始まりの物語12
遠目に見る限りは一方的な戦いである。ラブリーアイシスは十二分にその力を発揮し、巨大な鋼の豚を押し込んでいた。
「そこだっ!!いけっ!!」
双眼鏡片手に正宗は声を上げる。衝撃が走り、自宅がレンガ造りの家へと変わり、愛用の原付が豚の乗り物っぽくなった時はどうかと思ったが。原付は正宗の秘蔵の品である。こんな山腹に一人で住んでいるのだ、買い出しなどは一苦労といってよい。その為に取得可能年齢となって直ぐに取った免許と原付。
(それが今は見るも無惨な……ちゃんと動くのか、コレ)
一抹の不安を抱きながらも戦場を眺める。状況は正宗達に傾いていると言えていた。いや、傾いて貰わねば困る。見る限り駅周辺は壊滅状態であった。建物は倒壊し砕かれ、アスファルトはめくれ上がり陥没している。建物だけでなくその周囲にいた人達も軒並み大変な事になっているであろう。このままトンテッキが勝利したとすれば、その状態で世界に認識されてしまう。だからこそ、なんとしてもアイシス達には勝って貰わねばならないのだ。
「いいぞいいぞっ!!」
激しい耀きの後、鋼の豚が飛ばされ転げ回っていた。一拍おいた後に届く轟音と衝撃。追撃するラブリーアイシスの攻撃にトンテッキはその全身から煙を上げていた。
「調子良さそうポね」
同じく正宗の横で眺めているポッコルがそう漏らす。
「お前はいかねーのかよ??」
「ポッコルは非戦闘妖精ポよ??夢聖士達の法衣解錠がすめばほぼ用なしポ。それにいざとなったら召喚されるポしね」
器用に「わかってないなぁ」とばかりに首を振るポッコル。
(コイツ……本当に役に立たないな……)
正宗はソイツの存在価値に疑問に思いながらも視線を戻す。今はそれどころではない、そこでは正宗達の今後の未来を賭けた戦いが展開されているのだ。見れば、相変わらずでかい鋼の豚は押されている。
「……これなら勝てそうだ」
「その通りブヒ」
横から聞こえてきた声に慌てて双眼鏡から眼を離す正宗とポッコル。二人の横には上空からピンク色の粒子が降り注ぎ、トンテッキの頭が形成され浮いていた。まさに豚の生首である。
「確かにこのままでは負けそうブヒよ」
「お前……あそこで闘ってんじゃねーのかよ??」
しょげるトンテッキに問いかける正宗。ポッコルも無言で頷いていた。指し示す先では、今も尚ビッグトンテッキがアイシスの攻撃に晒されている。爆炎を上げ倒れこむビッグトンテッキ。
「そうブヒよ??だからこうして端末を用意してエネルギーを……」
トンテッキの首から下がゆっくりと形作られていく。その言い分を聞き終えないうちに正宗は即、豚原付に跨がっていた。キックを蹴り、エンジンを回せばブヒヒヒヒと豚のような泣き声の排気音を奏で出す。
「ゴッドメガポッコルチョープッ!!」
モッフモフの一撃をかますポッコルであるが、言わずもがな効くはずがない。
「お前も逃げんだよっ!!」
正宗はポッコルを掴みつつスロットルを吹かせた。一目散に豚を走らせトンテッキから距離を取る。
「ああっ!!待つブヒよっ!!」
「言うてもっ!!負けそうな本体が端末使ってエネルギー補給するつもりなんだろう!!つまり俺らを食うつもりなんだろうがっ!!」
状況と、トンテッキの言い分から簡単に予想できる推察である。トンテッキは追いかけようにも未だ足まで形成されていない。その隙に正宗は一目散に下山道へと豚原付を爆走させた。うねる山道の下りを出来るだけ早く下るのだ、神経を使いながらコーナーを攻めた。
(こうなるとお手上げだっ!!……アイシ……いや無理だ、トンテッキロボと戦闘中だ。。こっちに戦闘力がない以上、こうなったらエルマさんを頼るしかないっ!!)
