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顕現っ!!アルヴァジオンッ!!  作者: 当世杞憂
深海の大決闘
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深海の大決闘3

「また怒られました!!私だって間違えたくて間違ってるわけじゃないのに!!それなのになんであんなに客は横柄なんですか!!こっちだって一生懸命やってるんです!!そんなガミガミ言わなくたっていいでしょうっ!!」


 アイシスが正宗に泣き付いてくる。どうやらまたレジ打ちでミスし、そして客に早くしろと急かされたらしい。先日は柔らかいものを下に入れるなと言われ、その前は釣り銭を間違えたと言われていた。今まで剣や魔法の世界で生きてきたエリート戦士にもスーパーのレジ打ちには耐えられないものがあるようであった。更に言えばこのアイシスは大貴族様のご令嬢だ。働いたことなど皆無だったであろう。


(いや、一応夢聖士ってのはちゃんとした職になるのか??)


 それでも、ユメミールの中ではトップエリートだったに違いない。それが今、正宗の横で泣きべそを掻いている。


「……一人頭どのくらいかかってるんだ」

「……10分から15分くらい、なにもあんなに一杯いっぺんに買う必要は無いと思うんですよ私的にはっ!!」

(10……そりゃ待たされる客もかわいそうだよな……)


 家電アレルギーもまだあるアイシスだ。間違わない要しつつもそれでも必死にやっているのであろう。


(店側も経験を積ませたいから入れるんだろうが……そのレジ列には並びたくないなぁ)


 そう思いながらアイシスを連れ材料を持って二階に上がる。エルマに頼まれたものを学校帰りにホームセンターで買ってきたのである。廊下を歩き個室ドアの前に立つ。元ホテルの客室の一室を、彼女達は自室として利用しているのだ。ドアをノックして声をかければ、中からエルマから入ってきていいという返答が来た。正宗が中へと入ればそれはまた様々な物が鎮座した女子の部屋らしからぬ部屋となっていた。薬品から鉱石、訳の分からぬ液体の入った瓶に、怪しく育っている謎の草。色々な器具に謎の紋様のマットまでと、不思議な器具と部材のオンパレードである。


「買ってきたぞ」

「ありがとーございますー」


 それ等に目をやりつつエルマに言われ材料の入った袋を手渡す。中には鉄のボルトやナット、針金や銅板などが入っている。また半田ごてや半田、テスターなども注文の中にあった。


「そんなんで良かったか??」

「はいー。んー問題ありませんねー。少し見ていきますかー??」


 袋の中を確認していたエルマがそう言ってきた。彼女の前には円柱形状の箱が置いてある。ぱっと見はジャー炊飯器のような印象であるが、蓋を開けると底には幾何学紋様のプレートが収まっていた。その中にナットやボルトと言った合金材質を入れて蓋を閉じる。そしてエルマがスイッチの様な物に指をあてていれば、そのジャーモドキの各部がうっすら輝きだしたではないか。


「これは錬金術の一つですねー。ユメミールで言うリービック改変という方式のものですー」

「リービック改変……」

「はいー。今この中に合金素材の物が入りましたー。……正宗君はそれがどんな形状をしていたか知っていますよねー??」


 その言葉に頷く正宗。何しろ買ってきたのは自分なのだ。


「でもー、今はこの不思議な機材の中なのでー、どうなっているかはわかりませんよねー??もしかしたら融解しているかも知れないですしー、或いは蒸発してしまっているのかもー」

(ああ……つまり“シュレーディンガーの猫”ってヤツか)


 不思議なジャーモドキを眺めながらそう正宗は思い出す。シュレーディンガーの猫、箱の中の猫の生死状態は半々で、他者が確認する事で決定する……と言うヤツである。


「機材の中を限定的な改変空間……因夢空間みたいなものにしましてー、素材の形状に改変を加えるんですー」


 そうしてエルマが取り出したのは粘土で作った部品の一つであった。それをジャーの前に置かれた紋様の描かれたコースターの上に置く。エルマが手をかざせば紋様が薄く光り……消えた。


「機材の中ではー、合金材がどんな形状をしているか観測不能となっていましたー。そこにこの形状イメージを送り込みー、蓋を開けて世界に認識させますー、そうすればほらこのとおりー」


 エルマがジャーの蓋を開ける。モワッとした湯気のような物が広がった後中を覗き込んでみれば、確かに入れた形状とは形を変えた合金部材が中に転がっていた。触っていいか確認を取った後に取り出してみるとズシリとした重み……鋼材特有の重みを感じられる。


