始まりの物語15
それは強烈っ!!それは鮮烈っ!!眩すぎる輝きが宝玉から溢れ出て世界を染めるっ!!
「……あ、なんかごっそり……聖力持って、いかれ……ました……」
蹲っていたアイシスが、唐突に潰れるようにへたり込む。爆裂する輝きは一層その強さを増し、そして遂に、その輝きと共に正宗の衣服が一切合切弾け跳んだ。
「…………」
「…………」
「…………」
レンガ造りの物見台の上は沈黙に包まれていた。そこには周囲を囲む豚達と、疲労困憊の魔法少女。そしてへたり込んだ裸Yシャツの少女と、立ちすくむ全裸の少年の姿がある。あれ程眩かった輝きは正宗の衣服と共に飛び散り、沈黙と静寂、そして吹き抜ける風だけが残っている。
「……ふ……ふざけているポかあああっ!!」
「ふざけてねーよっ!!なんだよコレはっ!!」
ぬいぐるみが大事な部分を殴りつけてきたのではたき落とす正宗。そして蹲った。心情的には死にたくてたまらなかった。今始めてアイシス達に、同じ思いを体感する正宗。
「あー……終わったー……詰んだー……」
エルマイールがガクリと項垂れると、ここに世界を守る戦いは終結した。トンテッキ達は無言で正宗達の拘束にかかる。そのあまりにも気まずい決着の付き方に誰も声を上げられなかったのである。正宗やエルマイールは長い縄でグルグルの簀巻きにされ、
「お嬢さん、風邪を引くブヒよ……」
イケメン顔のトンテッキが裸Yシャツ姿でノびているアイシスに布を掛けてやる。そんな真摯な豚の行動に素直な顔を見せるアイシス。
「あ、ありが……」
「ブーっ!!残念だったブーっ!!お前なんてこうブーっ!!」
感謝を述べかけたアイシスを嘲笑するように吠えれば、ものの見事に亀甲縛りで縛り上げるトンテッキっ!!あまりの一瞬の早業、アイシスは悲鳴を上げる隙すらなかった。
「なっ!!……ちょ……ふざけるな豚めっ!!」
「すげぇ……豚の癖になんて手際だ……」
「神業ポ……」
アイシスはもがき文句を垂れようとするが、如何せんM字開脚でガッシリ亀甲縛りされている為どうにもならない。しかし、大事な部分は先程掛けた布で隠されているのだ。その上で各部を強調するように縛り上げるトンテッキの縛りテクニックに正宗とポッコルはグゥの音を上げる。
「さぁ、お前達はオリジナルに供物として捧げるブヒよっ!!」
トンテッキ達が振り返れば、レンガ造りの街並みをかき分けてくる巨体。正宗達の物見台も揺れ、それを覆い隠すような影が迫ってきた。その正体は先程までの巨体よりも一層雄々しくなった鋼の巨豚。ビッグトンテッキはその大きさを60メートルはあろう怪物へと変貌させていた
「ブッヒッヒ……いよいよ我が野望のピースがそろったブヒねぇっ!!」
ビッグトンテッキから響き渡るトンテッキの歓喜の叫び。勝利のポーズをとるビッグトンテッキにつられ、トンテッキ端末分体達も勝利の雄叫びをブッヒッヒと奏で上げていく。
「あああああ……私のこれまでの頑張りはなんだったんだろう……」
「詰んだー……詰んだわー……」
「待つっポっ!!そうポっ!!妖精族の仲間は欲しくないポ??是非ともこのポッコルを指名して欲しいポっ!!いまならユメミールから持ってきた様々な聖法具もつけるポよっ!!頼むっ!!頼むポオオオ……」
嘆きを上げるアイシス一同。しかし正宗は一人、その身を襲う寒さに身を震えさせていた。芋虫のように、されどブルブルと震え上がる正宗。
「ん??どうしたポ??……もよおしたポかっ!?小ポ!?まさか……大は勘弁ポよっ!!」
「違うわっ!!……いや……なんかこう、スースーして……寒くてな??」
正宗から距離を取ろうとしたポッコルであるが、その正宗の言い分から再び注意を払い上から下まで観察する。
「……んー、縄の下は全裸だからその所為じゃないポか????……いや、確かになんか風の動きを感じるポね??」
「ていうかーその風ー、鉄君の縄の中から溢れ出てきてる気がするんですけどー……」
「流石に凄まじい勢いの屁じゃないポよね??」