アイシスの下へと向かおうと考えたが、あの前線へ行く勇気はない。そこでエルマを頼り原付を走らせる事にした。こう分体端末を展開されエネルギー補給にと襲われるのであれば、最早離れて身を隠すという選択肢は取れない、嗅覚は向こうの方が上なのだ。案の定、
「正解ブヒっ!!待つブヒよおお!!お待ちになってくんなましぃぃいい……」
「来た来たっ!!追って来たっポよおおっ!!」
視界の隅に現れる土煙。トンテッキ分体端末は山の斜面など苦にもせず、土砂を巻き上げながら走り降りてくる。それを眼にして絶叫するポッコルであるが、こちらが進む山間を沿う形でうねる山道とは違い、相手は一直線にそのルート間をショートカットしてきている。山林部の起伏を爆走してきているのだ、普通に道沿いに走っていては追いつかれるのは必然であった。流石は豚である。イノシシの如く木々の間も交わしながら迫るトンテッキ。
「何とかヤツの気を逸らすポよっ!!」
「そうはいうがなぁ……」
焦る正宗達を他所に迫り来るトンテッキ。藁をも縋るつもりでひねり出したアイデアは古典的なものしか思いつかなかった。
「あっ!!あそこに、まるまると太った雌イノシシがっ!!」
「っ!!どこブヒっ!!まずはお友達から……」
正宗が指した指先を追い、余所見した瞬間に木に激突し転倒するトンテッキ。木をなぎ倒し、土と枝木を巻き上げもんどりうって沈黙した。
「……嘘ポ??こんな酷い引っ掛けに引っかかる奴がいるポ??」
「……酷い言われようだが、同感だ」
あり得ない単純な罠にかかったのを尻目にその隙を突いて正宗は豚原付を一気に加速させた。後輪を滑らせながらも山道を降りきった正宗はポッコルの指示を受けそのまま進路を駅方面へと向ける。車道を走るが、時が止まった為車道に障害物のように自動車が静止しており邪魔となっている。その間を縫いながら豚原付を走らせていくので思ったよりも速度を稼げない。と、後ろからは即座に持ち直したであろう豚が猛追してきていた。
「お待ちになってくんなましっ!!お待ちになってくんまなしっ!!」
「また来たポオオオっ!!」
激走する豚はその静止した自動車を粉砕させながら追いかけてきている。そのなりはまるで重戦車だ。
「ポッコルっ、どっちに向かえばいい!!」
「とりあえずあっちポっ!!エルマイールと合流してやりすごすポ!!」
ポッコルが示す先へと走らせる。ブヒヒヒヒという排気音が非常に耳障りで五月蝿い。その直後、物凄い衝撃に車体ごと振られ、爆音が鳴り響いて周囲の建物のガラスが飛散した。急な逃亡だった為めヘルメット着用すらしてなかった正宗はあまりの轟音にショック死しそうになった。
「耳が……耳がヤラレタポ」
ぬいぐるみも同様のようであった。頭を振りなんとか立て直し、豚原付を進ませる。
「今のは何だっ!!」
「多分ラブリーアイシスの攻撃の衝撃波と音ポ!!」
「トンテッキの野郎は!?」
「どっちのポ!!」
「追っかけてきてる方だ!!」
「ん~、ショックでひっくり返ってるポよ!!ポ、でっかい方も!!」
「なら今のうちだっ!!」
細い路地へと入りジグザクに走りながら端末トンテッキを振り切りにかかる。流石に狭い日本の道路事情、すぐさま追従してくる豚の姿は見えなくなった。ただ、建物はレンガ造りなファンシーなものになっており視覚情報からでは最早見知らぬ街になっている。頭の中で元の道路をイメージしながら進めば、
「あれポっ!!あの建物の屋上にエルマイールがいるポよっ!!」
ポッコルが指示す建物を捉え急いで正面口に豚で乗りつけた。途端ポッコルが飛び降りる。
「エルマイールっ!!エルマイール!!助けてポっ!!」
瞬く間にポッコルは叫びながら壁伝いに走り昇っていく。えらく軽快な音を鳴らしながら壁を垂直に走っていくぬいぐるみを唖然とした眼で見る。
(マジかよ……)
正宗も追う、いや壁走りは無理だっ!!溜息をつきつつも急いで建物の中に駆け込むのであった。




