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顕現っ!!アルヴァジオンッ!!  作者: 当世杞憂
始まりの物語
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始まりの物語18

「──っ!!」


 途端、正宗は全身を締め上げられるような強烈な何かに襲われた。見えない何かに抑圧されるような……押さえつけられ、何かを強制させられるような、兎に角何か強い抵抗感が全身を貫いていく。


「──これはっ!!因果改変攻勢術式っ!?」


 アイシスが叫び上げているが正宗はそれどころではない。次第に感じる全身の肌が焼け焦げるような、痛み。自身の身体を見るように、アルヴァジオンの機体をチェックする正宗。見れば、腕から胸、腹部に大腿部……全身から白い蒸気のようなものが吹き出してきている。


「させませんっ!!こちらだって防衛力を強めますっ!!聖力の流入量を拡大っ!!因果改変率を上昇っ!!正宗、抵抗して見せてくださいっ!!」

「て──抵抗??」

「そうです!!トンテッキは因果を操り自身の思う通りに世界を変える──夢生獣。それがこちらはトロい、装甲も軟い……ってな具合に強烈にイメージしているんです!!因夢空間で夢生獣の力はそれを現実と化します!!白でもヤツ等が黒と言えば黒になるんです!!ではどう抵抗するか、簡単です!!こっちもそんなものは無効とイメージすればいいだけです!!それが出来るのがこの金剛聖導夢想兵装なんです!!」


 アイシスの忠告を聞きながらも正宗の視界の中が前後する。コクピットのようなアルヴァジオンの内部と、アルヴァジオンの視界が捉える外界の映像が交互に映し出されている。その中で、ビッグトンテッキが肩を揺らして狂喜していた。


「無駄ブヒ無駄ブヒ!!トンテッキの敵ではないブヒよっ!!見よ!!この宝珠をっ!!」


 掲げ上げるのはピンクの球体。正宗達にはソレが何かわからない。


「これが何かわかるブヒ??これこそがピッグペルレ、ブヒ!!」

「ぺるれ??」

「アレ??通じない??ようはパール、真珠ブヒ。……ちょっとかっこうつけてドイツ語にしたブヒが意味が通じないんじゃ駄目ブヒね」


 補足しなければ意味が通じなかった事に消沈するトンテッキ。彼(?)的にはドイツ語の響きかっこいい、という中二病臭い語感で名づけただけにそれが通じなくて残念がっているのだ。ともあれ、真珠という事であれば正宗にも理解が及ぶ言葉、“ことわざ”がある。


「つまり、“豚に真珠”って事か??」

「そう!!それが言いたかったブヒ!!」


 正宗の返答に手を叩くビッグトンテッキ。対して、


「ぶたにしんじゅ??」

「……学のないブサイクは駄目ブヒねぇ」


 頭を捻らせていたアイシスにトンテッキが溜息を吐く。途端アイシスが罵詈雑言を放つが聞こえちゃいない。


「学のない脳筋夢聖士の為に補足してやれば、豚に真珠とは“値打ちのわからない者に価値のあるものを与えても意味がない”という意味合いの、この世界、この国のことわざの一つブヒ」


 それがどういう事なのか正宗には解らない。いや、豚に真珠の意味合いは知っている。その言葉……ことわざが今、この状況に置いて何の意味を成すというのか、それがイコールにならないという意味だ。


(豚が真珠を持つことに、何か意味があるのか??)


 眼を白黒させる正宗だが、アイシスは逆に息を呑んだようであった。


「まさか……そういうことですかっ!!」

「そういうことブヒっ!!」

「どういうことだよっ!!」


 正宗の全身を……アルヴァジオンに向けられる謎の攻勢はより強度、威力を増してきている。それはトンテッキから放たれる出力がより一層増している事を意味していた。


「豚に真珠……値打ちのわからない者に価値のあるものを与えても意味がないと言う事、確かにその通りブヒよ!!」


 途端、アルヴァジオンの機体内にスパークが走り、それを受け絶叫を上げる正宗とアイシス。外界を映すモニターに、ビッグトンテッキの双眸が異様に紅く光っている。


「しかし、真珠の価値を()()決めたブヒ??所詮は下賎で下等な猿共の価値観ブヒよ。()()()()()()()()()()()()()()……誰が決めたブヒ!!」