「凄い……全く同じだ」


 それはエルマが作った粘土の部品と寸分たがわぬ形状の部品だった。手にとって比べてみても大きさは全く同じ、ただ材質だけが違いその分質感と重さも違った。出来たばかりなのに熱くもなく、熱せられていたというような様子もない。別段溶かしてこの形状としたとかそういうことではなく、元からこの形であったという感じ、出来栄えである。


「例えばこうした鉱石の砂を混ぜ合わせ機材にかければー、こうのように紋様盤のベースになりますー」


 エルマが砂っぽいものを二種類混ぜ合わせジャーの中に投入する。次にコースター状機材の上に丸い木の板を置き、その形状に変形させて出来た物は、砂ではなく結晶体となった板であった。鉄と炭素を混ぜてスチールを作るように、数種類の砂を混ぜ合わせた陶器のような物へと変わっていた。それを取り出したエルマは一通り全体を眺めチェックを入れるとアイシスへと投げて寄越す。そして紙に描かれた紋様を見せつけた。


「アイちゃんよろしくー」

「わかりました」


 アイシスは片手でエルマの掲げた紋様の紙の上をなぞり、もう一方の手で結晶体の板をなぞる。そうすると結晶体の板の中に光り輝く紋様が刻まれていた。まさしくコピー機だ。アイシスは紙に描かれた紋様をスキャンしてそのまま出来た結晶板に焼きこんだのである。


「流石アイちゃんですー。焼き付きの線がメチャメチャ精巧ですー。それでですねー、この紋様盤はこちらで言う制御基盤などの役割を果たすものとなりますー」


 出来た紋様盤を楽しげに確認すると、正宗の手に乗せ見せてくれる。エルマが最近部屋に籠もってやっているのはこういった部材作りの為であった。聖法具……異世界科学をこちらで再現しようとするのだ、そこには様々な困難が横たわっている。それが部材や部品の有無であった。作りたい物があっても部材や部品がなくてはどうしようもない。ないのであれば、一から作るしかないのだ。流用できるものは利用し、ないものは作る。


(部品だらけだよ……)


 エルマの周囲には聖力蓄積用機材を造り上げるための部品で溢れている。異世界でユメミール世界の技術を再現する……その為にはもの凄い根気と労力が必要のようであった。しかし、確かに物作りというものは一朝一夕で出来る物ではない。トライアンドエラーを繰り返し、出来た物をより良くするために研究し、再びトライアンドエラーを重ねた先に技術レベルは上がり、そして今に至るのだ。


「ただ、等価交換──っというわけには行かないのがネックですねー」

「そうなのか??」

「大体一割程度のロスが出てしまいますー」


 エルマは苦笑しながら言った。その為に投入する部材は形成するための形状などから計算し少し多めに入れねばならないらしい。そうでないと想定した物よりも厚みや密度などが薄くなったりして強度不足などが起き、想定した性能を発揮できなくなったりするのだ、と。


「だからといいますか、この世界の生産性には脅威を感じてるんですよ。この品質を何気なく、大量生産できるこの世界を」


 アイシスが手の中でステンレスのボルトをいじりながらそう言った。


「んー??でもお前等の方が凄いだろ??これもう寸分違わない精度じゃねーか」

「確かに。でもそういったコピーにはそれなりの聖力を必要とするんです。今のそれは機材をエルマの聖力で稼働させています。聖力と緻密な聖力コントロールがあってやっとなし得るものなんです。……つまるところ、物凄い技能と労力が必要になる、コストパフォーマンスは凄く悪いんです」


 アイシスが説明してみればエルマも頷いて見せた。いわれてみれば今見たそれは職人によって模倣品をつくる作業に近い。個々のスキルによって一個一個作り仕上げていくのだ……効率という点から見ればもの凄く悪い。だからこそ、同品質を少々の誤差の中大量に生産できる事には驚愕を覚えるのだとか。機械化による大量生産はユメミールからしたら考えられない技術らしかった。


「どちらの世界にも一長一短はある……ってことか」


 良い所悪い所はそれぞれにある。人々が求める需要に応じるように文明は発展してしていくのであるから違って当たり前なのだ。正宗が感心していると、それを眺めていたアイシスがビクリと身体を強ばらせた。


「大変……大変ポよおおっ!!」

「うああああああああっ!!」


 叫びと共にアイシスのYシャツの胸元から現れたポッコル。仰天したアイシスは即座にソレを握り潰し勢い良く床にたたき付けた。


(そりゃ突然そんな所から出てこられたらビックリするだろう)


 正宗は床でグッタリしているポッコルを視界に捉えつつそう考える。アイシスは動揺しながら自分の胸元をチェックしていた。


「ポッコルー、なにかあったんですかー??」

「そ……そう……ポよ。夢生獣反応ポっ!!」

「っ!!」


 震えながら立ち上がるポッコルの言葉にアイシス達は息を飲むのであった。

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