のロスで大部分のエネルギーが消耗してしまうんです。それでも聖力化出来ることでメリットはありますけど」
アイシスが光丸を内包した防甲の箱を指示す。
「こうして聖力を蓄積できますし、この溜めた聖力の有益さは正宗も知っているでしょう??」
それについては正宗も頷いた。聖力を使い水を作り出す……その聖力は無料で作り出せるのであるから水道代が浮くという理屈である。更に今回の設置に基づき電力変換も可能としていた。エルマが配電盤をいじりそのあたりを改良している。
「ふー……オーケーですー。聖法具の稼動には電力を使用して、冷却も水冷としていますー」
エルマの発言に正宗達は首をかしげた。
「それじゃあ元も子もなくないか??」
聖力生成の為に電気代が上がったら本末転倒と思ったのである。しかしエルマは指を振って否定する。
「いえー、かなり出費は抑えられると思いますよー。しかも電気も水道もー、本来の機構は生きているんでーいざという時も問題ありませんしー、当然にして運用でメーターも回りますから不思議がられる可能性も減るかと思われますー」
利用ベースを聖力生成型に変えるだけということだ。しかし、急激に電気代、水道代が減ったらやはり不審がられるのではないだろうか。
(まぁその場合は設備はそのままにほとんど住んでなく利用してないからとでも言っておけばいいか)
それに電気代にせよ水道代にせよ、あまり深く他人の家事情にまでは突っ込んでこないだろうと考える正宗。
「ま、これで聖法具を利用して水道や家電を利用できるようになったわけか!!」
「はいー!!大幅な水道光熱費削減ですー!!」
これは非常にありがたいことである。アイシスもウンウンと頷いている。
「これで少しは生活が楽になるんですよね??」
「ああ、金に余裕が出来るからな」
「いや違いますよ正宗、金銭の問題だけではないんです。そうなんでしょエルマ??」
アイシスの期待を込めた問いかけにエルマも笑顔で返す。
「はいー。これで他に有している聖法具の利用の目途も立ちましたからー。聖力洩れ対策も上手く作動していますし、こちらの物質への聖力対策も上手くいっているようですしー。いずれは蓄積量をもっと増やして緊急時を想定し鉄家への防御術式ー、或いはユメミールへの転送術式への補助聖力などに活用できればーと考えていますー」
エルマの言葉に正宗が口を挟む。
「防御術式って、どういうことだ??戦闘に巻き込まれるってことか??家が壊されたりするのは勘弁だぞ??」
「まーこの建物を拠点として使うー、そういう使い方もありますけどー、さすがにそう言う事は考えておりませんー。安心してくれていいですよーマー君」
「防御術式と言ってもいわば結界や強度補強の様なものですから、風雨などからにも強くなりますから家屋自体が長持ちするようになりますよ」
アイシスの注釈に感心する。ようは結界をコーティングするようなものだというのだ。劣化などに著しく強くなる、それは非常にありがたい。地震等にも耐性が出来るというのだから優れものだ。まぁいずれもっと聖力増産が可能となったのなら、という話らしいのでそういった使い方も出来るのだと頭の隅に置いておくことにした。
「そういえばカッサーナの方はどうなんだ??」
「ん??ああ、それなんですが……」
正宗に問われ、アイシスは下に見える街を見渡していく。以前豚と戦った際には夢の世界で木っ端微塵に跡形もなく消し飛んだ街だが、今はもう何事もない日常風景がそこにある。
「ポッコルと協力して探索はしているのですが……いかんせん相手が海の中では、どうにも」
街の向こうには湾が広がり水平線を見せている。ラブリーアイシスの姿での水中活動は可能らしかったが、聖力消耗の面もあるし、何より戦力の手が足りない状況だ。長距離、広範囲の索敵や痕跡探しはすべきではない。今は後手を踏んででも相手の出方を待つ方が確実であった。
「ただー、前回の現出から一週間以上たちますからねー。そろそろ再現出への警戒をしておいた方がいいかもしれませんー」
アイシスの横にエルマも並びそう口にする。眺め見る景色はいつも通りであるが、その中の何処かにカッサーナが力を溜め潜んでいるのだ。
「しかしアレです!!他県で苦しかった前回とは違い、ホームである今回は心も身体も実に充実しています!!決して遅れをとることはないでしょう!!」
「えーそりゃもーっ!!しっかり睡眠できますしー、汗臭くありませんからねー!!」
空元気ながら余裕そうに言うアイシス達。トットリッキー封印は彼女等的にもかなり過酷であったようだ。慣れない異世界で兵站もギリギリ、その上で格上の相手との戦い。それは想像以上に彼女等にストレスを与えているに違いなかった。
「ダンジョン内で物資不足になっていくのとはまた違った危機感が募って、全くもってキツかったですよ!!」
「そうなの??」
「はいー。なまじ周囲の方達は何事もなく平時の生活をしているわけじゃないですかー。そんな中わたし達だけ一日一日を必至で生きていくのですよー??」
誰にも相談は出来ず周りは何気ない日常を送っているのに対し、その横で常に緊張しながら日々なくなっていく軍資金に危機感を覚え食を細くして食いつないでいくのである。そのギャップに、自分達の在り方に疑問を覚え、ついつい豪遊したくなっても仕方が無い。
「幸せそうに牛丼を食う客を窓越しに見つつ、スルメイカを一日しゃぶりつくすしかなかった時は正直発狂しそうになりました」
(お店の人超かわいそう……)
悲しげに語るアイシスであるが、正宗としてはお店に対して同情する。およそ鬼気迫る表情でガラスにへばり付き、中で牛丼を食す姿をギンギラギンの眼で凝視していたのだろう。そんなのに張り付かれてはきっとお店の一日の売上にも響いたに違いない。
「しかしー!!今回はバッチリですー!!ああー、お布団がある事のありがたさと言ったのならー……」
布団で寝て、しっかりと食事を取っている今回は充実度が違うっ!!そう二人の態度が物語っている。
「ほう。ということは、今回も俺に危害が及ばないように事を終結させられそうなんだな??」
正宗の嫌味を含んだ物言い、二人は顔を見合わせてはっきりと口にした。
「勿論ですー」
「も、もろちんです!!」
「…………」
必至に言い訳をするへっぽこご令嬢の声が響くのだった。