 正宗達を襲うスパークはより威力を上げ、いよいよ意識が飛び始める。ゆっくりと歩み寄るビッグトンテッキに対し、アルヴァジオンは姿勢を維持できない。膝を突き蹲るように身体を強張らせていくだけである。


「しっかり、しなさい正宗!!……このままだと……」

「真珠のこんな使い方……しらなかったブヒ??おやおや、それこそ豚に真珠……いや、猿に真珠ブヒねぇ~♪」


 トンテッキはその言葉の意味合いを逆手に取った術式を用いていたのだ。豚に真珠とは、値打ちのわからない者に価値のあるものを与えても意味がないということである。だが果たして、人が認識する真珠の価値だけが真珠の本当の価値なのであろうか??もしかして豚が真珠を手に入れその真珠を舐め愛でる事にこそ、真珠の価値が本当に輝くのだとしたら……、そういう可能性はないだろうか??それはつまり、そこには人がまだ見ぬ真珠の真の価値という可能性が詰まっているという証左である。つまるところ豚が真珠を持つということ自体が、人の価値感が絶対ではないという仮説の象徴となるのだ。豚が真珠を持ち超常の力を発揮することで、相手の今まで培ってきた常識と概念へ揺さぶりをかけ弱体化させるのだ。それこそがピッグベルレの真骨頂であった。


「いやっ!!何言ってんのかわかんねーよ!?」


 確かにその通りであった。正直とんでも理論な状況に混乱する正宗。その精神的揺らぎもトンテッキ有利方向へと作用する。


「マズイ……攻勢が……トンテッキのイメージが侵食し始めてきた。聖力により因果変換抵抗率に補正補強を……」


 アイシスが紋様盤を操作するが、そのいくつかが赤く侵食されていく。敵の侵攻の足止めもままならない。


「くそっ、正宗っ!!根性見せなさい!!痛覚軽減……身体強化……立ってください正宗っ!!」

「うぐぐ……」

「無駄ブヒ無駄ブヒっ!!お前の装甲は脆く、このトンテッキの攻撃になす術もない紙装甲ブヒっ!!」


 トンテッキの声色と共に、アルヴァジオンの全身から金色の輝きが失われていく。それはまるで金属から材質が変わったかのようであった。“豚に真珠”は計り知れない力を持つ……そう体感してしまえば、その効力は一段と威力を発揮する。この因夢空間の中でトンテッキの夢操作に抗えるのは、アルヴァジオンという存在がビッグトンテッキという存在に抵抗しているからであった。その存在そのものがトンテッキよりも下であると決定づけられたのであれば、情勢が一気に傾いていくのは必然であった。


「そらそらっ!!これで──どうブヒかっ!!」


 蹴りつけてくるビッグトンテッキ、蹲りながらも正宗は咄嗟にアルヴァジオンの腕でガードに入った。しかし、


「あ、ガ……」


 無残に砕け散るアルヴァジオンの左腕。金色の装甲は今までの強固さの影もなく、ただの一蹴りでガラス細工かのように粉砕されてしまう。激しく吹き飛び、仰向けに地面に激突するアルヴァジオンの機体、それだけで身体の至る所に亀裂が入り破片が飛ぶ。正宗達がいる空間も照明が落ちたように暗くなり、その内部には嫌な軋み音が鳴り響いていた。最早その巨体を維持するのも困難となって来ている。装甲が、フレームが、その重量を支えることに悲鳴を上げだしていた。いよいよ外皮だけでなく内部骨格にまでトンテッキの支配が及んできていたのだ。


「これで仕舞いブヒね。お前達はせいぜい生き証人として、我等オークのもと大事に飼ってやるブヒ!!」


 ブッヒッヒとトンテッキ笑いが木霊する。倒れる龍を前にして、両手を挙げビッグトンテッキは歓喜を挙げる。


(……ぁぁ??つまりは、命だけは助かったって……事か??)