簀巻き仲間のエルマイールも興味深そうに覗いてくる。瞬間、アイシスを縛り付けていた縄と布とYシャツが弾け飛んだ。
「っ!?」
一同の視線を集めるアイシスだが自身も良くわかっていない。ただ、へたり込んでいたおかげで全裸姿を周知の眼に晒すことだけは防がれた。その物音に気付いたか、トンテッキ達も顔を向けて来る。
「なになに……どうしたブヒか!?」
「せっかく我等トンテッキがキメていると言うのに……っていうか、何ブヒこの風」
「おおっ!!芸実的拘束が解かれてしまっているブヒ!!自力で解いたブヒか??ゴリラ並みの腕力ブヒね」
集まってきたトンテッキ達も正宗達の様子を観察するのだが、ゴリラ扱いされ罵詈雑言を吐くアイシスの横の正宗はそれどころではない。正宗を拘束する縄は蛇のようにのた打ち始め、いよいよ内側から暴風を放ち初めている。その動きは次第に激しさを増し、ついに金色の風がその縄を断ち切っていく。瞬間、拘束から解放された暴風が荒れ狂い、溢れ出る金色のその風が竜巻の如く物見台を薙ぎ払う。
「飛ぶっ!!愛と正義の豚並に飛んでしまうブヒーッ!!」
「我等飛ばない豚だがただの豚ではないブヒよっ!!」
あまりの風圧にトンテッキ端末達の身体が浮き上がる程だ。残念ながらポッコルは既に吹っ飛んでしまっている。エルマイールも建物に簀巻きの身体を引っかけ必死に耐えている。その中心に、正宗とアイシスだけが取り残される。金色の風はアイシスを絡めとり、その身を正宗に引き寄せていく。
「ちょっとっ!!鉄……正宗君!?こら正宗!!すいこまれ……やめてくれえええっ!!なんとかしてくれええっ!!」
必至に引き寄せられまいと周囲の物にしがみ付き抵抗するアイシス。正宗も建物にしがみ付いて抵抗していたが、更に強くなっていく力に諦めてその手を解放した。引っ付きあう磁石のように吸い付き合う正宗とアイシス。
「へぶあっ!!」
「……あ、何かすっごく柔らかい」
密着し抱き合うような形となり、二人を金色の風が押し包んでいった。それはコクーンのよう。元はビルであった物見台を粉砕しながら肥大化する金の卵。巨大に輝くその金の卵に一同が目を見張る。
「これは何ブヒっ!!この……」
ビッグトンテッキがその腕をもって卵に振れる。しかし、強烈な風の結界に妨げられ逆に蹈鞴を踏む結果となった。
「ブヒィイイイイイ……」
「あれは光らせてはいけないブヒィ!!」
莫大に膨れあがる聖力に当てられトンテッキ端末分体達が粒子となって消し飛んでいく。同じく卵を見つめそれを計測するエルマイール。しかし彼女の眼前に並ぶ紋様が示す数値に、意識のタガが外れかけていた。
「スゴーイ!!なにこの聖力値ーっ!!ヤバイヤバイヤバーイっ!!ははーはははは……あはははははーっ!!」
驚喜するエルマイールを余所に卵の殻が遂に割れ、暴風を放ち、輝きを砕き、そこに金色の龍鬼神が生誕する。
「顕現!!アルヴァジオンッ!!」
正宗の声が響き全ての殻が弾け跳んだ。衝撃は拡散し物見台もろとも周囲の建造物を粉砕する。あまりの爆圧にエルマイールも彼方に飛んでいった。それは竜、いや、金色の龍である。人による空想の力の象徴。虚神たるその肉体は鋼の鱗に守られて、機神たる双眸が眼前の鋼の豚を睨み付ける。その龍の顕現の衝撃に、尻餅をつかされた巨豚は起き上がりつつ体勢を整える。
「こ……金剛魔導夢想兵装ブヒかっ!?」
驚愕を表すビッグトンテッキ。しかしそれは理に適っている。夢生獣が金剛魔導夢想兵装体を扱うのであれば、夢聖士達も同様の物をを用意すれば言いだけの話である。そうなれば戦力は五分と五分。そして今、60メーター級の豚と40メーター級の龍が睨み合う。豚と龍……既に勝敗が見えているようであった。肉食である龍に豚が食われないというのであろうか??否、豚側には逆に食い殺してやるという気概がある。何せ豚は雑食だっ!!
「外観が戦力の決定的差でない事を……教えてやるブヒっ!!」
ピンク色の鋼の豚はそう吠えると、勢いを乗せその巨体を突撃させるのであった。




