始まりの物語17
状況は一方的であった。相手はその動作もままならないヨチヨチ歩きのひよっ子そのものである。再び飛び込んだビッグトンテッキがワンツーを叩き込む。のけぞる金龍に、
「ハアアアアア!!トンテッキ、ブレイカアアアア!!」
雄たけびと共にトンテッキブレイカー……つまるところ鉄山靠が炸裂した。棒立ちに近い金龍が否応がなしに吹き飛んでいく。しかし、
「想像以上に、硬いブヒねえっ!!」
体格差は歴然、40メートル級の金龍に対してビッグトンテッキは60メートル級なのだ。はっきり言えば重量級ボクサーの攻撃を軽量級ボクサーがノーガードで喰らっているのにもかかわらず、依然として倒れる気配すらないのである。トンテッキが不気味がるのも無理はない。
「ならこれならどうブヒかっ!!トリプルピッグ=フレイムキルンっ!!」
ビッグトンテッキがその前足を大地に叩き付ける。途端、金龍を拘束するように藁が生え巻き付いていき、瞬く間に火がつき炎上した。その間にも、燃える龍を囲うように空から現れた木材が積み上げられた。がっしりとログハウスのように囲い込まれた木の囲いも燃え上がり、龍を囲う火力を更に増大させていく。加えて四方からレンガが降り注ぎ、燃える炎を包み込む窯のような家が出来上がる。轟々と内部を燃やす家の全ての窓とドアが閉まれば、今度は大地が隆起してレンガ造りの家を飲み込みついには巨大窯となって生成されたのだ。赤熱化するほどまで熱せられている窯のその内部の熱量は如何なるものか。周囲の崩壊した建物達の瓦礫すら燃え、溶け落ちていく程の熱量だ。
「ブッ ヒーッ!!既に大気に火がつくほどの熱をたたき出しているブヒーっ!!」
実際に大気に火がつくかどうかは別として、勝利を確信したとばかりにビッグトンテッキが大地を叩く。さすれば踊るように台地が隆起して、コミカルな豚の頭のような丘を造り出す。ファンシーな街並みはより広大に見渡す彼方へまで広がり、人の姿はオークの姿へと変わり、文明全てが……星という形状までもトンテッキの意思によって変えられていく。
「さぁっ!!世界よ……トンテッキ色に染まっていくブヒよお!!」
ダメ押しとばかりに、ビッグトンテッキがその両手を振り上げた。振り下ろし、大地を叩こうとしたその瞬間、陶器の割れるような音と共に炎がビッグトンテッキを襲う。猛烈な熱と炎が陽炎をまとって世界を歪める。熱に焼かれ慌てて後ずさるビッグトンテッキ。
「なな……何事ブヒ!?」
飛び出したるは腕。白く赤く、白熱するその窯の中から突き出された強靭な爪。窯の穴から吹き上がる炎に巻かれても、焦げ跡一つない金色の鋼の鱗。そしてそのまま内部の炎も熱も撒き散らしながら……窯をぶち壊し突破して来る金色の巨体。フラッシュオーバーするように灼熱が周囲の世界を焼き上げて、その中を、金龍はビッグトンテッキ目掛け襲い掛かった。
「させねーぞトンテッキッ!!」
正宗の怒声と共に金龍の腕がビッグトンテッキの顔面を捉える。頭蓋を鷲掴みにするように掴み、握力を込めれば忽ちにしてその鋼の頭部は拉げ火花を上げる。凶悪な爪は深々と刺さりこみ、龍が引き抜くように力を込めれば脆くも砕け、頭部フレームを引きずり出されたかのように部品をぶちまける鋼豚。高熱に晒されて全身から蒸気を濛々と上げる金龍がうねるように巨豚へと肉薄すれば、今度は暴力的な前蹴りをその豊満な腹へと叩き込む。炎と瓦礫を撒き散らしながら跳ね飛ぶ豚の巨体。土砂の中に沈み込み、豚は立ち上がろうと四肢を振るわせる。その巨豚の腹部に刻まれている足形の陥没。
「や、やるブヒね正宗~!!」
ピンクの粒子が破壊されたビッグトンテッキの頭部へと集まり溢れ上がれば、その頭部が、そして前蹴りを食らい陥没した腹部をも再生させていく。そのまま巨体を引きずり起こし迫る龍を迎え撃つビッグトンテッキ、いよいよ豚と龍の激突が始まった。動きの緩慢な金龍アルヴァジオンに対し、華麗にヒットアンドアウェイを決める巨豚ビッグトンテッキ。その動きは、丸々とした巨体からは想像もできない軽快さを見せ、重鈍さなど欠片も感じさせない程であった。しかしその八極拳の頂肘さながらの肘も、出張った腹が当たってはあまり意味は無い。されどその重量級の巨体がぶつかる破壊力は半端ではなく、金龍アルヴァジオンを容易に弾き飛ばす威力を叩き出している。
「カッタいブヒねっ!!これならどうブヒかっ!!」
カカンと前足を鳴らしつけ、ビッグトンテッキが大地にその両腕を叩き付ける。間髪いれずにアルヴァジオンの周囲に魔法陣が展開されピンクの火花を上げて回り始めた。
「マッドプレイの陣ブヒィ!!」