 曖昧になり始めた意識の中そう思い浮かべる正宗。全身を襲う痛みに朦朧とし始めていた。


「……そうブヒね。夢聖士はくっころマシーン、正宗君の方は雌オーク達の慰み者ブヒね!!」


 その瞬間、アルヴァジオンの身体が跳ね起きた。突然の事に動揺し、それが機体の動作にも反映されているビッグトンテッキ。跳ね起き動かないアルヴァジオンを注意深く観察している。


「どーいう事だ!?」

「何がブヒか!?ああ、そりゃあくっ殺せと言わせるだけの──」

「いや()()はどうでもいいっ!!その後の俺の扱いについてだっ!!」

「いいやよくない、よくないですよっ!!聞きましたか正宗、私の言ってた通りだったじゃないかっ!!あとでちゃんと謝ってもらいますからね!!」


 アイシスがうるさいが今はそれどころではない。


(奴は、トンテッキはなんて言った!?雌……雌オークがどうの……)


 聞き間違いじゃないのかとビッグトンテッキへと視線を向けるアルヴァジオン。ビッグトンテッキは自慢気にその豊満な腹を張り言い放つ。


「ブヒ??あー、熟れた雌オーク達に奉仕する役割ブヒよ!?役得ブヒよ??」


 正宗の頭の中で全裸にされた自分が雌オーク達に蔑ろにされるイメージが思い浮かばれる。それはまるで馬扱い。勝気なお嬢様に背中に乗られるように豊満な雌オーク達に跨がわれ、馬の様に鞭でジャブを打たれるかのごとくビシビシ叩かれるのだ。……残念な事にそんな事にドキドキしてしまう性癖は正宗には決してない!!──多分、きっと。


「冗談じゃないっ!!絶対っ、お断りだっ!!」

「わっ!!強烈に聖力が増したっ!!ビンビンだぞ!!」


 なにやら興奮したアイシスとは裏腹に、反骨心の蘇った正宗がアルヴァジオンを立ち上がらせる。瞬く間に正宗達の空間も明るくなり、アイシスの眼前の紋様盤も赤色からその色を取り戻していく。


「敵攻勢術式……ようし、押し返した!!左腕修繕っ!!」


 アイシスの声と共にアルヴァジオンの失われた左腕の付け根から金色の乱流が起き、その中から無傷の腕が再生され現れる。頭の中を、全身を焼く刺すような刺激と痛みがなくなり、再生された腕の具合を確かめる正宗。しかし、唐突な術式からの脱出と機体の回復に驚愕するのはトンテッキの方である。


「嘘ブヒ、マジブヒかっ!?」

「……これは??壊れた腕が戻ったぞっ!?」

「言ったでしょう!!金剛聖導夢想兵装体も聖法衣の延長線であると!!衣服を触媒に聖力の術式で編み上げられた兵装なんです!!つまり術者の聖力が健在であれば──いくら破損しようが、その場で修繕できるんですっ!!」


 着ぐるみ……アイシスがそう評したのは言い得て妙であった。着ぐるみも腕や足が破れ千切れたとしても、補修し修繕することが出来る。外観的イメージからロボット……機械の塊のように思っていたが、そういう点では確かに服飾と同類系であるように感じられた。機械のように破壊されたから修理しないと直らない、そうではないのだ。聖力で織り上げられた装甲なら、破損箇所を再び聖力で織り直せばいい。


「とても改変され分解寸前までおいつめられていたヤツとは思えない力技ブヒ!!しかし以前あったときも聖力のセの字もなかったのに……正宗、お前一体何者ブヒか??」

「知らねーよ!!こっちが聞きたいくらいだ!!兎も角──行くぞアイシスっ!!」

「了解です!!ぶちかましなさいっ!!」


 正宗の言葉に激で返すアイシス。正宗は遂に、初めてアルヴァジオンを駆り立てた。

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