「!?まっど??」
トンテッキの雄たけびに戸惑う正宗だが、直後にその意味を理解した。アルヴァジオンを取り囲む魔法陣から吐き出されたのは……大量の泥である。それが超高水圧となってアルヴァジオンに撃ち放たれていた。高圧の水に研磨剤を混ぜることでダイヤモンドすら両断するウォーターカッター。土砂が水と混合し河川を下る土石流。両者からも解るとおり、高圧多量の水に砂や石、研磨剤などが混じることでその威力は格段に跳ね上がる。トンテッキは土石流レベルの泥を亜音速で噴出しているのだ、その破壊力は生半可どころではない。それを四方八方から吹き付けている。生じた被害は機体への破壊力だけでなく、大量に吐き出される泥による周囲と足場の破壊。それがアルヴァジオンの身動きをも封じ込めていく。高圧の泥に足下は砕かれ泥沼と化し、更に覆いかかる泥の中に一瞬で沈むアルヴァジオン。考えられない程の水圧の泥を受けながら、高熱を未だ持つ金色の装甲がその水分を急速に蒸発させていく。築き上げられる土塊のドーム。泥で密閉された内部空間内で蒸気は更に膨張し、織り込まれた紋様術式を加え──一気に破裂する。眺めていたビッグトンテッキが後退させられる程の衝撃、強烈過ぎる魔力波動が走り抜け、吹き飛ばした泥と土煙で見渡す世界を土色に塗り上げる。
「どうブヒか!?」
泥の枷を──大地をも吹き飛ばす大爆発。あまりの破壊力に都市一つまるごと粉砕され最早見る影もない。遙か上空まで立ち上る蒸気の煙、通常の物体であれば無事では済まされない威力である。だが、その中から現れる、泥をも寄せ付けない金色の鱗がある。爆心地より歩み出るその金色の巨体には一切の傷一つすら見られなかった。
「流石は金導夢兵装体!!想像以上ブヒ!!」
自身の力に拮抗してくる相手に歓喜するトンテッキ。金剛魔導夢想兵装体ビッグトンテッキをもってして未だ勝機を確定できていないのだ。封印され、抑圧されていた自分を解放し、相対するに値する難敵に出会えたことに興奮しているのである。
「冗談じゃねーぞっ!!チビるかと思ったわっ!!」
対して一方的にやられているアルヴァジオンこと正宗。力量の差は歴然であるが負けるわけには行かなかった。正宗の住む街の中核部である駅周辺は最早見る影もない爆心地のようであった。先程まで街はファンシーに彩られ、木々も見たことない種に生え変わったりしていたわけだが、今見える景色はまるで社会科の授業の資料で見た空襲後の焼け野原のようだ。いや、それよりも酷い。幾つもの陥没したクレーター、割れた大地、まるで流星雨の降り注いだ跡の死んだ大地のようであった。アスファルトは跡形もなく掘り返された土砂と泥にまみれ、建物達は軒並み崩壊し焼け焦げた破片だけが転がっている。それが周囲一帯、いや、見渡せる限りが破壊の跡になっている。
「…………」
チラリと目線をやればアルヴァジオンの良すぎる視力がそれを正確に捉えていた。……言うまでもなく、正宗の家も漏れなく大破してなくなってしまっている。……というか、それだけではないのも解っている。今の時間帯は日曜の昼なのだ……ともなれば繁華街である駅周辺などは多くの人で賑わっていた筈なのだ。と、言うことは……だ、この泥の下には、瓦礫の下にはどれだけの……。
「何が何でも……勝つしかないっ!!」
このままでは今まで通りの日常は帰ってこないのだ。多くの命が失われ、日本含め世界は壊滅的なパニックに……そしてその防ぎようのない、気が付けば世界が崩壊しているという恐怖に襲われる事となる。この世界全体の危機なのだ。操作に慣れる慣れないの問題ではない。やるしかないのである。
(幸いにして現状未だまともなダメージを食ってはいない)
それ程までにアルヴァジオンの防御力は特出していた。それには流石のトンテッキも舌を巻いている。だからこそ……というべきなのだろう。ここからが金導夢兵装体の戦闘の真骨頂というべき戦いが開始される幕開けであった。
「夢聖士の奮闘……そして現地人正宗の金導夢兵装による抵抗……なかなか楽しめたブヒ」
内部のトンテッキの仕草にあわせ、ビッグトンテッキも両手を広げて見せそれを称えて見せた。だが、
「しかし──そろそろ時間が迫ってきたブヒ」
ビッグトンテッキが空に手をやれば、アルヴァジオンもそれを見上げて見た。確かに今、空の時計のムーブメント達が震えている。因夢空間もそろそろ時間切れとなり、それまでにどちらが世界の眼を覚まさせるのかで……勝敗が決まる。
「さあっ!!決着の時ブヒよっ!!」
雄たけびと共に、ビッグトンテッキがその両手の中にピンクの球体を作り出した。




